10:ベム砦の戦い(下)
アリオーン達はほとんど絶望的な状況だった。
実際数では圧倒的だ。だが相手が悪い。彼の兄エドワードは若くして聖騎士の称号を得、さらには世界最強を誇ると言われるナイツテンプラスで副団長を務めていたのだ。その腕を持つ剣士が十体。
ギルバート達が現在連合軍の実質的な盟主であるアリオーンを兵達の後ろへ下がらせようとする。
「退いて退いて」
やたらとはりきっている声が兵達の後ろから聞こえてくる。
「この声は・・・レイチェルか」
兵を押しのけて前へやってきたレイチェルは問答無用で黒剣士の一人に向かってゆく。それは兜も付けず、皮の鎧に身を包んだだけのかなりいい加減な格好だ。その肩には猫がのっている。
「レイチェル止めろ」
アリオーンが止めるが彼女は聞かずに進み続ける。黒剣士が剣を降りかぶったとき、レイチェルの肩の猫が動いた。すさまじいスピードで突撃した猫は黒剣士の兜を直撃し、体勢を立て直しそうとした黒剣士に対してレイチェルが何か紙を貼り付ける。とたんに紙を貼り付けられた黒剣士は砂となって崩れさる。
「な・・レイチェル、だよな」
「何寝ぼけているの。フォル。積もる話はこいつらを片づけてからよ」
「・・・・こいつらそろいもそろってすごい腕だぞ」
「だから援護して頂戴」
レイチェルは再び紙を持って黒剣士に向かってゆく。傍らの猫も紙を口にくわえている。そして猫が黒剣士に紙を貼り付ける。レイチェルは魔法で敵を牽制しながら猫の動きをサポートする。
「どうなっているんだいったい」
「あれがレイチェルの修行のせいか・・・なのか」
あっと言う間に五体の黒剣士が砂となる。
「貴様、何故その護符を持っている。この剣士を砂に帰す方法を知っているのは我が教団の幹部のみ」
「ピエールって言う錬金術士をしっている?」
「聞いたことがあるぞ、死者のほぼ完全なる復活に成功した幻の錬金術士。だが奴に会うのは不可能なはずだ」
「私の連れがその人の弟子でね、頼み込んでこの護符をもらってきたのよ。あなた達のことも多少は聞いているわ」
「なるほど付け焼き刃と言うことか。なら」
女魔術師が手を振り上げると残った五体の黒剣士が淡い光に包まれる。
「これでその程度の護符の魔力は通用しない」
「嘘、ピエールさんは一人が強化できるホムンクルスは二、三人が限度って言っていたのに」
「ホムンクルス!なるほど、それならばつじつまが合う。ならば簡単だ。私が貴様を倒せばその強化の魔法は切れるはずだ。その後護符で砂に帰せばいい」
「ふん、貴様ごときに私が倒せるものか」
「さっきからホムンクルスのためによけいな魔力を使っている貴様なら何とかなる」
フォーブスは剣を構えて魔術師に攻撃をはじめる。黒剣士達もまた前進をはじめる。
「何とか光明が見いだせたかな。レイチェルとか言うお嬢さん、あなたは切り札だ。いったんアリオーン王子と一緒に下がっていなさい。ラーカス司祭、そろそろ動けますか」
「私は大丈夫ですよ、魔術師隊も半分くらいは回復したようですね」
「ではフォーブス王子の援護をお願いします」
リチャードは指示を飛ばすと黒剣士に向き直る。味方の兵士達も士気を盛り返し、じりじりと詰め寄る。そして一触即発の状態になったとき黒剣士の一人が炎に包まれる。
「ああ、もう、焦れったい」
文句を言いながら魔法を飛ばしたのはレイチェルだ。そして彼女はリチャードの指示を無視して自分が燃やしている黒剣士に向かってゆく。
炎に包まれた黒剣士はそれにもかまわず前進を続ける。そして向かってきたレイチェルに切りかかるがその瞬間レイチェルだったものは姿を変えて黒剣士の体の炎にとりついてさらに強くする。その黒剣士はあっと言う間に砂へと変わってゆく。
「すげえ、一人でやっつけたのか」
レイチェルに負けじと連合軍の兵士が複数で黒剣士一体に当たる。
