5:アラディー解放


ヴァ・アラディーについたフォルケル達は、宿にはいると食道で先についていたメンバーがちょうど集まっているところだった。フォルケル達もさっさと部屋に入り荷物をおいてその集まりに加わる。
「随分と遅かったな」
「予定でははまだ余裕があっただろう」
「それより、もう全員集まったんだ。具体的な活動を決めないか」
「そうだな。ヴォルスト、お前の計画を聞かせてもらおうか」
「ええ。まずは皆さんここに来るまでに私の用意した荷は処分していただけましたか」
ヴォルストの言葉にラーカス司祭が一枚の紙切れを渡す。どうやら各部隊の売り上げが書かれているらしい。
「結構です。そして先についた方々はここについてから行った活動や集めた情報について教えていただきたいのですが」
それを聞いてまたもラーカス司祭が手短に説明をする。レジスタンスは今は主だった動きをしていないが、遊牧民の部族の長達と話をし、協力を約束してくれた部族もあるという。
「なるほど。では私の計画を言わせてもらおうと思います。ここの南にある砦を初めとして、規模の小さな帝国の拠点を少しずつ潰していきます。と言ってもアラディーにはそのような拠点自体が少ないので、長期戦にはならないでしょう。作戦は協力してくれる遊牧民に敵の陽動を行ってもらう間に我々と遊牧民でも歩兵戦のできる部隊で砦を制圧します。基本的に全ての砦でこの作戦を使いますが、敵の動きに合わせて内容を少しずつ変化させます」
「だがそのような作戦ではヴァ・アラディーと国境の砦は落とせんぞ」
「そうでしょうね。ですが行動を起こせば多くの遊牧民が協力してくれるようになるでしょう。それでも勝ち目がないときは・・・・・」
「ファナ王女だな」
ギルバートがぽつりと言う。
「なに。アラディー王家のファナ王女が生きておいでなのか」
「俺達はヴォルストから旅の道中いろいろと聞いている。それは後で話すとして今重要なのは、こいつがファナ王女の居場所を知っているということだ」
「なるほど、あのお方がおればこの戦いは勝てるな。だがその情報は確かなのか?」
「それは私にもわかりません。最後に確認されてから随分たっているそうですし。必要とあらば私たちが行動を起こした後、彼女の様子を見てきます」
「行動の前、ではダメなのか」
「フォルケル達にも説明しましたが、後のほうがレジスタンスの行動を印象づけることができるんです。最終的な目的がアラディー解放なら話は別ですが」
ざわざわざわ・・・・・・
その後も協議は続けられ最終的にはヴォルストの案を協力してくれる遊牧民に伝えること、そしてファナ王女のことはまだ伏せておくことなどが決定され、遊牧民の反応を見て再度作戦の日時や詳細を決めることとなった。

会議が終わった後食道のテーブルにはフォルケル、ギルバート、ラーカス、ファーン、ロックスリーが残っている。ヴォルストは残った荷を整理してくると言って外に出ていったし、レイチェルには席を外してもらっている。
フォルケル達は道中ヴォルストが少しずつ提供した情報をファーン達に報告していた。
「なるほどな、奴がレナードの密偵と言うことか」
「そんなかっこいいもんじゃねえと思うな。実際奴は自分のことをぺらぺらとしゃべるんだぜ」
フォルケルが自分の見解を述べる。
「だからさ。ある程度の情報を我々に与えておいて自分の望むようにことを運ぶ。スパイと言うよりは一種の協力者ともとれるが」
これはギルバートの見解だ
「まあいいさ。あいつが俺達の役に立っている限りはな」
「結果的にお前はそういうふうにしかまとめられないのか?」
「他にあるか。いくらやっても時間の無駄なことはやらない主義なんだ」
フォルケルは席を立とうとする。
「はあ、まあ特に無いな」
頭を抱えながらファーンが答える。
「ギルバートせっかく故郷に帰ったんだから羽を伸ばしてきたらどうだ」
「そうさせてもらいますよ」
「フォル、案内してやるよ」
「俺はちょっと野暮用を思い出した。先に行っててくれ」
「おう」
そういうとギルバートは部屋から出ていきロックスリーも続く
「何かご用ですかな」
一人残ったフォルケルにファーンが話しかける。
「かたっ苦しいのは止めてくれ。ロウィーナ姫についてのことがわかったんでな。おまえ達には知らせておいた方がいいと思ったんだ。彼女の病気はどこぞの阿呆が鎮静化させたそうだよ」
「なんと、そ、それは」
ラーカス司祭は目が点になっている
「驚かなくても事実は変わらないさ」
「あの王室付きの医者達でさえ無理だったものを一体誰が」
「薬を作ったのはヴォルストだってさ」
「何?」
「主治医はもっとすごい奴だっていってたぜ。まあ、どの程度ましになったかは直接奴に聞いてみればどうだ」
「我々は奴に借りが一つ増えましたな」
「さて、俺は観光としゃれ込むか」

