8:故郷へ
一週間後・・・・
フォルケル達はくたくたになるまで訓練を続けていた。その甲斐もあってか何とかまともに戦えるようになってきている。
「ふむ、後は実践を積んでいけばまともになっていくかな」
ある日ライヴァスはぽつりとつぶやく。
「じゃあこれで同盟を結んでもらえるんですか」
「馬鹿言っちゃいけない。我々が君達にしてきたのはあくまでも剣術の訓練だ。これからは魔法、そして魔法と剣技を組み合わせた戦いで我々を納得させてもらう」
「そ、そんな。こんなのがまだまだ続くのか」
「言ったろ。一ヶ月はかかるって」
「でも魔法の属性は人物によって違うんだぜ」
「氷である君の特訓は炎の私がやろう」
「私は・・・」
「風であるファナ王女はあんまり攻撃魔法が得意ではないようだから、補助的な使い方をシャナに教えてもらうといい。雷のギルバート、そして属性がはっきりしていないロウィーナ王女はフェンリルさんと長老にお願いしよう」
ライヴァスは説明しながら部屋を移動していく。その先にはドーム型の部屋が用意されている。
「ここは私たちが魔法の訓練に使う特殊な部屋だ。普通の部屋でやると壊れてしまうからね。じゃあまずはフォルケルの実力を見せてもらおうか」
そう言ってライヴァスは構える。
フォルケルはまずは普通の氷の塊をライヴァスにぶつける。が、それはいとも簡単に彼の前で蒸発してしまう。
次は目の前で印を組み呪文の詠唱を行い、神聖魔法を唱える。神の力を得る神聖魔法は準備に時間がかかるが、その分強力な魔法が使える。
フォルケルの描いた印から封印の森の化け物の触手を氷漬けにした猛吹雪がライヴァスを襲う。
が、吹雪がライヴァスに到達する寸前にライヴァスは両手を開いて手のひらから炎を放つ。やがてその炎は鳥の形を取りながらフォルケルの吹雪を飲み込みフォルケルに向かってゆく。呆気にとられるフォルケルの目の前で巨大な火の鳥は消滅する。
「何なんだ、今のは・・・・」
「相変わらず目立つことが好きなようじゃな。何もフェニックスをイメージしなくともよいのに」
「君は神聖魔法に頼りすぎなんだ。私のように一瞬で放てる魔法でもかなりの威力を持つことができる。魔法剣の基本はこれだからまずはこの魔法を強くしなければ君は兄を越えられないよ」
「それにしても俺の使える中で最高位の神聖魔法を使ったんだぞ」
「それは我々にとって問題ではない。要は術者のイメージと意志がどれだけ強いかで通常使う魔法の威力が決まるのだから。神聖魔法の長所は自分の能力とはあまり関係無しに強い力を引き出せることだが、短所は発動に時間がかかるのと個性が出ないと言うことだな。それではゼフィールさん相手には1分持たない」
「じゃあこれからはその意志とイメージを鍛える特訓なのか」
「我々がクラヌ教の神聖魔法を教えられるわけがないだろう。だが神聖魔法も使うものが使えば我々以上の驚異となる。何しろ神の力を借りるわけだから、おそらくサディル大司教当たりなら山を削り取るぐらいのことはできるだろう」

その日からは意志とイメージ強める特訓が始まる。
彼らはあんまり魔法が得意でなかっただけに苦労している。
特にギルバートはほとんど魔法を使わないので大苦戦をしている。
剣術では一週間で帝国の士官達を越えることができたが、魔法に至っては一週間たっても全然彼らに追いつけない有り様で、二週間目にやっとこさオーケーが出た。

「ふむ、では次はその魔法と剣術を組み合わせる訓練だな」
「簡単に言ってくれるな。どうせ俺達の今までの使い方ではダメだとか言うんだろ」
「まあそうだ。基本はできているから応用を教えようと言うのさ。例えば」
ライヴァスは剣を抜きだれもいない正面に向かって切りつける。彼の魔力を載せた剣圧は途中でカーブ描いて壁にぶつかる。
「こういう風にできるようになってもらいたい」
「そんなの簡単に言われてできるか」
「それをやるための訓練だ」
「俺は無理だぜ。あんまり魔力や気を込めたりするのはいいが飛ばすのには俺の武器は適していない」
「君には一人でその気とやらの訓練をやってもらいたい。あいにく我が国に気の使い手は一人としていないのだ」
「一人でって、それで強くなれるんなら苦労はいらないだろ」
「私が相手になろう、気を使うことはできないが的くらいにならなれる」
フェンリルがギルバートの相手を申し出る。
「じゃあがんばりましょう」
その訓練に再び一週間掛かり、何とか飛ばした魔法をある程度はコントロールできるようになっていく。

