4:アラディーへの道中
二日後ヴォルストはレジスタンスに七つの馬車を用意した。それぞれ立派過ぎもせずおんぼろでもない。できるだけ目立たなくしているのだとレジスタンスのメンバーは思った。
「戦争やってる大陸で遺跡の発掘で生計を立てる奴は珍しいから、それぞれの馬車にはこの辺りの特産品を積んでおきました。道中適当に売っていって下さい。後あまり目立たないようにして下さいよ。それから、・・・・・」
「ふぁーあ」
「ねえヴォルストの説明聞いて無くていいの、フォル」
「いいのいいの、どうせあいつと俺達は一緒にいくんだから」
「やっと終わったようだな」
レジスタンスの仲間達は別々の場所に用意された馬車に向かうべく宿屋を出ていく。
「俺の説明聞いてなかっただろう」
「どうせ商売はお前がやるんだろ?」
「ああ、そうさせてもらえるとうれしいですね。できれば目的地も決めさせてもらいたいもんだ」
「別にかまわないが、約束の日に遅れるようなことにはなるなよ」
「ギルバート、有り難う」
「ギルでいいさ」
「俺もフォルでいい」
「ではギルにフォル、おまえ達にはちょっとしたプレゼントがある」
「なんだそれ」
「馬車に言ってからのお楽しみさ」
そう言ってヴォルストが出ていったのを気に彼らも宿を出ていった。
フォルケル達の乗る馬車はヴォルストが見本用に宿の前に持ってきていた。
「さて、と。こいつだよ。これがフォル、んでこっちがギルのだ」
そう言ってヴォルストは馬車に満載されたにからいくつかの包みを取り出す。それらを受け取った2人は包みを開けてみる。
「この意匠は・・・北の大陸のものだな。と、なるとフラムベルクかクレイモアか。この剣のつくりからしてクレイモアのほうかな」
「なかなか博識だな。そう、そいつは北の大陸の名産品の一つ、大剣の代名詞ともいえる品だ。お前さんなら使いこなせるだろう」
「俺のは小手・・・か」
「そうさ。おまえ達の使っている小手は頼りないからな。お前に渡したのは格闘戦のために作られたものだ。そのせいで投擲などはやりにくくなるけどお前にはその方がいいだろう。後は人数分の小手とすねあてを用意している」
「すまねえな」
「別に礼を言うほどのことでもない。俺は戦闘になったら逃げるしか能がないからね。おまえ達には強くなってもらわないと。じゃあ、いこうか」
ヴォルストが馬車に乗り込んだのを見て3人もそれに続く。中はヴォルストの用意した交易品でいっぱいだった。
「こんなところで寝泊まりするのか」
「いやなら外にするんだな。人数分のテントも積んである。もっとも炊事は外でしなくちゃならないんだ。それに常に一人は御者をやるんだから何とかなるだろう」
「ほんっとにぎりぎりだな」
「馬は大丈夫なのか、ヴォルスト」
「そういやお前は遊牧民の出身だったな。馬を大切に思う気持ちは分かるが別に急ぎの旅じゃないからゆっくりいけば大丈夫さ」
「早くいきましょうよ」
「そうするか」
そうして彼らは出発する。
最初は街の検問をかわすためにヴォルストが御者をする。
「とまれ」
「なんでしょうか」
「おまえ達はどこにいくつもりだ?」
「そうですね。この街で積んだ北の大陸の品や日用品が高く売れるところ・・・・さしずめカシューラやアラディーにいこうと思います」
「仕事なんでな。中を調べさせてもらうぞ」
「そんなことしている暇があったらそこの飲み屋で一杯やっていたらどうだ」
「あいにくそんな金は持ち合わせてはいない。それとも何かお前がおごってくれるのか」
「まさか。商品を買ってすっからかんですよ。でもこれくらいのことならできますがね」
そう言ってヴォルストは懐から酒瓶を取り出す。
「お仲間にも分けてやって下さい。こんな中大変でしょうから」
「だがみんなで飲むにはちと少ないような気もするが」
「参りましたね。ではもう二本どうぞ。」
「すまぬな。よし通っていいぞ」
「何かアラディーへ抜ける道で注意しなければならないことを教えてもらえるとうれしいのですが」
「ああ。最近はかなり野盗が出没しているようだ。後は別に代わったことは無いな。がんばって稼いでこいよ」
「そちらこそお仕事がんばって下さい。では」
そう言ってヴォルストは馬を進める。
「あんまり感心できるやり方では無いな」
