13:決戦
シャナ達が階段を上っていくと十人以上の一団と出くわす。しかも今までの敵とは違いためらいもなくこちらに向かってくる。おそらくゼフィールに心から忠誠を誓う兵士達だろう。
「どうやらこっちが本命かな」
フォルケルは剣を構えながら敵に相対する。敵が上にいる分不利だ。お互いに睨み合っていると、突然高速で飛び出したレイチェルの使い間「ルナ」が先頭の兵士を押し倒す。直後にギルバートの掌心雷が数人に襲いかかる。敵が慌てたところへシャナ、フォルケル、ファナが斬り合いに持っていく。ギルバートもすぐに戦いに加わり、レイチェルは敵の後ろからルナに魔法を使わせて相手の混乱を誘っている。
程なく敵は奥へと引いていく。
「大丈夫」
「ええ、みんな剣がかすったくらいですよ」
「そう、じゃあ行きましょう」
階段を上りきるとそこには玉座の間のすぐ前で敵の、おそらく最後の部隊が先陣を切っているリチャードの部隊と激戦を繰り広げていた。圧倒的な不利な戦況でも敵の士気は高いようで、彼らはわずかに数で勝っているリチャードの部隊と互角に戦っているように見える。
「叔父上、助太刀します」
そう言ってフォルケルが真っ先に敵に突っ込んでゆく。彼に向かい合っているのは先程退けた部隊だ。
フォルケルに続きファナとギルバートも戦いに加わってゆく。
「元気なことだ」
シャナとレイチェルは後方から魔法で敵を撹乱している。ほとんどコケだましのような魔法を連発するだけだが、密集している敵にはそれなりの効果があり敵の体勢が徐々に崩れてゆく。
そしてついにこれらは降伏した。
「さて・・・」
「この奥にいるのが皇帝ゼフィールという訳か」
リチャードが扉を開ける。
その先には玉座に腰掛けた一人の男と彼を囲むようにして十人ほどの兵士が身構えている。
「皇帝ゼフィール、勝負はすでに決した、おとなしく投降しろ」
リチャードはよく通る声で呼びかける。そのリチャードに兵士達が襲いかかろうとする。
「やめろ」
低く、太い声が兵士達の攻撃を妨げる。
「おまえ達はもう逃げろ」
玉座の男、ゼフィールがそう言うと兵士達は次々に消えてゆく。
「貴様、何をした」
フォルケルが逆上する。自分の配下を殺したと思っているのだ。
「心配するな、彼らは家族の元に返した。それだけだ」
「なかなか見上げた人物だ。もう一度言おう。おとなしく投降しろ」
「断る」
「お父さん」
レイチェルが思わず前に出る。
「ユリアか」
ゼフィールがそう言うと、突然レイチェルの体に光が漂う。が、レイチェルはそれをはじき飛ばす。
「強くなったな、だがその程度では私におよびはしない」
「どうしてもと言うのであれば、今ここで引導を渡してくれる」
リチャードが剣を構えて突っ込んでゆく。ゼフィールは無言で自らの剣を引き抜きリチャードの剣を受けとめる。そしてその状態からリチャードを蹴り上げる。
「叔父上」
フォルケルがすぐさまリチャードのところへ向かう。シャナ達もそれぞれ構えてゼフィールに向けて前進する。
「ゼフィールさん、この戦いやめられないんですか。あなたは悪魔に操られているだけなのでしょう」
「私にその自覚はない。少なくとも私は奴等を利用しているつもりだ」
ゼフィールはそう言うと巨大な火炎球をシャナに投げつける。
シャナはそれを正面から中和するが、その隙にゼフィールがシャナに向かって剣を繰り出す。それを横からレイチェルの使い間が攻撃するが、一瞬足を止めたゼフィールが片手を上げると、突然現れた「ルナ」よりも一回り大きな猫がはじき飛ばす。ゼフィールの使い魔レクスだ。
レクスはそのままゼフィールを包囲しようとしているギルバートやファナに鈎爪と魔法で向かってゆく。
ゼフィールはシャナとフォルケル相手にしている。そして徐々に玉座の間には兵士達が詰めかけてくる。
