5:火眼金睛
ギルバートは唖然としていた。ヴォルストの配下と共に前方からやってくる五人と戦っている最中にプレートアーマーに身を包んだ兵士が二人反対側からやってきたのだ。
それを確認したとき彼は眠っているヴォルストを抱えてヘルに逃げるように言った。そのとき今まで安眠しているとしか見えなかったヴォルストが急に目を開け二人の兵士に突っ込んでいったのだ。しかも素手で。
いや、その言い方は少し正しくない。彼は右手に布袋を背負っていた。そして相手の一人に向かってその布袋を投げつけたのだ。相手がそれを剣で振り払い、中の薬品や非常食やランタンなどが床に散乱する。そして敵がその中身に気を取られているわずかの間に彼の喉にはヴォルストが投げる直前に布袋から取り出した予備の曲刀が鎖帷子ごと貫かれている。
ここで一つヴォルストは大きな間違いをしでかした。あまりにも深く剣を差し込みすぎたのだ。それを見た一方の敵がヴォルストに剣を振り下ろす。それをかわしながらヴォルストはかなり無理のある角度から剣をひっこぬく。そして相手の剣が再び自分に向けられる前に恐るべき勢いで彼の剣が敵の兜のまひざしの脆くなっている部分を襲う。その一撃は敵の後頭部の兜をも貫くほどだった。
そしてヴォルストは散らかった荷物の中から予備の袋を取り出してその中に散らかっている物を片づけてゆく。
「今までなんで寝てた振りしてたんだ」
やっと正面の敵を倒したギルバートが怒りながら質問する。
「これだけうるさくちゃ寝れねえよ。それに疲れているって言うのは嘘じゃないよ」
「その割にはあざやかに倒したじゃないか。重装歩兵を一瞬で二人も」
「あれくらいはたしなみだよ。まさかお前、俺が一回使うごとに疲れてしまうちょっと強力な魔法とその保持している経済力だけで帝国四天王になったと思ってたんじゃないだろうな。それにあんな戦い方はまるでライヴァスと同じだ。俺の戦い方から見れば五十点だ」
「ほんとかよ」
「本当ですよ。だってヴォルストさんいつもに比べて随分剣を乱暴に扱ってましたから。いつもより敵に深く刺さりすぎていましたよ」
「ヘル・・だっけ。君もこいつの味方かい。まあ確かにそんな点もあったが」
「それとヴォルストさん、そんな使い方をしていたらすぐにまた剣が折れますよ」
「へいへい、気を付けますよ」
ヘルの忠告を軽く受け流しながらヴォルストは先頭に立って進む。目標はおそらく激戦になるだろう中庭の手前の辺りだ。
「本当にわかっているのか」
「わかってないと思います」
「おまえ達、私が信用できないのか」
「このことに関しては我々も隊長を信用できませんね」
思わずヴォルストは自分の部下からも突っ込まれてしまう。
「うるさい」
心なしかヴォルストの歩行速度が上がったようだ。
まあ、実際彼がこの曲刀をおるのにこの後五分も掛からなかったのだが。

フォルケルは2対1の状況にも関わらずエイマール相手に苦戦していた。とは言っても全く動きがなかったわけではない。行功の術を使った一撃が敵の左の篭手を壊したのだ。左腕にも打撃を与えたはずだがエイマールの動きはそれを感じさせない。
不意にフォルケルは自分の左側に「何か」を感じた。それはエイマールの胸に続いている。
そこまで確認したとき感じたのではなく実際に高速で移動する物体が彼の横を通り抜ける。その線上のエイマールもフォルケルと同じ感覚を抱いたらしくとっさに体を横にしてその物体を避ける。わずかにエイマールの鎧には傷が入っている。後少し彼の動きが遅れれば鎧ごと串刺しにされていただろう。
エイマールはフォルケルの後ろを見つめる。フォルケルもそちらを見つめるとシャナが肩を怒らせながら立っている。
「将軍、ファナ王女は」
「命に別状はないわ。でも耳が聞こえなくなるかもしれない」
それだけ言うと彼女はエイマールをにらみつける。再び先程の感覚がよみがえる今度は三つだ。そして彼女の周りから水が発生し、それが高速でエイマールに襲いかかる。流石に一度なれた後ではたとえ数を増やしてもそう簡単には捕らえられない。わずかに一つが兜にひびを入れた程度である。これがシャナが得意とするピンポイント・ウォータージェットだった。