「そうかりかりしなさんなって。賄賂で検問を通過するのは常識だぜ、ギル」
「実際何かまずいものでも積んでいるのか」
「いや、多分積んでないはずだが運が悪けりゃ俺達の武器を没収されるかもしれねえな。戦時中だから武器の数は不足しているはずだ」
「他の奴等は大丈夫なのか」
「違法なものは積んで無いって言ったろ。ほぼ間違いなく大丈夫だよ」
ヴォルストはまっすぐ街道を行かずにジグザグに進路を取って、あちこちで取引をしながらゆっくりとしたペースでアラディーに向かっていた。彼の舌は商売の時は非常に良く動き常にかなりの利益を得ていた。
「全く、ちょっとは安く売ってやったらどうなんだ」
「どうせこの時期は戦争で税金が上がっているんだから商人に取られるもお役人に取られるも同じことさ」
「私は違うと思いますけど。お金がなかったら今度はその人の家の家具なんかを持っていくんじゃないでしょうか」
「そうだろうね。でも民衆も黙ってそれを見過ごす訳じゃないだろう」
「反乱を起こすのか、だがすぐに鎮圧されるぞ」
「それでも帝国への不満は抑えることはできない・・か。だが何人もの人が死ぬだろう。俺はあまり賛成できないな」
「遅かれ早かれ俺みたいな商人がいるならその事態はやってくるさ。・・・あんまり歓迎したくないお客がきたようだ」
「野盗・・・か」
「おおかたそんなところだろう」
「全く物騒になったもんだ」
そう言いながら彼らは自分自身の武器を取る。
「七、八・・・十人はいるかな」
「ヴォルストお前武器はいらないのか」
「ああ、そこのサーベルを取ってくれ。自分の身くらいは自分で守ってみせるさ」
「おい、金目のものと女を置いていけ。そうすりゃあ命だけは助けてやらあ」
「何ともまあ、典型的な。こいつらのボキャブラリーってのは変わらないのかねえ」
「だから賊なんだろ」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる」
「うるっさいね」
そう言ってヴォルストは服の下に隠してあるブーメランを投げる。
「はん、こんな子供だましにだまされる・・・・」
男は最後まで言わずに倒れる。ヴォルストが横を駆け抜けると同時に男の喉を切ったのだ。続いて近くにいた男が2人レイチェルの矢を受けて倒れる。
「なんだこいつら」
「ただの行商だよ」
そう言いながら、ギルバートとフォルケルはそれぞれ2、3人と向き合う。レイチェルも弓を捨て近づいてきた男に小剣で渡り合っている。
「くそうふざけやがって」
離れていた野盗の一人がボウガンのねらいをレイチェルに向ける。
「はーいそこまで」
その男の後ろにヴォルストが回り込んでいる。
「おとなしく弓を捨てないと後ろからぐさ、だよ」
「俺がこいつを撃つのとお前が俺を殺すのとどっちが早いと思う」
「やめといたほうがいい、そんなちんけなボウガンじゃ彼女を殺すことはできないよ」
「やってみるさ」
そう言ってボウガンを発射する。
が、矢は軌道が変わってレイチェルにはあたらない。
「な、馬鹿な」
「言ったろう殺せ無いって。初歩の風の魔法だよ。もう一度警告しよう。弓とその他の武器を捨てたら命だけは助けて上げよう」
男は観念したよに弓を捨てたが、その直後腰の剣を引き抜いて後ろのヴォルストに切りかかる。だがヴォルストはすでに後ろに下がっていて気づいたときには男の喉には彼の投げた短剣が刺さっていた。
馬車のほうを見るとレイチェルの戦いも終わっていた。
ギルバートとフォルケルはまだそれぞれ2人の敵を相手にしていたが2人とも余裕のようだ。ギルバートの相手は両方とも顔や手が腫れているようだったし、フォルケルの相手もあちこちを切られている。
「そろそろ終わりにしようかね」
ギルバートは目の前の敵に語るように言う。そして一人の顔面に強烈な一撃をたたき込む。それを見たもう一人は逃げようとするがギルバートに後頭部を殴られ気絶する。
フォルケルはすでに一人倒していた。後の2人も何とかなりそうだ。一度後ろに下がるように見せかけると片方がつられてやってくる。フォルケルはその男の肩に突きを入れ、悲鳴を上げる男を無視してその後ろからやってくるもう一人に切りかかる。敵は剣でそれを防ごうとするがフォルケルのこん身の一撃は敵の剣を折り、敵の肩から袈裟掛けに斬った。
