サラ金問題

 政府(金融庁)は、国民が何人死んだら、サラ金(高利貸し)の法外な金利を引き下げるのだろうか。

 サラ金(=消費者金融)や商工ローンの上限金利を定める出資法は、2007年1月に見直しされる。そのため、現在、出資法改正論議は大詰めを迎えている。

 最高裁判所等でグレーゾーン金利(29.2%と15〜20%の間の14.2%〜9.2%)が違法という判決が相次いだことから、グレーゾーン金利は違法ということになった。てっきり金融庁はグレーゾーン金利を引き下げ利息制限法の上限(同15〜20%)に一本化することを検討していると思っていた。しかし、特例措置や利息制限法の一部金利の引き上げを検討しているという。特例措置とは、グレーゾーン金利を一定期間認めるということである。また、利息制限法の一部金利の引き上げについては、出資法の上限金利(年利29.2%)が違法なら、利息制限法の方を上げてしまおうということだ。

 朝日新聞の「特例金利案に委員が猛反発 金融庁の貸金業有識者懇」(2006年08月24日)によれば、金融庁は、「貸金業制度等に関する懇談会」で、貸金業の上限金利の特例措置や利息制限法の一部金利の引き上げ措置について具体的な検討を始めたと表明した。これに対し、委員からは「特例が規制の抜け穴になる」と反対の声が相次いだ。また、客への交付書類の簡素化や電子化も含まれており、説明義務の強化で多重債務者を減らすというこれまでの議論と矛盾するとの疑問も出された。

与謝野金融相も検討に前向き

 与謝野金融相は7月の貸金業懇談会で「特例は特例でなくなることがある」と慎重な姿勢だった。しかし、この日も「例外が例外でなくなることでは、今回の法改正を行う趣旨にはあわない」との見方を示したが、金融庁が同日午後にまとめる素案をもとに特例金利を前向きに検討する方針を示した。

サラ金とアメリカの圧力、金融庁は日本の零細な国民を守れ。

 米金融業界団体が、与謝野馨経済財政・金融担当相と加藤良三駐米大使に書簡を送り、日本の消費者金融の上限金利引き下げに反対する意向を伝えた。また、金融庁は元利金の支払総額の明示を記載する一方、灰色金利の撤廃などに伴う業界への影響に配慮して客に渡す書類の記載内容の簡素化や書類の電子化を認める案を示した。

<IT書面一括法(二〇〇一年四月施行)は商取引で義務づけられている書類を電子メールなどにかえることを認めたものですが、貸金業は「契約をめぐるトラブルの多発」を理由に適用除外になっています。>

 国民は、サラ金の厳しい取り立てから電車に飛び込んで自殺。また、生命保険を一方的にかけられ、命と引き替えに借金返済を求められている。誰が考えても、上限金利を出資法の上限金利は利息制限法と同じ15〜20%に下げ、グレーゾーンを撤廃すべきということになる(それでも高い。ドイツなどでは、5〜10%ぐらいのようだ)。しかし、金融庁はそうではないらしい。サラ金とアメリカの圧力でグレーゾーン金利を残し、客への交付書類の簡素化や電子化など、業者よりの改革をしようとしている。アメリカ金融資本がサラ金に入ってきているので、サラ金の利害とアメリカの利害は完全に一致している

 関岡英之の『拒否できない日本―アメリカの日本改造が進んでいる』(文藝春秋[文春新書])を読むと、アメリカの年次要望書の要望は、確実に実現している。まあ、このサラ金金利もアメリカの要望どうり上げるのでしょうね。こいずみさん。

(2006/08/28)

特例金利案に委員が猛反発 金融庁の貸金業有識者懇

2006年08月24日18時36分朝日新聞

 金融庁は24日の有識者でつくる「貸金業制度等に関する懇談会」の会合で、貸金業の上限金利の特例措置や利息制限法の一部金利の引き上げ措置について具体的な検討を始めたと表明した。委員からは「特例が規制の抜け穴になる」と反対の声が相次いだ。