流石にもう当たらないと決め込むと今度は接近戦に持ち込もうと飛びかかっていく。フォルケルと黒装束もそれにタイミングを合わせるようにして動く。エイマールは三人を同時に振り払おうとしてくる。黒装束はそれを後ろに下がってかわす、シャナは軽く飛んでかわして敵へと向かっていく。そしてフォルケルはそれを自らの剣で受けとめる。今度は急に引かれても対応できるように気を付けている。
そしてシャナが一撃を繰り出す。エイマールはわずかに体をよじらせて、槍の穂先を鎧で滑らす。二人が交差する瞬間エイマールはファナの時と同じように腕で殴り飛ばそうとする。しかしそれはとっさに姿勢を低くしたシャナにかわされてしまう。
そしてエイマールは火炎の魔法を煙幕にして距離を取ろうとする。シャナも小型ながら槍を使うならば距離を取るはずだ。そう思った彼の思惑は見事にはずれる。
彼の火炎に包まれるのとほぼ同時にシャナは腰の予備の武器、エストックを左手に構えて突きを繰り出す。ねらいは左肩だった。胸では十分な勢いがえられずに鎧を貫通できないかもしれないのだ。彼女の突きは見事に左肩に突き刺さる。
そしてハルバードを支える力が弱くなったのを感じてフォルケルは敵の左腕めがけて剣を振り下ろす。すでに篭手を壊されているため左手でもっていたハルバードごと切り落とすことに成功する。
エイマールが悲鳴を上げる。それと同時にフォルケルが炎に包まれる。先程までの目眩ましではない。フォルケルが自分の魔法で耐えようとしたところで炎はふっと消える。後ろのシャナがエイマールにとどめを刺したのだ。
「終わりましたね。それよりファナ王女、そんなに深刻なんですか」
エイマールの死体を確認しながらフォルケルはシャナに問う。
「簡単に言えば棍棒で殴られたような状態ね。目立った外傷はないけど打った場所が場所だから」
「そういえば黒装束の人はどうです」
「彼は大丈夫よ。かなりの重傷だけど一応傷口は塞いでおいたし鎖骨をちょっと折っている程度だから放って置いても一ヶ月で直るわ」
「はあ、ギルに怒られるなあ」
「気にすること無いわ、私が勝手に突っ込んでやられただけだから」
部屋から兜をはずし左耳に手を当てたファナが出てくる。そこははっきりとわかるほど腫れている。フォルケルは慌てて精神を統一して氷をイメージして作り出すとそれを予備の袋に放り込んでファナに手渡す。
「とりあえずここでの勝利を知らせないと。それにヴォルストにすぐ来てもらって薬をつくってもらおう。その間に私の魔法で腫れを引かせることができるかやってみよう」
シャナがこれからのことを声に出してまとめていると急に顔をこわばらせる。
「シャルロット将軍?どうかしたんですか」
「王子、ファナを部屋の中に退避させて。肝心なことを忘れていたわ」
そう言うとシャナは倒れているエイマールの影に向かってウォータージェットを発射する。それが命中する前に影から黒い物が飛び出す。
「デーモンか」
「早く」
シャナはデーモンにフェイントをかけてファナのほうへ行かせまいとしながらフォルケルの行動をせかす。その間にフォルケルは部屋から飛び出してきたファナの護衛と共にファナを部屋へと連れていく。黒装束は牽制にいつでも短剣を投げる準備をしている。
フォルケルが急いでバルコニーに戻ったとき、均衡が崩れる。突然フォルケルをカマイタチが襲ったのだ。その真空の渦をかろうじてかわすとシャナと黒装束は敵の動きの隙をついて切りかかっている。が、敵の分厚い皮膚の前には少しばかり傷を付けた程度である。
「ムダダ、オマエタチニンゲンニワタシハタオセヌ。カミノココロヲモタヌモノナラナオサラダ」
フォルケルは悪魔がしゃべるのをはじめて聞いた低くどこかなまっている感じがする。
「なら私の攻撃が受けられるか」