と、倒れた男の後ろから火球がフォルケルに襲いかかる。フォルケルはとっさに剣で火球を斬っていた。
その火球を放った男の肩にヴォルストの投げた短剣が刺さる。そしてうめく男をギルバートが取り押さえる。
フォルケルが周りを見るともう敵はいなくなっていた。おそらく何人かは逃げ出しただろう。もっともこちらは四人しかいないので追うことはないと思った。あちこちからうめき声が聞こえる。敵の死者は少ないようだ。
「さて、と。どうするかねフォル」
「さっさとここを離れた方がいいだろう。別の野盗が来るかもしれない。それより魔法が使える奴が混じっていたのが気になるな」
「今ギルが取り押さえているわよ」
話を聞いてみるとその男は元神官だったらしい。戦争で負けて野盗の仲間入りをしたようだ。
「神に仕えるものが賊になるなんて世も末だな」
「こいつらどうする」
「ほっとくしかないだろう。手当なんてしてたら別の奴等が来るかもしれねえ」
「ま、運のいい奴は生き残るんじゃないの」
そう言って彼らは馬車に戻るとうめく敵を残してその場を後にする。
「お前結構強いじゃないか」
馬車の中から御者をしているヴォルストに声が飛んでくる。
「逃げ足には自信があるって言ったろ。それよりフォル、お前魔法剣が使えたのか」
「ああ、まだ完璧じゃないが何とか使えるようになってきたようだ」
「魔法剣って」
「自分の武器に魔力を上乗せして攻撃することだよ。高等な技は遠距離にいる敵を倒すこともできるし、さっきみたいに敵の魔法攻撃も防ぐことができる。俺も一応使えるぜ。これでも風の魔法が使えるからな」
「それで私を敵の矢から守ってくれたんですね」
「あの切れ具合からするとお前は氷の魔法が使えるのか」
「少しは心得ているつもりだ」
「なるほどね、しっかしほんと物騒だな」
「ネルスを越えれば少しは治安も良くなるさ」
「多分ね、けど帝国の警備がきつくなるでしょ」
「そうだろうね」
「帝国兵なら何とかあしらえるさ。お、見えてきたぜネルスだ」
「うーん、やっぱりベッドはいいねえ。何日か滞在するのか、ヴォルスト」
「リーダーはお前だフォルケル。お前が決めればいい。別にここで特に売らなければならないものもないし、もしも滞在するなら情報収集と荷の整理をやっとくがな」
「2、3日滞在しないか。他の奴等がちゃんと通過したかも確認したいし、少しは骨休めもできるだろう」
「そうだな・・・そうするか。じゃ、レイチェルにも伝えてくるわ」
「俺は情報集めも兼ねてこの街の相場を調べてくるか。ギル、お前はどうする」
「・・・・ちょっときてくれないか、聞いておきたいことがある」
「???」
「話ってなんだ」
市場の路地裏にギルバートとフォルケルがいた。ギルバートが連れ出したのだ。
「率直に言おう。お前本当は北バーミアン帝国のシェイド将軍じゃないのか」
「俺が、あの、遊撃部隊のか?悪い冗談だ」
「俺はかつてあいつと戦ったことがある。さっきのお前の動きがシェイドとそっくりだった。あんなに素早く攻撃に移れる人間を他には見たことがない」
「世界は広いこれぐらいの能力を持つ人間は他にもいるさ。俺は少なくとも他に一人は知っている。それにシェイドは離反したって噂だろう」
「あくまでも噂だ。実際のところは誰も知らない。そもそもシェイドの顔を見たって奴すらそういない。俺も奴の顔は覆面に隠れていて見えなかった」
「当然だ。あいつはいつも外に出るときは顔を隠していた」
「なにっ。あったことがあるのか」
「言ったろう、レナードとはちょっとした中だって。シェイドのことについてもお前よりは知っているはずだ。それについては今日の晩飯の時にみんなの前で言おう。俺は市場にも用があるんでな」
ヴォルストはさっさと市場の喧騒に消えてしまった。ギルバートもすぐにその場を後にする。
ゆうぐれ、フォルケル達の泊まっている宿ではヴォルストの説明が始まろうとしていた。
「で、何から言えばいいんだ」
「お前がさっきシェイドにあったことがあるって言ったよな」
「ああ、カシューラでの決戦の時さ。俺はシェイドの部隊に補給兼輸送隊として一緒にいたんだ。そのときにちらっと見たことがある」
「本当は北帝国のスパイじゃないのか」
「ふう、パルメアでも言ったがいくつかレナードから頼みを聞いているからそれについては否定はしないさ」