 検討案には客への交付書類の簡素化や電子化も含まれており、説明義務の強化で多重債務者を減らすというこれまでの議論と矛盾するとの疑問も出された。

 金融庁は出資法の上限金利(年利29.2%)を引き下げ、利息制限法の上限(同15〜20%)に一本化してグレーゾーン(灰色)金利を廃止する方針を決めている。

 ただ、少額・短期の融資については「客の返済負担が少ないうえ、利息に占めるコストの割合が高い」として、特例の高金利を認める考えだ。期間は1年以内で、上限金額は10万〜50万円で検討している。事業者向け融資にも同様の特例を認める可能性がある。

 金融庁は「高金利でも借りたい人はいる」としているが、委員の大勢は「そんなニーズがどこにあるか分からない」「抜け穴になる」などと強く反発。与謝野金融相が7月の会合で「例外が例外でなくなることがある」と慎重な姿勢だったことを念頭に「大臣の存在は軽いのか」といった皮肉も出席者から出された。

 一方、現在の利息制限法は10万円未満が年利20%、100万円未満が同18%、100万円以上が同15%と定めているが、50年以上変更がないとして、物価上昇分を考慮して金額を引き上げる案や同20%に統一する案も示された。金額の変更は10万円を50万円、100万円を500万円に上げる方向で検討中。業界代表は賛成したが、消費者側委員は「金額によっては金利の引き上げになる」と反対した。

 説明義務については、与党の検討案が「重要な情報の事前説明義務を導入すべきだ」としていた。金融庁は元利金の支払総額の明示を記載する一方、灰色金利の撤廃などに伴う業界への影響に配慮して客に渡す書類の記載内容の簡素化や書類の電子化を認める案を示した。

 業者側は「電子データは個人情報の保護にも郵送より適切」と評価したが、消費者側の委員は「少なくとも口座の開設時には対面で客に説明する必要がある。電子データも業者に改ざんされた例があり望ましくない」と主張した。


貸金特例金利、金融相が容認

2006年08月25日14時33分朝日新聞

 与謝野金融相は25日の閣議後会見で、貸金業の上限金利の特例について「制度が移行する場合、緩やかにそれぞれの関係者が対応できる措置が必要だ」と話し、容認する考えを初めて示した。

 金融庁は出資法の上限金利を引き下げ、貸金業の上限金利を利息制限法に一本化する際に、少額・短期の融資などに特例の高金利を認める方向で検討を進めている。与謝野金融相は7月の貸金業懇談会で「特例は特例でなくなることがある」と慎重な姿勢だった。

 この日も「例外が例外でなくなることでは、今回の法改正を行う趣旨にはあわない」との見方を示したが、金融庁が同日午後にまとめる素案をもとに特例金利を前向きに検討する方針を示した。

天声人語

 2006年08月25日(金曜日)付

 森鴎外の小説「雁」は、親の借金のために囲われ者になった女・お玉の物語だ。大学生への思慕と、かなえられない夢を描いている。お玉を囲う男は高利貸で、いわば、お玉のかなしさの引き立て役であり、憎まれ役でもあった。

 「憎んで最も当然なのは高利貸である」。2千年以上前にこう述べたのは、ギリシャのアリストテレスだ。「それは彼の財が貨幣そのものから得られるのであって、貨幣がそのことのために作られた当のもの(交換の過程)から得られるものではないということによる……これは取財術のうちで実は最も自然に反したものである」(『政治学』岩波文庫・山本光雄訳)。

 古来、厳しい視線にさらされてきた貸金業だが、戦後の日本に広まった消費者金融も、多くの問題を指摘されてきた。このところ、金融庁による検査や処分が続いた。

 大手のアコムに対して、貸金業規制法に違反した疑いがあるとして立ち入り検査した。今年1月に続く異例の再検査だ。

 また金融庁は、消費者金融が借り手に生命保険をかけ、死亡した場合の「担保」にしている問題で、生保各社に、借り手が同意して生保に加入したかどうかの確認を徹底するよう指導した。「命が担保」と言わんばかりの強引な取り立ては文字通り命にかかわりかねない。

 高い金利の引き下げも課題の一つだ。金融庁は少額・短期の融資について、現行の出資法の上限金利を軸に特例金利を認める考えだという。その軸となる年利は29・2%だ。「自然に反する」かどうか、あの哲人に聞いてみたい気がする。


米国がサラ金と同要求“出資法上限金利引き下げ反対”

