二粒目を使ったのは、休日の朝九時ごろ。
 前のときはカカシ先生のことがあったから、ゆっくり猫の視線を楽しむ余裕がなかった。だから今回は、一人(一匹?)でゆっくり里のなかを見て回るつもりだった。
 一回目のとき、イビキから言われたことも原因だった。

 この薬は、おもに諜報用に使われることが多く、裏をかえすとネコからの視点が里の警護の盲点を発見することもあるらしい。
 そんな真面目な話を、「お前のネコ姿もなかなかキュートじゃないか」とか「この肉球がたまらん」とか「間抜けそうな顔だがネコにしては愛嬌のある顔だ」とかいう台詞に織り交ぜて聞かせてもらった。
 しこたま肉球をぷにぷにされて、そのあとすぐに逃げ出したけど。

 そういうわけで、イルカは今度は、ちょっと真面目に里を見て回ろうとおもったのだ。
 薬を飲むまでは。
 だがひとたびネコになったとたん、真面目な気持ちはすかーっと薄れていき、脳裏をしめるのは、外を散歩してあったかい草の上で昼寝がしたい! の欲求ばかり。

 イルカの理性など、スイミングボードなのだ。
 大海原の波にさらわれてしまったのだ。
 そういえば俺、イビキさんに「ネコに成りきりすぎですよ」って文句言うの忘れた、と思い出したのは、いまさらだった。

 にゃぁにゃぁとご機嫌よく進む里の路地裏。
 気づけばいつのまにか、アカデミーの校庭の木の下。
 気温はぽかぽか。
 くあぁぁ、とあくびがでる。
 なんだか気持ちがいい。
 昼寝しよう。
 決めてからの実行はさすが獣。
 早い。
 体がくるっと丸まって、頭を占めるのはふかふか柔らかい草の感触とあったかい風。

 気持ちがいいから気が付かなかった。
 カカシが居たことに。
 声をかけられて、文字通り飛び上がった。
 カカシはイルカの頭と喉をくすぐって良い気持ちにさせてくれた。

 うひゃぁ、うっとりだー。

 なんて思っていると、言われたことにびっくりした。

 俺んちおいで、なんて。

 いや、あの、俺ってあと二時間ほどでマッ裸になっちゃうんですけど、と思って「なー、んなーぁ」と鳴いたが、いかんせんネコだ。相手はカカシだ。ちょこっと顎の下をくすぐられて、毛並みをなぞられれば、ごろにゃんと懐いてしまった。
 それを了解と取ったのか、カカシはイルカを抱き上げてしまう。
 しなやかな腕のなか。
 もうイルカのネコとしての理性はとろけたチーズのよう。
 ごろごろにゃんにゃんと、喉をしきりと鳴らして懐くばかり。



 あぁ、俺ってダメネコ。



















 そんなわけでカカシの家にむかう途中、腕に抱き上げられたままいろんな話をした。
 といっても、イルカは返事ができないも同然だから、カカシが話しイルカが鳴くのをカカシが解釈して、またカカシが話す、という具合だったが。

「で、俺は一日休みで暇なの。遊んでくれるよねー」

 にゃにゃーん、なーな。にゃにゃにゃー。なーぅ。
 (でもお昼ぐらいには失礼しますよー。マッパになっちゃうんでー)

「あーそう、まぁいいじゃん、イビキには内緒にしとくからさ」

 んにゃ。んなー、みゃあぁん、にあー。
 (いやそういう話じゃなくてー。まー、バレたらまずいですけどー)

「んー。なに言ってるか全っ然わかんないねー。そういやお前、オスなんだよねぇ」

 みゃ! なーぅ! にゃにゃ、にゃーにゃ。
 (なんすか、チェック早ぇ! あ、そか、まえぶら下げたときにみたんすか?)

「俺、てっきりメスかと思ってたよ」

 みあぁー、んなーぅ、なーなー、んーみぁ!
 (なんでそんな発想になるんですかー。こーのスケベ!)

「・・・なんか今のは分かったな。けなされたような」

 にゃーにゃんにゃーにゃー。
 (そーんなことはないでーす)

「ま! この間みたときちゃんと玉があったからねー。俺に懐くぐらいだから、メスかと思ったんだよ、ごーめんね」

 にゃぁあぅ、にゃんにゃんにゃん、みゃ!
 (ネコまでモテてモテて大変ってか、このmote男め!)



 言葉が通じないからゆえに、イルカはけっこう言いたい放題だった。  



2005.5.7