黄金の月
嫌だと慌てもがくイルカをなんなく腕に抱え上げて、カカシは機嫌よく風呂場へ直行した。湯は都合のいいことに、温めにはなっているだろうが沸かしてあったという。だが、イルカの家は狭く、また風呂場も狭い。シャワーも申し訳程度についているだけで、取っ手に少し錆びが浮いている。
そこに大の男二人が入るというのだ。イルカの渋る理由も分かる。だがそれは普通に入った場合だろう、とカカシは取り成す。
首を傾げるイルカに「こうすればいいんですよ」と、抱きかかえたままのイルカごと、湯に入った。
ざあっと湯があふれ出る。たしかに冬の風呂にしては少し温いかもしれないが、ぴたりと重なりあって座って入ってしまえば、実質、感じるのは相手の体温が大半だ。
「カ、カカシさん…! こんな、狭いし、俺…っ」
「でも風呂ですよ、いいじゃない、綺麗にしてあげます」
言って、やんわりと萎えたイルカを扱いた。びくりとイルカの身体が竦んで、水音が跳ねる。湯気が柔らかく動く。
指は、イルカの先端を優しく撫でると、くびれをなぞる様に伝い根元へ向かう。
「そんな、ところ、汚れてなん、か…あぁ…!」
掌全体で包んで、硬くなったそれをぎゅっと握った。前かがみになって、狭い湯船でカカシから逃げようとするのが可笑しくて、カカシはわざとそのままにする。どうしても嫌なら湯船から上がればいいのだから。
「じゃあこっちもだね」
カカシは離れた僅かな隙間に、空いていた手を滑り込ませた。そして先ほど放ったものがまだ残るそこへ、指を差し込む。途端に、イルカの身体が揺れる。
ぐ、と人差し指を突込み、指を曲げて掻きだそうと動かせば、イルカが喘ぐ。
湯が音を立て、粘膜のたてる音よりも色めいて聞こえた。
「や、あ…お、湯が、あ、あッ、…ぅん…ッ」
声が浴室に響く。カカシの腰にくる声だ。掻きだす指をいっそう激しく出し入れすれば、堪えきれない喘ぎが、さらに響く。耐えるように前に傾いた首筋へ、耳朶へキスを落とした。そして「ごめんね」と囁いた。今日はこれで三度目だな、と何故か気づいた。
「え?」
イルカの戸惑いもかまわず、カカシは湯からイルカを引き上げ、浴室の冷たい壁に手をつかせた。そして腰を掴み、すでに立ち上がってしまっていた自身を、押し当てる。イルカが息を呑むのがわかった。
指で慣らしてほぐれたそこは、カカシの先端が当たっただけで、つぷりと尖りを飲み込んだ。
「入れるね」
「ぇ…、ッぁ、ん―――………ッ!!」
二度目だったからだろう、イルカのそこはカカシを奥まで容易く飲み込んだ。。ぴんと張ったイルカの背を抱きしめて、カカシは律動を開始する。
「あぁ、あ、あ、あ、…カカシ、さん、あんまり…あぁ…ッ」
「なに?」
「うご、か、ないで…ぁ、あぁ…!」
ひときわ大きく腰を使って責めれば、イルカが声を途切れさせる。喉の奥からだすような、裏返る寸前の、声。カカシの欲をさらにそそるような。微かに震えていたイルカの指先へ、自分の指を重ねる。冷たい浴室のせいで、冷たく、カカシは重ねた上から握りこんだ。
「それは無理だよ」
自分の声も少し枯れていた。腰が熱い。ぐ、ぐ、と突き上げて、イルカの内壁を貪る。もっと奥を侵したくなる。窮屈な入り口の中は、まるで果てがなく熱くぬめりでもってカカシを包み込む。
「無、理、って、そん、な…あぁッ、や、あ、あ、ああ」
「ほら…、ずり落ちちゃうよ」
熱い。風呂に充満した湯気とイルカの匂いとが。
力なく壁に寄りかかってしまいそうになるイルカを、抱えて、胸の先端をぐちっと捻った。
「ひゃ、ん…!」
「可愛い」
多分、イルカには聞こえていない。それを承知で言った。茹だりそうだった。カカシでさえそうなのだから、おそらくイルカも限界が近い。赤く尖ったそれに未練があったが、指を下半身へと動かし、芯を持ったままだったイルカ自身を握りこんだ。律動とともに上下にぎゅっぎゅっと扱いた。イルカが鳴く。
「ふぁ、もぅ、んぅ、も、おれ…ッ」
「いいよ」
「ッぁ、も、ふ、ぁああ―――…ッ!」
達した瞬間、イルカの内部がぎゅっとカカシを締め付け、カカシはこれ以上ないほどイルカに自身を突き入れた。そして最奥に白濁を吐き出した。
すっかり茹だってしまったイルカを、カカシはベッドに運んだ。それから気づいて、シーツを取り替えた。前にきいたことのある場所をなぜかよく覚えていた。自分にすこし感心してしまった。
「イルカさん?」
呼びかけても、半ば意識のないイルカは、不明瞭な返事を返すばかりで、瞼を開いてはくれない。あの真っ黒な眸を。
それを残念に思って、カカシはともにベッドに潜る。抱きしめて、そこではじめて、安堵のような溜息をついた。
―――なぜかははっきりと分からない。
だが、どうしてだか、意識のないイルカの体を抱きしめて、その温度に脳と身体がいっぱいになり、そして溜息がでた。
女の身体に感じる柔らかさもしなやかさも、可憐さもない。カカシは女の身体が嫌いではない。抱きしめると男の身体にぴたりと納まるそのおうとつが好ましい。抱き合うために性が分かれているのだと言われれば信じてしまいそうなほど。
だが、そんな好ましい全てがないはずのイルカに、どうして抱きしめて溜息などがでるのだろう。
考えても答えはでない。
自分のことだというのに首を捻って、カカシはイルカの体温に身体を寄せた。やはり、頭のなかがぬくもりにいっぱいになって、これが全てだという心地になる。安堵にとても似ている。そう、水底の冷たい温もりのような、揺るぐことのない安らぎに。
気のせいかな。
呟いて、カカシは瞼を閉じた。
夜の明けるまで、頭のなかのすべてを体温で包んで、一眠りしようと。
せめぎあっていた何もかもを、ひとまず忘れて。
閉じた瞼を、冬の冴え冴えとした月が照らしていた。
2003.12.24