9:アラディー解放(下)
ファナの率いる部隊は国境の砦を出発し途中で敵の増援に備えて哨戒をしていた部隊と合流する。そしてヴァ・アラディーまであと数日と言うところでヴォルストからの使者が着く。
「やってくれるねえ」
使者が持ってきた手紙にはすでに敵の騎馬隊をヴァ・アラディーから閉め出し、城も蜂起した市民によって包囲していることを伝えていた。
「じゃあ、あとは騎馬隊を倒せば堂々と街に入れるわけだ」
「問題は騎馬隊をどうやって倒すかね。ここじゃあ正面からぶつかりあうしかできないわ」
「ヴォルストが市民の一部をまわしてくれたら・・・」
「だが戦闘経験の少ない市民と騎兵では結果は明らかだ」
「そうでもありませんぞ」
街からやってきた使者が口を開く。
「ヴォルスト殿は市民を蜂起させるのと同時に港を占拠しあらかじめ用意しておいたという大量の武器を市民軍にまわしたのです。確かに接近戦では大した戦力ではありませんが、カタパルトなどで敵を撹乱することは十分に可能です」
「そうか。あいつの本職は武器商人だったな。この時に備えて港の倉庫に武器を貯えていたわけだ」
「そうなるとどれだけヴァ・アラディーの近くで敵と戦えるかが問題ね。敵はヴァ・アラディーにとりついているの」
「ええ、兵糧攻めでもやるつもりでしょうが、ヴォルスト殿が貯えている食料を考えれば先にくたばるのは敵の騎兵部隊でしょうね。毎日のように破城鎚やハルバートで突撃してきますが無駄なことです」
「あなたは無事にヴァ・アラディーに戻れるかしら」
「ええ、抜け穴を使えば可能です」
「じゃあこっちの動きに合わせるようにヴォルストさんに伝えて頂戴。私たちはもう少し前進して兵を休めてから突撃するわ。そのくらいはもつわね」
「あの調子では一月以上もちますよ。それでは王女の凱旋をお待ちしております」
そういって使者は天幕から出ていく。
「しかしあいつがアラディーに食料や武器を貯えていたとはな」
「実際大きな港では大量の税金がかかる。その為に利用していたのだろう。他にもいろんな街に貯えているはずだ。特に武器や食料は戦争などによって価格の変動が起こりやすいからな」
「大きな借りができちゃったわね。あとで代金を請求されなきゃいいんだけど。じゃあ部隊を進撃させましょう」
ファナの部隊は進撃を続ける。
数日後
国境の砦の救援のために出撃した騎馬隊はその直後に蜂起したヴァ・アラディーの市民軍によって釘付けにされてしまっていた。実際市民は歩兵ばかりだったから部隊の隊長は一度は国境の砦に向かっていた。しかし途中で砦の騎馬隊が敗北したとの報告を受け、着いた頃には間違いなく砦は敵の手に落ちていると考えて引き返したのだ。そして敵の増援が来る前にヴァ・アラディーを制圧すべく毎日のように攻撃を繰り返しているのだが敵の一人が妙な液体をばらまくと馬がおびえて進めなくなるのだ。それに完全に外部との接触を絶っているはずなのに敵の食料がつきる気配はない。それどころか自軍の食料が危うくなっている。遊牧民から徴発しようにも彼らはあまりにも非協力的だった。
「今日当たりに突撃をかけてくるかな」
ヴォルストはヴァ・アラディーの外壁の上でカタパルト隊の指揮を執っている。敵はまだこちら側にカタパルトがあることを知らないはずだ。敵の不意をつくために切り札は最後まで残しておく。これが彼のポリシーである。実際この中には特殊なカタパルトも含まれている。もっともこれで倒せなくても彼はまだ他の手を考えていたがそれはさすがに使いたくなかった。
「ん、動き始めたかな」
地平線の向こうにゆっくりと進撃する部隊が見える。相手が気づくぎりぎりで突撃を開始するつもりだろう。
「おい、市民に連絡だ。弓兵をこちら側に集中させる。ゆっくりでいい。できるだけ敵にばれないようにな」
