愛について3







 物思いがあっても日々は過ぎる。
 夏を連れてきた雨が過ぎ去り、夜になっても虫の音ばかりが涼しげにきこえる頃。

「任務?」
「はい、向こうの状況が分からないのですが、聞いた限りではしばらくかかりそうです」 

 普段どおりに喋っているつもりだろうイルカにあわせて、カカシも、そう、と普段どおりの相槌をうった。

「…危険なの?」

 カカシさんが就かれる任務ほどではありませんが、とイルカが苦笑した。

「ですが気を抜けばどんな任務も危険ですから」
「そうだね。イルカさんはそんなことないと思うけど…気をつけて」
「はい、ありがとうございます」

 それとなく向かう先のことを聞いてみると、山岳地帯だという。
 長期任務にそなえて荷物を整えるイルカを、ベッドに座って眺めながら、荷物の具合から東の山岳だろうかと考えた。水の補充に気をつけたほうがいいかもね、などと話した。
 そんな会話をしつつ、準備する横顔がふと硬くなるときがある。
 久しぶりの里の外での任務だから、緊張しているのは当然かもしれないが、カカシの目にはそれ以外のことが気にかかっているようにみえた。
 だがカカシは知らないことになっているから、心配ですねともいえない。
 結局、肝心なことはいえないで、横からあれこれと余計なお節介を焼いてしまう。
 夜、寝るときには狭いベッドのなかで抱きしめたら、苦しいですと文句をいわれた。

「カカシさん、どうされたんですか?」

 不思議そうにきかれて、苦笑した。まさか、危ない上忍に襲われて体の危険はもとより命の危険があるんじゃないかと心配しています、とバカ正直にいえない。
 もとより、任務には危険がつきものだし、イルカも中忍なのだからと思っても、カカシの不安は消えない。
 足元の覚束無い暗闇のようだ。
 己の任務前夜などよりもよほど、拭いがたい不安がわだかまって落ち着かない。
 夜になっても昼間の熱気は室内に忍んでいて、くっ付いていると暑いのだが、それでもイルカを離しがたくて、抱きしめた。

「カカシさん…」
「出発、明後日だったら良かったのに。そしたらイルカさん、抱けるのに」

 返事はなく、居心地悪げにイルカが身じろぎをして、カカシはイルカの首筋に唇を押し当てながら笑う。
 明日は任務です、とイルカが釘をさしてくるまではと言い訳して、首筋から耳朶を唇でくすぐった。
 ふるっとイルカの体が震える。
 掌をそっと服の下に沿わせると、汗ばんだ肌がしっとりと吸い付く。胸の突起を、指の腹でこすると、イルカの息がふっと詰まる。

「イルカさん、やだって言わないと、やっちゃうよ…?」
「ん……」

 返事はなく、カカシはイルカの肩を押して、組み敷いた。イルカを間近で見下ろし、黒髪を梳いて横に流す。暗闇のなかでイルカの目がカカシをみている。

「いいの?」

 答えは、イルカから伸ばされた手と、キスだった。
 嬉しくなって、カカシも舌を絡ませる。
 吐息が唇の間から漏れ、ベッドが軋んだ。

「…おと…っ」
「ん、あぁ、そだね」

 慌てたイルカの声を、キスで塞いでカカシは印を組む。
 一瞬ではられた結界に、イルカの体の力が抜ける。

「気にしないでいいのに」
「気にします…っ」

 いいのに、と再度囁いて、イルカの服を脱がせていく。イルカに触れているのに着ていられないとばかりに自分の服も脱げば、イルカが手を伸ばして抱きしめてきた。
 いつになく積極的で嬉しいが、やっぱり不安なんだな、と察することもできた。
 イルカの肌を確かめるように、優しく撫でる。
 ところどころにおうとつがあって、暗闇のなかでも傷の痕だとわかる。
 それらの一つ一つの在りかを確かめる。
 これ以上増えないよう、イルカが傷つかないよう、願いながら、優しく愛撫した。