「もういいんじゃないのか、ギル。最初からこいつがスパイである可能性はあった、だから俺達のチームにまわされたんだ。そのスパイがたとえシェイドであっても事態はなんにも変わらない」
「しかしだな」
「貴公、ヴォルスト卿とお見受けするが?」
討論のところに一人の男が割り込んでくる。姿を見てみるとダンガ帝国の騎士らしい。普通の兵士とは身なりが違う。腰に付けた剣の装飾も立派なものだ。
「確かに俺はヴォルストだが」
「やはりそうでありましたか。パルメアであなたがカシューラに向かったと聞いたので慌てて追っていたのです」
「そいつはご苦労さん。あんた皇帝の使者か?」
「はい、陛下からあなたにこの親書をお渡しするよに承っております」
そう言って懐から一つの封筒を出す。
「ふーん、お前さんはこの親書の内容を聞かされているのか」
その封筒の中を読みながらヴォルストが使者に尋ねる。
「はい」
「じゃあ聞くがこいつはダンガ帝国内の主だった人物全員に渡される予定なのか」
「はい、私の他にも何人かの使者が帝国内の様々なところへと使わされております」
「なるほどな。ちょっと待ってくれ。帳場でペンを借りてくる」
そう言ってヴォルストは席を外す。
「おいあんた。ヴォルストはダンガ帝国内でもそんなに有名な人物なのか」
ギルバートが使者と話し始める
「はい、帝国の武器の補給はあの方によるところが大きいと聞いております」
「ふーん、ところであんたレイチェルって貴族の令嬢を知っているか」
次はフォルケルが質問する。
「実は私、貧しい家の出身で武勲を認められつい最近騎士の叙勲を受けたばかりでして、これが騎士としての最初の任務なんです。ですからあんまり貴族の方々の事情は・・・」
「あ、そう」
「皆様はヴォルスト卿の護衛か何かですか」
「そんなところよ」
文句をいいたそうなギルバートより早くレイチェルが答える。
「おい、これでいいんだろ。サインしておいたぜ。陛下にはできる限りの努力をします、とお伝え下さい」
「わかりました。ではよい旅を」
男はさっさと出ていってしまった。
「おい、親書の内容はなんだったんだ」
「言うより見たほうが早いだろう、ほれ」
そう言ってヴォルストはフォルケルに差し出す。
それを見たフォルケル、ギルバート、レイチェルの3人は驚いた。
そこには、現在行方不明のアラディー国の王女ファナの行方を探し出し、皇帝ゼフィールの元に連れてくることと、皇帝ゼフィールの一人娘ユリア姫が行方不明になったので探すようにとの皇帝からの要請が書かれていた。
「あいつらも馬鹿じゃなかったって訳だ」
「え、どういうことヴォルストさん」
「戦力不足のアラディーを王族を抑えることによってカバーしようとしているのさ。エラードとアラディーの民の王族への忠誠は半端じゃないから、間違いなくアラディーで反乱が起こることはなくなる」
「ぐ、本当に王女は行方不明なのか」
「お前の王女を思う気持ちは分かるがそれは間違いない。かつて北帝国が大陸を統一した際に戦死した、あるいは捉えた王族は全員公表している。その中にアラディー国のファナ王女の名はなかったはずだ」
「こうなるとでいるだけ速くアラディーの解放をしなければならないんじゃないのか?」
「そうなるだろうね。でも大丈夫さ、こちらには切り札があるって言ったろ。敵さんも同じ切り札を狙っているけどそのカードは俺が握っているからな」
「お前、王女の居場所を知っているのか」
「そいつは迂闊に言わない方がいいぜ。なんせどこに敵のスパイがいるかわからないからな。ただこいつは言える。かつて北帝国が大陸を統一したときにそのときの実質的な指導者レナードは何人かの王族を捉えたときに本人が望めば故郷で暮らさせることを許したんだ。身分はあかせず、監視もつくという条件だったがね。その中にはエラード王国第三王子アリオーン、そして前アラディー王の末子で唯一人生き残った王族、ファナ王女もいた」
「何、それじゃあその後王女は」
「なんでも見張り兼護衛としてシャルロット将軍以下数名のものがいたらしいが、南帝国ができて北帝国が南部からの撤退を決意したとき王女はその場所に留まることを望んだらしい。これについてはエラードのゲルノート王子も一緒の選択をしたらしいな」
「じゃあ王女はアラディー国のどこかにいるのか」
