一面にあふれていた蒸気だか煙だかが収まってくる。

 

 二十一達は無事であった。カフェがなんとか出した結界により、あの魔法の爆発から逃れたのであった。

「・・・二十一君。・・・間違いない、彼女は君のお姉さんよ・・・」

 意を決してカフェが言った。

「そんな、・・・そんな!

 ・・・だからか、あの時感じた懐かしさはそのせいだからなのか・・・」

 つらそうに声を絞り出す二十一。

 上空で声が聞こえる。

「許さない! パパの敵は私の敵!

 パパと私を引き裂こうとするもの・・・、誰であっても絶対に許さない!!」

 リセットのいるあたりを見上げて二十一がつぶやく。

「なんでだよ・・・、なんでなんだよーー!」

「・・・二十一君・・・」

 リセットは聞こえてきた声の方向から冷静に場所を特定する。

「・・・そこね、・・・白色破壊光線!」

 それは正確に二十一達の所へ放たれる。

 とっさにカフェが結界をはり、なんとか防ぎきる。

「もうやめてっ! リセットちゃん! ・・・二十一君はあなたの実の弟なのよ!」

 完全に煙が晴れ、三人が三人とも互いの顔が見えるようになる。

 

「・・・そんな事関係ない・・・」

 

 リセットが静かに言った。

「・・・リセットちゃん!」

 カフェが驚きの声をあげる。

「・・・弟だろうと何だろうと、私にとってパパがすべて。私からパパを奪うもの・・・、私は絶対に許さない!」

 そう言うとリセットは魔法の構えをとる。

 

「・・・白色破壊光線!」

 

 そこにいた三人の誰もが予想だにしていなかった。完全に不意をついた形で、横あいから魔法が放たれた。

「・・・ちょっと、・・・いや、かーなり卑怯だとは思うけど、悪く思わないでね・・・」

「・・・シルフちゃん!」

 カフェが驚きの声をあげた。

「はろー、カフェさん。主役とーじょー!」

 ピースサインをして登場したのは言うまでもなくシルフであり、その後ろに控えめに日光が立っていた。

「・・・・・・やった、・・・のか?(・・・姉上・・・)

 やがて爆煙が晴れてくる・・・。

 

「! ・・・そっ、そんなっ!」

 

 先ほどと変わらず上空に浮かんでいるリセットの姿に、シルフが悲鳴にも似た声をあげる。

「まさかっ!

 ・・・ランス君、・・・あなた何てことを・・・」

 カフェがその理由に思い当たり、悲痛な声をあげる。

「まさか・・・魔人?」

 シルフのつぶやきがその答えであった。

「・・・お前も私の邪魔をするのね・・・」

 リセットは恐ろしく冷たいまなざしでシルフを見下ろす。

 

「シィル!」

 

 二十一が警告の声をあげる。

「・・・はっ! ・・・きゃああああああああーー!!」

 詠唱無しで放たれたリセットの魔法により、吹き飛ばされるシルフ。

 

「シィイイィーーール!!」

 

 二十一の絶叫むなしく、シルフはピクリとも動かなくなる。

「・・・シ、シルフちゃん・・・」

 カフェも力なく呼びかける。

「・・・・・・日光さん、刀だ・・・」

 二十一がぽつりとつぶやいた。

「えっ?」

 驚きの声をあげる日光、それに対して・・・。

「聖刀日光だ! 早くっ!!」

 日光はただうなずき、刀と化す。

 手に収まった聖刀日光を抜き放つと二十一は言い放った。

 

「・・・あんたの言う通りだ・・・。お前が俺の姉さんだろうが何だろうが関係ない!

 ・・・俺の大事なものを奪うやつは・・・絶対にゆるさねえ!!」

 

 

「ん、んんん・・・。ここは・・・天国?」

「くすっ、すごい自信ねシルフちゃん」

 シルフの目がようやく焦点をとらえてくる。微笑むカフェの顔を見たあと、しばらくぼんやりとする。

「えーと・・・、たしか。・・・そうっ! 私吹き飛ばされて・・・」

 シルフの意識が次第にはっきりしてくる。

「ええ、どうやらぎりぎりのところで魔法防御をはったみたいね。そうでなければ今ごろ・・・」

 シルフはあたりを見回す。どうやら先ほどの場所から移動しているようだった。

「・・・二十一達は?」

「・・・・・・。

 ・・・戦ってます。・・・彼女と」

「あの子は一体・・・?」

 ためらいながらカフェが答える。

「ランス君・・・魔王ランスの娘。・・・つまり二十一君の実のお姉さん・・・」

 それを聞いて思わず絶句するシルフ。

「・・・そんな、・・・そんなのって酷い。・・・お父さんだけでなくお姉さんとまで・・・。・・・二十一がかわいそうすぎる・・・。

 

