てのひらのきおく
粗末な壁の透間から、冬の午後の、弱い光が差し込んでいた。
薄暗い室内で、カカシはイルカを組み敷いていた。
割り開いた太腿を担ぎ上げて、無理やりに身体をすすめる。
ひどく窮屈な痛みが、先端を包んで、それでも苦しむイルカをもっと自分のものにしたい想いが止まらずに、奥へと突き刺した。
床がたわむ音が、身体が軋む音のように聴こえた。
「いた、いです…カカシ、さ、あぁ…!」
「好きです」
「抜い、て…ッ、ぃ、た…、や、ぁ…っ」
「好きだからしてもいいわけじゃない、でも」
一気に突きすすめた。
「痛ッ、あ、ぁぁ…!」
痛みを紛らわすためだろう、必死にカカシにしがみ付いてくる身体を、カカシはきつく抱き返す。
快感は痛みと混ざって、もう分からない。
イルカには痛みばかりだろう。
だけれど、身体を止められない。
「イルカ先生、好き、好きだよ…」
抱きしめた先にある耳朶に囁く。
「…ぅ、んン…ッ、痛ぃ…!」
奥まで突いて、揺すり上げた。
イルカの腰が浮いて、喉が引き攣るように鳴った。
「やめ、て…くだ…」
「痛いよね」
「あ、ぁぁ、…!」
繋がった部分より、苦しみの声と床の軋みのほうがうるさいぐらい。イルカをいっそう強く抱きしめて、穿った。
耳の端に足音がしているのを気づきながら、イルカを犯すことを止めなかった。
「あン、ん、んぅ…ッ」
喉から出る、苦しさに上擦った音が、小屋の外まで響いているだろう。ガタ、と戸が動いた。
「イ、はぁ、あ…! ア、ン、んん…ッ!」
意識の飛びそうなイルカをさらに激しく揺さぶった。ひときわ上擦った音がイルカの喉を鳴らす。その喉にカカシは喰らいつく。震える声帯が心地よかった。
「…イルカ、せんせー…?」
カカシの良い耳は、少女の声を聞き逃さなかった。そしてまた、イルカにも聞こえたらしい。朦朧としていたからこその、本来の能力を発揮したのか。潤んだ眼が、ふと焦点を結んで、カカシを見、戸口のほうへと視線が動いた。そして、戸の透間から、眼を見開いてこちらをみる少女を確認する。
「カ、エ…」
イルカがうわごとのように呟いたと同時、少女の足音が酷く乱れながら小屋から離れていった。
「や、いやだ、いやだぁ…!」
逃れようと身を捩るイルカを腕の中に閉じ込める。
「ぃや、ァ、あ…ッ、痛ぃ、や、あぁぁ…!」
酷なことをしたと思いながら、いまさらこの熱はおさめられなかった。
「あんたの掌、俺は覚えておくよ」
逃げようと宙を掴むイルカの掌を捕って、カカシは口付けた。
薬草の匂いのする、荒れた、けれど暖かな手がいとおしい。
「だから、あんたも俺も掌を覚えておいて」
仕返しをするためでもいいから。
「そして、追いかけてきてよ」
そうすればもし他里であっても出会えるだろうから。
カカシと出会った記憶は消していくけれども、もしイルカが任務のために記憶の操作をあらかじめ受けていれば、成功する可能性は低い。
だから、通常より強固に記憶を封じていこう。ここ二三日の記憶を封じることにする。
もちろんこの情交のことも。
カカシの情報を残してはいけないから、最初から考えてはいたが、だからこそイルカを求めずにはいられなかった。
「覚えて、おいてね」
もとよりカカシの為に忘れるだろうイルへ、それでも真剣にカカシは囁いて、イルカを抱きしめた。
2007