「これでいいのか」
「まあいいんじゃないかな。後は実践テストだ」
やっと自分の魔法剣をコントロールできるようになったフォルケルにライヴァスは剣を向ける。
「いきなりかよ」
フォルケルも剣を構える。すぐにライヴァスが動き出す。その剣の来る方向に剣を向けつつフォルケルは後退する。
ライヴァスの剣をさばくとすぐに前に突っ込もうとするがそのときには彼の剣はすでに次の動きをはじめている。それを見てフォルケルは慌てて距離をとる。
「まあこんなものか」
フォルケルの動きを見たライヴァスが満足そうにうなずく。
「こんな一瞬でいいのか」
「だいたいどのくらいの強さかはわかるよ。それに強さというものはどれだけ実戦をくぐり抜けたかにも左右される。後は実戦で鍛えれば強くなれるさ」
「じゃあ合格か」
「そう言うことだ、早速条約の調印式を行おう」
そう言うとライヴァスはさっさと引き上げてしまう。
「よかったなフォル」
「ああ、これでやっとこさ同盟締結だ」
「まだまだ安心するのは早いわよ。これからの戦いのことを考えて私たちはあなた達を鍛えたのよ。これからはこの中の誰かかが死ぬような戦いになるかもしれないわ」
「それは今までも同じです。俺達は一つ一つの戦いに全力を尽くすだけですよ」
「それよりさっさと式の場所に行きましょう」

彼らは部屋でそれぞれの正装に着替えると、調印式の場所へ向かう。そこにはレナードが待っていた。
彼らは無事に調印式を済ませるとその日は調印の祝いと言うことでパーティが開かれる。

「はぁ、これだから王族は嫌いなんだよ。何かにつけてパーティだもんなあ」
「そういうものではないでしょう。私は別に好きでやっているわけではありませんよ」
「おっと、いたんですか。どうも王族のパーティとやらは嫌いでね。国でも父さんが絶対というやつ以外は出なかったんだ」
「王族の間じゃあなたの存在は伝説のようなものですよ。随分と王侯貴族を毛嫌いしていてその姿を見たこともない他国の外交官が大勢いるとか」
「ははは、でもこうなったらもう伝説でもありませんね。これからはこういう機会が多くなるでしょう。まあ自分で選んだ道です。後悔はしませんよ」
「そういうこと、それよりいつ出発にする。この調子じゃ二、三日はお祭り騒ぎになるだろうが」
「じゃあ明日にでも行かせてもらえますか」
「そう来ると思ってましたよ。しかし急にはこちらの軍の準備ができない。シャルロット将軍は同行させるが、彼女の部隊の出発は一週間ほど待ってもらいたい」
「かまいませんよ。あの城はちょっとやそっとじゃびくともしないだろうからその間に同志を集めておきます」
「そういえば君は城下の人たちに人気があったようだね」
「ええ、彼らもいざとなれば立ち上がってくれますよ」
「難しい話は終わった、お兄さま?」
「ロウィーナか。まあな。明日出発することになった、準備しておけよ」
「はあい。それよりさ、皇帝陛下踊ってくれますか」
「私でよければ」
「やったあ、お兄さまは曲を弾いてよ」
「何を引くんだ?お前が好きなやつか」
「ううん、お兄さまが作った曲」
そう言うとレナードとロウィーナを広間の中央へいく。
フォルケルは楽器を借りると彼が作った、彼しか知らないメロディーを奏で始める。その曲はいささかパーティには不釣り合いな静かな曲だったが、二人は優雅に踊ってゆく。
その曲が終わったとき、会場が割れんばかりの拍手に包まれる。
続いてレナードとシャルロット、ファナとリチャード、ロウィーナとギルバートがフォルケルの曲に合わせて踊り始める。それを見て会場のみんなもつれだって踊り始める。