「さあね。シャルロット将軍が撤退するときにどこか別の場所に移したかもしれない」
「どうせお前は見当がついているんだろう」
「まあね。レナードの頼み事の一つが王族の様子を見てきてくれ、だったからな」
「本当か」
「さあ嘘かもしれないし本当かもしれない。こんなところでそれを聞くもんじゃないよ」
「よくそこまで情報を仕入れたもんだ」
「そりゃあレジスタンスにはいると決めてからは役に立ちそうな情報は全て掴んでおいたからな。この行動にはレナードの私用も含まれているから、あいつはは北バーミアン帝国の裏の情報も色々教えてくれたよ。いずれ話す機会があれば教えてやる。もっとも俺がいつどんな風に行動を起こすかは言ってないからレナードも今俺達がこうしていることは知らないはずだ」
「ますますお前が怪しく思えてくるよ」
「だろうね」
「でもここまであっけらかんと秘密をしゃべられれば、疑う気力もなくなるな」
「お前がシェイドであろうが無かろうが北帝国に関係ありますって自分から白状しているもんなあ。そういえばベム砦で俺達を助けてくれなかったか」
「例の黒装束の男かい。残念ながら違うね。俺はそのとき下の階で他の方々の戦闘に巻き込まれていたよ。それについては砦の連中も知ってるぜ。そこで武器を納品していたところだったからな」
「じゃあ、あれがシェイドなのか。それにしてもあのときにお前があの場にいたとはな」
「その戦闘の後をついてっておまえ達に接触したんだよ。それよりそろそろ食事にしないか」
「そうだな」
夜更け・・・・
「スースー・・・」
ギルバートの寝息が聞こえる。
「ヴォルストちょっといいか」
「やっぱりそう来ると思っていたよ。ギルやレイチェルの前じゃ言いにくいだろうしな」
「じゃあ」
「ああ、あのお方は無事だ。どっかの薬剤師がまずい薬を作って、以前より元気になったって噂もあるくらいだ」
「そうか。その薬剤師に礼を言っておいてくれ」
「そいつはどうも」
「・・・・有り難う。しかしお前はほんとに意外な人物だな」
「そんなことはないさ。あのお方の主治医を聞いたらもっとびっくりするかもしれねえぜ。んじゃ、おやすみ」
二日後
「うーん、天気もいいし出発するかあ」
「のんきねえフォルは」
「うっせえな。俺だって心配事の一つや二つ、もっているんだぜ」
「それは以外だな、是非とも聞かせてもらいたいもんだ」
「なにい」
「それよりさっさと行った方がいいぞ。俺達は一番遅れているみたいだ。他の馬車は全部通過していた」
「それにしても随分広くなったなあ」
「ほとんどの荷を整理したからな。後残っているのはアラディーで高く売れる貴金属やガラスの細工物くらいだ」
「じゃ、もうどこにもよらずに街道をまっすぐ行くのか」
「そうなるかな。だがカシューラで数日滞在して欲しいな。おまえ達のベム砦での騒ぎの反応がわかるし、一応元カシューラ王国の首都だからそこいらの街よりは多くの物や情報が行き交っているはずだしね」
「そういえばファナ姫がどこにいらっしゃるかを聞いてなかったな。ここなら教えてくれてもいいだろう」
「一応アラディー国内にいるはずだ。詳しい場所までは今は教えられんがな」
「なんでだ」
「レジスタンスが行動した後にアラディー王家にはご登場願いたいからだよ。実際最初から王女を迎えると人々は王女の挙兵にレジスタンスが協力したと思うかもしれない。だが、レジスタンスの挙兵に王女が応じたとしたほうがレジスタンスの存在感を前に出すことができると思う。それにひょっとしたら王女は我々に参加してくれないかもしれない」
「そんなことが・・・」
「王位という束縛から離れたほうが幸せかもしれないだろ。それに二年前の戦いで婚約者が行方不明らしいからな」
「エラードの第二王子フォーブス殿下のことか」
「俺にはそれが政略結婚か、恋愛から生まれたのかはわからないがそうでなくとも家族や多くの自国の民が死んでいるんだ。この上犠牲を出すようなことにあまり賛成はなさらないだろう。だからあくまでも彼女には最後の手段として俺は出てもらいたいと思っている」
「お前にそんな気遣いができるとはな」
「ふん」
「それよりお前はエラードの第三王子の居場所も知っているのか」
「一応見当は聞いている。もっとも監視とはこれからは気ままに旅でもしていきると言って別れたらしいから、それがあたっている自信はないが」