大門議員が指摘、2006年3月17日(金)「しんぶん赤旗」

 日本共産党の大門実紀史議員は十六日、参院財政金融委員会で、サラ金問題を取り上げ、米国がサラ金業界と同じ要望を日本政府に提出していることを指摘しました。

 一連の最高裁判例によりサラ金の高金利獲得の道が閉ざされたなかで、貸金業界は(1)金利規制撤廃もしくは出資法の上限金利(29・2%)の引き上げ(2)融資・返済時に義務づけられている書類のIT書面一括法の適用(電子メールなどによる交付の許可)―を要求しています。

 大門氏は「二〇〇二年七月に在日米国商工会議所は『出資法上限金利の引き下げをしないよう強く求める』とする意見書を出した。同じく〇四年十一月にはIT書面一括法の適用を柱とした意見書を出した」と述べ、事実関係の確認を求めました。金融庁の三国谷勝範総務企画局長は意見書の存在を認めました。

 IT書面一括法(二〇〇一年四月施行)は商取引で義務づけられている書類を電子メールなどにかえることを認めたものですが、貸金業は「契約をめぐるトラブルの多発」を理由に適用除外になっています。

 大門氏が「当時以上にサラ金のトラブルは増えており、IT書面一括法を適用する状況にない」とただしたのに対し、与謝野馨金融相は「米国も貴重な意見の一つだが、意見は他にも多々ある」と述べ、慎重な姿勢を示しました。

“高金利当たり前は駄目”金融相が答弁

 与謝野馨金融担当相は十六日、参院財政金融委員会で高金利のサラ金について「二十数%の金利が社会的な常識として当たり前だと受けとめられるような社会をつくってはいけない」と述べました。十五日の「サラ金のテレビCMは不愉快」と明言した答弁につづくもので、大手サラ金会社や銀行がテレビCMなどで借り入れを勧めている体質を批判したものです。日本共産党の大門実紀史議員の質問への答弁。


日本安易に2憶5000万ドル拠出

 害有省(外務省)の金銭感覚のなさにはあきれる。オーストラリアは8憶1500万ドル、ドイツは6憶8000万ドルの支援を口約束していた。しかし、ジュネーブで開かれた国連の支援国会議での具体な支援額は、日本が2億5000万ドルと突出し、2位のイギリスが7400万ドル、3位のドイツ6800万ドル、アメリカは、6位の3500万ドル、中国は11位の2000万ドルだった。
 
 日本が世界とかけ離れた支援をする理由が見つからない。財政赤字は天文学的で、国家破産すら心配されている。小泉内閣の大盤振る舞いにも驚く。国民の税金という認識が、政府にも害有省にもないのだろう。

 あまりに大きな援助は、世界の物笑いになるだけだ。

朝日新聞(2005/01/12)次のように伝えている。

<以下引用>
緊急支援の「即金払い」、日本は3割超と突出〜

スマトラ沖大地震・津波の災害救援を協議する支援国会合で、日本は国連が強く求めた「即金払い」支援の3割以上を表明、「貢献」を強くアピールした。

 日本は、国際機関向けの2億5000万ドル全額を無償で、しかも事実上の即金で払うことを約束した。うち、国際赤十字2組織向けの2100万ドルを除く2億2900万ドルが、国連の緊急支援約10億ドル分の一部として使われる。

 「即金払い」の表明額が2位だった英国の3倍を超える突出した額だった。会合では日本の谷川秀善外務副大臣が、他国の閣僚を飛び越え、支援額表明の一番手に指名される「番狂わせ」も起きた。

 同副大臣は「日本はちゃんとやりますので、(あなたたちも)早急に支援を実施して頂きたい、と各国に申し上げた」という。

<引用終わり>


外務省、新手の利権作り?

