5:皇帝レナード
ヴァ・アラディーで食料と水を補給して出航した船は一路ファルクに向けて進む。
甲板の上では毎日のようにフォルケル、そしてやっと船に慣れてきたギルバートとファナがシャナの特訓を受けている。さすがにシャナは強く三人がかりでやっと互角に戦えるような状況だった。
「何でシャナさんはそんなに強いんですか」
休憩時間にフォルケルがシャナに聞く。
「まあ子供の頃からゼリュロスさんやゼフィールさん、フェンリルさんに仕込まれていたからね。特に私にとってゼリュロスさんは父親のような存在だった」
「・・・・・」
フォルケルはそれ以上言うことができなかった。シャルロット将軍の民族が南部諸国によって滅ぼされているというのは有名な話だからだ。
「ヴォルストはそんなに強くなかったのにな。あいつは修行をさぼっていたんですか」
今度はギルバートが質問する。
「確かあいつは半ば逃げるようにしてフェンリルさんの元を去ったとか聞いている。でもあいつと私は6才から12才まで別々に暮らしていたんだ。私はゼリュロスさんの元で、あいつは別のところで育った。だから戦い方や主義思想は全然違う」
「確かに・・・あいつのやり方は独特のものがあるよな。もっとも聖職者に育てられたような性格じゃないけど」
「あいつがシスターと共に暮らしたのはほんの数年だ。しばらくするとあいつは経済的事情で旅の行商についていくことになったんだ」
「なるほど」
今まで聞いたことのなかったヴォルストの過去にみんな聞き入っていた。
「でもあいつは強いよ。一応は私の兄だしね。少なくともフェンリルさんは筋はいいって言っていた。あと根性がないとも。話じゃたった半年で修行にねを上げたらしい。それより休憩は終わりよ。ほらたってたって」
そう言ってファナは傍らの棒を手にする。そしてさっさと甲板に上がっていってしまう。
「やっぱまずいこと聞いちゃったかな」
「大丈夫よ。彼女は強いから。それに思い出すたびに落ち込んでたら軍人なんてやってられないわ」
「そんなもんですかね」
「あなたや私だってそうでしょ?」
「まあ・・・じゃ、行きましょうか」
そう言って三人も甲板へと上がっていく。

そんなのどかな日が続いて、彼らがやっと二人がかりでまともに戦えるようになった頃、船はようやく帝都ファルクにつく。
船が港につくと歓迎の楽団がラッパを吹いて出迎える。フォルケルはその一人に混じってラッパを吹くという馬鹿をやってギルバートに殴られる。そんな二人を無視してファナは出迎えの使者と共に宮殿へ行く準備をしている。
港から宮殿までの道のりは立派に作られており、少なくとも彼らが見た範囲では乞食や物乞いのたぐいは見られない。宮殿の門は頑丈な鉄製でここでも彼らは盛大な音楽と共に迎えられる。
彼らはいったん豪華な部屋へ迎えられ、その後控え室へ通される。そこにはシャナもいたが、その左耳に牙の耳飾りはない。
「シャルロット将軍・・としてはお久しぶりですね」
「そうね。まあ、今日は簡単な挨拶だけだから緊張することはないわよ。もっともアリオーン王子とファナ王女は陛下には会っておられるわよね」
しばらくすると彼らは奥へと通される。
「遠路はるばるようこそ、使者の方々。何度かお会いした方々もおられるでしょうが、改めて私がレナードです」
一段高い玉座に座った皇帝レナードは見事な赤髪と日焼けした肌を持った、青年であった。
フォルケル達主なメンバーも次々と自己紹介をしていく。もちろんフォルケルはアリオーンとして。今回訪れた目的をレナードに告げる。
「わかりました。今日は長旅でお疲れでしょうから、詳しいことはまた後日お聞きしましょう。今夜は使者の皆さんをお迎えした記念としてパーティーを開きたいと思います、ぜひとも皆さんにはご出席いただきたい。シャルロット将軍、皆様を部屋へ案内して下さい」
「こっちへどうぞ」
そう言ってシャルロットはみんなを部屋へと案内する。
案内された部屋はファルナのヴォルストの屋敷に劣らないほど豪華なものだった。案内されるとすぐにヴォルストはシャルロット将軍に面会を求める。