「ふう、疲れた疲れた」
「おや、もうお疲れ、アリオーン殿下」
「シャルロット将軍、無茶言わないで下さいよ。こんな大勢のところで失敗したら末代までの恥ですからね、いつもより集中力を使ってしまうんです。これ以上は踊りも弾きもしませんよ」
「私も疲れたわ。あんまり人の大勢いるところは好きじゃないのよねえ」
「ははは、それじゃあ皇帝の右腕のあなたは大変ですね」
「全くよ、あいつはあいつでいっつも絶好のタイミングで逃げ出すんだから」
「ヴォルストですか」
「そうよ、上級社会の人間はあいつの勢力を知っていてもあいつがどんな人間かを知らないのがほとんどよ。この帝国内でもあいつと話したことがある上層部の人間は数えるほどしかいないと思うわ」
「・・・あいつはあなた以上に人のいるところが嫌いなんじゃないですか。特に上級の人間のいるところが」
「多分ね。それよりもあなたの妹、よく踊るわねえ」
「ほんと、病弱だったころも舞踏会にだけは出ていたからな」
「さて・・私はそろそろ引き上げるとするか。明日の準備もあるしね」
「明日はどちらとしてお乗りになられるんです」
「シャナ・・・かしら」
「じゃあ私も引き上げるとしましょう」
そう言って二人は部屋へと引き上げていく。

「はあ、ダメだ、俺はこんなパーティは得意じゃない。もう帰るか」
「もう終わりかね」
「やあ、フェンリルさん。どうもすみません、さっきは本気で当てちゃって」
今日の最後の訓練でギルバートは見事フェンリルに一撃を当てて見せた。もっともそれはフェンリルが油断していたからなのだが。そのことを言っているのだ。
「気にするな、自らの不覚が招いたことだ。それにもう治療してもらった。少し痛みが残っているが明日には完治しているさ。それよりいよいよ明日だな。がんばれよ」
「そうですね。あそこは私たちの聖地ですからなんとしてでも取り戻さないと。何かあの二人に言づてがあれば伝えておきますよ」
「まあ、死ぬなと伝えておいてくれ」
「はい、じゃあ私はこれで失礼します」
礼儀正しくおじぎをするとギルバートは会場を後にする。

「・・・・・」
踊り疲れたのかレナードは部屋の片隅でまだ踊り続けている人物達を見ている。
「・・・か、陛下」
「ん、これはこれはロウィーナ王女何か」
「さっきからずっとお呼びしてましたよ。何か難しいことでも考えているんですか」
「この戦いの作戦をちょっとね」
「本当はシャナさんのことを考えていたんじゃないんですか」
「ははは、今の私はレナードだよ。そんなことを考えている暇はないよ」
「あんまり無理しないほうがいいですよ。やっぱり自分の気持ちに素直にならなくちゃ」
「じゃああなたは今でも私のことを憎んでいますか」
「・・・初めはそうだったけど・・・今は尊敬していますよ。色々な面でね」
「それは光栄です」
「私の質問にはまだ答えてませんよ」
「そうでしたね。考えてしまうんですよ。本当に後四年で約束が果たせるのかどうか」
「もうすぐ終わるんでしょう、この戦いは」
「戦争はね。でも戦いはまだ続きますよ、戦争の傷跡との戦いが。皇帝としてこの戦いを終わらせるまでは表舞台から去るわけには行きません」
「シャナさんは悲しむわよ」
「でもそうしなければ他の人々が不幸になります」
「・・・だからあなたは尊敬に値する人なんですね」
「私は臆病者ですよ。好きな人を幸せにすることすらできない」
「シャナはそんなに弱くはありませんよ」
二人の間にファナが割ってはいる。
「ファナ王女、聞いておられたとは」
「あなたが信じる道を行かれるのならば彼女はそれにこたえてくれますよ。ヴォルストさんも。そして立場が許す限り私たちもまたあなたの味方です」
「これは頼もしいお言葉だ。それよりもお二人とも明日出発なのでしょう。もう行かれたほうがよろしいですよ」
レナードの言葉に従ってファナとロウィーナもまた場を後にする。
「さて、お待たせいたしました長老。何か私にあるのでしょう」
「やはり血は争えんな。なかなか鋭いじゃないか」
「あなたがわざわざこんなところに来るのはおかしいですからね」
「これはヴォルストからの言づてじゃ」
「そんなものいちいちあなたを通さなくても自分で伝えるか手紙をやればいいのに」
「何事も文章として残すな、奴の密偵としてのポリシーじゃったろう。商人としてのポリシーは約束は全て書き留めておけだった思うが。それに自分でお前に伝えるとシャナがいらん詮索をするだろうと奴は思ったのだよ」
そう言うとロキはレナードにそっと耳打ちする。
「そ、それは。本当ですか」
「わからん、奴は妹を気遣ってあの場ではああ言ったと言っておったが。その可能性はお前も考えていただろう」
「で、でもそれじゃあ」
「お前にはつらい選択じゃな。いや、選択の余地は残されてはいないと言うほうが正しいか」
「そうですね。これで最後の決着は私自身がつけなくならなければなりました。父親の仇を討つアリオーンでも、父親を止めるユリアでもない。これは私自身がやらなければならない」
「いいんだな」
「はい、そのときが来れば」
「わしにできる限りのことはさせてもらおう」
ロキはそのままをどこかへふらりと行ってしまう。
後には重い表情をしたレナードだけがその場に残る。

