黄金の月
じゃれあうように、その肌を探る。肋骨の上をつたって胸の突起を舌先で転がす。身じろぎするイルカを抱きしめて、唇でぷくりと立ったそれを擦ると、喉を鳴らした。
久しぶりの性交だった。
任務のあいだは誰とも交わらなかった。ちょうどいい相手がいなかったこともあったし、億劫だと思う気持ちもあった。里に帰れば、イルカが居る。
密やかな吐息を漏らして、イルカはカカシに反応を返す。けして嫌がるふうでなく、かといってねだるわけでもない。もっと、など言われたことはない。ただ反応を返す。カカシの熱を受け入れているという証しのように。
「ん、ぁ…ッ」
「腰ちょっとだけ、上げて」
耳朶に囁くと、僅かにイルカの背中が浮き、カカシはイルカの下衣を剥ぎとった。寒さに竦められた素肌へ、カカシは自分の肌を合わせる。ぴたりと抱き合えば温かい。
掌を下へとずらして、やんわりと硬くなりつつあったイルカのそれを包んだ。びくりと震えた身体にキスする。自分もそうなのだとイルカの太腿へ腰を押し当て、掌ごと押すように刺激した。
「ぅ、ッん…、あぁ…ッ」
ぎゅっと握って扱けば、ぐんと張り詰めた。先端を指の腹で捻りこむと、溜息のようにイルカが声を上げる。耳に響くそれがより興奮を誘う。
カカシは身体をずらし、硬く芯をもったイルカ自身に舌を這わせた。
「ぇ、カカシ、さん…っ、俺、風呂に…っ」
起き上がろうとした上半身を、下肢に腕を回して浮かすことで、ベッドに沈める。「ぅっ」という抗議の声と、捻って逃れようとする下半身でイルカの抵抗が分かるが、かまわずにカカシはべろりと根元から舐め上げた。汗をかいたと言っていた。そのせいか少し塩味が舌の腹に残り、強いイルカの匂いがした。くらくらとする。もっと、というようにカリ首の周りを舌先で擦って、咥内で吸い上げた。
「や…、あぁッ、は、離して下さい、離して…ふッ、あ、ぁぁ…ッ」
あっけなく達ったイルカの精液を、カカシは自分の指へ絡めとった。ねっとりとしたそれは、むっとするほど濃い。カカシの熱がいっそう疼いて、硬くなった。
仕草やその眸に感じる無味無臭が、こんなにも裏切られる。
そのことに自分でも可笑しいほど興奮した。
「ごめんね」
呟いてイルカの太腿を肩に上げた。双丘を割り、その奥へ指を伸ばす。身体を前へ倒して折り重なるようにすると、苦しいのかイルカが眉を寄せたようだった。指が、普段触れられることのないところへをやわやわと押し、薄い皮膚を押し伸ばし、刺激する。滑りを、ときおりイルカの前身へと戻って、指先にまた塗りつけながら、辛抱強く前戯を施す。
「ぅ……」
指が硬いすぼみにつぷりとはまり、内側の柔らかい肉襞へ侵入した。ぎゅうぎゅうと締め付けてくる熱い襞を、ゆっくりと進んでいく。
「ぁ、あ…」
「イルカさん、大丈夫?」
いうと、寝室の薄闇のなかでも、イルカは濡れて光る瞳をカカシに向けて頷いた。瞬きのたびに、光りが消えたりついたりして、とても綺麗だと思った。欲求のまま、覆い被さって、顔を近づける。
「キス、して?」
訊いたのは、もしかして嫌がるかもというちょっとした臆病と、してほしいという欲求とが、混ざったから。イルカの瞬きを繰り返す光が、ぱちりと閉じて、柔らかい熱が唇を包んだ。夢中になってカカシもそれを包み返す。濡れた舌が咥内をなぞって、それを絡めて歯で甘噛みする。熱い吐息が口端から漏れ出て、おさまり切らなかった唾液が、イルカの顎を伝う。イルカの舌は甘い。