「おまえ達の相手ばかりをしているわけにもいかんのでな」
そう言うとゼフィールは強烈な一撃をフォルケルに向ける。後ろに下がってかわすがゼフィールの魔力ののった一撃はフォルケルの篭手を切り裂きその先にも血がにじんでいる。
さらにシャナには援護しようとしているレイチェルもろとも衝撃波で壁にたたきつける。
使い魔のレクスもギルバートとファナを突き飛ばしている。
「派手にやっとるのお」
しわがれた声が玉座の間の兵士達の中から聞こえてくる。
「長老殿か」
ゼフィールの声に応じるように兵士をかき分けてロキが姿を現す。
「ゼフィールここはおとなしくお縄についたらどうじゃ。それがいやならさっさとここから逃げればよかろう。これ以上犠牲者を増やすのはよせ」
「・・・・あなたは知っているはずだ」
「無論。だが儂はできれば孫に危険な橋を渡って欲しくない。それにいつ奴等がよこやりを入れるともかぎらん。これ以上戦いを続けるのであれば、儂が相手になろう」
「・・・・それが確実ですな」
その言葉と共にフォルケル達は兵士の元へと強制的に転移させられる。そしてロキが体に似合わない大剣を構えてゼフィールに切りかかる。ゼフィールはそれを軽々とかわし反撃に移るが、ロキはすでに後退している。
「さすがに大剣では分が悪いのお」
そう言うとゼフィールの周りに火柱が上がる。その火柱の中からは光の矢が放たれるがロキはそれを片手で受けとめて霧散させる。そして素早く後ろに振り向くと大剣を一閃させて後ろに回り込んだレクスの攻撃を受けとめる。
「さすがは長老殿。本気を出さずにここまでやるとは」
「それはお互い様じゃ、そろそろ本命が来る頃じゃろうて」
ロキの言葉と共に玉座の後ろの壁が破壊されて奥から大剣を構えた青年が入ってくる。執務室に行っていたはずのレナードだ。
「遅くなりました。執務室に巣くっていた上級悪魔を倒すのに手こずったもので」
「ほれ、そいつを飲め」
ロキが小瓶をレナードに投げつける。
「ふう、気が利きますね。部下を眠らせるのに結構疲れたんですよ。じゃ、後は頼みます」
瓶の中味を飲み干したレナードはそれをロキに投げかえすとそのままゼフィールに相対する。
「まかせとれい、しっかりやれよ」
ロキはそう言うと両手を掲げて何事かを唱える。
この様子にただならぬものを感じたシャナが慌てて駆け寄ろうとするが見えない壁に遮られてすすめない。
「無駄じゃよ。この中には誰も入れん。そう、たとえ天使でもこの儂を倒さぬ限りはな」
「ロキさん、何でこんな事するんです。一人でゼフィールさんと戦うなんて危険すぎます」
「二人の意志じゃよ、儂が決めた事じゃない。さて儂等は儂等にできることをせんとな。さっさと城の制圧をすませてしまえ」
ロキは珍しく命令口調で兵士に言う。
「ロキさん、ここを開けて下さい」
リチャードをはじめとするレジスタンス部隊や帝国の部隊はロキの命令を実行にうつしだす気配を見せるが、シャナは槍の穂先をロキに向ける。フォルケル達もこの二人の動向に注目している。
「お主の兄はどちらもこの状況を受け入れた。それでも否定するのか」
「あいつは関係ありません。開けないと言うのなら」
そう言ってシャナはロキに槍を繰り出すがあっさりとロキにかわされ。カウンターの一撃を鳩尾に受ける。
「儂とて悩まなかったわけでは無いぞ」
崩れ落ちるシャナに向かってロキがささやく。
「もう、誰かを失うのはいやなのに、なんでライヴァスも兄さんも私のこと・・・て・・・」
「少し落ちつくんだ」
そう言うとロキはシャナを魔法で眠らせる。そして、近くの兵士に彼女をどこかで休ませるよう命令する。
ロキがはった障壁の中ではすでに激戦が繰り広げられすでに床は崩れている。がこちら側には音が聞こえてこない。ほとんど密閉空間のようだ。