 毎日新聞2004/10/01朝刊に<外務省:ODA柱に「防災支援」 来年度から、開発援助中心を転換>【小園長治】という記事があった。

<以下引用>
 外務省は来年度から、開発途上国などに対するODA(政府開発援助)の重要な柱に、「防災支援」を位置づける方針を固めた。来年1月に神戸市で開かれる国連防災世界会議に提案される行動計画の素案に、阪神大震災の教訓を踏まえた日本政府の提案が盛り込まれたことを受けた措置。開発援助中心で批判されてきたODAだが、今後はすべてのプロジェクトに防災の理念を盛り込み、日本の新たな国際貢献の在り方を示す。

 外務省は02年度、被災国への緊急援助隊の派遣や緊急物資の提供などで413億円を支出するなど、これまでにも被災国の復旧・復興を支援。今後は防災に着目した支援を重点にする。

<後略、引用終わり>

 外務省の利権構造については、<外務省を解体しよう>を参照していただきたい。繰り返さないが、不透明な援助とキックバック及び退職後の天下りポストの確保、バカ高給与、機密費の使い込み、裏金と国民の税金を野放図に使い好き放題してきた。北朝鮮拉致事件問題で有名になった、田中審議官は、サンフランシスコ総領事となった翌年目黒区に豪邸を新築した。「『大使を3年やれば家が建つ』というのは本当だった。これでは拉致家族の心情など理解できるはずがない。」とサピオは書いている。

 最近、予算が減ってきたので、外務省は利権構造を維持するために防災を持ち出してきたのだろう。新手の利権確保の方便である。

 朝日新聞2004/10/01朝刊の<50年で「185カ国に24兆円」 ODAで白書によると、

 政府の途上国援助(ODA)が今年で50周年を迎えるようだ。

 「外務省は戦後の援助の歩みを振り返る04年版のODA白書を作成し、1日の閣議で報告した。白書は54年からの50年間で185の国・地域に累計2210億ドル(現行レートで約24.3兆円)のODAを供与した実績を挙げ、『途上国の開発や福祉の向上に大きく貢献した』と意義を強調した。」という。

 50年間にわたり、24兆円もの税金を食い物にしてきたのかと感慨深かった。もっとも、かの、外務省は「(1)93年から01年までの9年間で6億人の子供たちにポリオ・ワクチンを供給(2)インドネシアの通信ネットワークの総延長の約50%の施設にも協力(3)50年間に7万人の専門家と2万5千人以上の青年海外協力隊を派遣――など」実績を強調しているという(同上朝日)。いくらODAに使い、いくら利権になったのか明らかにしてもらいたいものだ。

 このお金を国内の困っている人に回せば、国民生活はもっと豊かになったのではないか。

 04年度のODAは8169億円で、来年度の概算要求は9198億円となっている。バブル崩壊後の15年間の不況で市民生活は疲弊している。この際、この9198億円は、廃止して、最低限の人道的な援助のみにしてはどうだろうか。

(2004/10/02)

国家統制の強化〜いつか来た道またしても?〜

 戦前の統制社会の復活を図る動きが加速している。戦後の民主主義・平和主義の危機だ。

 最近、国家主義的な動きが強まっているといわれている。個々の事項を検証し、全体的な動きを見ていきたい。

T.東京発日本全国へ

(1)「日の丸・君が代」の強制の強化

 東京では、式典で保護者も起立したかどうか調べているという。君が代起立、保護者の状況も報告 都立校50校分メモ (朝日新聞2004/7/25)

 また、都教委などの通達に従わず学校行事での「君が代」斉唱時に起立しなかった教職員に対して、「服務事故再発防止研修」を行った。「君が代」で処分の教職員に「再発防止研修」 都教委(朝日新聞2004/8/2)

 「国旗・国歌法」制定の時たしか、政府は、法案が通過しても強制はしないと言ったのではないか。その政府も今の政府も同じ自民党の政府。強制しないといいながら、従わない者を東京都は、何故処分するのか。
 
(2)つくる会の教科書採択

 東京都教育委員会は、来春開校する都立中高一貫校の教科書として「新しい歴史教科書をつくる会」の主導で編集された歴史教科書(中学生用・扶桑社版)を採択した。「つくる会」の歴史教科書、都立の中高一貫校で採択(朝日新聞2004/8/26)

 扶桑社版教科書については中国、韓国が「侵略戦争の本質を隠している」などと検定段階で反発し、日本政府に表現の修正などを要請。文部科学省も137カ所にのぼる検定意見を付け、修正後に合格となった。しかし、「歴史を歪曲(わいきょく)している」「女性蔑視(べっし)の表現が目立つ」との批判がある。(朝日新聞2004/8/26)

