14:戦争の終結
ダンガの玉座の間では未だ激闘が続いていた。
下級悪魔と上級悪魔の混成部隊を倒したフォルケル達は、ロキの援護にまわろうとするが二人の戦いのレベルが違いすぎてついていけないような状態だった。
「おいぼれ、いい加減負けを認めたらどうだ」
「ふん、このまま戦い続ければいずれお主が勝つことは認めよう。だがな、このペースでは後数日はかかるぞ。それとも全力を出して一気にけりを付けるかね」
「調子にのるなよ。「銀狼」を殺しに行ったアークデーモンが戻ってくれば貴様など」
「フェンリルはそう易々と死にはせん」
二人がにらみ合いを続ける中突然後ろの障壁が消え失せる。
「どうやら決着がついたようじゃな。お主らちょっと様子を見てきてくれ」
ロキはルシファーから目を逸らさずにフォルケル達に頼む。
「でもロキ殿は」
「行ったろう、まだまだ決着はつかん。ここは任せろ」
「はい」
フォルケル達はロキを残して床が崩れた場所を慎重に降りてゆく。
「いいのか、もしゼフィールが勝っていたらあいつ等は死ぬぞ」
「あの二人が全力を出したんじゃ、どっちが勝っても力を使い果たしておるよ。だから儂がこの場で貴様の足止めをしておるのじゃろう」
「・・・・」
にらみ合いの状態から動いたのはルシファーだった。急に空中に飛び上がったのだ。そして今までいた場所に火球が振ってくる。ロキはその隙を逃さずに雷撃をルシファーに放つ。何とかこれを防ぐとルシファーは不意に火球を放った人物めがけてカマイタチを放つ。
「本来魔族の手助けなどはしないのだがな」
そう言って現れたのは三天使の一人シヴァだ。
「ほう、わざわざシヴァ殿が助けに来てくれるとは。順番から言ってウォーダンだと思っておったが」
「奴は今因縁の対決とやらをやっている。ヴォルストとか言う小僧と決闘の最中だ」
「それはまたあやつも運の悪いところに居合わせたものよ」
「どっちのことを言っているのだ」
「両方じゃよ」
「相変わらず面白いじいさんだ。俺があいつの魔法を止めるからじゃんじゃんやってくれてかまわんぜ」
「全く、荒っぽいのお」
「・・・どうやら分が悪いようだ。ここは引き上げるとしよう。だがいずれ我が魔族を踏み台にしたことを後悔させてやる」
そう言ってルシファーはシヴァが切りかかるより早く消えてしまう。
「張り合いが無いな」
「何なら相手をしてやろうか」
「俺は二人と違って無駄な仕事はしない主義なんだ。別に今あんた等を消すつもりはない・・・と言うよりあんたを消すのは俺達じゃあ無理だ」
「ふむ、じゃあ儂は下の様子でも見てくるか。お主はどうするね」
「馬鹿を回収して帰る」
そう言うとシヴァは来たとき同様唐突に消えてゆく。ロキはフォルケル達の後を追い瓦礫の中へ飛び込んでゆく。
「そろそろ、大司教の呪いが効きはじめたのではないかな」
「ふん、まだまだ、あきらめるかよ」
城のはずれではあいもかわらず二組が激闘を続けていた。ヴォルストとウォーダンは一進一退を続けていたが、フェンリルの方は徐々にアークデーモンを圧倒している。
「く、私は魔族としての誇りを忘れた奴に負けるのか」
「違うな。魔族としての本能に従う動物的思考の持ち主だから負けるのだ」
フェンリルは素早く移動し、アークデーモンの複数の腕の攻撃をかいくぐり懐に飛び込むと、レイピアの突きを連続で放つ。その傷口はとてもレイピアでできたものとは思えないほど大きい。
「ぐうう」
アークデーモンは苦しそうにわめきながらも必死で傷口を塞いでいく。
「無駄だ」
フェンリルは傷口が治る前に後ろに回り込み、今度は突きを連続で横一列に放ちアークデーモンの首を切り落とす。そのまま悪魔の肉体は消滅してしまう。
「疲れたな。ヴォルストいい加減切り上げろ。そろそろ決着がつく頃だ」