いつの間にか現れた本当のレイチェルは魔法と猫で黒剣士を後方から撹乱する。
ヘルはもう魔力をほとんど使い果たしていた。が、残っているのも数体のみだ。
接近してきた悪魔の攻撃をかいくぐって魔物の力を備えて強固になった腕とつめを悪魔の胸に突き刺し、その先から火球を発する。悪魔はすぐにぐったりとして動かなくなる。これは強固な体を持つ悪魔にかなり有効な手段だった。
今度は上から悪魔がやってくる。スピードからして上位悪魔だ。ヘルは舌打ちして今貫いた下位悪魔から腕を引き抜こうとするが力が入らない。
「くっ、こんなときに」
ヘルは白子として生まれた自分を呪った。白子の人間は(魔族やエルフでも基本的に)体の色素が少ないために少し太陽に当たっただけで体がやけどの状態になりめまいを起こしたのだ。基本的に白子は虚弱体質なのだが、ヘルは色々鍛えているので、屋内で戦う分には問題ないのだが。
上位悪魔の攻撃をかわそうとするが腕の悪魔が邪魔でかわしきれずにぴんと張った腕が上空からの悪魔の攻撃をまともに受ける。
ヘルの腕は悲鳴と共に完全にあらぬ方向へ曲がっている。おまけに悪魔が攻撃に乗じてヘルの折れた腕を黒こげにしてる。これで腕がちぎれなかったのはひとえに魔族の特殊能力のおかげだ。
その上位悪魔がヘルに向かって旋回しようとしたとき、横から袋が投げられてくる。悪魔はこともなにげにそれを破壊するが、その後中から出てきた光を帯びた無数の短剣によって穴だらけにされる。こうなってはさすがの上位悪魔も生きてはいない。
「ヴォルストさん」
「ヘル、また派手にやられているな」
ヴォルストはヘルの腕と悪魔を離してやる。
「お前にして上出来だ、さっさと下に降りて治療を受けてこい。こちら側は綺麗に片づいた」
「ヴォルストさんは」
「私は次はロックスリーと正面の援護に行く。砦の制圧に時間がかかりすぎて味方の数が足りないし、シャルロットはアークデーモンを相手にしているからな」
「でも、もうかなり時間が経つんじゃ」
「大丈夫さ、それ以上は足手まといだ」
「はい」
ヘルはおとなしく砦に降りてゆく。シェイドの部隊の者達がヘルの腕の治療をはじめる。
「確かに火眼金睛を使っていられる時間が限られてきたな」
ヴォルストは急いで決着を付けるべく右翼へと飛んでいく。
「なんなのこいつのタフさは」
ファナがアークデーモンに切りつけたのだが敵は全く動じた様子を見せていない。
「小娘の攻撃など私には聞かない。あの魔術師とならいい勝負だろうがな」
シャナは静かに火眼金睛を発動させると悪魔に向かって圧力を加えはじめる。
「な・・何、この圧力は・・・私の再生能力が・・封じられた」
「小娘にも貴様の力を封じることくらいはできるぞ」
悪魔はそれに訳の分からない言葉で答えると、一気に二十を越える火球が二人に襲いかかる。
シャナはそれをゲイ・ボルグを前に突き出してバリアを張り防ぐ。ファナはちゃっかりとシャナの後ろでそのおこぼれに預かる。
今度は悪魔は肉弾戦を挑んでくるが、すかさず後ろに回り込んだファナと正面のシャナからの攻撃を予測してそれをあきらめ、今度は空中に逃れる。
こうなるとファナもシャナも弱かった。二人とも高速で飛翔するのは得意ではないのだ。そもそも魔力を持った翼や魔族の出身でもない限りヴォルスト並に飛行するのは不可能である。
「参ったわねえ」
ゲイ・ボルグをかざしてバリアで悪魔の攻撃をしのぎながらシャナが呟く。ファナは未だに輝きを失わない双剣を必死で振り回して落ちてくる魔法攻撃を防いでいる。
「じゃあファナしばらく私もついでに守って」
忙しくてシャナと話している暇もないファナにシャナはこともなにげに言う。
「ちょっ・・・」