「何ですか、殿下」
「ヴォルストから聞いていたんですが妹の病気が治ったというのは本当でしょうか」
「まだ治ったと断言できる状態ではないですね。もっとも今はあなたの叔父上と共に隣の街の見学も兼ねて東の森へと狩りへ行くほどの元気があるから大丈夫だと思いますが。あと数日で帰ってくるそうですからそうすれば会えますよ」
「あれだけ北を毛嫌いしていた叔父さんが帝国側が主催する狩りに出かけるんですか」
「たしかに・・・でも今は少なからず分かり合えたと思っていますよ。それにあのお方は王女の護衛として自ら志願されるのですよ。王女がわがままをおっしゃられるときには」
「ははは・・・じゃあ外出許可か何かをもらえますか。この街を見学したいんですけれど」
「それなら監視付きで良ければすぐに出ますよ。他の方々にも聞かれたらどうです。ちょっと待ってて下さい」
そう言うとシャナは去っていく。
聞いてみるとギルバートもファナもついてくるとのことだった。二人を連れてしばらく待っていると、耳飾りをつけたシャナがやってくる。
「そんなことをいつもやってて疲れませんか」
さっきまでシャルロットだった彼女を思い出してフォルケルが尋ねる。
「まあ、私が望んでしていることだから。そうそう、もう一人、護衛兼監視が来るわよ」
「シャナさん一人で十分でしょう」
「一応私は一般市民だから。もう一人はこの国の騎士よ。あ、来た来た」
シャナが言ったほうを見ると一人の人物が走ってくる。
息を切らせながら走ってきたのはまだ少年と言ってもよさそうな年齢の人物だ。
まず見事な赤い髪が特徴だ。そして・・・彼は長い耳を持っている。ファルナで合ったフェンリルほど長くはないがそれでも人間のものではないだろう。それにその肌はこの辺りの人種にしては黒い。ひょっとしたら日焼けではなくダークエルフの血が混じっているのかもしれない。
「ん、私の顔に何か。ご覧の通り私は普通の人間ではありません。まあ世間一般で言うところの魔族とのハーフといったところです。あ、別に私は人間に敵対しているわけではありませんから。陛下に言われまして、私がファルクの街をご案内します。私の名はライヴァス。これでも一応は帝国の騎士です」
「魔族とのハーフが帝国にいるのか」
「確かに私のようなものは珍しいですね」
「でもレナードは何であんたに街の案内をさせるんだ。俺達が偏見の塊のようなキリスト教信者だったなら、あんたが魔族の血を引いているって聞いた段階で剣を抜いているぜ。俺達の差別の激しさを知らないわけじゃないだろう」
「なら本人に聞いてみたら」
「そうですね、あとで色々話す機会もあるだろうし」
「今聞けばいいのよ。まだ気づかない?この人がレナードなのよ」
シャルロットの一言に一同は驚く。
「ちょっと待って下さい。だってさっきあったときは普通の耳だったし、肌も絶対日焼けによるものだったと思ったんだけど」
「ああ、あれは幻影だ。実際一国の主ともなると色々面倒な外交の仕事もあるからね。そんなとき迎える側が魔族のハーフだったりしたら、相手と友好的な話し合いなんて少しも進まない。実際君達はゼリュロスの息子についての噂は聞いているかもしれないが、彼の妻・・・つまり俺の母親についての話を聞いたことがある人はいないだろう。それは世間には言えない事情があったからさ」
「なるほど・・・でも陛下が公務をすっぽかしていいんですか」
「陛下なんてかたっ苦しいのは会議の時だけでいいさ。今の俺はライヴァス。実際に父さんからつけてもらった名前だ。シャルロット将軍がシャナであるようにな。それに彼女だってファルナじゃあ仕事らしい仕事はしてなかったはずだ。俺も同じだよ。まあ多少は外交の仕事が多くなるが」
「何かいいかげんな国だなあ。だんだんイメージから離れていく」
「おいおい、確かにこの国は皇帝の独裁のような面もあるが、君達の国だって国王という独裁者がいていただろう。それと同じさ。それよりさっさと街へ行こう。私のこの姿を知っているのはごく一部のものだけだからばれることはない」