「カカシ、さん…」

 震える声が、気持ち良いのだと知らせる。
 掌を下肢にそろりと這わせると、やんわりと勃ちあがっていたイルカに触れた。指先を絡めてぬるついた先端を擦る。
 ぎゅっとイルカがしがみ付いてきて、カカシはキスをしながらその手をとって、イルカの中心に導いた。手を重ねて一緒に弄らせる。

「ぇ、ちょ、カカシさん…ッ」
「気持ちイ?」
「…ぁ…んぅ、…は…ッ」

 熱くなっていく肌を合わせると、汗の匂いがして、イルカを丸ごと喰いたくなった。
 欲望のまま、体をずらして、弄っていたそれの先端をちろりと舐めた。

「ぇ、や…!」
「いいから、ね?」

 くびれた部分をイルカの指と一緒に舌先でなぞり、指の腹で擦り上げながら、ちゅ、と吸う。苦味のあるものがカカシの唇を濡らし、カカシは唾液でイルカの指とそれをべたべたにしていく。

「ぅ、ぁ……」

 緩んだ指の間を熱心に舌で濡らす。

「…あ、ぁ…ッ、もう、…ぁ…!」

 硬くなって液を滴らす先を、指でぎゅぅと締め付けて擦ると、イルカはあっけなく精を吐き出した。体が小さく震える。
 イルカの指まで精液でぬれて、カカシはその指先を口に含んだ。爪の形を舌でなぞるとイルカの体がびくびくと反応する。離して欲しいと手が逃げようとするのを掴んで、指の間まで舌を這わせた。

「そんなとこ、舐めないで…ッ」

 恥ずかしさが極まったような声に、くつくつと笑う。カカシさん、と名を呼ぶ声は詰る色。イルカのすぼまった奥を指が探る。そのまま指でほぐそうとしたのを、イルカが止めた。なにかと動きを止めると、イルカも体をずらして、カカシの硬くなったそれへ手を伸ばした。

「イルカさん…?」
「黙ってて…」

 なんとなく、イルカに押し倒されるように上と下を入れ替わりながら、カカシは戸惑った。
 まさか、という思いと、もしかして、と期待する気持ちが混ざり合う。暗闇に目が慣れ始め、イルカの体の輪郭がうっすらと見える。
 イルカの唇が、カカシの中心へと寄せられる。

「…俺だけなんて…ずるいですから」
「え、ほんとに?」

 焦って思わずイルカの肩に手をおいて留める。心臓が期待に波打つ。いままでしてもらったことがないから。イルカからそんなに積極的なことをされた覚えがない。
 イルカの返事はなく、ふ、と息がかかって、次いでぬるりと先端が舐められた。息を呑んだ。ざらりとした感触と、ぬれて暖かいもの。
 イルカの舌と唇だ。
 部屋が明るければ良かったのにと心底思った。イルカが舐めているとこを見たかった。
 手が添えられて、慣れない動きで、上下する。

「…俺がするようにしてみて?」
「ん…こう、です…?」

 舌の腹で反りをなぞられ、咄嗟に太腿に力を込めて堪える。先端がすっぽりとぬめりに包まれ、ぢゅ、と音が漏れた。何度も浅く、繰り返され、じれったい刺激が響く。

「歯、立てないで口の奥まで、入れて…」
「…ん、ぅ」

 粘着質な音と、イルカの喉で鳴る声が交じり合って、くぐもって聞こえる。
 本当になれないのか、歯を立てないで奥まで含むのも難しいようで、先端がイルカの口のなかの柔らかい壁にぬるぬると当たる。それだけでもう達してしまいそうだった。

「は、んん…、ぁ…」

 息をするのも苦しそうだ。その苦しげな声だけでもイきそう、と火照ってきた頭でカカシは思った。体を起こして、イルカの顎を指でなぞった。濡らしている唾液か精液を、指で拭った。