フォルケルは叫びながら切りかかる。おそらく神とはクラヌ教の神のことだろう。目の前の悪魔の姿も昔神話で聞いたことがある。神の心とはクラヌ教のの信者、もしくは神の力を借りると言われる神聖魔法のことだろう。彼は熱心ではないがクラヌ教の信者だし、神聖魔法も覚えさせられている。
フォルケルの攻撃が悪魔の腕に食い込む。緑色の血が傷口に浮かぶのと同時に敵が至近距離で複数のカマイタチが発生させる。フォルケルは盾と剣を使って三つのカマイタチの威力を弱めたが二つがそれぞれ左右の二の腕に当たってしまう。さらに敵が今度は手を振り上げてくる右手の攻撃は盾で防ぐが傷のために力が入らず片膝をついてしまう。
次いで左腕の一撃に備えて剣を上げようとする。が、そこには予想に反して悪魔の左腕はなく、彼の剣は空回りする。
「下がりなさい」
悪魔の左腕はシャナのウォータージェットで貫かれていたのだ。フォルケルは後ろへと下がる。そのとたんにシャナの束縛から逃れた左腕が振り下ろされる。
シャナのおかげで窮地を脱したフォルケルはいつの間にか自分の腕が軽くなっているのに気がついた。やはりすぐには力が入らないが、それでも傷口は完全にふさがっている。おそらくシャナだろうと思いながらつくづくなんでもできる人だと思う。
そしてシャナは黒装束と共に悪魔に攻撃を開始している。さすがに黒装束の軽い剣では大した傷は付けられないが彼が悪魔を引きつけている間にシャナが容赦なく槍の攻撃を見舞う。いくら小型とはいえシャナのスピードを考えればその威力は馬鹿にならない。
「どいて」
「さがって」
そんな中まるで打ち合わせでもしていたかのように二つの声が響く。それを聞いた黒装束とシャナは瞬時に後ろへと飛ぶ。
その二人を襲おうとした悪魔の両目にファナの放った光の矢が突き刺さる。さらに間髪を入れずにフォルケルの氷刃が小型の竜巻に導かれ悪魔の周りを回転する。氷の刃は目標を傷つけそしてその周りに積もっていく。程なくそこには氷の塊が残るのみとなる。ファナが光の矢を、フォルケルが氷刃を巻き起こしたのだ。
「後はこいつを砕けば」
「まだだ」
シャナがそう言った瞬間氷の塊に亀裂が入り先程とは全く逆のフォルケル達に向かって氷が飛んでいく。
「ちっ」
シャナが舌打ちしながら槍と魔法で対抗する。が、彼女の水では氷はつぶせないしこれだけ勢いのついた氷の軌道を完全に変えるのは難しい。フォルケルは必死で魔法を中和している。黒装束も自らの武器と魔力で対抗するが他の二人に比べるといささか苦しそうだ。ファナはとっくに姿が見えなくなっている。部屋に避難したのだろう。ひょっとしたら護衛に無理矢理入れられたのかもしれないが。
「はあ、はあ」
ようやく氷の猛威が去ったときフォルケルにはほとんど魔力が無くなっていた。そもそも最初に使った彼の神聖魔法はここに来てから覚えた一番強力な奴を使ったのだ。相手にもダメージを与えられたかもしれないが結果として味方も巻き込むことになってしまった。
悪魔がこちらへ向かって歩き出してくる。こちらも疲れてはいるが向こうの傷も浅くはない。彼の少し前に立っているシャナも少し息が荒くなっている。彼女とて女性だしフォルケルやギルバートのようにそう鍛えているようには見えない。実際腕力だけならフォルケルのほうが上だろう。彼女はそのスピードと正確さで腕力を補っているのだ。
「こうなれば消耗戦だな」
フォルケルはつぶやく。確かにこちら側も疲労がたまっているが敵にもかなりの傷を負わせいているし、何より両目を潰されている。このメンバーでは倒せないにしても時間稼ぎをしておけば城を攻めている人物達が増援としてきてくれるだろう。
「やはり上級悪魔は一筋縄では行かないか」
シャナは言うと槍を捨てて両手で印を結びはじめる。フォルケルはその行動にちょっとした疑問を感じる。北の民は魔法を使うときに印を組む必要がないはずだ。正確には彼らクラヌ教の民もある程度の精神集中があれば必要ないのだが、戦いに使うほどのレベルの魔法となると印を組んで神の力を借りると言われている神聖魔法に頼らざるをえない。