数日後協力してくれる遊牧民を加えて一気に大軍となったレジスタンスはアラディーの南の砦に接近。正面に陣を張り敵を挑発し続けた。
その二日後しびれを斬らした砦の重装騎兵部隊が一気に攻勢に出ると遊牧民の主力部隊は少し戦っただけで一目散に逃げ出した。すかさず重装騎兵部隊が追撃に入る。

「本当に引っかかりやがった」
離れたところでこの模様を見ていたフォルケルはあきれてしまった。
「じゃあ行くか」
砦の内部を落とす歩兵部隊はレジスタンスの他遊牧民も入れて80人前後だ。これは砦の歩兵部隊50より多いが地の利があるため勝率は五分のように思えた。
「やるならやっぱり夜襲かな」
「だろうな、ここら辺りは草原で身を隠す場所がない。暗くなってから前進し明け方に突撃するのがいいだろう」
「囮部隊は大丈夫か」
「あれは性格には対重装騎馬隊部隊だよ。彼らは敵が疲れたところで弓による攻撃をするように指示している。敵が逃げ出したら一気に突撃するようにともね」
「それで勝てるのか」
「確かに重装騎馬隊は強力だが軽装備の騎馬に追いつくことはできない。それに矢は人間にあたらなくても馬に当たればいいんだし、敵が後ろを向いていれば突撃を受けることはない。なんとかなるさ。それよりギル、お前のように手軽な投合武器が得意で身の軽い奴を4、5人選んでくれないか」
「何をするつもりだ」
「明け方の前に敵を撹乱しておいてできれば門も開けてしまうのさ」
「まさか壁をよじ登るのか」
「敵も遊牧民がそんな知恵を持っているとは考えないだろう」
「確かにそうだが・・・まあ集めておこう」

しばらくのちヴォルストとギルバート、それに五人の遊撃隊が城門の前に集まっていた。
「まあ作戦は壁をよじ登って上から敵を撹乱することだ。上から矢を射られるだけで我々には大きなプレッシャーになるからな」
「城門はどうすんだ」
「こんなこともあろうかと特性のアイテムを持ってきた。そいつでぶっ飛ばす」
「だがこんな城壁上れるのか?」
「俺一人ならナイフを隙間に突き立てて登れるがお前らじゃ無理だろうからちょっと待ってな」
そう言うとヴォルストは両手に持ったナイフを突き立ててさっさと上にのぼっていく。
10分ほどすると上からロープが下がってくる。
「なるほど、よし一人づつ順番に登れ。それとそこら辺の石を持っていって登り切ったらそいつを落として合図にしろ」
ギルバートが指示すると五人は順番にのぼり始める。
最後に周りにだれもいないのを確認してから自分も登りの作業に入る。
「でどうする、すぐに行動するのか」
登り切ったギルバートはヴォルストに尋ねる。
「明け方までぶっ通しで動ける自信があるならいいが?」
「あんまり無いな」
「じゃあしばらく休憩だ。武器の確認ぐらいしといた方がいい」
「ちょっと待て見張りに見つかるぞ」
「この砦に隠し部屋か何かはないのか」
「さあ、ここの情報は我々遊牧民でも入手できませんから」
遊牧民からこの部隊に参加している人物が言う。
「ギルはこの前のベム砦での作戦では隠し部屋で休憩したんだよな」
これはレジスタンスから参加している者だ。
「・・・・そこのくぼみに隠れて出てきた見張りを襲う。で、そいつから仕事を聞き出して、装備を奪って兵士になりすます」
「それじゃほとんど強盗だな。それに七人分も集めるのは苦労するぜ」
「出てくる兵士の分だけでいいさ」