ヴォルストは傍らに控えている人物に命令を下す。
まもなくすると外壁にいっぱいの弓兵が集められる。
その集合が整った頃にファナの部隊が突撃を始める。それに気づいた敵部隊が慌てて体勢を立て直す。
「射てー」
弓隊の指揮を執っている人物が叫ぶ。そのおかげで突撃を開始しようとしている敵部隊の後方が混乱する。実際ほとんど被害はないが後ろからのプレッシャーが彼らを惑わすのだ。
だがそれにかまわず先方部隊は突撃を開始しそれに合わせて後方の部隊も落ちつきを取り戻す。
「射てー」
今度はヴォルストの叫び声が響きわたる。それを聞いてカタパルトが一斉に弾を発射する。弾と言ってもアラディーでは岩が少ないので、矢を束ねて空中で広がるように仕掛けたものや、空中で割れるように仕掛けた例の馬がいやがる液体を入れたものなどが半分以上だ。二発目以降は泥の弾や生ゴミなどを固めたものも発射するようになっている。こうなるとほとんど敵に対する嫌がらせだ。
が、実際この作戦はばかばかしいほどうまく決まる。敵は予想しなかったカタパルトからの攻撃により恐慌状態に陥り気づいたときにはファナの部隊がすぐそこまで来ている。慌てて撤退するが後退しようものなら外壁から弓兵の餌食にされてしまう。敵は次々と降伏を始めたようだ。それを見て外壁から歓声がわき起こる。すぐに城を囲んでいる市民からも歓声が聞こえる。
「よくやってくれたわね。驚くほどうまくいったわ」
「弾に入っていたあの液体は何なんだ?あれのおかげで味方の騎馬隊まであの場所を迂回する羽目になったぞ」
「封印の森の化け物の体から抽出した奴を人工的に作ったんですよ。あの魔物の臭いはかなり馬を怯えさせましたからね。ヴァ・アラディーが落とされなかったのもあれのおかげです」
「あとは城を残すだけだけど調子はどう?」
「いつでも我々は突撃できます」
市民の代表が言う。
「そうじゃなくて敵の戦力よ。できれば相手が何日もつかも教えて欲しいけど」
「城に残っているのはほとんど帝国出身の兵だ。市民が蜂起したのを見るとアラディー出身の兵は次々と投降してきた。食料についてはまだかなりもつだろうね。兵糧攻めなんてやってたら一ヶ月はかかるんじゃないかな」
「城の城壁はどうなの」
「シューターがいるがこちらの動きにけおされてか攻撃はしてこない。矢も無駄にはしたくないんだろう」
「・・・エラード・パレスほどではないが仮にも城と言われる場所だからなあ。抜け道から潜入するって言うのはどうだい」
「無駄だ。アラディーの城にも抜け道はあるが完全な出口専用に作られている。中に入ればすぐに抜け道は見つけられる。抜け道の先にはすでに敵が構えているはずだ。出口はそれなりに加工してあるんだがな」
「そういえば城門をぶっ飛ばすボールはもうないのか」
「ないね。あれが最後の一つだ。・・・・・魔法で打ち砕こうにもおそらくガードされているだろう。別に油をぶっかけて燃やせば問題はないが・・・今回は奇襲部隊はなしかな。そもそもこの城はそうそう落としにくい城じゃない」
「そうするしかないか」
翌日レジスタンスと遊牧民の戦士が先頭に出て、城門に油をかけて火をつける。それに気づいた敵は慌てて臨戦体勢を整えるが城壁に立ったものはことごとく弓でねらい打ちにされる。城門が燃え尽きるのとほぼ同時にフォルケル達は城になだれ込む。大衆もそれに続く。弓隊の援護のもと梯子を使って城壁に登る者達もいる。
中庭にはほとんど敵がいない。が、城の建物に入った瞬間乱戦になる。狭い通路での戦いは一度に大人数が展開できない分比較的数より質が問われる戦いになっていく。どうにか敵をかたずけると、吹き抜けの二階から矢が振ってくる。フォルケルはヴォルストがここでくれた盾でそれを受けとめながらそこを突っ切る。背後で悲鳴が上がるがみんなの足は止まることなく進み続ける。