フェンリルはすました顔で未だ戦っているヴォルストの方を向く。かなりの時間戦っているヴォルストにはありありと疲労の色が見える。もっともウォーダンもあちこちに傷を負ってはいるが。
「だいたいまだ一月経っていないだろう。その状態で三天使と戦えただけ上出来だ」
「今こいつを逃がしたら次にいつあえるか分からないんだ。だから」
「そこまでだ、お二人さん」
「シヴァ、何故貴様がここに」
「何故ってお前がふがいねえからだろ。上の決着はついたみたいだし、ルシファーも追い払った。任務完了だ」
「そうか」
「逃がすかよ」
ヴォルストは二人が消える前に切りかかろうとするが、フェンリルが背後から光球を放ち気絶させる。
「とんだ醜態だ。引き際を心得なければ死ぬぞ」
「まあそう責めてやるなって。じゃあな」
二人の天使はそのまま消える。
フェンリルは気絶したヴォルストをかつぎ上げるとその場を後にする。
突如悪魔が襲来した城の外側の戦いはルシファーが撤退したのと時を同じくして、悪魔達も撤退をはじめた。
「今回は随分といさぎよい引き方だな」
「そうですね。今まではずっと死ぬまで向かってきていましたからね」
小さくなってゆく悪魔の群を見ながらロックスリーとヘルが話している。
「多分親玉が撤退したんだ、さすがは兄上だ」
二人の会話に空を飛んでいる天使が一人割り込む。もう一人の方は疲れたのか地面でぐったりしている。
「何をしている、二人とも、帰るぞ」
今度はさらに上空から二つの影が現れる。
「シヴァ様まで来ていたんですか」
「え、ほんとだ、シヴァ様〜」
「帰るぞ」
ウォーダンは一言言うとそのまま消える。
「何か機嫌悪そうですね」
「まあ色々あったからな、それよりこっちももう片づいたんだろ」
「私がんばりましたよー、ここに来る途中ヒドラとアークデーモンに襲われて大変だったんですから」
「ほう、おまえ達が倒したのか」
「ええ、そこの魔族の女ともう一人髪も服も白ずくめの男が手伝ってくれたんです」
「へえ、あいつがねえ。確かヘルだったな。ありがとうよ。部下が世話になった。ヴォルストにも礼を言っておいてくれ」
「いえ、偶然通りがかっただけですから」
「シヴァ様、こいつらを知っているんですか」
「おいおい、このお嬢ちゃんは魔族のプリンセスだ。それに白髪の男はヴォルストといってその気になれば俺達と互角の戦いを展開できる奴だ。それよりほんとに帰るぞ」
そう言うとシヴァは消える。それに続いて2人の天使も消えていった。
壊れた床を降りてしばらく行くとフォルケル達はは瓦礫の中を歩いて来るライヴァスを見つける。
「レナード皇帝、ご無事ですか」
「無事・・・ねえ、まあ命に別状はないかな。それよりレイチェルすまなかった。結局ゼフィールさんを説得できなかった」
「・・・・・いいえ、分かっていたことです。それより父さんは、」
「向こうだ」
レナードは自分が歩いてきた方を示す。レイチェルはその方向へ向かって駆け出す。それにはフォルケルも続く。
「大丈夫ですか。随分傷だらけですけど」
「最後のこいつがきつかったな」
レナードはそう言って左肩を持ち上げる。腕が痛さで上がらないのだ。その腕にはめている篭手は大きく曲がっている。中にある腕は確実に折れているはずだ。
「これだけの打ち込みによく篭手が耐えられたな」
「ヴォルストの特注品だよ。これがなければ負けていたのは私だ。もっともはずすときにはその頑丈さが邪魔になりそうだがね」
「おうおう、派手にやっとるのう」
突然上からロキが降ってくる。
「長老さん、ルシファーは」
「シヴァが援護に来てくれてな、奴はすぐに撤退しおったよ。それにしても随分と派手な折れ方じゃ。直すのに一苦労するぞ」
「長老殿、シャナはどうしたんです」
「少々錯乱しておってな、今はどこかで眠っているはずじゃ。手当が終わったら行ってやれい」
「はい、それよりこれをはずしてもらえますか」