次の日、太陽が高く昇ってからフォルケル達は船に乗り込む。乗り込むのはそう大きくはない大型船が一隻だけだだ。もっともここに来るときと同じメンバーに少し人数が増えただけなのでそれだけで十分だった。
「ではアリオーン王子、ファナ王女、御武運を」
「ありがとう、必ず祖国は解放して見せますよ」
「ええ、あなた方が動き出すタイミングを見計らって我々もアランディーの森林を通って帝国へ侵攻します。次はダンガでお会いいたしましょう」
型どおりの挨拶をすませると彼らは船に乗り込んでゆく。それを見送っている人々の中で兵士ががラッパを鳴らす。それにこたえるように帝国を訪れた記念に譲ってもらったラッパをフォルケルが吹く。

「さて、急な出発だったからまだ今回の航路については説明していなかったわね」
「ええ、北回りですか、南回りですか」
帝国の首都ファルクとエラードはちょうど大陸の反対側にあり、エラード行くにはファルナを経由する南回りでも、北部の山脈を経由する北回りでもあまり大差はなかった。もっとも北回りでは補給できる港が少ないため一般には南回りをとる船が多いのだが。
「北回りで行くわ、このまま一度西の建設中の都市へよって、そのままパルメアまで直行します」
「正気か、パルメアは今ダンガ帝国の統治下にあるのだろう。そこに寄ればみすみす狙われるだけではないか」
「それはエラードに寄ることだって同じでしょう、リチャード殿。その為にこの船には帝国の旗を掲げていないのです。ヴォルストの使っている旗を使えばあいつがへまをしでかさない限りは安全に港に入れますし、補給も受けられます」
「それにあいつからの情報が入るかもしれないし・・か」
「そうね、それにエラードの状況を調べることもできるわ」
「わかった。では我々はあまり外へは出ないほうがよさそうだな」
「かまいませんわ。ちゃんと着替えさえすればあなたがエラードの王弟リチャードなんて気づきもしませんよ。実際アリオーン王子だって一部の人間以外にはこの二年間気づかれたことがないんですから」
「そうか」
「じゃあ、俺達は船の仕事でも手伝うとするか」
「おいおい、訓練を怠けてはダメだろう」
「ちゃんとファルクでしましたよ」
「それでもまだ私よりも弱いはずだ、そんなことではシャルロット将軍には勝てんぞ」
リチャードはシャナのほうを見る。
「今は私はシャナですよ、殿下」
「私はひどく現実的な人間なのでな。君達が偽名を使うことに多少の納得はいくが同じ人間を二つの名で呼ぶことには抵抗があるのだ」
「なら、なれて下さい」
「努力しよう」

甲板の上で訓練をしつつ今回の船旅では初歩的な船の動かし方、帆の張り方や、舵の取り方など、も教わった。
途中の建設途中の街はもうほとんど港部分は完成していてすでに人が住み始めているようだった。そこで食料と水の補給をすますとすぐに彼らは出発する。
その後はずっと山ばかりの景色が続いていた。その途中で船はヴォルストが築いた補給用の小さな港にに寄港する。港の少ない北回り航路の、、また西の大陸からバーミアン大陸へ来るときの中継基地として彼が特別につくったところだ。そこでは北部の山脈の民族のつくる品なども扱っているらしかった。
その後彼らはパルメアへと向けて出発し、パルメアまで後数日というとき。
「謎の船団って言うのはどれだ」
シャナがマストの見張りに大声でたずねる。上の見張りは進行方向の南を指さしている。
シャナがその方向へ目を凝らしてみると、確かに4、5隻の船団が遠くを航行している。
「海賊船ですか?」
甲板に上がってきたフォルケルがたずねる。他のメンバーも騒ぎを聞きつけて甲板に上がってくる。
「そんなところか。おい、あの船団に接近しろ。こちら側から信号を送るのも忘れるな」
「シャナさん、何を考えているんですか」
「心配するな、あれはヴォルストの配下の海賊だよ」
「ヴォルストの・・・・」
シャナの言葉を聞いて一同は唖然とする。
そんな彼らをよそに船はその船団へ向かって進んでゆく。向こうの船団もこちら側に気づいたらしくこちらへ向かって来る。
船の左にはフォルケルとギルバートが囚われていた、そして彼らがレイチェルと出会った囚人の塔がそびえ立っている。

 

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