「いいよ、無理しないで」
「む、りなんて、してないです」
「嬉しいよ」

 だからいいよ、とイルカの体を起こした。まだ達していなかったが、これ以上されると、今すぐにでも危なかった。イルカの口のなかもいいが、カカシの好みはイルカの中だ。
 でも、というイルカが、ふと口を噤む。カカシの体に跨ったまま、カカシがイルカの後ろの窄みを探りだしたから。
 指が、つぷりと埋まる。イルカの腕がカカシの肩にかかった。ゆっくりと動かして、傷つけないようにほぐしていく。

「イルカさんが舐めてくれたから、大丈夫かな」

 囁くと、知りませんと恥ずかしげな囁きが返ってきた。吐息のような笑いを耳に吹き込むと、イルカの体が震える。  カカシは体をねじって、枕元にねじ込んである軟膏のチューブを取り出した。手早くキャップを外して、適当に掌に出して馴染ませる。
 少しばかり不快かもしれないが、慣れない体勢でイルカを傷つけるよりマシだ。

「カカシさん…?」
「もうちょっとだけ頑張って」
「なに…ぁ、あ…ん…ッ」

 軟膏のお陰で驚くほど一気に指がイルカの中に入った。びくっとイルカの体が跳ねる。
 指の第二間接までゆうに飲み込んで、熱い内壁はカカシの指を締め付ける。指を出し入れしつつ曲げると、おもしろいほどイルカが震えた。

「ちょ、ぁあ…! や、やめ、あぁッ、あ…ッ!」

 カカシの肩の腕が堪えられないとばかり、首へと回された。肩口に埋められるようにイルカの顔が乗せられ、熱い吐息が肌にかかる。
 軟膏と体液で酷くぬめるそこは、カカシの指を離し難いというように締め付けた。指の長さの限界まで、突っ込んで掻き回し、イルカの反応するところを責める。切れ切れの息が、強請った。

「…も、ぅ…ッ、カカ、シさん…、ゃ、…願、ぃ…ッ」
「うん、俺ももうダメ」

 とっくに限界を迎えながらも、しがみ付いてくる体温が手放し難かった。ぐっとイルカの腰を引き寄せる。ふとイルカの視線を感じる。間近の黒い瞳に、キスをした。
 手をイルカの腰に添えて、ゆるゆると落とさせる。カカシに跨った格好のイルカが震えながら、カカシのものを飲み込んでいく。

「あ、ああ、ぁ…」
「ん……そう、もうちょっと…」
「ぉ、きい…」

 微かに聞こえたそれに、反応を堪えていたものが弾けそうになった。はんそく、と呟いた。添えた手を離した。イルカが、自重に耐えられず腰が落ちる。あぁ、と悲鳴のような吐息で、根元まで全てがイルカへ包まれた。伸縮するぬめりに待ちきれず、腰を上へと動かした。

「や、待って、まだ…ッ、んぁ…!」
「待てない、そんな、かわいいこと、いうし」
「だ、て、んんッ、はぁ、こん、な、ああぁ…ッ」

 がくがくと下から揺すぶられて泣き声に似た声が、途切れ途切れにいわれるのでさえ熱くなって堪えられそうにない。唇を引き寄せて塞ぐ。舌を絡めて、んんッと鳴る声を吸った。
 唾液を絡めて甘い舌をぶつけて、下半身をぎゅうぎゅうと締め付ける粘膜を味わった。

「はぁ…、あ、ぅんん…ッ」

 イルカが動くことは期待していない。いつもより緩やかな律動で快楽を引き出していく。違った体勢だからか、緩やかでも充分に感じているようで、ぎゅっとしがみ付いたイルカの肌は熱い。汗が重なった肌の間からすベリ落ちていった。
 ぐちゅぐちゅと音が繋がった処から漏れる。限界が近い。手を伸ばしてイルカの勃ち上がっていたものに触れる。指の腹で先端を擦る。

「あッ、あ、や……!」

 イルカは放った瞬間、粘膜が収縮し締め付け、カカシもまたイルカの中で弾ける。余韻で震えるイルカがカカシにしがみ付いて、カカシもぎゅっとイルカを抱きしめてキスをした。




2007.04.10