「おやすい御用じゃ」
ロキはレナードの腕を取ると篭手を両手で掴む。そしてそのまま両手を引くと篭手はまるで粘土細工のように二つに割れてゆく。
「すげえ、一体どんな力をしているんだ」
「ほっほっほ、これは金属が特殊なだけじゃよ。それよりよいかな」
ロキはギルバートの驚きに答えながら、レナードに確認を取る。レナードは頷いた。そして次にロキはレナードの左手を掴み強引に折れた腕を元の方向に戻してゆく。レナードは苦痛に顔をゆがめながらも声一つ立てずにそれに耐える。
「ふむ、後は副木を当てて回復魔法を掛け続ければ、お前さんなら1、2週間で全快じゃ」
「ありがとうございます」
何気ない会話を交わす二人にファナとギルバートは驚いていた。
「私、魔族に生まれなくてよかったわ」
「私もです。まさか麻酔もなしにあんな事をするなんて」
「私はこれで失礼しますよ。これからいくつか指示を出さないといけないでしょうから。ゼフィールさんのこと、よろしくお願いします」
「ああ、お前さん達はどうするね。ゼフィールの葬式に立ち会うのかね」
「葬式?」
「そうじゃ。お偉いさんが来た後じゃさらし首にされかねんしの。これから奴の火葬を行うんじゃ」
「・・・・私は見届けたいと思います」
「じゃあ私も姫に同行します」
「じゃあついてくるがよい」
ゼフィールの遺体は瓦礫が比較的少ないところに横たわっていた。レイチェルはそれを見ると思わず駆け寄ってゆく。そして父親ののそばで声を立てずに泣いた。
フォルケルはその様子をレイチェルの後ろから見守っている。ゼフィールの胸には大きな傷がある。おそらくこれが致命傷になったのだろう。
フォルケルが見守っていると突然瓦礫が動き出す。フォルケルは慌てて剣を構えレイチェルの方へ駆け出すがレイチェルは瓦礫の中から出てきたそれを大事に抱き上げる。
「レイチェル、それは?」
「これは父さんの使い間レクス。父さんが死んだ今、後少しの寿命しかないわ。普通の使い間はそうでもないけど、彼は外にいるとすぐに衰弱してしまうからいつもは父さんの体に取り込まれていたの。父さんが死んだ今彼を回復させる手段はもう・・・・」
レイチェルがレクスを抱きしめるとレクスの体が光に包まれそのままゼフィールの遺体に吸い込まれる。
「???」
「めそめそするな、ユリア。お前の親父はそんなこと望んじゃいないぞ」
「だ、誰だ」
「その声はレクス」
「その通り、俺はゼフィールのおっさんの最後の指示に従って今日からはお前の使い魔になった」
「で、でもあなたは」
「心配するな。おっさんの最後の配慮で俺は巣をおっさんの体からあんたの母親の形見のペンダントに移したんだ。今おっさんの胸にあるやつだ」
レクスの言葉に従いレイチェルはゼフィールの鎧の下を調べるとそこには血に汚れてはいるが、見事な意匠を施したペンダントがあった。
「そう言うことで今日からよろしく」
レイチェルがそれを手にした途端レクスがペンダントから飛び出す。さっきとは違い生気にあふれている。
「ええ、こちらこそ」
「ほう、ゼフィールはレクスをユリアに託したのか」
「ロキさん。無事だったんですか」
「うむ、それより形見の品は持ち出せるだけ持ち出しておいた方がよいぞ。これから火葬を行うからな。お前さんも父親がさらし首になる姿やホムンクルスとなって再生する様を見たくはあるまい」
「・・・・・・・そうですね、よろしくお願いします」
「もう形見の品は取り出さなくていいのか」
「ええ、これだけで十分です」
「そうか」
ロキは両手を掲げると白い炎をゼフィールの体に向けて発する。そして誰もが何も喋らない無言の火葬はそのままそのまま十分以上続いた。後に残ったのは灰だけだ。
ロキは袋を取り出すとその灰を魔法で宙に持ち上げ袋に詰める。
「彼を埋める場所はお前さんが決めるがいい」