最後まで言えずにファナは剣を振り回して落ちてくる光弾を斬りながらシャナの前へ出る。シャナはゲイ・ボルグを地面に突き刺し、瞑想に入る。
ファナの体力が限界に来た頃彼女たちの上を影がよぎった。ファナが見上げるとそこには巨大な二匹の水の龍が浮いている。
「これで簡易竜騎士の出来上がりよ。ファナ、行くわよ」
「いくわよって、あなたの槍はとにかく私の剣は絶対役に立たないわよ」
「それ、あなたの父上が戦争の前にヴォルストに発注した剣なのよ。あいつはもらった金の分は仕事をするから・・・その剣の輝き、おかしいと思わない」
「!そういえばまだ魔法の効果が切れない。じゃあこの剣は?」
「その剣は使用者が使う魔法の強さによって少しづつ強くなっていくのよ。それがヴォルストの魔法で一気に威力が上がったの。多分今ならあなたの光の矢を付けても常時耐えることができるわ。ただ実はそれプロトタイプで急な強化は潰れるからってヴォルストは没扱いしたんだけど」
二人は言い合いながら水の竜の上にのる。その間の悪魔の魔法攻撃は全て竜が体を呈して守る。そして二匹の竜は飛翔をはじめ悪魔へと向かってゆく。悪魔は竜を倒そうとするが竜の鋭い水の爪によって、そして竜の体の至る所から発せられるウォータージェットによってずたずたにされてゆく。そして竜の上からはシャナがゲイ・ボルグの見えない矢尻を一ヶ所に集中させ射程と威力を大きくして攻撃をし、ファナは双剣に蓄えた光の矢の長さを調節しながら悪魔を串刺しにする。
この戦闘の先は見えてきたようだ。
二人はこの後海の水位が下降したおかげで船に被害が出たことを攻められるのだが。
「もう終わりだな、すでにホムンクルスを造るだけの魔力が残ってはいまいし、例え一、二匹造ったところで勢いはかわらん」
すでに女魔術師の造ったホムンクルスは残り二体になっておりその二体も倒されるのは時間の問題だ。
彼女自身はやっとフォーブスを追いつめたところだったのだが。
「後のことはお前を倒してから考えるさ」
「そうはさせるか」
兄の危機を見てアリオーンが剣を構えて進んでくる。彼の力は彼女にすればさしたる驚異ではない。接近される前に吹き飛ばそうとするが突然立て続けに光弾が降ってくる。それを防いでいる間に体勢を立て直したフォーブスは距離を取り魔法を詠唱しはじめる。
魔術師は光弾に気を取られたおかげでアリオーンの攻撃をかわしきれそうにない。魔術師が必死でこちらを向いたときアリオーンはローブの奥に隠れた顔を見ることができた。次の瞬間アリオーンは魔術師の肩口を斬るがそれ以上振り下ろすことはしない。
「何でとどめを刺さないの」
光弾で援護していたレイチェルが悲鳴も上げずに後ずさる魔術師ををにらみながら言う。
「女は殺せぬか」
「ついでに子供も殺せないな。さっき顔が見えたが彼女はまだ十二歳くらいだ」
アリオーンは苦しそうにしゃべる魔術師に言い返す。そのときちょうどフォーブスの魔法が完成し、彼女の周りに光りの輪が周りやがてそれが彼女を捕らえる。
「今度は抵抗できないようだな」
フォーブスが安堵しながら女魔術師に近づいたとき彼女の前に突然一人の男が立ちふさがる。
「親父」
「アリス、危なくなったら逃げるように言っただろう。さあ、連合軍の方々、娘をかわいがってくれたお礼だ、これからはこの私ヨシュア=エダ=ガウディウムがお相手いたそう」
そう言うなり男は周りに十匹ほどにホムンクルスを、それもエドワードの肉体を持った奴を出現させる。さらに剣を持ちアリオーンに切りかかるのだ。慌ててレイチェルは援護しようとするが男はアリオーンを相手にしながらも魔法でレイチェルを牽制する。フォーブスが男を攻撃しようとするとアリオーンを突き飛ばしてフォーブスに向かい呪文を唱えさせる様子はない。この時まで男の後ろでうずくまっていた女魔術師はフォーブスの魔法に束縛されながらもレイチェルが持っている護符の束の発火に成功する。