「ロキさん、こうなることは・・・皇帝同士の一騎打ちは一体いつから決められていたんですか」
「状況というものは当初の予定を大きく狂わせる。決める事なんてできんよ。ひょっとしたらアークデーモンがライヴァスの邪魔をしていたかもしれん。そうなれば二人の一騎打ちは実現しなかったろう」
ようやく口を開いたフォルケルにロキは曖昧に答える。
「じゃあいつから予定されていたんですか」
「少なくとも儂がそのことを聞いたのはお前さん等がファルクにいるときじゃ。ヴォルストが奴の意志を内密に話してくれた。おそらくライヴァスもそのときにはじめて知ったはずじゃ」
「何で彼は一騎打ちに応じたんです。北部の人間らしくないじゃないですか」
ギルバートが疑問を挟む。
「ゼフィールはこの戦争をこのように集結させるつもりだったからじゃよ」
「???」
「奴は意図的にレナードに対立し、さらに南部の人間の反感を買うことで南部と北部の民が手を取り合う舞台を整えたんじゃよ」
「じゃあ、父さん、最初から・・・」
「死ぬつもりだったろうね。このことに真っ先に気づいたのはヴォルストだった。そして奴は彼の考えに同調した。儂等もだ」
「皇帝が悪魔に操られていると言ったのは嘘だったんですか」
「儂等も途中まではそう信じていた。だが実際奴の精神は悪魔何ぞに負けはせんよ。だが勢力の関係上ある程度大きな力を持つ必要があったゼフィールは悪魔を利用して自らの駒とした訳じゃ」
「そんな馬鹿なことがあるか。私達は奴の手のひらで踊っていたと言うんですか。ここに来るまでに多くの人たちが死んだんですよ。何で途中で止めなかったんです」
「止めるべきではなかったからだ。お前さん達が考えているほど北と南の溝は浅くはない。だからこそ儂等はシャナにこのことを伏せていた」
「じゃあ、私達は最初から信用されていなかったんですか」
「まさか、適材適所という奴じゃよ。そろそろ来るはずじゃ」
「ヴォルストですか?」
「違う違う、儂等の邪魔をたくらんどる輩じゃよ」
「・・・利用されていることに気づいた悪魔!!」
「その通り」
ロキは言うが早いが手を振りかざしワープしてきた上級悪魔を一瞬で灰にする。
「上級悪魔を一撃で・・・」
「狙いは障壁を張っている儂という訳か」
部屋の入り口からも悪魔がやってくる
「雑魚に頼ってらんで自分で出てきたらどうじゃな、ルシファーよ」
「さすがは古き魔族の長、ロキ。その力、失うには惜しい。貴様も私も元をたどれば無から生まれた存在。おとなしく障壁を消し、ここから去るなら見逃そう」
「ふん、儂はお前の邪魔を阻止するためにこの障壁を張ったんじゃ。何でわざわざ解かねばならん」
ロキが答えたのと同時に突然現れた翼を持った人間、少なくとも見た目は、が火球を放つ。
フォルケル達は慌ててそれを避けるとすぐさま下級悪魔が束で襲ってくる。
隣ではすでにロキとルシファーの魔力の応酬が始まっている。
突如現れた悪魔達に連合軍、それにダンガ帝国軍の兵達も慌てている。すでにかなりの数が城内に進入したようだ。
「ち、ここに来て悪魔の相手とはな」
ロックスリーは舌打ちをしながら部下に矢継ぎ早に指示を飛ばす。すでにかなりの被害が出ている。が、城の制圧は八割がた完了している。しばらく持ちこたえれば援軍が来るはずだ。
ロックスリーが次の部隊へ指示を与えようとしたとき急に影が落ちる。上を見上げるとかなりの至近距離に悪魔が見える。
「くそ、数が多い分小回りが利かないのは不便だな」
ぼやきながら腰の剣を引き抜き、悪魔の攻撃を受けとめる。が、もともと剣が得意ではない彼には少々分の悪い勝負だ。すかさず周りの兵が援護にまわるがさらに二匹ほどの悪魔が降下してくる。
が、降下してきた悪魔の片方は味方と剣を交える前に火だるまにされる。もう一匹の方も背後からの攻撃で体をずたずたにされる。