悪魔が腕を振り回しながらシャナに襲いかかろうとしたとき、突然彼女の姿がフォルケルにはゆがんで見えた。そしてゆがみが悪魔に覆い被さる。ここにきてフォルケルはゆがみが何であるかを理解した。水だ。それもとびきり大量の。
悪魔は水を払いのけようとするが無駄だった。腕を振るおうとも風で切り裂こうとも水はまだそこにあるのだ。さらに水は無数のウォータージェットを発生させ悪魔の体を貫いてゆく。
そして彼女が腕を上げると水の壁を保ったまま電撃が発生する。そして水が一つの柱のようになって悪魔を襲ったとき、電撃もまた悪魔を襲いはじめる。見ずに流れる電流が悪魔の体をむしばむ。悪魔が上げた悲鳴は城を攻めている他の人々にも聞こえただろう。
「す、すごい」
思わずフォルケルが驚嘆の声を上げる。もうすでに悪魔は倒れていて動かない。
「ふう、まだよ、悪魔はその首を落とすまで生きているかもしれないわ。私の槍じゃあ首を落とすことはできないからお願いできるかしら」
「それくらいなら」
「そうそう城の池の水をちょっと借りたわよ。一応残った分は返しておいたけど」
「あの水、池からとってきたんですか」
「いくら私でも空気中からあれだけの水を作り出せばそれだけでへばってしまうわよ」
「首・・でしたね」
そういいながらフォルケルは剣を振り上げる。そして魔力をのせて無造作に切り払う。
が、その剣が悪魔の首に届く前にフォルケルは後方に吹き飛ばされる。慌てて構えてみると悪魔が再び立ち上がっていた。
「こいつは不死身か」
「しまった。死の呪いだ」
「死の呪い・・・・ってあの聖典に出てくる悪魔が死ぬ間際に残す恐ろしい呪いのことですか」
フォルケルの問いに答えはなかった。シャナはすでに槍を構えて突撃していたのだ。そしてフォルケルが見た彼女の目が・・赤色に、瞳が・・金色に光っていた。

「そろそろ決着が付いてもいいんじゃないか」
「さあね、私に聞かないでくれ」
「ギルバートさん、右」
中庭近くでは最後の激戦が繰り広げられている。正面から突入した市民軍に帝国軍が最後の抵抗を試みているが投降する兵も多く勝負の行方は時間の問題だろう。ただヴォルスト達は場所が悪かった。何しろヴォルストが予想した激戦地には敵の手つかずの最後の主力が残っていたのだ。彼らはたった六人でその猛攻をしのいでいるのである。しかもヴォルストは予備の武器を全て折ってしまいすでに両手に短剣を構えて、ギルバートと同じように格闘戦を挑んでいる。短剣も何本か折っているのだが彼の荷物袋や服の下からはまるで手品のように次々と短剣が出てくる。
「???・・・ねえ何か聞こえませんでしたか」
ヘルが遠慮しながら周りの人物に尋ねる。
「ようく聞こえるぜ、市民の声が」
「彼女が言っているのはそんなことじゃないと思うぞ」
ギルバートがヴォルストの言葉に突っ込みを入れたとき、ギルバートにも確かに声が聞こえる。直接の声ではない。
「これは」
「遠話ですよ。多分シャルロット将軍のですね」
彼らにつき従う黒装束も頷く。彼らも魔法の修練は積んでいるのだ。
「!!今度は何かすごい魔力が発生していますよ」
その言葉にやや遅れてギルバート達もそのことに気づく。魔力はどんどん膨らみはじめ少しづつ遠のいていっている。そのとき彼らの頭の前にシャナからの言葉が届く。この魔力は悪魔の死の呪いによるものだと。と、そこに彼女の話の中に横槍が入る。
「悪魔にそれを使わせないのがお前のつとめだろう」
「うるさい、さっさと何とかしろ。こっちは悪魔とエイマールとの戦いでボロボロなんだ」
「こっちだって城外で遊撃隊の攻撃を食らって消耗してんだ。今ここであれをくい止めればエラード国内での戦いに俺の力はつかえ無いぞ」
「それでかまわん」
二人の口げんかがギルバート達の頭に響きわたる。
「お二人とも止めなさい。それよりもシャルロット将軍のいうことは大きな問題です。これだけの距離からあの魔法を使われれば城に甚大な被害が出ます。市民軍を撤退させますか」