そう言うと彼・・・ライヴァスは先だって通路を走ってゆく。
彼らはさすがにでかい鉄の門を開けるわけにも行かなかったので横の通用門から出ていく。ライヴァスの案内で彼らは今まで見ていなかった街の様々な部分を見ていく。どこも共通して整然と整っている感じのする街だった。
「ここには闇市場のようなものはないんですか」
「無いって言いたいところだけど。まあ比較的新しい都市で発展の早期段階から商人の商品を厳しく制限してきたから、この規模の街としてはかなり少ないところだな。他の街の例外に漏れず港に近い部分に作られているよ」
「でも港の周りはそうは見えませんでしたが」
「この街は露店を出すのを港のところ以外では禁止しているんだ。だから他の街のスラムのような雰囲気はあまりないが、建物の中じゃ何が行われているかわかったものじゃない」
「取り締まらないんですか」
「その必要は無いさ。この国の港から先にはいるにはは厳しい審査をパスしなければならないし、この国の諜報部は世界に誇れるほど優秀だ」
「それでヴォルストがいろんなことを知っていたんですね」
「逆だよ。特に外国のことに関しては奴に聞くのが一番はやいからな。あいつは我々の貴重な情報源だ。一応ギブアンドテイクということで我々も情報提供を行っているが奴の情報に比べれば微々たるものだ」
そのまま街を一通り(と言っても全部みれるわけはないが)まわると彼らは宮殿に帰ることにする。
「じゃあちゃんと今日のパーティーには出席してくれよ」
宮殿に着くとライヴァスはそう言ってさっさと引き上げる。シャナは彼らを部屋まで見送ってから戻ってゆく。

その日行われたパーティは非常にかたっ苦しいものだった。少なくともフォルケルとファナは解放軍(北バーミアン帝国の上層部は彼らをまとめてそう言っているようだ)の指導者的存在としてみられ、様々な人物と引き合わされていた。
特にフォルケルの故郷エラードは二年前まではバーミアン大陸のあらゆる物事の中心だったため、帝国の重臣はおろか、ファルクに滞在している他大陸の外交官などからも面会を申し込まれる始末で、ほとんどの時間を彼らとの面白くもない挨拶に費やしていた。
「だいぶんお疲れのようですね」
ひと段落ついたところでレナードが声をかけてくる。
「くそう、全く俺の顔も知らなかったくせになんでこんなに面会人が多いんだよ」
「あなたの国の王族がほとんどいなくなりましたからね。現段階での王位継承権はあなたにあるのですよ。もっとも私はフォーブス殿は生きていると思っていますが。それよりそんな言葉を使っていては聖国エラードの名に傷が付きますよ」
「ちゃんとご挨拶の時には言葉遣いに気をつけていますよ、陛下」
「私は別にかまわないさ、おっと私も気をつけないといけないな。ぼろを出さないために」
「これが終わったらいくつかあんたと個人的に話がしたいんだが」
「かまわないですよ。どうせならこの際他の皆さんもお呼びしたらどうです。あなた方全員にそのような時間は割いていられないので。じゃあもうひとがんばりしてきたらどうです」
「できればあんたから声をかけておいてくれないか。俺はそんな暇がなさそうだ」
レナードが顎をしゃくった先には格幅のいい男が待っている。フォルケルはため息をつきながらアリオーンとしてその場を離れていく。

「そういえばシェイド将軍はこの会議には参加していないんですか」
会場の一画ではシャルロットとギルバートがしゃべっている。
「あいつの存在が架空じゃないかって噂もあるのよ。そんな人物がここに来るわけ無いでしょ。今もこの国に忠誠を誓っているかどうかも怪しいのに」
「じゃあ離反しているって噂は」
「さあ、そんな噂については何にも知らないわ」
「要は何にも教えてくれないんですね」
「そういうことね、でもあいつを最近見かけていないことは事実よ。それよりあなたはいいの」
「ああ、俺の面会人なんてそういませんよ。あの二人に比べたら俺の肩書きは他の護衛と似たようなもんです。まあフォルケルほど引っ張りだこにされるよりははるかにましです。それにしてもあなた方二人に来る人はあまりいませんね」
