雪窓
カカシは言った。
手でも口でも、俺が満足できればお役御免ということでいいですよと。
つまり、上手くすればカカシがいったとおりにイルカが無理な役割をさせられることもなく、双方幸せで終わることもありえるということだ。
だから場所を移動したあと、イルカはシャワーを浴びてから、強張った指先を必死で動かした。
緊張して、汗が滲んで震えるくせに冷たい指先で、カカシのものに触り、撫でた。
それから指先で擦り上げたり扱いたりしたが、カカシのものは緩く勃ちあがっただけで、反応は薄かった。
カカシはため息をついて、イルカに握り方や扱き方を伝えたが、イルカは上手くできなかった。
ひとりでやっているときと同じようにしてみてよ、ともいわれたが余計に頭に血がのぼってダメだった。
はあ、とカカシのため息。
ビクッと肩が揺れた。
「…えとさ、こういう風って、わかります?」
「え、ちょ…ッ」
いきなり、カカシの指がイルカのものを捕らえて、やんわりと揉みしだいた。
指の腹がめくれた皮の上をぐにぐにと上下して、ぎゅぅっと先端へと刺激が加えられる。敏感な先端から、じゅわっと汁が溢れた。
「あ、あ…、待、って…っ」
「待てない。俺がやったほうが早いかも」
「ちょ、やぁ…っ」
不慣れ、といったのはまったく正直だったと証明するように、あっけなくイルカは昇り詰めて果てた。カカシより先に。しかもカカシの手のひらを汚して。
ざぁっとイルカは青ざめた。
「すいません…! 俺、なんてことを…っ」
「うーん。俺より先なんてズルイなあ」
「も、申し訳ありません…ッ、あ、あの、俺、どうも不慣れで」
「じゃあね、次は俺のいうとおりにしてね。口で、してほしいんだけど」
「あの、ええと」
いい子だから、とでもいうように、カカシは唇を柔らかくしならせてイルカの唇の端に口付けた。
軽く触れたそれは暖かく、気持ちよかった。男同士で先ほどまでは知り合いであったのに、とぼんやりしていると徐々にそれは唇へとうつって、食むように啄ばまれ、心地良さにいつのまにか瞼が下りていた。
するりと舌が入りこみ、イルカの舌と唇を舐めとる。
ぬめったそれが。
「ん、んん…」
「やって」
唇同士が、柔らかく体温を伝え合う。
「でも、ん、…ぁ」
「この舌で」
「あぁ…」
カカシのキスは巧みで、まるで気持ちが通じ合ったかのような暖かいキスだった。まさかそんなことはないだろうに、だからこそ巧いとおもえた。
悔しくおもうより、カカシの唇が離れたとき、寂しいと感じた。
「ね、やって。手がダメみたいだし」
「…は、はい」
「そう」
ちゅ、と下唇にもう一度だけキスをくれ、カカシの唇が「歯は立てないでね」という。イルカは瞼をおろして、身体をずらして手の中の熱を咥内に導いた。
シャワーを浴びたからか、匂いは思ったよりない。微かな体臭と精液の薄い匂い。舌を熱の塊に這わせればなんともいえない味が広がり、とっさに息苦しくなったが、堪える。
「舌で包むみたいに舐めまわして」
「は、い…」
「手も根元のほう触って休めないで」
「…ん、く…」
芯をもっていたが柔らかかったそれが、イルカの口のなかで太く熱くなっていく。
舌の奥に苦いものが滲み続け、息苦しい。
それでも吐き出すわけにもいかず、なんとか飲み下して、必死に舌を動かす。瞼を閉じたまま、アイスキャンデーの溶けた蜜を舐めるより必死に。
「そう、いい感じ」
「は…ッ、んん…ッ」
「吸って」
言われて分からず、上目遣いに見上げた。
咥内のものがぐんと大きくなり、イルカは苦しくなる。こめかみを血が脈打っているのが分かる。吐き出すまいと唇を浅くずらせば、またカカシの声が降ってきた。
「口、先で吸って」
端的に欲望だけ告げる声は少し掠れて聞こえた。
言われるままに唇を先までずらし、生暖かい器官の先だけを包み込む。
ぬらりと光る液体が自分の唾液とカカシの精液が交じり合っているものなのだと、頭の片隅で考えて、苦いそれを吸った。
じゅ、と嫌な音がイルカの鼓膜に響き、同時に苦いものが舌先に溢れた。
「う、ん、そう、もうちょっと」
「んぁ…あ、あぁ…」
「口、開けて」
「……ッ」
不意に頭をとられ、引き離された。なんだと思う間もなく、顔に粘った生暖かい液体がかかり、つんと体臭のような精液の匂いが鼻をさした。
顔に射精されたのだと気づくまでに二秒ほどかかり、呆然としたイルカの頬にカカシの指がのびてきた。
「よくがんばったね」
「……」
ぬるりとした感触が頬に広がり、指先がイルカの濡れた唇にあてられた。
ねっとりとクリームのようにのせられる。
舐めて、といわれるままにおずおずと舌を差し出せば、その上にもたっぷりと苦みばしったものがのせられた。指がイルカの舌を思うように弄り、溢れた唾液が唇の端から伝い落ちていく。
「ぅ、あぁ、ん…」
「やらしー顔…」
熱っぽい美声が呟き、指が咥内から抜き取られイルカの喉元をすぎて下へと伸び―――。
2006.2.5