そのころヴォルストは一人最上階の四階にいた。城壁からさっさとこの四階まで登ってきたのだ。彼はまっすぐにこの城の総督がいるであろう部屋をめざす。気づいた敵はすぐに彼に切り捨てられてゆく。部屋の前まで来たとき彼は妙なことに気づいた。見張りがいないのだ。すでに下の階で迎撃体制に入っているのだろうか。そう思いながらドアを開けるとそこには誰もいないが奥のバルコニーで動く影が見える。そこに駆け寄ってみるとここの総督ハルガー将軍が黒装束の人物の魔法を受けて倒れるところだった。
「・・・・こんな所で合うなんてな」
「あいつ等では荷が重すぎると思ったのだ。貴様もそう思ったからここに来たのだろう」
「私はそいつを暗殺しようときたのさ。毒を仕込んだ短剣でな」
「ちょうどいい。ヴォルスト=アルバ=ラシュター。貴様の腕、試させてもらう」
そういうと黒装束の人物は剣を構える。ヴォルストもここで手に入れた幅広の曲刀を構える。黒装束が突っ込みヴォルストがそれをかわす。すかさず黒装束の追撃が襲うが、それを大きくかわし前進しながら魔力の一撃を放つ。黒装束はその一撃を受けとめるとバルコニーの柵に使われている石を魔力で動かしてヴォルストに投げつける。
何度かそれを避けるが何度目かの攻撃を剣で受けたときにヴォルストの剣が折れる。ヴォルストはすぐにそれを黒装束に投げつけると懐から次々と短剣を投げ出す。黒装束は石のコントロールを中断して短剣を避けることに集中する。短剣の応酬がやんだときヴォルストは突っ込みながら敵の周りにカマイタチを発生させる。その渦を避けた黒装束はヴォルストに向かって衝撃波を放つ。それとほぼ同時に二度目のカマイタチが黒装束を襲っていた。ヴォルストは壁にたたきつけられ、黒装束も左手から血を流している。
「貴様の力はこんなものか」
「そうさ、あんたが黒装束でいるように私もまた武器商人ヴォルスト=アルバ=ラシュターだ」
「ほう、気を失わずにすんだか」
「ターバンにはいろいろと仕掛けをしているんでね」
「いいだろう。二年前の決着はいずれ付けてやる」
「あのときの決着はもう付いているだろう」
「十三年前私もあそこにいた」
「知っているさ。私を挑発しているのか」
「知っているのならいい。お前の行動を見守らせてもらおう。それまであの2人をよろしく頼む」
そのときフォルケル達がリビングに駆けてくる。それを見ると黒装束は一言つぶやき姿を消す。
「ヴォルスト何があったんだ?」
「ここの総督を暗殺しようとしたら先客がいてね」
「あいつがハルガー将軍を倒したのか」
「ああ、俺が着いたときはちょうど終わったところだったよ。そのあとちょっとあいつとやり合ってな。まだ頭がくらくらする」
ヴォルストはゆっくり立ち上がると頭を振る。
「じゃあそいつをとっとと縛り上げて」
そう言いながらフォルケルは倒れているハルガー将軍の元へゆく。
「フォルケル、ちょっと待て。なにかいるぞ」
短剣を拾っていたヴォルストが言う。そのときハルガー将軍の影から大きな二本の角をもった化け物が出てくる。
「またデーモンか」
「何で悪魔と呼ばれているものがこうも出て来るんだ」
そう言いながらもフォルケルが敵の左腕を剣で抑える。ギルバートが右腕に駆け寄り両手で敵の腕を掴むと気合いと共に敵の腕が奇妙に曲がる。そしてがら空きになった正面めがけてファナが斬りかかる。
が、その攻撃はあっけなくはじき返される。
「なんて体をしているんだ」
そのときデーモンの角から電撃が走る。剣をもっていたファナとフォルケルはまともにその電撃を浴びて倒れてしまう。