この行動のせいで砦内の戦いはまたも泥沼化しそうな状態へ突入する。
ヴォルストがロックスリーが指揮を執っている右翼に着いたときには敵味方の区別が付かない乱戦に突入していたが、彼が駆けつけたことで状況は一変した。残るは数匹の下位悪魔と一匹の上級悪魔のみである。すでに城壁の兵達は正面の敵に備えてロックスリーを除いて移動している。
ヘルを助ける際に通常持っているほとんどの武器に強力な魔力を付けて飛ばすという離れ技のせいで飛び道具はほとんどなく、アークデーモン戦とこれまでの戦いで受けたダメージのせいでこちら側の敵を倒しきれるかどうかも微妙なところだ。
彼にはさすがに正面の敵を倒すのは無理だと感じはじめる。
ロックスリーの矢が連続で放たれるが上位悪魔はそれを軽々とかわす。ヴォルストは上位悪魔の動きを止めようと牽制に入ろうとしたとき愕然とした。巨大な火の玉がこちらに向けて飛んできているのだ。メテオストライクの魔法はクラヌ教でも最高位の魔法だし、彼やシャナだってそう何発も唱えられるものではない。
それはだんだんはっきりと見えるようになってくるが、ヴォルストは突然それがなんであるかに気づきため息をつく。
火の玉は正面から来る空中部隊を燃やしながら砦へと突っ込んでゆく。そしてその中には揺らめく影があったがヴォルストにはそれがなんであるかわかっていた。
これでしばらく正面は大丈夫だろうと思って、上位悪魔に向き直る。彼は高速で飛翔しながら上位悪魔と下位悪魔の攻撃を引きつける。そしてその隙を狙ってロックスリーが矢で下位悪魔を攻撃していく。さすがに一撃では無理だが数発の矢が貫通すれば下位悪魔なら十分倒せる。
「随分と手間取っているようだな」
不意に上位悪魔の魔法をかわしていたヴォルストの頭上から声がかかる。
「そう思うなら手伝って下さい」
「正面は任せてもらおう、私の弟子なら上位悪魔の一匹ぐらい片づけられなくてどうする」
「ここに至るには随分と長い道のりがあるんですよ。それにヘルが腕を折りました。多分全身火傷だらけでしばらくはミイラ男ならぬミイラ女でしょう」
「そうか、後で覚えておけよ」
「何で私に振るんです」
ヴォルストが反発したときには銀髪の男はすでにいなくなっている。
「ロックスリー後は任せて正面の指揮を執ってくれ」
「大丈夫か。かなり傷が痛んでそうだが」
「どうということはない。それよりヘルが魔族だってこと黙っててくれないか」
さすがに魔族が部隊に加わってくるとなるといくら英雄でも相当な反発が起きる。ヴォルストはそういうことから始まる迫害を何より嫌ってるのだ。
「私が黙っていてもあれだけ派手にやれば騒ぎになるだろう」
「だが彼女が魔族である証言を聞いたのはあんただけだ。証言がなければ後はどうとでもできる」
「わかった、それよりお前も気を付けろよ」
ロックスリーは城壁を走りはじめる。
「さてと・・」
下位悪魔が二匹、上位悪魔が一匹残っている。が、今は上位悪魔を一匹倒すくらいの魔法を使えば反動で失神しそうだ。
(私が、やります)
突然彼の心から声が響いてくる。
(こんな雑魚にウェポンを使うのか)
(違います、我らの長老の力です)
ヴォルストの返事を聞くよりはやくヴォルストの体は手を正面に突き出す。そして光が一気に三本の柱となって敵を貫いていた。
(勝手に出てきやがって)
最後の力を振り絞って城壁に座り込んでヴォルストがそう考えたとき強烈な睡魔が襲ってきた。
さすがに乱戦の中でも、壁がいきなり爆発すれば誰もが、そう、ヨシュアでさえ戦闘を中断する。
すでに魔力を使いきったフォーブスは後退してアリオーン等と共にホムンクルスとの接近戦を演じており、ヨシュアは回復した魔術師団を戦闘不能状態にまで追い込んでいた。