「そりゃあ今日の主役はあなた達ですから。それにしても欲深な連中にシャナが付け入られなければいいけど」
「アラディーの交易のことですか」
「ええ。全くここにヴォルストがいればそんな話は一つとして持ち上がらないはずなのに。あいつは肝心なときにいないんだから」
「そういえば長老とかいう人のところへ行ってからこちらに来るのにどれくらいかかるんですか」
「まああいつの船なら2、3日後には来るんじゃないかしら」
「シャナさん」
突然二人の話に割り込んでくる人物がいる。
「今はシャルロットよ。それよりどうしたのヘル」
「今日はヴォルストさんは来ていないんですか」
「ああ、あいつならあなたのおとうさんを送っているところよ。近いうちに来ると思うけど・・あなた何でここにいるの?おとうさんに怒られるわよ」
「ライヴァスさんが招待してくれたのよ。ヴォルストさんに会えるかもしれないって」
ギルバートはヘルと呼ばれた少女を見る。耳がとがっており彼女もエルフか魔族なのだろう。
「彼女は」
ギルバートは思わずたずねる。
「ああ、彼女はヘル。ライヴァスの従姉妹なのよ。もっともあいつと違って彼女は純血の魔族だけれど」
「初めまして」
そう言って少女はギルバートにおじぎをする。ギルバートはそのおじぎに妙な違和感を感じる。
「わかりますか。実は私、目が見えないからちょっと違和感があるかもしれないけれど許して下さいね」
そう言うと少女はほほえむ。確かにその目はギルバートのいる辺りを見てはいるが微妙に視線がずれている。
「私はギルバートです。こちらこそよろしく」
ギルバートも返事を返す。彼女はそのままパーティの隅で曲を聴き始める。
「彼女はヴォルストとは一体どういう関係なんです」
「ああ、実際彼女も南部で虐待を受けたことがあるのよ。そのとき当時12才だったヴォルストが闘技場の見せ物にされそうだった彼女を助けたってわけ」
「へえ、それにしても目が見えない割には足どりがしっかりしていますね」
「生まれたときから見えないらしいから、それが彼女の生活の一部なのよ。もっともどこにも異常は見あたらないからひょっとしたら治るかもしれないけれど」
「そうですか。じゃあ俺はこれで」
そう言うとギルバートはシャナと別れて会場の喧騒の中へとはいってゆく。

深夜になろうとしたときフォルケルはレナードの部下の手によってやっと地獄から救出される。彼はそのまま会場を抜け出す。案内された部屋にはライヴァスの他にシャルロット、ギルバート、ファナが待っていた。
「さて・・・と。何から始めるかな」
「そうだな・・じゃあ順を追って聞いていこう。二年前、あんたは俺の兄さんのエドワードを殺した。そのあと兄さんの遺体はどうなったんだ」
「・・・丁重に埋葬したはずだ。場所はダンガの街にある特別な墓地だ」
「そうか。俺達がカシューラのベム砦を落とすのに失敗したことは知っているな」
フォルケルの問いにレナードは頷く。
「そこに新たに配備された魔法使いと、黒い鎧の剣士のことも聞いている。君が聞きたいのはそのことだろう」
「そうだ。あのとき一瞬剣を交えただけだがあれは間違いなくエドワード兄さんの剣筋だ。ひょっとしたら・・・と思ったんだが」
「いいや君の兄さんは間違いなく死んでいる。黒い鎧の剣士については私も調べさせている最中だが、おそらくその魔法使いがなんらかの魔術を使ったのだろう」
「兄さんの墓地の場所は誰が知っているんだ」
「帝国の要人なら誰でも知っているが、一般人にはそうとはわからないようにしている。墓碑にも彼の名前は彫ってはいない」
「そうか」
「次にいいかしら」
「どうぞ」
次はファナが質問を始める。
「これは本来はフォルケル・・・アリオーン王子がするべき質問だけど、あなた方はフォーブス王子の所在について何か知っているのではありませんか?」