ギルバートは倒れた2人をかばおうと必死になって敵を挑発する。その間にレイチェルとヴォルストが2人を安全圏まで連れてゆく。
「くそう、こいつには痛みという感覚はないのか」
最初の一撃で敵の右腕は異常な形に曲がっているがそれを気にした様子もみせずに敵は攻撃を続けてくる。再び敵の角から電撃は走ろうとするが、それを予想したヴォルストが短剣を投げて電撃は全て短剣に吸収される。
敵が驚いた一瞬の隙にギルバートは再び右腕に攻撃する。その一撃を受けて敵もさすがに叫び声を上げるが、なおもその右腕でも攻撃を繰り出してくる。
「この前の奴とは比べものにならねえほど強いぞ」
レイチェルに回復してもらったフォルケルがギルバートの援護に向かう。
「どけ」
突然現れた影がフォルケルを押しのけて、デーモンに向かってゆく。敵の間合いの外に出たギルバートの横を通り抜けて敵の右腕を手にもった大剣で切り落とす。
「あれは、第三天使シヴァ」
フォルケルがつぶやくように言う。
「でやあ」
ヴォルストが両手に短剣をもって、敵の頭へ飛ぶ。そして見事二つの角を切り落とす。
「ふん、よけいなことを」
その男が、悪魔の左腕も切り落とす。そしてすぐさま敵の首を切り落とす。
「すごい」
「おまえ等がこの国を開放しようとしているのか」
「そうだ、お前は一体何者だ」
「そこの察しの言い奴が言ったとおり俺は第三天使シヴァだ。上からここの悪魔を倒してこいって言われたんでな。これからも戦いを続けるつもりか」
「そうだ」
「そうかい、じゃせいぜいがんばりな。いつでも俺達の助けが借りられると思うなよ」
そういうとシヴァは消えてゆく。
しばらくしてファーン達が入ってくる。
「こっちは終わったぞ、そっちはどうだ」
「ああ、部外者達がかたずけてくれたぜ」
「部外者だと?」
「ああ、黒装束の奴がハルガー将軍を、そのあとに突然現れたデーモンを第三天使のシヴァが倒した。俺達は今回何にもやってないよ」
そう言うとフォルケルはその場をあとにする。ヴォルストもそれに続く。
「もう終わったのですか」
やっと気がついたファナが聞く。
「ええ、これでアラディーの解放は終わったわけです」
「少し休んだほうがよろしいのでは」
「解放をみんなに宣言しないといけないでしょ」
そう言うとファナはバルコニーを進んでゆく。
ファナの演説はアラディーをこの手に解放したこと。解放においてのレジスタンスの協力についての感謝。そしてアラディー国は今後もレジスタンスと協力して帝国と戦うことを宣言した。
「ふう、これでやっと一つか。あとはエラードとカシューラとダンガ。まだ三つもあるんだよなあ」
「フォル、今日くらいそんなこと言わないで楽しみましょうよ」
「そうよ、せっかくの宴なんだから。そういう細かいことはまた明日から決めればいいわ」
「ヴォルストはどこにいったんだ」
「堅苦しいのはいやだから城下の宴会に参加するっていってたぜ」
そのよの宴会は延々と続き、フォルはその音楽の才能で、そしてレイチェルは北の民族の踊りで大いにみんなを楽しませたのだった。
次の日から早速開かれた軍議では、二日酔いでつぶれたフォルケルを除いてほぼ全員が出席をした。
「レジスタンスの方々はこれからどうするおつもりです」
「我々はヴォルストの案に従ってアラディーの解放を進めたきたのでな。ヴォルストお前はどう思う」
「今、我々は厳しい状況に置かれています。カシューラを解放しようとすればダンガとエラードから攻撃をうけ、エラードを解放するにはアラディーの援護を受けるのが難しいので戦力が不足してしまいます。それにアラディー国内を立て直すことも必要です。ですから帝国の出方を見てから策を考えるというのはどうでしょう」
「しかしそれでは帝国が体制を整えてしまう。そうなっては元の木阿弥だ」
