・・・決まった・・・。だれもがそう思った。

 それはそう思わずにはおられないほどの強烈な一撃だった。

 

 ・・・・・・・・・

「・・・おわった・・・」

 二十一がそうつぶやいた瞬間、ランスの目がギラリと光り、二十一をとらえる。

「んなっ!」

「・・・ちょうしに・・・のるんじゃねえ!!」

 ランスが気を巻き上げて二十一を吹き飛ばす。

[・・・あれをうけて・・・]

 日光も驚きをかくせない。なぜなら完全に勝利を疑っていなかったのだから・・・。

 二十一も日光も完全に呆然としてしまった。

 

 ・・・真剣勝負の最中に、だ!!

 

「! 鬼畜アターーーーック!!!」

 二十一が気付いた時にはランスはその眼前にまでせまっていた。

(や、やばい!!!)

 ・・・かわすのにはすでに不可能な距離。・・・かろうじてできたことと言えば、日光でその強力な一撃を真正面から受け止めること、それのみだった。

 

 ・・・・・・・・・ァァァァァアアアアアアーーーーーーーーンンンンンン・・・・・・・・・ガガガガガガガアアアアアーーーーーンンンン・・・・・・・・・

 

 激しく巻き起こる純粋なエネルギーの奔流・・・その強力な光の爆発の一瞬後におとずれた音の爆発。その凶悪な一撃は魔王の超必殺技として申し分なかった。

 

「・・・・・・はあはあはあはあはあ・・・・・・」

 爆心地に存在していたのは、その爆発を引き起こした張本人のみだった。

 そのランスにしても全身血まみれで、肩で息をしている状態であり、魔剣カオスを支えに片膝をついていた。

 二十一は・・・といえば、爆発で吹き飛んだのだろう、ランスから数十メートル程離れた場所に倒れていた。それはちょうどランスをはさんでシルフと正反対の所であり、聖刀日光も二十一からわずかに離れた場所に転がっていた。

 

「・・・・・・う・・・そ・・・でしょ・・・」

 シルフが茫然自失でつぶやく。

「・・・・・・二十一君・・・」

 カフェも力なく膝からくずれおちる。

「・・・うそだ・・・嘘だ! しんじない・・・信じないから・・・」

 そう言うとシルフは歩き出す。

 

 二十一に向かって、・・・ただまっすぐに・・・。

 

 

「パパーーーー!!!」

 リセットがランスへと駆け寄る。そのためサテラとホーネットはタイミングを失うことになった。

 もうろうとする頭で、ランスは自分に近づいてくるものを見る。

「・・・よう・・・」

 駆け寄ってくるのがリセットであることに気付いて声をかける。そしてくらくらする頭を押さえて立ち上がろうとするが、すぐにふらつく。

「パパ! ・・・大丈夫?」

 リセットがそう言ってランスを前から支える。

 ランスのぬくもり、そしてにおいを感じてリセットは胸が切なくなった。

 

(・・・おかえりなさい・・・)

 

 ランスに抱きすくめられる格好のまま、リセットは万感の思いをこめて、心の中でつぶやいた。

 その様子を少し離れた場所で見守るサテラとホーネットに気付いて、ランスが手招きをする。

「・・・ランス!」

「魔王様・・・」

 駆け寄ってきた二人に笑顔を見せてランスが言う。

「なんだ、その今にも泣きそうな面は。俺様が負けるわけないだろう」

 そう言うと、ランスはいつものように豪快に笑った。

 

 

「・・・うそ・・・だよね。・・・しぬわけないよね」

 

(・・・ワタシヲノコシテシヌワケナイヨネ・・・)

 

 ゆっくり、ゆっくりと歩みを進めるシルフの目にうつるものは、はるか前方に倒れる二十一の姿だけだった。

 爆風で乱れた銀髪を気にも止めていなかった。今の彼女の頭の中にあるのはただ二十一のことだけだった。

 

 

 ランスの笑い声が急にとまった。

「・・・? どうしたのパパ?」

 不審に思い、リセットが聞いたがランスはなにも答えない。・・・聞こえているのかさえわからなった。

 ただ、ランスは一点を凝視していた。

「・・・何を見ているの?」

 そう言ってリセットもランスの視線の先を見る。

 