「たしかに・・・公にはしていませんがフォーブス王子が生きておられるのはほぼ間違いない。だが我々が持っている情報は最近この大陸にサディル大司教他、数名が上陸した可能性があるとのことだ。あなたはおそらく黒装束の人物がそうではないかと疑っておられるのでしょう」
「ええ、ですが北帝国には黒装束をまとった将軍がいると聞いてましたから確信が持てなかったのです。教えていただけますか」
「・・・シェイド将軍のことは帝国内でも知っているものが少ないのでこのことは他言無用に願いたいのですが」
レナードのその言葉に三人はうなずく。
「俺は奴に自由行動をとらせています。ただ定期的に連絡だけは怠るなと。ですからその件に関しては何とも言えませんが、俺の私情を含めさせてもらうと・・・ほとんどがフォーブス王子の行動でしょう。しかしあなた達が出会った黒装束の人物のうちの何回かはシェイド将軍である可能性があります。最後の連絡ではダンガ帝国に行くとありましたから。もっともあいつは連絡の合間にいくつもの国をまわるのでそうではないかもしれませんが」
「じゃあ最後に俺が。ヴォルストがあんたにいくつか頼まれていたことがあるっていっていたんだがひょっとしてその中に、反帝国勢力に手を貸すようにいってなかったかい」
「なかなか鋭いな。正確にはダンガ帝国の状勢を探って、できれば皇帝の勢力に反抗しようとしている旧南部諸国の人物を連れてきてもらいたかったのさ。私にはまだゼフィールさんの心変わりの理由がわからなかったし、もともと南部諸国を滅ぼしたのは俺達だったから、滅ぼされた人達の気持ちも聞いてみたかった」
「そしてあわよくば俺達とダンガ帝国をぶつけようって魂胆かい」
「まさか、身内の恥は我々が何とかしてみせるつもりだ。だが全面戦争に突入する前にゼフィールさんの心変わりの理由が知りたかったのだが」
「俺達の介入でそうもいっていられなくなった・・・か」
「そうさ。実際ヴォルストがあそこまで君達に協力するとは予想外だった。こんな短時間で南部の国を一つ取り戻すなんて。いずれ国内の意見がまとまればこちらから使者を送るつもりだったのだが。君達の反応のほうが早かったようだ」
「ここから先は公の会議でいいな」
「そうだな。お互いにとっていい条件でまとまることを期待しているよ」
「そんな都合のいい方法があるもんか」
そうして三人は部屋を出ていく。
「大した人物だ、三人とも」
「いいんじゃない。これからの大陸をまとめるのは彼らのような若い世代よ」
「おいおい、俺達だって彼らと同じ世代だぞ。年上だっているだろう」
「でも私たちの役目は違うでしょう」
「そうだな・・・・そういえば奴はどうしている」
「ああ、そういえばこのあいだファルナにいたらしいわよ」
「そろそろ動かすか。お前にも行ってもらうぞ」
「はあ、また離ればなれか」
「そいつは十年たってからたっぷり聞いてやるよ」
「あと五年よ」
「ひょっとしたら長引くかもしれないぜ」
「短くなることもあるでしょう」
「そうだな」

自分たちの部屋に戻りながら三人は話し合いを始める。
「みんな質問があったのね」
「まあ北帝国の行動は不審な点が多いからな」
「それにしてもこの調子ではレナードは我々に好感を持っているようですが」
「安心するのはまだ早いわ。彼はちゃんと公私を使い分けているんだから」
「でも今日の言い分だといずれは俺達と同盟を結ぶつもりだったようだから、この話に真っ向から反対するということはないんじゃないかな」
「そういう話題は明日に本人の意向を聞けばわかるわよ。それよりさすがに疲れたわ。もう会場へ戻るだけの勇気はないわね」
「俺のほうが疲れているよ。いいよなあギルは気楽で」
「ほんとそう思うよ。何か俺最近偽名を使う人物ばかりに囲まれているような気がするんだがなあ」
「そういえばそうだな。この調子じゃあもう一人二人増えるかもな。じゃあおやすみ」
そういうとフォルケルは自分の部屋に入る。ファナとギルバートもそれぞれ割り当てられた部屋にはいる。

 

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