「ですがこのアラディーに編成されていた兵はごくわずかなものです。それにここは帝国にとってさほど重要なポイントだったわけでもない」
「・・・我々レジスタンスはこれから独自にエラードで活動しよう。そして、エラードを解放しカシューラへ進撃するときにアラディーの足並みを合わせて欲しい」
「それでよろしいのですか」
「今の状況ではそれしかないでしょう。それに我々がアラディーの解放を手伝い、成功させたということを聞けば同志も増えるはず」
「・・・・わかりました。ですがそのことについては一度あなた方でよく話し合ってみて下さい。こちらもあなた方に対してできることを考えてみます。では数日後にまた軍議を開きましょう。それまでにご返事をお願いします」
そう言うとファナと重臣達は部屋を出ていく。
「おいおい 、いいのかよあんなこと言って」
「だがお前には何か策はあるのか」
「・・・・・わかったよ」
「ギルバート、お前はどうする」
「私はレジスタンスとしてこの戦いに参加したのです。ですからレジスタンスとしてこれからも行動します」
「ヴォルスト、お前は」
「私はしばらくこの国に滞在してみようと思います。あなた方がエラードへ行く、行かないに関わらず・・この都市の港をもっと発展させ、一度に多くの大型船が入れるようになればアラディーの戦士達をエラードに連れてゆけるかもしれませんし、そうすることでアラディーの復興はすぐにすむでしょうから」
「そうか、今日のことは私からみんなに話そう。そのうえで明日全員で話し合おう。そのときまでにそれぞれ意見のあるものはまとめておいてくれ」
そう言うとファーンに続き全員が部屋をあとにする。
「フォルケル、ちょっといいか」
ヴォルストが廊下でフォルケルを呼び止める。
「ん、なんだ」
「ちょっと来てくれ」
ヴォルストはフォルケルを港に連れていった。そこにはファナもいる。
「こんな所に連れてきて何しようってんだ」
「お前はまだファーン老達に自分の意志を伝えてないのか」
「それは俺の勝手なわがままだ。その為にレジスタンスを抜けるわけには行かないだろう」
「じゃあ、あなたが自分の身分を明かせばいいのじゃない」
「・・・・だがそれをやって確実に勝てるか。エラードに配備されている兵は質も量もアラディーの比ではない」
「その為に私の国があるのよ。私の部下達は喧嘩っ早いからうまく敵を牽制してくれるわ」
「・・・・」
「そのつもりがないのなら、一度北帝国に行ってみる」
「!え」
「まだこれは内密なんだけど北帝国と休戦条約を結ぼうと思うの。今アラディーが北と南から挟まれたら確実に負けるから。いずれは北帝国からの使節が来るでしょうけどその前に行動しておきたいのよ。その条約を結ぶ際にヴォルストさんに同行してもらうわ。あなたも来たらどう。レジスタンス代表として」
「それは・・・」
「こちらからは護衛としてギルバートも来させようと思うの。あなたの希望は北帝国へ行ってみることだったんでしょ。いい機会よ」
「幸い私の船が数日後に入港する予定だ。次の軍議でそのことを王女は提案するつもりらしい。それまでに考えておいてくれ」
「よろしくね」
そう言うとファナが去ってゆく。
「お前が問題にしていた黒剣士。一つ言っておくが北の剣術は民族によってかなり変わる。お前が確認したいことはそんなことじゃないんだろ。なら直に調べた方がいいんじゃないのか」
「あんたはあの戦いを見たのか」
「直接は見ていない。私はシェイド将軍の部隊に所属していたからな。だが・・・それ以上はお前が直接レナードに聞け」
そう言うとヴォルストは海に目を向ける。その瞳には大海原が広がるのみだ。その瞳にどれだけの意志が宿っているのかフォルケルにはわからなかった。