赤い実
手のひらが胸の突起を探った。とっさにカカシの腕を掴んだが、肩や二の腕まで襟が乱れていく。
「むかし、って、んッ…」
塞がれた唇が舌で食まれ、咥内いっぱいを犯していく。
口付けを、しているんだ。
ひとえに着替えたときも、布団の色を見たときも感じなかった気恥ずかしさが、ここになっていきなり襲ってきた。
カカシと、キスをしている。
九つのときに出会ったあの幼さを残した顔立ちが、脳裏に浮かぶ。あのとき自分は二十一で、まだカカシを子どもだと思った。
そのカカシと。
「んん…っ、ゃめ、カカ…ッ」
気恥ずかしさに、我を忘れて圧し掛かるカカシの背を叩いた。
ふっと唇が外れる。
至近距離で、濡れた唇が動き、ガラスのような目が訊く。
「いまさら、どうしたの」
「で、でも、やっぱり、やめないか?」
「やめる? なにを」
イルカは口ごもり、小さな声でいった。
「この…花夜を…」
ふ、とカカシが鼻で笑った。
「いまさら怖気づいたの。一度は頷いておいて。俺に期待させといて、ここでもう慈善事業は終わり? やっぱり我が身は可愛いもんね。俺のくれてやるものは何も無いってこと?」
「なに…を、慈善事業とか、そういうんじゃ」
「でももう遅いよ」
吐息のかかるほど近くに寄せたカカシの唇がしなる。
目が熱を帯びて、爛々とイルカを見つめる。
「いまさらキスがどうだっていうの。ずっと、俺はずっとあなたとこうしたかった。唇を噛んで、紅くして、俺のために苦しがって、俺のために泣くあなたが見たかった」
イルカは言葉を無くす。
「ただ、あなたが気づかなかっただけ」
かわいそうだね、とカカシは囁き、手のひらがイルカの内股を割った。
「カカシ…ッ、そんな、俺は全然…ッ」
「いまさらだよ」
ぬる、としたものが内股の奥に伝った。
滑り落ちる冷ややかさに、身体が竦む。
十五才なら、まだ身体も完全には出来がっていないはずなのに、カカシは身体全体でイルカを押さえ込み、逃げないようにしている。
カカシの指が腿を撫で、奥までぬめりとともに進む。
「や、頼む、カカシ、ちょっと待って…ッ」
「待てない。夜は短いんだよ」
逃げようとするイルカを羽交い絞めにして、双丘を割り開き、指をねじ込んだ。
「ひ、ッてぇ…!」
「我慢して。これしないとダメっていわれてる」
男同士の花は里でも例外中の例外なのだろう。
カカシにそうした予備知識があっても不思議ではなかったが、イルカの恥ずかしさは極まって、耳朶まで朱に染まった。
目尻に涙が滲む。
それをどう思ったか、カカシが言葉を継ぐ。
「病気にならないように、あと痛みも消すって言ってた。俺たちだけじゃなくて、けっこう使われるらしいよ」
いいながらも指はイルカの後ろを探り、入り口より奥へと指を推し進める。
「痛い、やめろ、いやだ、いやだ…」
「これしないともっと痛い」
「いやだ…」
後ろの異物感は、カカシが指を進めるごとに大きくなり、増やされた指が、入り口でたてるぬちゃぬちゃとした音がさらにその感覚を大きくする。
「二本、入ってる」
「いうな…っ」
「もういいかな」
言葉と同時に、後口から異物感がぬるりと出て行った。
ほっと息をついたイルカに、押し当てられた硬いもの。
見なくても同じ性なのだからわかる。
イルカはカカシへと腕を伸ばす。
「む、り…無理だ、やめ、頼む、もう」
「泣いてるのみると、興奮するね」
伸ばされた腕をカカシは掴み、抱き寄せ、そして腰を突き入れた。
「ひ……ッ!」