「ふーん。ま、あんな放蕩王子でもいたほうがエラードの解放は楽になるんだと思うんだが」
「多分かなり楽になるはずだ。あの王子随分と城下の民には人気があったようだからな」
フォルケルが断定口調で答える。
「そういやフォルはエラード出身だったな。だけど国王を捨てて逃亡したんだろ。その人気も地に落ちているさ」
「案外そうでもないらしい。俺の聞いたところじゃ、あの王子の人気は衰えて無いみたいだ。まあ、簡単に言えばあの王子の力は誰も信用してなかったからだろうな」
ギルバートの言葉はヴォルストによって否定される。ギルバートはそれが気に入らないらしく、口をへの字に曲げる
「へー、おれは故郷を出てからほとんど帰ってなかったから知らなかったな」
「ま、必要になれば探し出せばいい。ひょっとしたらそのうちのこのこ出てくるかもしれないしな」
「自分が王位を継げるから?いやな感じね」
「だがロウィーナ姫は北帝国に囚われているんだろ。俺達もエラードでは迂闊に動けないな」
「そういう話はアラディーを解放してからにするんだな」
「そのことについても何か考えがあるのか」
「今は何とも言えないな。確証がもてたら話してやるよ」
「なんだそりゃあ」
ネルスからカシューラまではおおむね順調に進んだ。何度か野盗に出くわしたが小規模なものだったし、帝国の哨戒任務にあたっている兵士ともヴォルストの巧みな話し方で戦闘にはならずにすんだ。
カシューラではレジスタンスのベム砦襲撃によって大陸の南北の行き来が難しくなっていることがわかった。カシューラは内陸部ということもあってエラード領内ほど栄えてはいなかったのだが、ヴォルストはそこでも多少の荷の売買をして儲けていたようだ。
カシューラとアラディーの国境の砦まではかなり物騒になっていた。街道では盗賊が、山に近づけば魔物達まで出てくる始末だった。ヴォルストの予測通り、アラディー方面には兵士が回せないのが帝国の現状のようだった。
「ふう、やっとこさアラディーにやってきたな。全く、なんでこんなに物騒になっているんだ」
「こんな状態じゃ、武装していないほうが怪しまれそうね」
「確か集合は首都のヴァ・アラディーだよな。そこの砦で荷物を整理しねえとな」
「なんで」
「アラディーは広いからな。ヴァ・アラディーへ来る一部の商人は荷を馬車で運んでいるが、多くの商人はアラディーと貿易する場合そこの砦周辺の市場でするんだ。ヴァ・アラディーへ行くなら馬車を捨てたほうが時間の節約になる。だが俺達は怪しまれないか。この程度の荷なら普通はヴァ・アラディーまでは行かないはずだが」
「あの皇帝からの親書を見せればおそらくどこだってフリーパスだ」
「その手があったか。こいつは便利だ」
「取りあえず砦で馬車を売って、荷馬も含めて八頭くらい欲しいな。ギルお前、それだけの馬を操れるか」
「一応ここの出身だからね、それぐらいは何とかして見せるよ。それより他の方々は乗馬の経験があるのか」
「俺は一応心得てはいる」
「私はちょっと・・・・」
「まあ北部は山が多いからしかたないな。しばらくはフォル、お前の後ろにでものっけてやれ」
「なんで俺が」
「ギルは無人の馬を見張らなきゃならんし、俺は地面に注意を向けておきたいからな、素人を乗せる余裕はない」
「地面・・・・お前薬草に興味があるのか」
「???」
「アラディーの草原には薬草となる植物が多く生えているんだ。もっとも普通の商人なら興味を持たないが、見る人が見れば宝の山らしい」
「まあな。もっともそこら辺にはえている薬草が欲しい訳じゃないからそうそう立ち止まりはしないが、やっぱり素人を乗せられるほどの余裕はないさ」
「ちぇ」
「ま、休んでるときに練習していればすぐにうまくなる」
国境の砦で彼らは馬車を売りヴォルストが今まで稼いだ金で十頭近くの馬を買い、残り少ない荷を馬に載せる。
そして彼らは一路東に向かった。途中ヴォルストが何度か馬から下りたがすぐに追いついてくる。
何日かたつとレイチェルも何とか乗れるようになった。
ヴァ・アラディーまでの道は極めて順調だった。そもそも遊牧民はほとんど自給自足の生活をしているため、盗みでもしなければ生きていけないような事態には滅多にならないのだ。