8:ベム砦の攻防(上)
「ほんとに、こんなところに、人が住んでいるんですか」
少女が息を切らしながらたずねる。周りはほとんど植物が生えていない岩場だ。さっきからゴーレムやスケルトンと言った敵がわらわらと出てくる。
「こんなところに住んで、いるなんて、性格悪いんじゃないんですか、その人」
「確かにいいとは言えないね。まあペットにゴーレムやスケルトンを飼う人の性格がいいとは思えないけど」
男のほうはこれだけの荒れ地にも関わらず飄々としている。
「今まで倒したのこれから会う人のものだったんですか」
「そうだよ、護衛用にいくつかおいてあるんだ。別に私がいる限り襲ってこないはずだけど君があまりに新しい力を使いたそうにしていたからね」
「ひどい、ベム砦に行けなくなっても知りませんよ」
「大丈夫大丈夫」
呑気なことを言いながら男は岩場を登っていく。
「ヴォルスト=アルバ=ラシュター様ですね」
突然上から声がする。
「久しぶりだねシュリ。ピエールさんに会いたいんだが」
突然現れた男は黙って頷くと二人を岩山の奥の家へと案内する。そこはこんな荒涼とした場所には似つかわしくない、かなり広い家だ。
家の前では隻腕の老人が一人待っていた。
「ピエールさん、久しぶりです」
「不肖の弟子が今日は何をしに来た」
「相変わらず冷たいですねえ。せっかく愛弟子が訪ねてきたのに」
「誰が愛弟子だ。お前は儂から薬草の知識を盗んでいっただけだろう。全く、たった半年で儂の人生の集大成の一つを身につけた化け物だよ、お前は。で、そちらのお嬢さんは」
「ああ、レイチェルって言って知り合いの娘さんですよ」
「ああ、ゼフィールの娘の偽名がそんな名だったな」
「父を知っているのですか?」
「何度か合ったことがあるよ。まあとりあえず中に入るといい。話はそこでしよう。シュレクシオンすまんが茶を入れてくれ」
そう言うと老人は家の中へとは言っていく。レイチェルとヴォルスト、そしてシュレクシオンと呼ばれた人物も中に入ってゆく。

ベム砦周辺ではここ数日間ずっと投石機による攻撃が続いている。南側の砦を半円状に取り囲み、そして西側からの海峡から船によって攻撃が続けられている。目標がでかい分砦の外壁は次々に壊されてゆく、がこちらに被害がでないわけではない、いくつもの投石機が直撃を受けて壊れ、すでに二十人以上の人物が岩を避けきれずに命を落としている。
夜になると南に残った騎馬隊が弓を持って砦に接近して見張りの目を釘付けにする。敵のほうも補給路が確保してあるので物資の欠乏は簡単に起こりそうもない。
「結局ヴォルストさん、来ませんね」
「ヘル、突撃の日が明日に決まった、今日はゆっくり休むといい。何、あいつがいなくてもこんな砦くらい簡単に落とせるさ」
「そうだといいんですが・・・北に回り込んだ人たちには連絡したんですか」
「ラーカス司祭に遠話で話を付けておいた」

翌日の朝、両軍共にいつものように様に投石機の応酬が始まる。がいつもと違っていたのは連合軍の騎馬隊が投石機の背後についていたことだ。当然砦の正面は平野だから敵は気づいているだろう。問題は突撃を開始するタイミングだ。そして太陽がかなり高くなった頃連合軍の騎兵が一斉に突撃を開始する。当然敵からは投石の雨が降り注がれるが、高速で前進する騎馬隊にそうそう当たりはしない。
そしてその後方から、投石の被害に遭いながらも歩兵部隊が前進を開始している。
騎馬隊は外壁にたどり着くと各々一発づついしゆみを発射して壁の上の敵を牽制するとすぐに投石によって崩れた壁に殺到する。城壁の上ではよじ登った一部の者達が投石機をめぐって戦闘を開始しはじめる。さすがに城壁の内部では馬のスピードが行かせず、敵の数に圧倒されるがリチャードやアリオーン、さらに騎馬民族の誇りを見せるべくギルバートとファナが先頭に立って踏ん張る。そして何とかシャナの歩兵部隊が来るまで持ちこたえると、歩兵は一気に砦の内部へとなだれ込む。そのころにはすでに敵が警戒体制を整えているが数で一気に押してゆく。
そして敵の歩兵ともみ合いになれば騎馬隊がけちらしその後詰めを歩兵がする。これの繰り返しで一階は瞬く間に制圧される。そして騎兵と一部の歩兵は北側の制圧へ、そして大部分の歩兵がシャルロットとファナに率いられて二階へと突っ込んでゆく。