内壁に包まれた指をゆっくりと動かし、硬いそこを解しながら、カカシはイルカの悦い一点を探る。何度目かになる交わりでだいたいの場所はわかるものの、いつも、長く離れていた間のためにその場所は曖昧になってしまう。
ぐ、と曲げた指先が、緩く凝りを感じる粘膜を擦りあげたとき、
「い…っ、や、あ…っ」
跳ねた身体。仰け反った喉元を舐めて、カカシは指を二本に増やし、その場所を集中的にぐにぐにと刺激した。空気が粘膜と擦れあいぐちゅりと粘着質の音がする。
音を楽しむようにカカシは指を出し入れさせた。イルカがそのたびに恥ずかしげに顔を逸らし、カカシの腕にすがってくるのが良い。もっと聞きたい。もっとすがって欲しい。思うままカカシは指を抜いて、予告もなしに、一気に己の牡を突き立てた。
「んッ、ああぁぁ…ッ、ぁ、ぁ…ッ」
背中を弓なりに反らし、イルカの身体がベッドをずり上がる。それを追いかけ、身体を押し付け、ぐ、ぐ、と腰を進めた。熱い。そして狭い。締め付けてくる襞がカカシをぎっちりと包み、離しはせずにもっと奥へといっているかのようだった。
そんなのは多分気のせいだろうけど。
都合の良い感じ方に、カカシは自嘲して、しかしさらにイルカへと密着する。冬の情交へしっとりと汗をかいた肌は、いくら味わっても味わい足りず、イルカの匂いも感じるそれをカカシはねっとりと舐める。
奥まで収まりきった熱を、今度は腰ごと揺すり、少しずつ引きまた突く。
「あ、あ、あぁ、ん、ぅ、あぁ…」
途切れ途切れの喘ぎが、イルカの喉とカカシの耳朶を震わす。気持ち良い。カカシは熱く窮屈に包まれる自身の感覚に、純粋に快感を得る。もっと一緒になりたい、ひとつに。そう思った心を読んだようにイルカの腕がカカシの背へ回される。温もりと重み。抱きしめられる力。
カカシの熱量が一段と大きくなり、ぐん、と突いた。
「あぁ…!」
声を追いかけるように、熱を放ち。
白濁の感覚にまた、イルカも果てたようだった。
ベッドに並んで寝そべって、カカシはイルカを後ろから抱きしめる。首筋に鼻先を埋めると、さっきかいだイルカの匂いがして、ずくんと下半身が疼いた。
そういえば一ヶ月ぶり、だっけ。
思って、自分の性急ぶりが恥ずかしく、同時に納得できもした。
「ごめんなさい、イルカさん」
イルカがあまり余計な寝物語をしないのは、これまでで充分承知していたから、さっきから静かな背中に不安は感じていなかった。だがやはり素直に謝っておくことにする。いちどすっきりさせたら、がっつきすぎた自分がカッコ悪く思えた。
「何が、ですか」
けれど帰ってきたのは、つっけんどんではないが、淡々とした声。先ほどまでの熱はまったく感じられない。その落差もカカシの欲を煽る一因になっていることを、きっと彼は知らない。
「えっと、お風呂入りたいのに、無理やりしちゃって」
「そういうわけでは…無理やり…ではないと思います」
「そう?」
「はい」
言った声も淡々としていたが、カカシはそれに嘘ではない響きを感じ取って、頬を緩めて肩口に口付ける。嘘を言わないそっけなさは心地良い。するりとカカシを通り抜ける。内に篭らずに、まるでソーダ水の炭酸のようにしゅわっと溶けて流れてしまう。
「ね、イルカさん」
「はい」
「お風呂、入りたいですか」
ぴたりとくっ付いた状態で、カカシは耳朶に囁く。熱がまた、疼き始めていた。
「ぇ、それは、まぁ…はい」
「そうですか」
ぎゅぅっとイルカを抱きしめて、カカシは言った。
「じゃあ入りましょうか」
2003.12.24