 少女がいた。・・・ただそれだけだった。

 

「・・・?」

 感じが変わって呆然としているが、二十一と一緒にいた少女だ。

 サラサラのストレートだった髪の毛が乱れており、夕日を受けて銀色の髪が光の加減で時々ピンク色に見えた。

「・・・あの子がどうかしたの?」

 リセットの問いかけに答えたのかどうなのか、ただ一言だけランスがつぶやいた。

 

「・・・シィル・・・」

 

 

「・・・えっ!」

 

 そのランスのつぶやきに反応したのはシルフだった。

 それから今の状態に気付いたように後ろに下がる。それは数メートルにまで近づいていたランスとの距離を開けようとするかのようだった。

「・・・シィル・・・そんなとこにいたのか・・・」

「・・・パパ?」

 ランスはリセットなど眼中にないかのように押しのけるとシルフに近づいて行く。

「あ・・・ああ・・・」

 それにつられるようにシルフはあとずさる。

「・・・俺様にことわりなくどっかに行きやがって・・・」

「パパってば!!」

「・・・シィル・・・」

 リセットの呼びかけはランスの耳にまったく入っていないようだった。

「パパ! ・・・パパ!!」

 

(行かないで! わたしをおいていかないで!!)

 

「パパーーーーー!!!」

 

 しかし、リセットの絶叫もランスの耳には入らなかった。

 

 

「あ、ああ、あああ・・・」

 いやいやをするように頭を振りながら、シルフは後ろへ下がって行く。

「・・・シィル・・・どーした・・・」

 ランスにはわけがわからなかった。なぜシィルが自分から離れようとするのかが。

「あ・・・ああ・・・、いや・・・いや・・・」

 シルフはただこわかった。敵意は感じられなかったが、ランスの異様さがとても恐ろしかった。

「・・・シィル・・・」

 ランスがシルフへとゆっくりと手を伸ばした。

「いや、・・・たすけて・・・たすけて二十一・・・。

 

 たすけてぇー!! 二十一ーーーー!!!」

 

 

「シィルに手を出すなあぁぁーーーーー!!!!」

 

 どんっ!!!

 

「・・・えっ!」

「・・・・・・!!」

 その一瞬に何がおこったのか・・・それを理解したものは一人もいなかった。

 

 

「二十一!!」

「シィル!!」

 二十一はシルフを両手で強く・・・強く抱きしめた。

 

 

「・・・魔王様!!」

「ラーーンス!!!」

 ランスは自分の腹から突き出たものを握り締める。そして目の前で抱き合う二人を見てつぶやいた。

「・・・・・・なんだ。

 ・・・お前の・・・、・・・シィルか・・・」

 そう言うと膝をつく。背中から刺さった聖刀日光は鍔元まで埋まり、ランスを完全に貫いていた。

 

「ランス!」

「魔王様!」

 ランスは視界のはしっこにサテラとホーネットをとらえる。

「・・・すまねえなサテラ。

 ・・・ホーネット・・・後はたのまあ」

 

「・・・パパ・・・」

 

 いつのまに来ていたのか、リセットがランスの目の前に立っていた。

 取り乱してなく、おどろくほど澄んだ目をしていた。

「・・・行くのね・・・。・・・・・・シィルさんをさがしに・・・」

「・・・リセット・・・」

「なあにパパ・・・」

 やさしい微笑みを浮かべてリセットが答える。

「すまなかったな。

 俺が素直じゃなかったから・・・、いじっぱりだったから・・・」

 自分に対する呼称が俺様から俺に変わっていた。

「・・・いじっぱりなパパも大好きだったよ」

 微笑みを浮かべたままリセットが応じる。

「・・・やっぱり・・・、・・・シィルがいないとだめみたいだ」

「そう・・・なんだ。

 ・・・でも、ひょっとしたらもうこの世界に転生しているかもしれないよ。・・・そしてあの子になったのかも」

 そう言うとリセットは視線を二十一に抱かれているシルフに向ける。

 それに対し、ランスはただ首を横に振った。

「いや、・・・似ているけど違う。

 ・・・あいつも・・・

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・ランスさま

 ・・・

 