「ふう、なるほどな。そう言う理由では助けないわけにはいかんな。いくらお前さん等でもさすがにウェポンを封印していては苦戦を免れまいて。よかろう、特別に手を貸してやる、と言っても儂は出向かんがの」
そう言ってピエールは空中から紙の束を取り出す。
「奴等が通常使うものはこいつを張り付けるだけで何とかなる。特別な処置を施した奴には効かないが、それを維持できるのはせいぜい二体が限度だな。それと、こいつを持っていけ」
ピエールは空中で印を描くと槍と剣を一つづつ取り出す。
「これはシャナのウェポン「ゲイ・ボルグ」じゃないですか」
「あの砦にはアークデーモンが一匹控えておるのでな。ウェポン無しではさぞやつらかろうと思ってな。奴の封印を解いてやったのだよ」
「アークデーモン!そんな奴まで投入しているなんて」
「上位悪魔の数は十匹はいないだろう。下位悪魔はいちいち数えていないぞ」
「助かります。ところでこの剣は、私のものですか」
「ああ、今回はもう貴様の精神に同調させることはあきらめた。いかに魔力に耐え、使いやすいかに重点を置いた設計だ。よほどのことがない限り壊れないだろう。まあそれが壊れるような敵と戦うのなら自分のウェポンを解放するんだな」
「ありがとうございます。ところでこの武器の名前は?」
「ライオンの尻尾だ」
「かっこわるいですね」

シャルロットの率いる歩兵部隊はほとんどの敵をけちらし後は最上階の総督の部屋を落とすのみだった。が、いっこうに制圧完了の報告が来ずに彼女はファナと共に総督の部屋に向かい意外な人物と対面していた。
「カーレルさん、あなたがこの砦に配備されていたなんて」
「驚いたかい。レジスタンスの中に北帝国軍の部隊がいるって報告を受けたから私がこちらに来たんだよ。あのデブに任せるわけにはいかないかったし、久しぶりに君の顔も見たかったしね」
カーレルと呼ばれた長身の男は槍を血に染めながらシャルロットに笑いかける。およそ戦場では似つかわしくない笑顔だ。がファナはそんなことで油断はしていられないと思った。何しろすでに彼の足下には二十人以上の味方の兵士が倒れているのだ。
「まあ、総督閣下もわざわざ北側に避難されたのに無駄だったというわけか。どうでもいいや」
「カーレルさん、ここは退いてくれませんか。私達は何で敵対しないといけないんです」
「古いタイプの人間と新しい考えを持った人間の違いだよ。君達はまだ若い。その寛容さで敵を許すこともできるだろう。だが我々の年代はそうはいかない。我々の希望である子供を、そして愛する妻を殺された怒りは収まることはない。シャナ、ここは兵を引かせるんだ、まもなく雌雄は決するだろう。私は同胞の血でこれ以上槍を汚したくはない。南の兵士とでなら相手になろう。そのようにレジスタンスの代表に伝えてくれ」
「ふざけないで。自分たち大人だけ悲劇の中心にいるようなふりをして。私達だって大陸を統一するときにはたくさんの人を殺してきたんですよ」
「だから、おあいこだと?我々は無意味やたらと非戦闘員を殺しはしなかった」
「だから何なんです、父さんや母さんを殺された悲しみがあなたには理解できるんですか」
ファナがカーレルに詰め寄る。
「あなたがファナ王女か。・・・私には君の気持ちは理解できない。私の両親は共に病で死んだからね。そして子供を作ったことのない君には私の気持ちは理解できない。君も引くといい。生き続ければ私の気持ちが分かるかもしれない」
「引きません。あなたが引かないのなら、私はあなたを倒します」
「倒せないよ。君に槍を教えたのは私だ。君達が魔法の力を全開にすれば話は別だが、戦いになれば私はそんな隙は与えない」
「それでも、です」
「・・・邪魔が入るな」
そう言ってカーレルは槍で上を示す。そしてカーレルの体がふっと消える。
「ファナはこのまま兵をまとめて北側の制圧に行って」
「何言ってるの私もあなたを手伝・・」
ファナの言葉が終わらないうちにシャルロットの姿もまた消える。
「ちょっと・・・みんな半分の兵をこちら側の占拠に残して後は北側の制圧に向かって。私はシャルロット将軍の後を追うわ」
言うがはやいがファナは窓から身を乗り出し、浮遊の魔法を唱えて二人が向かっただろう屋上へと向かう。彼女はまだ転移の魔法が使えないのだ。
残った兵士達はしばらく呆気にとられていたがやがて、てきぱきとファナに言われたことを実行しはじめた。