(3)「ジェンダー・フリー」男女平等教育で使用せず

 東京都教育委員会は26日、一般的に「社会的・文化的な性差の解消」という意味で使われる「ジェンダー・フリー」について、「男らしさや女らしさをすべて否定する意味で用いられていることがある」として、「男女平等教育を推進する上で使用しないこと」との見解をまとめた。都教委:「ジェンダー・フリー」男女平等教育で使用せず(毎日新聞2004/08/27)。

 男女協同参画社会を作るためには、ジェンダー・フリーの教育は必要だと考えていた。しかし、東京都などでは、男らしさ女らしさを強調する家族道徳重視の流れが勝ったようだ。

 教育を国家統制しようと言う動きは、20年ぐらい前、1980年代半ば以降から出てきた。詳しくは、<教育の国家統制>の完成を参照。古くは、中曽根首相時代の「臨教審」。最近では、森首相時の私的諮問機関、「教育改革国民会議」の一連の提言などに顕著に現れている。教育改革国民会議報告〜教育を変える17の提案〜(平成12年12月22日)。保守政権には、教育を国家統制しようと言う動きがずっとあったのだ。当然、教育基本法の「改正」を視野に入れている。東京都の石原知事は、文化人や都の幹部を使って、この動きを全国に先駆けて推進している。

U.教育基本法の「改正」の動き

 与党教育基本法改正に関する協議会の「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(中間報告)」(2004/6/16)では、

 教育基本法の前文から「憲法の精神に則り」という部分を削除したいと考えているようだ(これは、憲法の「改正」を考えているからだろう。)。

 また、教育の目標のところで、「郷土と国を愛する」という語句を入れたいと考えている。愛国心教育を正当化する目的だと思われる。

 次に、教育の目的から、「平和的な国家及び社会の形成者」を外し、教育の目標のところで「国際社会の平和と発展に寄与する態度の涵養」という言葉を入れることで、教育から専守防衛の平和主義を追放しようと考えている。国際社会の平和のためには武力行使を是とする、そのために、イラクに自衛隊を派遣しているという論理である。

 さらに、10条を「教育行政は、不当な支配に服することなく、国・地方公共団体の相互の役割分担と連携協力の下におこなわれること。」に変更しようとしている。教育は、国民の手から、国家が一方的に行う主体になる。また、教員組合や市民団体の活動は、「不当な支配」と位置づけるものである。

(1)「平成の教育勅語」を目指す?


 「教育基本法の改悪」のポイントは、今までの「平和」・「平等」の教育から、新たに「戦争」と「差別」を教育に導入、しようと言うことである。自民党教育改革実施本部教育基本法研究グループ主査で文部科学大臣の河村健夫は、「平成の教育勅語を念頭において議論したい」と述べている。

 新保守主義が、家父長的な道徳主義への復古を目的にしているということが明確だ。

 教育改革国民会議座長の江崎玲於奈は、「人間の遺伝子が解析され、もって生まれた能力が分かる時代になってきました。これからの教育では、そのことを認めるのかどうかが大切になってくる。ある種の能力が備わっていない者が、いくらやってもねえ。いずれは就学時に遺伝子検査を行い、それぞれの子どもの遺伝情報に見合った教育をしていく形になっていきますよ。」と述べている。

 江崎のこの発言は、ナチスの優生思想を連想する。

(2)心の教育ノートは、「平成の修身教科書」?

 心の教育ノートは、文部科学省が2002年4月から、国公立・私立を問わず全ての小・中学生に配布しはじめた道徳の副教材。

 2000年3月参議院文教委員会で、亀井郁夫議員(日本会議国会議員連盟)「戦後、私たちは物質的に豊かになった反面、大切な心を失った。学校の教育を高めていくことが大事だが、道徳の教科書がない。道徳の冊子をつくって教えるようにすべきではないか。」と質問した事がきっかけで作られた。

 当時の中曽根弘文文部大臣が意図的に、「道徳の冊子」を「副読本」と解釈して、「副読本のお話もありましたので、研究してつくったらいいのではないか」と答弁。わずか、1週間後には予算計上ががなされ、当時の河村建夫副大臣が、「予算が成立したらただちに作成に取りかかり、全国の学校に配布したい。」と述べた。

 教科書予算が削減される中で、「心のノート」には7億3000万円もの予算が割かれた。2003年度予算案にも3億円がつけられており、文科省は本気でこのノートの利用を徹底しようとしている。
 国がこうした副教材を作り、全国一律に配布するのは戦後はじめて。ただの副教材のはずなのに、文科省はノートを使用して授業を行えという趣旨の指導書を各教育委員会に送りつけ、使用状況も調べはじめている。「強制しない」と言いながら、「調査」を通して全国一律に強制しようとする。「心のノート」って何?

