それ、お願い?




 昼間の首尾は上々だった。
 なにがって、彼女との仲がだ!
 もうオレは有頂天一歩手前。
 単純と笑えば笑え。

 だって、頬染めながら「実はね…イルカ君は覚えてないと思うんだけど、前の任務で助けてくれたこと、あったんだよ。そのときは何もお礼できなかったら、今、大したことできないんだけど…」とかモジモジして上目遣いにいわれたら、もう!

 しかも、慣れない薬品名のなかでオタオタしてるオレの横にすっとやってきて、手際よく片付けてくれたり手伝ってくれたりした。
 残念ながら、薬品部の長ってのがこれまた人使い荒くて、電話番号は訊けずじまいだったんだけど、これは完全にリーチだ!
 ぃやっほう!
 作戦はもうすぐ終わりそうだときいたけど、前線にだって一度も出してもらってないけど、オレは確かなものをこの任務で掴みつつある!

 一旦、昨日と同じように夕方になって前線部隊が引き上げてきたから、夕飯をとったあとに彼女の姿を探した。
 本当は、はたけカカシのテントに顔を出すべきだったんだけど、行けばまた目一杯用事をいいつかることは、昨日から学習済みだったから、これは防衛本能というやつだ。

 それに、彼女と一秒でも多く話をしたいな、っていうふわふわした気持ちもあったしさ。
 昼間の出来事を思い出して、夕闇のなか一人でニヤける。

 手伝ってくれたっていっても、もともと彼女と一緒に作業する予定じゃなかったから、喋るタイミングにも限りがあって、話したのは合計でほんの数分ぐらいだけど、彼女の言葉やジェスチャーの端々から女の子の可愛らしさがにじんでた。
 オレがすっかり忘れていた、彼女を助けた話しなんかも、触りだけ聞くことができた。
 といっても、やっぱりオレには覚えがなくて、倉庫係りに押し倒されて危なかったところに通りがかったオレのおかげで間一髪難を逃れた、ということらしい。

 うーん、そんなヒーローになった覚えはほんとに無い。
 ので、詳しくは聞いてないのでオレの想像だが、たぶん、偶然だ。
 偶然彼女が襲われているところに、偶然オレが通りがかり、偶然倉庫に用事があり、偶然倉庫係を呼び出したってところだろう。

 自分でいうのもなんだが、オレにそういうヒーロー気質は全くない。
 だからこそ、普通にヒーローになれるような、天才とかいわれる人間には過剰に期待して、過剰に失望するんだけどな。

 ああ、例えば、あの銀髪の人使い荒いうえに人を怒らせるような言い方ばっかりする男とかに、期待して失望させられたりするわけだ。
 思い出したら腹が立ってきた。
 かつ、彼女の姿も見当たらない。
 さすがにこれ以上、うろつきまわってちゃ後でなに言われるか分からんと危惧して、オレは足早に彼のテントへ向かった。



2008.6.8