ふぁなが屋上に着いたときにはすでに二人は戦いを開始していた。シャルロットが小回りのきく小さめの槍でフェイントをかけながらカーレルとの間合いを詰める。
が、カーレルはフェイントには惑わされずに淡々とシャルロットの突きをかわしそして反撃に出ていく。明らかにシャルロットのほうが不利だ。
今まで距離を詰めようと躍起になっていたシャルロットはいきなり後ろに飛びすさる。その後彼女の気合いと共に体の周りから数本の高速のウォータージェットが発射される。
カーレルはそれらを全て軽くかわしている。
「腕力を魔法でカバーするのは悪い癖だ。その点は君は兄さんを見習ったほうがいい」
シャルロットは無言で再び今度は十本を越えるであろうウォータージェットを発射する。が、今度はカーレルはそれらを槍の高速の突きで水を拡散させてしまう。
「う、そ」
それを見ていたファナが思わず呟く。
「嫌々、嘘じゃないよ。シャナのウォータージェットは事前に魔力で射線を固定しておく必要があるんだ、発射した水が拡散しないようにね。だから少し魔法の心得があるものなら簡単にかわせるし、かわせない場合はちょっと魔力を加えて射線を変更すればいいんだ」
悠々とカーレルが解説する。
「わかったろう、シャナ今、の君では私に勝てない、ここはおとなしく引け」
「まだだっ」
シャルロットはカーレルの忠告を無視して向かってゆく。それと同時にファナも二つの剣を引き抜いて敵に向かってゆく。
「邪魔をするな」
が、シャルロットの鋭い一喝でファナは踏みとどまる。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
その瞬間カーレルの一撃がシャルロットの肩当てを貫く。そのままシャルロットは後ろに倒れ込むが優勢のカーレルが突如後ろへとびすさる。
「さすがに油断でき無いな」
そう言ったカーレルの肩当てが少しかけている。シャルロットが接近したときにウォータージェットを発射したのだ。