V.国民保護法

(1)国民保護法制とは

 年金国会のどたばたの中で、2004/6/15国民保護法案を含む有事関連7法案が成立した。

 国民保護法案は、「平時」から「有事」に備えるもので、自衛隊が戦うのに「じゃまになる市民」をいかに排除するかという法律である。
「有事」に際して、いかに戦闘の邪魔者を排除し(「避難」規定)、
必要なものを調達し(「救援」規定の物資の収用や土地等の使用)、
被害を最小限に抑え(「武力攻撃災害への対処」規定)、
円滑に戦闘を行うかを定めた法案。

 「有事」には自衛隊は戦争をするので、自然災害の時のように自衛隊は、救援活動ができない。それで、国民の避難、防災は自治体が担当する(民間防衛)。消防団は消防活動しかできなかったが、消防法を改正し、防犯組織としても活用が可能になった。かつての「警防団」のようになるのだろうか?。

自治体が中心となって
組織を作る
計画を作る
会議を開く
自主防災組織の活用
消防団
防犯
学校と警察の協力
事務に
自衛隊OBを採用
民間防衛
(civil defence)


 国民保護法では、協議会を作ることになっているが、その事務に防衛庁は、自衛官OBの採用を都道府県、市町村に働きかけている。戦前の
「配属将校」のようなものと考えていいのだろうか?「史上最大の派遣GOB採用」神戸新聞2004/09/11)

 国民保護法により、「赤十字のマーク」と「ジュネーブ条約第1追加議定書で定められた民間防衛のマーク」は、みだりに使用できない。
民間防衛(civil defence)

 158条(特殊標章等の公布等)「みだりに使用してはならない」「特殊標章」と「身分証明書」として、
ジューブ条約第一追加議定書第66条3項で規定しているオレンジ色の四角の中にブルーの三角を配した標章とその身分証明書を特定している。このマークは国際人道法上の「民間防衛」のマーク。

武力攻撃事態等の際に「みだりに使用」すると赤十字のマークと同様に6月以下の懲役あるいは30万円以下の罰金という罰則が科せられる。
国民保護法案のこの条文の第 2項では、この民間防衛(文民保護)の「特殊標章」と「身分証明書」を武力攻撃事態等の際に、国民保護措置に「必要な援助」について「協力する者」 に対しても「公布し又は使用させる」ことができると規定している。
これは国民保護措置を実施するにあたって、「自主防災組織」や「ボランティア」が当局によって、あらかじめ選別され、認定されることを意味している。
国際人道法ではこの「特殊標章」と「身分証明書」を携帯している者は「文民」であって、それが掲示されている施設も軍事目標としてはならないとされている。


(2)「国民保護法の本質を見極めよう」

 芹田健太郎(神戸大学名誉教授、愛知学院大学教授)さんは、神戸新聞2004/8/5朝刊で次のように、国民保護法の危険性を指摘している。

戦時統制が主目的だ

 六月十四日に成立した国民保護法は、一般に「日本有事の際に国民を守るための避難や救援の手続きを定める」ものとして説明されている。確かにその通りであるが、「有事」という日本語は、戦争や事変の起こることを言い、必ずしも、「武力攻撃事態等」つまり戦争に特化された表現ではない。特定の緊急事能に対処するためには警察法、消防法、災害対策基本法などが定められており、だから「万が一大規模な災害が発生した場合」への備えの議論となる。

 しかし、自然災害と武力攻撃災害とでは異なる。「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛すること」が自衛隊の主たる任務であり、「必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」ため、防衛出動や治安出動を行うが、自然災害時の出動は「災害派遣」であって、本来業務ではない。