 こんなのって、・・・こんなのって酷すぎるよーー!!」

 

 

 上空からの攻撃に対し、二十一にできるのはよけるだけで、手も足もでない。

[・・・一旦森の中に入りましょう。今の状況ではいつか当たってしまいます]

「そっちの方がまずい。火をつけられたら結局いぶりだされることになる。

 それに・・・シィルだって危なくなる」

 日光の提案に二十一は首を振って応じた。

「これで終わりよ! ・・・白色破壊光線!!」

 二十一のいた場所をまごうことなく着弾し、大きな爆発をおこす。

「・・・やった?」

 リセットは自ら起こした爆発の中に二十一の姿をさがす。

 

「・・・こっちだ!」

 

 自分より上空で聞こえた二十一の声に、リセットは信じられない思いで見上げる。

「あっ、あああ! そんな・・・」

 リセットが見たのは、気のこもった聖刀日光を、今まさに振り下ろさんとしている二十一の姿であった。

 白色破壊光線により引き起こされた爆発の衝撃を利用しての大跳躍。それにより、リセットのさらに上空・・・頭上の死角をとったのだ。

 そしてこの位置からくりだされる必殺技といえばただ一つ・・・。

 

「ラーーンスアターーーック!!」

 

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・どうしたの、・・・泣いているの?・・・

 その裏側にやさしさを感じさせる心配げな表情

 

 ・・・・・・

 ・・・そう・・・、よかったね・・・

 包み込むようなやさしい微笑み

 

 ・・・・・・

 ・・・えっ、・・・えーとね、・・・ふふふ・・・。

 私のいっちばーん好きな人。そして一番大切な人・・・

 照れながらも幸せそうな、心からの笑顔

 

 ・・・・・・

 ・・・姉上・・・

 

 ・・・

「きゃああああああーーー!!」

 ・・・いやな感触だ・・・。

 肉を切り裂く感触・・・吹き出す血の匂い・・・。

 

 ・・・いやな匂いだ・・・。

 

 

「二十一ーーー!!」

 聞こえないのはわかってる・・・でも叫ばずにはいられない。

 精一杯のはやさで駆けて行く・・・でも思い通りに進めない。

 苦しむ二十一なんて見たくない・・・でも見なきゃならない。

「二十一ーーーー!!!」

 涙を流しながらシルフは叫んだ。

 

 

 致命傷ではないはずだ、・・・自分の振りができなかったのだから。でも・・・、このままでは致命傷になりかねない。

「・・・う、うう・・・、パ・・・パパ・・・」

 魔法の集中ができるような状況でないのは明らかだった。このまま頭から地面に落下してしまったら・・・。

「・・・あ、姉上ーー!」

 二十一の叫びになんの反応も示さない。リセットの意識はすでにもうろうとしていた。

 

 ・・・パパ・・・私死んじゃうのかな・・・

 ・・・そうなったら私、その人と同じになれる?

 ・・・パパの心の中に住んでいるその人と・・・

 

 次の瞬間、リセットは心地いいあたたかさにつつまれた。

「お前は・・・?」

 空中でリセットを受け止めた男に二十一が問いかける。

「・・・ひでえな、・・・おい、ホーネット! いるんだろう。リセットを頼む」

「・・・はい」

 ものかげから現れる二人の女性。

「・・・大丈夫ですね、見た目ほどひどい傷ではありません。すぐに回復するでしょう」

 リセットを看て、ホーネットがそう言った。

「そうか・・・」

 男は安堵したように言った。二十一もリセットが無事という知らせにホっとした。

 

「・・・二十一!」

「二十一君・・・」

 その場にシルフとカフェが飛び出してきた。

「・・・全員そろったようだな・・・」

 リセットをホーネットに渡し、その男が振り返って言った。

 

[・・・・・・]

 

「・・・!」

 

「・・・?」

 

「・・・お前は、・・・何者だ・・・」

 ただ者ではないと感じ、二十一は油断なく日光を構える。

 二十一の手の中で日光がカチャリと震えた。

 

[魔王・・・]

 

「・・・ランス君」

 

 ・・・魔王ランスの登場であった・・・。

 

 

 

 


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