「・・・んっ!
くっううぅー、・・・あっ、あっあっ、ふあっ、ああ、あっあっあっあっあっああああーーーーー!!」魔王城、魔王の部屋・・・つまり、ランスの寝室には特別に作らせた超巨大ベッドが置かれてある。
そのベッドの上でうごめく四つの影。
この城のあるじ・・・ランスに、そして彼の忠実な部下である魔人のサテラ、ホーネット、シルキィの四人である。
いや、蠢いているものは二つだけであった。
サテラとシルキィは、いかされすぎて肩で息をしている状態であり、そしてホーネットにしたところで、下から激しく突き上げてくるランスの動きに翻弄されているだけであった。
「・・・あっ、まっ、魔王様っ!
・・・もっ、もう・・・」「・・・もういきたいか、ホーネット。よーし・・・」
そう言うとランスは、思うがままに胸を揉みしだいていた両手をホーネットの腰にあて、まるでターボがかかったのかの如く更に激しく突き上げていく。
「・・・あっ、ああっ!
んっんっんっ、んっんも、もうっ!」「・・・よーーし、いっけええええーーー!」
「・・・ふぁっ、ふあ、ああああああああー、ああーーー!!」
自分の中に注ぎ込まれているものを感じながら、糸の切れた操り人形のようにホーネットの体は前に倒れ込む。
それはちょうど、ランスの胸に顔を埋めるような格好になった。
「よかったぜ、ホーネット。・・・このまま抜かずにもう1ラウンドいくか」
「・・・も、もう、・・・ゆるしてください、まおうさま」
ホーネットには力なくそう答えるのが精一杯であった。
「・・・ん、んん。・・・ラ、ランス・・・」
なんとか目が覚めたサテラが言葉を発する。
「おー、サテラ。気が付いたか、もう一回やるぞ」
そう言うとサテラにのしかかって行くランス。
「だっ、だめ!
・・・もう許してランス。これ以上はサテラ死んじゃうよ」泣きそうな顔でそう言ったサテラの顔がある少女のものと重なる。
・・・・・・・・・
・・・ラ、ランスさまぁ、もうゆるしてください。
・・・
「・・・・・・・・・。・・・・・・ちっ!」
・・・どだだだだだだだだだだだだだ・・・
すごい音を立てながら近づいてきたものは、ノックも無しに乱暴に扉を開けた。
「たっ、大変でございます!
魔王様!!」「おう!
こんな夜中に野郎の分際で俺様の寝室に来やがったんだ。覚悟はいいんだろうな」「・・・!
・・・そ、それは・・・」ランスの剣幕に押され、一瞬口ごもるがすぐに思い出したように報告する。
「大変な事が起こりました!
宝物庫に賊が侵入しました・・・」「・・・ふん。それで・・・」
慌てふためきながら報告する魔物に対して、ランスはつまらなそうに聞き返す。
「・・・!
・・・そこに保管されていました聖刀日光が盗まれてしまいました・・・」そこまで言って、その魔物将軍・・・宝物庫の管理責任者は消滅した。
ランスの手の平から放出された気を受けて。
「ふん!