 俺がいないとだめだからな」

 そう言ってランスがリセットに笑いかける。しかし、それはランスのまぶたに浮かんだ少女へと向けられたものだった。

 そしてその笑顔は今までリセットが見た中で、一番素敵な笑顔だった。

 

「・・・かなわ・・・ないな」

 

 泣き顔を見せないようになのか、リセットは額どうしをコツンとぶつけた。

 ・・・・・・

 

「・・・わたしも、・・・手伝ってあげる・・・」

 

 しばらくの沈黙の後、リセットがつぶやいた。

 

「・・・えっ・・・」

 ランスがその意味に気付く間もあたえず、リセットはランスを強く抱きしめる。

 そのためにランスを刺し貫いていた日光がリセットの体をも貫く。

「・・・リ、リセット!!」

 驚きの声をあげ、ランスは目を見開いてリセットを見る。

「・・・邪魔はしないから、いいでしょ? ・・・ねっ」

 弱々しくリセットがつぶやく。

「!! ・・・・・・!」

 ランスもリセットの体を強く抱きしめかえす。

 

「・・・本当に・・・すまなかった」

 

 ひとしずくの涙がポタリと落ちた。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 RC16年の終わりとともに、魔王ランスの時代も終わりを告げた。

 次代の魔王にはランスの遺言通りにホーネットがついた。

 新しい魔王となったホーネットの政策はランスとは異なり、自らの父親である魔王ガイのように人類に対して不干渉をとった。

 ただ唯一、クリスタルの森に関してはランスの政策の後をついだ。

 

「カオスはどうしてずっとランス君にくっついていたの?」

 カフェが非難まじりに手にしている剣に聞いた。

「・・・たしかに。

 ・・・あなたを持っていたためにさらに手強くなってしまいましたからね」

 人型をとっていた日光も言う。

[・・・・・・・・・]

「なんとか言いなさいよ、カオス!」

[・・・すまないな。

 ・・・ただ、最後まであいつを見ていたかったんだ]

 カフェも日光も思う所があるようで、それ以上はなにも言わなかった。

 

「日光さん達行っちゃったね」

 シルフが隣を歩く二十一に話し掛ける。

「互いに不干渉と決めたんだ、もう僕が持つことはないだろうから」

「ふーん、好きだったんじゃないの」

 シルフがいたずらっぽく視線を向ける。

「ぶっ!!

 いっ! ・・・いいんだよ、もう」

 顔を赤くして二十一が答える。

「ねえ、それでお母様への報告が終わったらどうするの?」

「・・・うーん、そうだな。

 ホーネットさんの命令で魔人達は大丈夫だろうけど、魔物達はまだしばらくあばれるかもしれないからな。世界をまわってそういうのをおさえていこうかと思ってる」

「まあ、それは奇遇ね。わたしもそうしようと思ってたのよ」

 両手を前であわせてシルフが言った。

「・・・それとも、アイスの町あたりでギルドにでも所属しようかな」

「またまた奇遇ね。そうしようかなぁーとも思ったとこなのよ」

 嬉しそうにそう言ったシルフに対して、二十一が言う。

「ゼスはどうするんだよ」

「それを言ったら二十一だって、JAPAN・・・こんな時代だもんひょっとしたらリーザスの王様にだってなれるかもよ」

「僕はいいよ」

 照れくさそうに二十一が答える。

「わたしもいいのよ」

「なんだよそれ」

 シルフが立ち止まる。

 

「それとも・・・一緒じゃいや?」

 

 じっと二十一を見つめる。

 

「そ・・・そんなことはないけど・・・」

 

 顔をシルフからそむける。照れた顔を見せまいとしているのがもろわかりだった。

「くすくす・・・。じゃ、きまりね」

 

 

 ・・・一つの時代が終わり、また新たな時代をむかえる。それはいつになっても変わることはない・・・。

 

 

 

 ・・・そう、この二人の冒険ははじまったばかりなのだ。

 

 

 

 


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