そうやって彼らは3人の見張りを捉え見事内部に潜入することに成功したのである。
「そろそろかな」
「ああ、中には行った3人はうまいこと敵を混乱させてくれればいい」
「ここからは各自別行動だ。死なない程度にがんばれよ」
そう言うとヴォルストは真っ先に飛び出す。寝ぼけまなこの外壁の見張りは驚いて構えるがそのときはすでに斬られている。騒ぎはすぐに内部に広がり砦の中は騒がしくなる。
ヴォルストはっさっさと下り階段を見つけると主に弓を持った兵士を倒しながら階下に進んでいく。
「敵がしたに降りたぞー」
誰かが叫んでいる。ヴォルストはほくそえみながら走る。
あっと言う間に城門の前にまできた彼は懐から球状の物体と火打ち石を取り出して、導火線に火を付け、門に向けて投げる。
「ぼちっとな」
彼がそう言うと球状の物体は爆音とともに破裂し城門を派手にぶっ飛ばした。
彼はそのまま外に出ると夜の間に行進していた約70の戦士が控えている。
「よう、おまたせ。さっさと行っていいぜ」
「おまえ、なにしたんだ?」
「説明は後々。そうそう、3人ほど敵の兵士に紛れ込んでるから」
「お前はどうするんだ?」
「もっかい上にのぼる」
そう言うとヴォルストは夜中に自分がおろしたロープにに向かいさっさと登り始める。
「これが我が祖国の解放の第一歩だ。全員突撃」
誰かがそう言うのが聞こえた。

ギルバートは未だ最上階で敵と渡り合っていた。中に入った3人はうまいこと敵を誘導しているらしくこちら側には大勢の敵はこない。
「ちっ、さっさとフォルの奴等がこねえとやばいな」
すでに彼は一人で3人の敵を倒していたが、アーチャーの動きを警戒してなかなか前に進めない状態だった。
「何ちんたらやってやがる」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「おまえ、先に行ったはずじゃあ」
「ああ、主力は城門を突破したぜ。階段を制圧しないとな」
そう言うとヴォルストは広場におどりでる。
すぐさま彼に向け矢が放たれるが、彼は器用な動きでそれらには捕まらない。そうこうしている間に後ろにまわったギルバートがアーチャーを倒していく。

城門を突破した主力は敵の歩兵部隊と一階で激戦を繰り広げていた。
敵の歩兵のほとんどは遊牧民からの徴集兵なので敵に同胞がいるのを見ると寝返り、敵の重装歩兵部隊との戦いも終わろうとしている。
「ちぃ」
敵の繰り出す槍をかわすのが精一杯でフォルケルはなかなか敵に近づけない。
「らぁ」
何度目かの敵の突きをかわすと同時に敵の槍を左脇に抱えると右手の剣を振り下ろし重厚な鎧もろとも叩き斬った。
「くそう、さすが本国から派遣されている部隊だ」
隣ではレイチェルも苦戦している。鎧が厚すぎて矢がはじかれてしまうのだ。
レイチェルは弓を捨てると敵に突進する。急に攻撃パターンが変わった敵は一瞬たじろいでしまう。それが命取りになって次の瞬間にはレイチェルの小剣が敵のまひざしから深々と刺さっている。

他のみんなも初めは推され気味だったが、数で圧倒していたため一人に対して2人以上でかかり戦いの行方は明らかになった。
一階の戦いを抜けるともうすでに上の階の敵も投降しており、敵の司令官は捕らえられていた。
「く、貴様等ただですむと思うなよ。主力の重装騎馬隊が帰ってくればお前等など・・・」
「あれなーんだ」
フォルケルが指した方向を見ると敵の重装騎馬隊がこちらに向かってくる。
「おお、戻ってきたか。これで貴様等も終わりだ」
「何勘違いしているんだ。あれは敗走しているのさ。ほら、後ろから遊牧民の騎馬隊が追撃をかけている」
「な、・・・・馬鹿な」
「あいつ等砦が占拠されているのを見たらどう思うかな」

砦が占拠されたことを知ると重装騎馬隊は次々と投降を始めた。
話し合いの結果投降した者達は武装解除をさせて解放することになった。
この動きを受けてアラディーのかなりの部族が自分たちの縄張りから侵入者を追い出すべく、敵国軍と遊牧民の小競り合いが繰り返されることとなった。
レジスタンスはそれらの小競り合いに参加し次々と勝利を収め、アラディーの南部から帝国軍を追い出すのに大した時間はかからなかった。

 

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