・・・無能が」さすがにその事態を耳にして、ホーネットがわずかに身を起こす。
「魔王様、聖刀日光が持ち出されたとなりますと・・・」
心配そうなホーネットに対して、ランスが言ったのはただ一言であった。
「ふっ、面白くなってきたな」
「・・・ガンジー様・・・」
ここは魔王城より少し離れた森の中。
切り株のところで座っている、がっしりとした体格の男に後ろから呼びかける二つの影。
「・・・スケさん、カクさん、首尾は?」
「はい、このように。・・・聖刀日光を手に入れてまいりました」
カクさんと呼ばれた少女・・・カオル・クインシー・神楽が腰に差した刀を見せる。
その男・・・ラグナロックアーク・スーパー・ガンジーは二人の顔を優しい目でじっと見詰めながら言った。
「すまないな二人とも、・・・このような危険な事を頼んでしまって」
「そのようなこと、・・・正義の為ですから」
スケさんと呼ばれた少女・・・ウィチタ・スケートが答えた。
本当は正義の為というよりは、ガンジーのためという方が正しかった。・・・そしてそれは、二人の少女に共通の気持ちであった。
「ガンジー様、これからどうなされますか?」
「うむ、JAPANに行く。わしの目にくるいがなければ、あの者が最もうまく聖刀日光を操れるようになるだろう。
・・・ふっ、・・・わしの目にくるいがなければな・・・」
「・・・ガンジー様・・・」
遠い目をしてガンジーは述懐する。
「今更言っても詮無い事なのだろうが・・・、初めてランス王に出会ったとき、この方に間違いないと思ったのだがな。
この方こそ人類を統一し、世界に真の平和をもたらすと。
・・・ヘルマン、JAPANを征服し、ゼスもあと少しというところで・・・、わしには人が変わってしまったとしか思えない」
ガンジーの眼力をもってしても見抜けなかった事がある。
ランスはそのゼスとの戦いで、己が半身ともいうべき少女を失ったのだ。
・・・そう、いつも彼の側にいたピンクの髪の少女を。
「・・・ガンジー様、私達に言える事はただ一つだけです。
・・・私達は何があってもガンジー様を信じています」
信頼しきったまなざしで二人はそう告げた。
「・・・すまないな、それでは行くか。
・・・JAPANへ」
RC5年10月、・・・再び時代が動き出す。
ピー、
ヒョロロロロロロ・・・・・・ピーー!・・・しゃっ!
のんきに鳴いていた鳥が下方より放たれた一条の矢によって射落とされる。
「・・・相変わらず良い腕ですな、五十六殿」
呼びかけられて、まだ少女と言っても良いくらいの女性が振り向く。
「これはガンジー殿、・・・それにカオル殿にウィチタ殿も。お久しぶりですね」
「二十一殿は・・・、またリック殿の所ですかな」
ガンジーは近くを見まわしてからそう尋ねた。
「ええ、リック殿にレイラ殿にはたいへんお世話になってしまって、本当に申し訳ないのですが」
「いや、もの覚えの良い生徒に教えるのは、ある種の楽しみでしょうから。
・・・・・・血、でしょうな」
ガンジーはわずかに目を細めてそう言った。
「・・・ええ、私もそう思います」
少し目を伏せて、その女性・・・山本五十六は答える。
「・・・ところで、そちらの女性は」
「ああ、紹介がまだでしたな。二十一殿の新しい先生にと思いましてね」
「・・・日光、と申します。どうかよろしくお願いします」
その妙齢な和服の女性は答えた。
その場を支配するものは静寂、・・・そしてすさまじいばかりの緊張感だけだった。
リーザスの赤い死神と呼ばれたリック・アディスンの前で、木刀を構えているのはまだ幼い少年であった。
「・・・レイラ殿」
その呼びかけに、はっと振り返る。
「・・・ガンジーさん、・・・ですか」
ガンジーはその場の空気を感じて、わずかに眉をひそめて言った。
「リック殿、かなり真剣ですね」
「ええ、もう私なんて手も足もでないんですよ。
5歳の少年にわずか3ヶ月で抜かれるなんて・・・。
・・・あら、そちらの女性は、・・・日光さん!」
レイラ・グレグニー、今はリックと結婚し、レイラ・アディスンを名乗っている。その彼女がガンジーの背後で真剣に勝負を見つめている女性に気が付いた。
日光は口元に指をあてただけで、その勝負から一瞬たりとも目をそらさなかった。
「はあああああ・・・・・・、はぁっ!」
気合一閃、小細工無しの迷いない、激しい斬撃を繰り出す二十一。
それを同じく真正面から木刀で受け、思わずたたらを踏むリック。
追いすがり、重さに速さ・・・その両方がのった一撃一撃を、カンというにはあまりにも計算されすぎた動きで繋いでいき、リックに反撃の機会すらあたえない。
「ちいいぃっ!」
打ち合いを嫌い、大きく間合いをとるリック。
開けられた間合いを再び詰めようと、飛び込む二十一。
そして次の瞬間・・・。
「バイラウェイ!」
放たれる必殺技。
「うわあっ!」
なすすべなく吹っ飛ぶ二十一。
「うむ、お見事!