一方砦北部に突撃した部隊はアラディーの砦落としで手慣れたレジスタンスの部隊が編成されているだけあって潜入は実に手際よくいった。
しかしもともと臆病な総督デュルクは北側を主戦場と考えていたようで、地の利がある敵の部隊あいてになかなか上の階へ潜入できないでいた。
「やはり相当手こずっておる様だな」
北側一階の残っていた敵をけちらしながら南側を突破してきたリチャードが北側の部隊を率いているファーンと合流する。
「もう少し待てば形勢が変わりますよ」
かたわらに駆けつけたアリオーンが何気なく言う。
「王子それはどういう・・・」
ファーンがそう言いかけたとき上の階で剣戟の音が聞こえる。
「シェイドの部隊がやっと砦にとりついたんだ。今突撃しないと後でシェイドに恨まれますよ」
アリオーンについて来たギルバートが助言を行う。
「そうだな・・全員に突撃命令を出せ。どうしたロックスリー」
「厄介なのが来た・・・・それも大勢。」
吹き抜けのピロティーから外を、正確には北の山々を眺めていたロックスリーが愛用のコンポジットボウの具合を確かめはじめる。
「あれは・・・有翼の魔物?」
「ハーピーとかですか?」
「だが翼の大きさが違うぞ。レッサードラゴンじゃないのか」
「じゃあダンガ帝国は竜騎士を保有しているんですか」
「はずれだ。今見えているのは悪魔だ。その後ろにパーピーの部隊が控えている。この調子じゃあ地上にはゴブリンやコボルトの群が用意されているかもしれないな」
「ロックスリーって目がいいんだな」
「そんなことより作戦を立て直す必要がありそうだ。アリオーン、シャルロット将軍はどうした」
「確か南の上部を制圧しているはずです」
「北部を警戒していたアラディーの騎馬隊より報告です。陸からゴブリンやコボルト、空からハーピーや悪魔を主力とした魔物部隊が、こちらに向かっているそうです」
伝令がかけてくる。
「帝国め、魔物と手を組んだとは・・・」
「とりあえず空の部隊にはロックスリーさんに、陸の敵にはアラディーの部隊に任せましょう。今はここを制圧しないと」
「焦る必要はない。奴等はここに来るのにまだまだ時間がかかる」
「そうだな、できれば私は三階くらいの位置を確保して欲しい。そうすれば不慣れな兵でも多少は敵に当てやすくなる」
「じゃあ我々も行きましょうか」
そう言うとアリオーンはまだ今日は一度も敵を切っていない剣をきらめかせて二階へと上がっていく。それに連合軍の重鎮が続いていった。

「さて、やることは終わったし、じゃあ行くとしますか」
「ここから転移するのか?バーミアン大陸まで?」
「だって急がなくちゃいけないでしょ。じゃあレイチェル、頼むわ」
「はい、」
「お嬢さん、これを持ってゆくといい」
「?これは」
「少しばかり魔力を回復させる薬じゃよ。ここの護衛をほとんど壊してその上転移まで使うんじゃ、砦で体がもたないだろうからな」
「ありがとうございます。そういえばあなたは本当に鉄から金が作れるんですか」
「まあ、そういうことは理論的には不可能だな。物には一定の・・・時間がないから手短に説明すると物理的には無理だが理想の上では可能じゃよ」
「???」
「言ったろ、この人にその質問をするといつもはぐらかされるって。これが急ぎじゃなかったら延々と説明を聞かされていたよ。訳の分からないね」
「ふん、儂のやったやつを大切に使うんだぞ。それからヴォルスト、いい加減にウェポンを使え」
「無理ですよ」
「じゃあありがとうございました」
「お気をつけて」
終始無言だったシュレクシオンが挨拶する。光に包まれながらヴォルストは手を振る。そして二人の姿が消えてゆく。
「それにしてもあいつに会う度に自分の生き甲斐を感じるよ。かつて自分の知識が最高だと思いこみそれを封印したのがばからしくなってくる」
「でもあなたの研究はある意味で完成された物です。武器やアイテムに関するあなたの知識はその研究の副産物ではありませんか」
「ははは、この話はここまでにしよう。時にシュリ、もう二人だけなんだからそんなに堅苦しくなくてもいいだろう」
「すみません、父さん」
父と子は再び研究に没頭するべく小屋の中へと入ってゆく。

