黄金の月
夕暮れの空が美しかった。
冬の澄み切った色だ。
まるで清水のように思えた。
里の見慣れた大門が、刻限となって閉まって行くのを背中で聞く。木の葉の大通りは、夕刻の買い物時刻で賑わっていた。その中をカカシはゆっくりと歩く。懐の認識票と報告書を提出するために、火影のもとへ向かう。
身体が気だるい。
長めの任務のあとはたいてい感じるものだが、今回は死傷者が出たことでより強く思えた。自戒と、犠牲もしかたがないと考える理性とがゆらゆらとせめぎあって、カカシは疲れる。
報告を済ませて、1日の休暇を申しわたされると、カカシは自宅へ戻った。
冷えた身体を湯で洗い流し、手荒に髪の根元にこびりつく血と泥をおとす。温いものが頭の先からしみこんで、いくつもの筋となって肌をつたい流れていく。
目を閉じその流れを感じながら、シャワーコックを閉じた。流されるのはただの汚れだ。本当に落とし溶かしてしまいたいものは、落ちるわけも無い。ただの気休めだ。
自然とでる溜息で疲れを意識して、カカシは無味の夕食を摂る。
本来ならもうベッドで寝てしまいたかった。だが、心のうちの渦がそれを許してくれそうに無い。こうして物を食んでいるあいだでさえ、成功した幻術や紅の素直な賛辞、死んだ仲間、交流のあった者、その家族、逃げ遅れた街人、崩壊した城、荒らされた街並。嘆く声。声。声。
それらが頭のうちでせめぎ合う。
まったくどうしようもないとカカシは溜息をついて、忍服のまま襟巻きをまいて、外へ出た。寒風が、荒く拭っただけの髪に吹き付ける。
ふとアスマの驚いた顔を思いだした。
帰りたいと言ったカカシに驚いた顔を。
そして温かな色を思った。
あの家の明かりがついていれば良いのに。
淡く願って、カカシは出かけることにした。
2003.12.24