ロキはそう言うと袋をレイチェルに手渡す。
「そろそろ俺達も戻らないとな」
湿った空気を吹き飛ばすようにフォルケルが明るく言う。
「そうね、これで戦争は終わったけどこれからが大変だものね」
ファナもそれに同意する。そして一行はその場を後にする。
その夜の先勝祝いはものすごい盛り上がりを見せた。ダンガ帝国の兵士も多くがその祝いに参加することが許されている。ただレナードやアリオーンと行った主要人物の顔は何故か暗かった。
そして宴は深夜まで続いた。
レナードは怪我をしたという理由ですでにあてがわれた部屋に戻っていた。
「怪我をしている姿もなかなかかっこいいじゃないか」
「ヴォルストか」
「これで表の仕事は片づいた。もう俺達は必要ない」
「まだだ。悪魔のせいで事態がややこしくなっている」
「まさか・・・・ここから先は俺達の身内の問題だ」
「彼らはそれを承知しない」
「俺達の敵は悪魔だけではない。そのあとには・・・・」
「分かっている。だがすでに賽は投げられている。今週中に誰かが悪魔討伐の案を議題に掛ける」
「そうかい。ま、そう言うと思って部下をすでにいくつかの魔力のへそに派遣した」
「いつもながら仕事が速い」
「ついでに正確なつもりだぜ。そうそう、今日はお別れを言いに来た」
「どう言うことだ」
「言ったとおりさ。しばらくお別れだ」
「・・・・貴様、そんな体で勝てると思っているのか」
「この状態でも五分は戦える。それで十分だ」
「だが奴が一騎打ちに応じると思っているのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いいだろう。この問題も早急に片づけねばならない。私もつきあおう」
「何考えてやがる」
「ここらで無能な君主を演出しておいた方がいい。私は私だ。父の操り人形じゃない。父の理想と私の理想は違う」
「うんうん、陛下も一皮脱げば人間臭さのしみ出る少年ですなあ」
「からかっているのか」
「いんや。傷の治りきらないお前とならなかなかいい戦いになりそうだ」
「お前のことだ、準備はしてあるのだろう。少し待ってくれ私も」
「その必要はない、ほれ」
ヴォルストは二つの背負い袋を取り出す。
「人の行動を読むのは戦術の基本・・・と言うことか」
「商人にとっては商売の基本さ。今は俺はシェイド将軍じゃない。復讐にとりつかれた商人だ」
「置き去りにされたら怒るぞ、彼女」
「さっきすでにゼフィールさんのことで殴られた」
「じゃあ、行きましょうか」
二人そろって夜の闇へと消えてゆく。
「・・・・・・・」
「浮かない顔していますね」
「当然よ、みんな私に大事なこと黙っているんだから。あなたは腹が立たないの」
「私はいつも足手まといだから」
ヘルは宴の輪に加わらないシャナの横に腰を下ろす。
「これからが本番だそうですね。悪魔を滅ぼす戦いの」
「本当は私達だけで滅ぼすつもりだったのに」
「仕方ありませんよ。でもこれのおかげで南北の親睦が深まれば」
「そう、あなたは聞いていないのね。この戦いの最後の目的」
「・・・・薄々感じてはいました。本当ですか」
「ええ、その為にみんな命を捨てる覚悟よ。私もライヴァスも、兄さんも」
「・・・・・」
「でもそれは目の前の敵を倒してからね。そのときに事態が変わっているかもしれないし」
そう言うとシャナは立ち上がって去っていく。ヘルはその空元気に寂しさを感じた。
「やはり、悪魔は倒すべきだろうな」
「それは分かります。でも今の我々の戦力で勝てるのですか」
宴の一画ではリチャードとファナ、ギルバートが話し合っている。
「・・・帝国の出方次第だな。彼らはおそらく我らの知らないことを数多く秘めているはずだ。実際レナードとゼフィールの戦いも仕組まれていたようだしな」