「ふん、所詮帝国と言っても蛮族が起こした国だな」
「何言ってんですか、ここの人たちはカシューラの人たちですよ」
「ヘルに・・・天使か」
現れたのは背中に翼を持った剣士とヘルだった。魔族と天使の妙な組み合わせに気を取られて悪魔の相手がおろそかになるがその悪魔は上空から放たれた光の矢によって串刺しにされる。
「油断をしていては戦いに勝てませんよ」
上空からも一人の天使が援護攻撃をはじめている。
「天使の降臨とは有り難い、士気も上がるというものだ」
そう言ってロックスリーは天使の存在を強調するよう兵に指示をしながら次の部隊の指示に向かう。
「我らは外側にとりついた悪魔の数をできるだけ減らす。お前は好きにするがいい」
「ちょっとそんな言いかた無いんじゃない、彼女たちは恩人なのよ」
「助けを求めた覚えはない」
「さっさとお勤めを果たしたらどうですか」
口げんかをはじめる天使をよそに二人の口論の対象となっているヘルは淡々と悪魔を撃墜してゆく。ベム砦での怪我はほとんど治っているようだ。
ヘルの言葉を老けて二人の天使はすぐさま悪魔に向けて攻撃を再会していった。
「噂に名高き魔族の銀狼と言っても所詮この程度か。まあ人間と同じような生き方をしているようでは、種として衰退するのもやむを得ませんな」
「ふん、負の感情だけをまとって生まれる貴様等よりよほどいい生き方だ。事実こんな魔法も使えるようになる」
銀髪の男、フェンリルは城のはずれの方で突如現れたアークデーモンと死闘を繰り広げている。
フェンリルが発したのは紛れもない光の矢だ。これを見れば聖職者達は卒倒しているかもしれない。だがこれはアークデーモンにかき消される。
「おとなしく種として絶滅のさだめを受け入れなさい」
そう言いながらアークデーモンは四つある手にそれぞれ装備した曲刀で切りかかる。フェンリルはそれをレイピアの素早い動きで受けとめているが、押され気味だ。
「少し手こずっているようだな。銀狼、手を貸してやろうか」
二人の間に突然声がかかる。
「ウォーダンか。そんなものはいらん。アークデーモンの一匹しとめられなくては一族の長たる資格はない」
「結構、だがその後お前は私と戦う気力が残っているかな。私は魔族を倒すためにここに来たのだ。貴様等の派閥争いに興味はない、がエラードの王子に協力している貴様等を助けても言いと思ったのだが、別にお前を倒すと都合が悪くなるわけでもない」
「おしゃべりの暇があったらお前のお客さんの相手でもしているのだな」
そう言って会話を切り上げるとフェンリルは今までは見せなかった動きでアークデーモンの背後に回り込み背中に連続で切りつける。
「私の客だと?」
天使ウォーダンが呟いたとき、彼の頭上には巨大な魔力の塊が出現していた。そしてそれはそのまま彼を押しつぶす。
「ついに見つけたぞ。一族の仇、今日こそ取らせてもらう」
いきなりの不意打ちをしたのはヴォルストだ。すでに目は赤くなっている。
「まだ生きていたとは。今日は君がターゲットではない。ひけば・・・」
魔力によりできたクレーターから出てきたウォーダンが言い終わるより早くヴォルストは手に現れた剣をふるう。そしてそのひとふりはウォーダンの体をかすめる。
「馬鹿を言うな、私が死ぬか貴様が死ぬか、二つに一つだ。貴様の都合など知ったこっちゃない」
ウォーダンは無言で光球を連続で放つ。ヴォルストはその手にした剣でことごとく切り捨てる。その手にしている剣はピエールから与えられた「ライオンの尻尾」だ。今度はヴォルストが連続でカマイタチを発生させるがウォーダンはこれを消滅させる。
二組の強大な力のぶつかりあいはすでに城のはずれの建物をほとんど壊している。これが城の中央で行われていればすでに城は崩壊しているだろう。