「今度は何だ」
アリオーンが思わず訪ねる。さっきから敵味方の増援があふれている。
「お久しぶりです、王子。レナード皇帝陛下の命により、私、ファルク騎士団団長ライヴァス=ヴァーリーが助力に参りました」
アリオーンはその声を聞いて驚いた。そりゃあ、自分で言えば命令かもしれないが自分で自分に命令するのか。
黒い肌と長い耳を持った男はすらりと長剣を抜き放つ。
「久しぶりだな、ヨシュア=エダ=ガディム。二年前の屈辱、私は決して忘れんぞ」
「くっくっく、私は君達の独立に手を貸しただけだよ。それと私の姓はガウディウムだ」
「貴様が望んだのは金でも、自由でもない。ただこの大陸の混乱だろう」
「まあそうとも言えるな」
その言葉が終わったとき、黒剣士が全てライヴァスに殺到する。
「心のない人形ごときに負けるかあ」
ライヴァスは怒鳴りながら黒剣士の一人を剣ごと真っ二つにする。さらに同時に襲ってきた4体に全く引けを取ることなく斬り合いを演じてみせる。
「あのときよりさらに腕を上げたか。面白い」
ヨシュアが魔法を放とうとしたとき突然後ろから何かが迫る。慌ててかわすと今度は正面から火球が飛んでくる。
「おじさんの相手は私がして上げるわ」
「小娘、ただの魔法ではないな」
「わかる、私これでも使い魔を持っているの」
「なるほど、使い魔を魔法の媒介とするか、これもまた面白そうだ。アリスお前は先に帰っていろ」
ヨシュアは娘に転移の魔法を掛けるとレイチェルに向き合う。
ヨシュアとレイチェルは魔力では互角だが接近戦においてかなりの差があり、それに気がついたフォーブスとリチャードが駆けつけるが彼らの技量を持ってしてもヨシュアにあっと言う間にはじき飛ばされる。
「貴様の相手は俺だ」
「もうホムンクルスを倒してきたか。ウェポンも使わずに対したものだ」
「心のない抜け殻なんていくら集まってもあいつの実力の半分も無い」
「それは私の長年の研究課題で・・・・・君にこんなことを話しても仕方がないね。なら私自らが相手になろうか、と言いたいところだが多勢に無勢で、おまけに一騎打ちなどさせてくれそうな雰囲気ではない。さらに早く帰って、そこの王子様に傷つけられた娘の治療もしなければならないのでね」
「逃げるきか」
「時と場所を変えてまた合いましょう。それまでは彼らでうっぷんを晴らして下さい。そうそう、ラシュター卿を通じてピエール殿にいつか必ずあなたの研究を教えていただく、とお伝え下さい、陛下」
ヨシュアは消えながら今度は二十匹ものホムンクルスを作り出す。ライヴァスはそれらが動き出す前に五体を斬って捨てる。
ようやくホムンクルスの動きになれた者達も同じようにして実質七体のホムンクルスが動き出すが、ライヴァスの手によってすぐに切り捨てられる。
「おわった、やっと」
「まだだ、後最上階の制圧と正面の魔物部隊の相当が残っている、気を緩めるな」
ほっとするアリオーンにリチャードが水を差す。
「リチャード殿ご心配には及びません。魔物の地上部隊のはそろそろ壊滅する頃ですし、空中部隊は我が叔父うえが片づけられております。この戦いはまもなく終わるでしょう」
横からライヴァスがやんわりという。
「そういえば貴公、何故ここにいる」
「レナード陛下からの命令です」
「先程の魔術師が陛下と言っていたがそれは誰のことかな」
「さあ、ここに即位しておられる方はいませんからな。おそらくボケが始まったんでしょう。娘さんもあの若さでボケた父の世話をせねばならないとは気の毒なことだ」
あくまでもライヴァスはしらばっくれる。
そしてすぐに五階の制圧に向かった兵が太った総督を捕らえて来る。
こうしてベム砦の戦いは人の他、砦自体や砦にとりつくのに使用された船などにも甚大な被害を出しながら南部諸国の合同軍の勝利に終わった。