「しかし私達はすでにこの戦いに多くの人と物資をつぎ込んでしまいました。これ以上は無理です。エラードも似たような状況でしょう」
「ギルバートといったな。確かに君のいうとおりだ。悪魔相手に戦力を割く余裕はない。だが、少数精鋭の突撃部隊ならどうかな」
「殿下は帝国軍がすでに悪魔の巣窟を見つけていると」
「少なくとも彼らはなんらかのヒントを持っているはずわ。長老殿やフェンリル殿と悪魔は因縁があるそうですし」
「それに分からないのは、ヴォルストだ。聞けばあいつは天使と協力してアークデーモンを倒しておきながら、第三天使ウォーダンと戦ったていうじゃないですか」
「彼には彼の理由があるのよ」
「そうか、あのとき、彼の部族が滅んだとき降臨したのは・・・」
「第三天使ウォーダンっていうことですか」
「とりあえず機会を見て詳しい話を聞いてみましょう」
「それに悪魔の討伐部隊のことも」
フォルケルは宴の中で得意の楽器を弾いていた。とにかく何でもいいからそこら辺にあるものを借りては弾いた。そうしないと気持ちが落ちつかないのだ。自分がこれから何をすべきか。とっくに王位継承権なんて捨てたと思いこんでいたのに事態は思わぬ方向に進展している。
「疲れているようですね」
「司祭か、そう思うんなら俺をここから抜け出す方法を教えてくれ」
「それは無理ですよ。何せレナード皇帝をはじめ主な方々は全て宴の輪の外のいるようですから。せめてあなたはここにいないと」
「そういえばレイチェルは」
「気になりますか、彼女のことが」
ラーカスの言葉にフォルケルは言葉に詰まる。
「ふふふ、彼女ならさっき動物と話していましたよ。おそらく父親から受け継いだという使い魔でしょう。そんなに気になるならいってみるといいでしょう」
「え、いいのか」
「楽器の演奏は私が変わりましょう、これでも心得はあります」
ラーカスはそのままフォルケルのリュートを奏ではじめる。リュートに賛美歌とは変わった光景だがなかなか面白いものだ。
レイチェルは父が企んだ全てをルクスから聞いた後放心状態になっていた。
「レイチェル、いるのか」
「フォル?こっちよ」
「ふう、」
「よく抜けれたわね」
「司祭が気を利かせてくれた」
「これで戦いは終わりね」
「まだ悪魔が残っているさ」
「やっぱり戦うつもり」
「ああ、まだ王位を次ぐか決めかねているけど、今やらなきゃならないことはやる。お前はどうする。立場として辛いものがあるだろう。なんなら・・」
「ヴォルストさんがしばらく身を隠す手だてを考えてくれるそうだわ。もちろん悪魔との戦いが終わって・・・・・」
「神を滅ぼした後か」
「!知っていたの」
「北の民族の反応を見て薄々な。でも他の奴は気づいていないだろうな」
「私も今日レクスから聞かされてはじめて知ったわ。そしてどこまでつきあうかは自分で決めろって。なら最後までつきあおうって」
「・・・・・・」
「多分あなたとは敵同士になるわよ」
「ならないね。俺は今まで北の民族の・・・ヴォルストの考えを見てきた。奴は魔族と仲良くしている。天使も救った・・・まあ一部例外はあるが。そんな奴が何の考えもなしに神を滅ぼすはずはない」
「あなたってときどきすごく勘が良くなるわね」
「理由を話してくれないか。君は知っているだろう」
レイチェルはそっとフォルケルに話し始めた。
そう、そもそもこの世界の創造から。
南北のいさかいの原因を。
両者の間に立ちふさがる力を。
魔族に英雄とあがめられた人間を。
世界を変えようとする若者達を。
そして彼らの本当の目的を。
おそらく彼はその驚きの事実から目を背けはしまい。そしてできることは全てしようとするだろう。たとえそれがどんなに困難な道であろうとも。
「そしていつかそれは成就されるであろう」
ロキは呟くようにいった。
「希望ですか、あなたの」
フェンリルがたずねる。
「いや、確信だ」
<完>