途中でラーカス司祭の言葉が入ってくる。二人の口げんかはエラード城内にいるある程度の魔力を持つもの全員に聞こえていたのだろう。
「それはかえってパニックが起こって危険だ。そのまま進撃を続けて下さい。あの魔法は私とシャルロット将軍で何とかしますよ」
「わかりました、頼みますよ」
ここで遠和による対話が終了する。
「さて・・と、じゃあ出発するか」
「この魔力を止めるのか」
「当然。でないと市民に甚大な被害が出るからね。でも空中で魔法を使うのは難しいからヘル、俺を空中に浮かしてもらえるかい。おまえ達はここを、正確にはヘルを死守してくれればいい」
「はい、どうせなら私が空中に送りましょうか」
「お前もここまで随分消耗しているんだ。無理することはないさ」
「そんなことはありません。私はこれでもあなたの師匠の娘ですよ」
「わかったよ・・・ただしここから外へでてはダメだ。おまえ達もここから中にはいるなよ」
ヴォルストはそういいながら短剣で床に円を書く。
そして顔を上げたヴォルストの眼球は赤く瞳は金色に変わっていた。
「そういえばさっき目がどうとかいっていたがこれが答えさ。シャルロットはそうでもないんだが、私は高位の魔法を使うときにはこの火眼金睛の状態を維持しなくちゃならないんだ。最もシャルロットも持てる魔力を全てぶつけるときにはこれを使うんだがね」
そういうとヴォルストは円の中にはいったヘルにに近づく。ヘルが手を伸ばして一言二言つぶやくとヴォルストはその場から消えていた。ヘルは今度は手を正面で組み合わせて祈っている。と、敵がこちらに来る足音が聞こえてくる。
「はあ、後少しだがんばるか」
ヴォルストの目を見てしばし呆然としていたギルバートが我に返って三人の黒装束に声をかける。彼らは頷くとヘルを守るべく態勢を整えたのだった。

フォルケルとシャルロットはできる限りの力を使って呪いを発動させた悪魔に攻撃を開始していた。しかしすでにかなり消耗している上に悪魔の体を傷つける度に強烈な風が起こって動きを妨げられる。そうこうしているうちにバルコニーから空中に上がられてしまう。最初はシャルロットが空中戦を演じようとしたがすぐに烈風でバルコニーに戻されてしまった。
「あんな位置からあれだけの魔力を打たれたら城が無くなってしまう」
「正確には奴のねらいからして城の中央部分の綺麗になくなって左翼と右翼が残ることになるな。だがバルコニーが街に面しているおかげで街への被害は少ないだろう」
「そんな悠長なこといってないで何とかならないんですか」
「さっき戦いながら遠話でシェイドを呼んだ。あいつがどうにかするさ。私一人ではもう疲れていて無理だ。自分一人の身くらいなら守れるけどね」
「そういえばさっきの赤と金色の目ってなんですか」
もはやできることもなくただ悪魔の体を見上げていたフォルケルがつぶやく。これだけの距離ではたとえ魔法剣でも悪魔にはダメージを与えるのは無理だ。
「火眼金睛っていって私の部族の中で長老の一族でも長老の後継者ただ一人にしか現れない特異体質。最も私達の代は双子が生まれたことで二人に能力が現れているけど。一応魔力を限界までに引き出そうとすると現れるらしいということしかわからないわ。ヴォルストは色々仮説を立てているけど」
「へー、おや、あれはシェイド将軍ですか」
フォルケルは悪魔の前に現れた影を指さす。顔は見えないが特徴的な長い白髪は間違いなく彼であろう。
「後は運を天に任せるか」
「任せなくとも大丈夫よ、それに最悪でもあなたの身は守らないとここに来た意味がないから大丈夫」
「そんなことになったら誰もついてきてくれませんよ。今から避難を呼びかけても遅いだろうし」
「ラーカス司祭にはこのまま城攻めを続けるように言っておいたわ」
彼らの目の前には異形の悪魔と白髪の青年が空中で向かい合っている。

 

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