ぎゅ、と抱きしめられ、身体の間に収まらない足が不恰好にカカシの横腹に抱えられる。
「…む、りだ…ッ、い…ッ」
痛いとだけしか考えられない。
下半身の痛みがイルカを支配していて、汗ばんだ手のひらが腕や足を掴んで離さないことが怖ろしくて怖かった。
離して欲しい。
この痛みから解放して欲しい。
それだけを思って、涙の滲む目でカカシを見上げるが、カカシは熱に浮かれた目でイルカを見下ろすだけで、身体を止めようとはしない。
「やめ、やめてくれ…ッ」
「やめない、あなたを俺のものにする」
カカシの手のひらが足を引き寄せ、さらに腰を押し付ける。
入りきらなかった熱が、奥までねじ込まれる。
「や…あ、ああ…ッ」
「俺の、ちゃんと覚えてて。俺があなたを犯したこと、覚えてて」
耳朶に吹き込まれる言葉は、脅迫のようでイルカは顔を背ける。
それを追いかけてきて、言葉はイルカを詰る。
「今、あなたの中に入ってるのが俺のだよ、痛いってあなたが泣いてるのが、俺のが入ってるからだよ。だから、もっと、泣いて、痛いって言って」
「う、あぁ、あ、あ…」
「俺をみて、あなたを犯してる俺を見て」
背けていた顔を引き戻され、性急に口付けをされた。
動き回る舌が、イルカの咥内を蹂躙し、唾液が唇を濡らす。
カカシが律動を始め、激しい痛みに揺さぶられながら、指で萎えた自身を嬲られた。
痛みのために鈍いそれは、強引に先端を擦られ、快楽と痛みを同時に与えられ、汁が垂れる。
「ぃ、あ、やぁ、やめ、て…、ひ、ん!」
「出して、いっぱい」
「やぁ…!」
ぎゅっと絞るように擦られ、カカシの手のひらにどろりとしたものが広がった。
広げられた後口はカカシのものが収まったままで、痛みと快楽が交じり合う。
ひくひくと汁を垂らす竿を弄りながら、カカシはまた急かすようにイルカを攻め立てる。
ぎ、ぎ、と布団と畳がこすれあうほどに強く突き立てられ、イルカの喉が鳴る。
「う、ぅあ、ん、ぁん、は、んん…!」
足を広げ正面からカカシを受け入れ、繋がっている部分からは、粘着質の音が立っている。
イルカが出したものを塗りたくったのか、滑りも良くなっている。
「あ、ん、ぃや、や、もう…ッ」
「まだ、もうちょっと」
「も、あ、ぁあ、ひぅ…ッぁ、ん…ッ」
涙でイルカの目は真っ黒に見え、カカシは目尻に舌を這わせて、唇を塞いだ。
喉でくぐもった喘ぎがカカシの喉にも伝わる。
ひときわ大きく突けば、悲鳴のような声。
揺さぶって途切れ途切れの喘ぎも悦い。
大きく引いてから突き入れて、カカシは逐情した。
そのまま抜かず、イルカの眦や耳朶、唇に喉元を舐める。
ぐったりとしたイルカ自身へ指を這わせ、やんわりと扱く。
「え、カ、カシ、や、なに…」
「夜は短いから」
「う、そ」
「嘘じゃないよ」
言ったとたん、逃げるようにイルカが身を捩るから、カカシは身体で押さえ込んだ。
嫌だ、と繰り返すイルカを抱きこみ、指をゆっくりと動かす。
イルカは素直で、すぐに硬さを増し、体を震わせる。
「やめ、やめろ…やだ、いや…」
ひ、とイルカが身を竦めた。内にあるカカシがまた力を戻し、ゆるりと動いたからだ。
カカシは腰を動かして、イルカをゆっくりと突き上げる。
「ん、はぁ、ん…」
後ろから抱き込むようにして、イルカ自身を扱きながら腰を動かす。
イルカの中はさらに滑りがよくなり、ぬめりとした内部は蕩けそうだった。
「たった、一晩しかないんだ」
あなたが俺のものになるのは。
囁いたカカシの言葉は、喘ぐイルカには聞こえなかった。
2006.8