障壁の中では二人の戦士の激闘が続いていた。
もはやライヴァスは自らに施している幻覚を捨て、さらにその腕は魔族の力により一時的に発達させ、背中には翼をはやして戦っている。
一方のゼフィールは剣、魔法、そして使い魔のレクスの同時攻撃で対抗する。
「強くなったなライヴァス、だがその程度では貴様の親父にはまだまだおよばん」
ゼフィールはライヴァスの切り込みを受けとめ、そのまま衝撃波を発する。ライヴァスは爆風でそれを防ぎならレクスの攻撃をかわす。
「私は父とは違う道を歩むと決めた。だから一生かかっても父にはおよびはしません。でも父の道を信じるあなたを否定しはしない。だが、あえて誤った道を進もうとするあなたは、否定させてもらう」
正面から魔力をまとったレクスとそれを囲むようにして四つのカマイタチがライヴァスを襲うが、ライヴァスは火球でカマイタチを相殺し、巨大なフェニックスをまねた炎でレクスもろともゼフィールに送り返す。
「私は私の信じる道を生きてきた。たとえこの身をおとしめようとも悔いはない」
火の鳥を切り裂きながらゼフィールは一時的にレクスを吸収する。こうすることでレクスのダメージが回復されるのだ。そしてそのまま切りかかる。
「ユリアは、あなたの娘はどうなる」
ライヴァスは全力でゼフィールの切り込みを受けとめる。若さと魔族の能力により力はわずかにライヴァスが上だ。
「その為に私はヴォルストを使った。奴ならユリアの悲しみを理解し、世間の非難からユリアを守ってくれる」
ゼフィールは魔法で牽制しながら後ろに下がる。
「人に重荷を与えるような生き方をするから戦いの怨恨はつきないんです」
ライヴァスは下がったゼフィールに追撃を掛ける。
「その考え方は甘すぎるのだ。ヴォルストならば否定するぞ。きれい事で世の中わたってはいけないとな。お前もそのことは承知しているはずだ」
ゼフィールはライヴァスの攻撃を素早く切り返すことで対処する。
「だからといってあなたが捨て石になることはなかったんだ。私達がゆっくり変えていけばよかったんだ。たとえ次の世代に望みを託すことになっても」
ライヴァスは必死でゼフィールの素早い攻撃に対処する。
「次の世代に世界を変える力があると何故言い切れる。事実北と南の関係はここ数百年、変わることがなかったのだ」
ゼフィールは攻撃に徐々に時間差を付けてライヴァスの防御を崩そうとする。
「あなたのおかげでその関係が動き出しているんです。あなたはもう十分戦った。どこか人里離れたところで余生を送ればいいじゃないですか」
防御が乱れたライヴァスは爆発を起こして距離を取る。
「優しいな」
「シャナの優しさが私達の考えを変えました。ヴォルストの世界観が私達の価値観を変えました」
「そんな二人でも復讐にとりつかれているのだ」
「・・・・・」
「もっとも、矛盾した行動は若さの証拠だ。若さという勢いがあれば大丈夫だろう」
「・・・ゼフィールさん?」
「だが私に生き残る道は残されていない。いや、残していない。なら最後に友の願いを聞き遂げるまで」
ゼフィールは一気に間合いを詰める。ライヴァスはそれを剣で受けとめようとするが、ゼフィールの腕から飛び出したレクスが剣をはじき、その隙にゼフィールがライヴァスを火炎とカマイタチで包み込む。
(シャナの優しさを潰してはならん、だがここで手を抜くわけにはいかんだ)
(私は・・・約束したんだ、十年後まではなんとしてでも生きてみせると)
剣をはじかれたライヴァスは体中傷だらけになりながら片手でその攻撃を受けとめる。そして次の瞬間、別の手がカマイタチと炎の攻撃でボロボロになりながらゼフィールの鎧を貫いていた。
ゼフィールが最後に思ったのはユリアのことだった。
(・・・すまない・・・)