「・・・・やっぱりまだいたのか」
アリオーンの呟きの意味を理解したのはただ一人、ギルバートだけだ。
シェイドの部隊の活躍により、もはや4階部分もすでに制圧がほぼ完了している。
が、肝心の五階へ至る階段でかつてのフォルケルとギルバートを破った黒剣士とローブに身を包み、フードで顔を隠した女魔術師が再び立ちふさがっていたのだ。二人の前には彼らに挑み、そして倒された者達の体が横たわっている。さすがに今回は女魔術師も戦いに参加しているようだ。
「フフフ、やっと連合軍のお偉いさん達が来たわね。どうする?あなた達が直接来る?それとも兵達にただ突撃の命令を繰り出すだけかしら」
その言葉にアリオーンとギルバートが前に出ようとするが、それをリチャードが押し止める。
「お前はまだ自分の立場という物を理解していないな。ここは私が行こう」
「へえ、一人で来るの、じゃああなたの相手はこの子がするわよ」
女魔術師の声と共に黒剣士は無言で進み出る。
そしてリチャードとの戦いが始まる。リチャードはかつてのエラード王国で親衛隊長を務めたほどの腕である。その場にいるほとんど誰もが、そうかつて破れたギルバートも彼なら大丈夫だと高をくくり、女魔術師の行動に警戒していた。
だが、アリオーンだけはずっとリチャードと黒剣士の戦いに、正確には黒剣士の動作に集中していた。
「ギル、俺が動いたら魔術師の動きを止めてくれ」
アリオーンはそう言うと、打ち合いを続ける二人のほうへと飛び出す。その瞬間リチャードの態勢が崩れ、黒剣士が優位に立つ。
突然飛び出したアリオーンに向かって魔術師は余裕の笑みを浮かべて火球を発射しようとする。が、それが発射される直前にギルバートの掌心雷が魔術師を襲い火球を消滅させる。
その間にアリオーンは追いつめられたリチャードの前に立ち、彼の体勢が整うのを待ってすかさず彼と共に間合いの外に飛び出る。
「アリオーン、あいつは、まさか」
「やっぱりそう思います?私もレナード皇帝にそのことを聞きましたが、間違いなく我が兄、エドワードの遺体はダンガの墓地に丁重に葬ったそうですよ」
「だがあの剣筋は間違いなくエドワードのものだ。それに・・・」
「行功の術を使った、でしょう」
「そうだ・・・」
「内緒話は終わりかしら。一騎打ちをするなら邪魔をして欲しくないわね」
「ラーカス司祭、何人かと協力して、あの魔術師の動きを押さえつけて下さい。その間に私とファーン、そしてギルバートであの剣士を片づけよう。敵が一人ならどうとでもなる」
「わたしは・・・」
「王子様は声援でも送ってろってさ」
ギルバートはからかいながらリチャードとファーンと共に黒剣士に向かってゆく。
「今度は三人がかりか。わたしも」
魔術師がジェスチャーをしようとした途端、小さな火の玉が彼女をかすめる。
「あなたの相手は私達ですよ」
そう言ってラーカスとその周りに集まった魔術師が呪文の詠唱をはじめる。
「詠唱なんてやってたら命がいくつあっても足りないわよ」
魔術師はそう言って無数の火球を繰り出す。
ラーカスの周りに集まった魔術師立ちがその火球を一人づつ順番に消してゆくが数が多すぎる。全員が消耗したところでラーカスの長い詠唱が終わり、彼の振り上げた杖の先から出た光が敵の魔術師を包む。
「これでしばらく魔法を使うことはできないでしょう。じっとしていれば殺しはしませんよ。王子達はあなたに聞きたいことがあるでしょうから」
「何を呑気なことを。この程度の封印なんて」
そう言って彼女はラーカスの魔術をはじき飛ばしてしまう。
「まずいですねえ」
ラーカスの言ってるそばから女魔術師から発せられた巨大な火球が彼らを襲う。すでに魔法を使った後の一行は慌てて逃げようとする。そして火球が地面に到着した瞬間、轟音と共にすさまじい爆風が巻き起こる。連合軍の歩兵達は置いてけぼりを食らったアリオーンがとっさに唱えた魔法で被害が出ずにすんでいたが、魔術師部隊、特に爆発の中心にいたラーカスは一気に吹き飛ばされる。
が、彼らが壁に当たる直前に彼らは空中で静止する。
「邪悪なる女魔術師よ。貴様の相手は私がしよう」
吹き飛ばされた魔術師達を助けたのは、黒装束の男だった。
難攻不落のベム砦でこの戦いを彩る英雄達の戦いが今はじまろうとしていた。

 

前へ  戻る  次へ