さすがはリック殿」感心するガンジーの横で驚愕の表情を浮かべるレイラ。
「・・・・・・そんな!
・・・もうリックに必殺技を出させるまでになったの」
その後ろで微笑む日光。
その表情は教え甲斐のありそうな生徒を見つけて喜んでいるようであり、また永年探し続けた恋人を見つけて喜んでいるようにも見えた。
「・・・ガンジー殿は二十一をランス王と戦わせよう・・・と、そうお思いなんですね」
鍋をかき混ぜながら、わずかに非難を含んだ口調でたずねる五十六。
「・・・確かに、子供に父親を討たせようなどと酷い事をさせようとしているのかもしれない。しかし、 他に適役が思い付かなかった。そして今日の昼のあの勝負を見て確信した。
・・・やはり彼しかいなかったと」
五十六は鍋をかき混ぜていた手を止め、見上げる。
その顔を見て、さすがのガンジーもたじろぐ。目にいっぱい涙を溜めて、今にも泣きそうであった。
「・・・私は・・・、私はそんな事望んでいない。
自分勝手と思われるかも知れませんが、あの子と二人で一緒に暮らす。・・・今の生活が守られたら、それでいいんです」
そう言うと、再び視線を落として土間の鍋をかき混ぜる。
「・・・わかります。・・・母親として、その思いは当然のことだと思います。誰にも非難はできないし、無理強いはできない・・・」
ガンジーは一拍おいてから尋ねる。
「・・・まだ、ランス王の事を愛しているんですね」
その言葉に、かき混ぜていた手が一瞬止まる。
「・・・ええ、あの方に愛してもらった事は忘れられません。今も、・・・そしておそらくずっと・・・」
「・・・でも言ってはなんですけど、ランス王はあなたがたのことを捨てたじゃないですか」
「スケさん!」
つい口を出したウィチタをガンジーが叱責する。
「・・・・・・私はランス王の事を恨んでいません。
いいえ、恨めたらどんなにいいか。・・・でも、あの方の本当の気持ちを知ってしまったから・・・」
無理に笑顔を作って五十六は続ける。
「あの方はものすごくたくさんの愛を持ってられました。・・・それはもう、全世界の女性に分け与えれるくらいに。
でも、同時にすごく愛情に飢えていらした方でした。
・・・私は、・・・私は!
・・・あんなに愛してもらったのに、子供までもらったのに!」鍋をかき混ぜるスピードがどんどん増して行く。
「あの方から頂いた万分の一も、愛を与えられなかった。
いいえ!
・・・ひょっとしたらあの方は、初めから私にそれを求めていなかったのかもしれない!はじめからたった一人しかいなかったのかも!
そう・・・、あのひとだけ。だって、彼女が亡くなった日、全てが変わったもの」
「五十六殿・・・」
「・・・あの方はかわいそうな方なんですよ。
今も探しているんです・・・シィルさんを。・・・本人は気付いてもいないかもしれませんが。
自分の半身を、・・・心の隙間を埋めてくれる存在を、おそらくこれからも、ずっとずっと探し続けて行くのでしょう。
・・・でもそれは、ただ失ったものの大きさを知らされるだけの悲しい捜索行。
・・・私があの方に感じるのは申し訳なさだけ。
・・・愛しているのに何もできない、・・・申し訳なさだけ」
ランスの事を愛していないカオルもウィチタも、なにも言えなかった。ただ沈黙のみが空間を支配する、そんな中・・・。
「わしには何も言えんが、その苦しみから解き放ってやる事も一つの愛なのではないかな」
それに答える者はいない。
・・・ただ、鍋をかき混ぜる音だけがむなしく響いているだけだった。