 国民保護法は武力攻撃事態等を想定しており、武力攻撃事態等において自衛隊は武力攻撃に対抗して「敵」と戦うのであって、自然災害時のように国民の救援に来るわけではない。国民保護法は、地方公共団体等の責務や国民の協力や住民の避難・救援措置を定め、戦争時に国民が一丸となって戦争に対処できるよう国民を動員するものである。戦時における自衛隊の民主的コントロールの枠組み法という側面もあるが、国民統制法でもある。この点では、基本的人権の尊重をうたってはいるが、日本が参加している人権条約は、非常時においても一時停止できないとする基本的人権を列挙しており、整合性に欠ける。

平和外交こそ必要

 そもそも、冷戦時代ならいざ知らず、なぜ今なのか。政府は、法律の必要性について「独立国家としての当然の重要な課題」と言い、「特定の国からの武力攻撃を想定して法案を提出したものではありません」と言う。

 前者については、第二次世界大戦後今日までこうした法律を持たなかったことが不自然だと政府は考えているが、法的な論理一貢性を追求しているにすぎない。後者については、仮想敵国はない、といいながら、武装不審船事案を持ち出して説明する。しかし、日本が仕掛けた先の戦争で本土攻撃を受けた以外、日本は有史このかた、元寇のほか、攻められたことはない。平和外交こそが求められるべきであり、新潟や福井の災害に青年たちがボランティアで出かけているように、そのことをこそ鼓舞する法制が必要なのではないか。こちらは世界の現実である。

 地方自治体は、国民保護法の施行とともに、国民保護協議会を設置し、警報の発令や避難訓練等を行うこととなる。せめて、災害対策基本法に定める防災訓練と有機的な連携を強く持たせなければ、国民はまるっきり非現実的な訓練につきあわされることになる。
<引用終わり>

 結局、国民保護法は、あるかないか分からない有事を利用して、警察・自衛隊・自治体・消防団などの一体化を図り、国民を監視する、
「国民統制法」である。東京は監視カメラの設置、警察官の副知事登用などこの面でも突出している。
 
 先頃、鳥取県で実施された避難訓練では、2万人あまりの町村民を避難させるのに11日間かかった。勝手に逃げた方が早く逃げられるのではないか。

 戦前の「
防空法」では、「防空上必要な場合、市民の土地や工作物等を収用・使用できる」とし、「退去の禁止・制限の対象にならないものは。(1) 国民学校初等科児童または七歳未満の者、(2) 「妊婦、産婦又ハ褥婦」、(3) 六五歳以上の老人、「傷病者又ハ不具廃疾者ニシテ防空ノ実施ニ従事スルコト能ハザルモノ」、(4) 前各号に列挙した者の「保護ニ欠クベカラザル者」。避難できるのは、まさに「老幼病人のみ」である。」(防空法制化の庶民生活7、水島朝穂)

 アジア・太平洋戦争の日本では、防空(民間防衛)に隣組が利用され、防火を放棄して逃亡することは禁止された。その結果、おびただしい死者が出た。

 今回の国民保護法の内容は、戦前の「防空法」と似たところがある。「備えあれば憂いなし」という言葉と反対に、バケツリレーなど防空訓練がかえって災いとなったのだ。

W.憲法改悪の動きとポイント

 
自由民主党・政務調査会の憲法調査会〜憲法改正プロジェクトチームがまとめた「論点整理(案)」の全文(2004/6/10)ついて、週間金曜日の憲法激論シリーズ1自民党(自民党憲法調査会会長の保岡興治と東京大学大学院総合文化研究所教授の高橋哲哉の対談)を参考にその方向を見ていく。

(1)個人の尊厳と両性の本質的平等を見直す?

 上記、自民党「論点整理案」では、「憲法24条の婚姻・家族における両性平等の規定は、家族や共同体価値を重視する観点から見直すべきである」と書いている。

<以下金曜日の対談を一部引用>

 自民党憲法調査会会長の保岡興治は、「ジェンダーフリーについては、もう少し考える必要がある。男女はそれぞれ持っている役割も違いますから。それぞれの特性を生かし合い、協力し合って幸せな家庭をつくる。あるいは社会を構成する。男女平等の本質をしっかり捉えた家族の考え方が大切です。平等という意味が、まったく何もかも同じだという趣旨で理解されているのであれば、見直さなければならない。」と述べている。

 家族のあり方にまで憲法が踏み込もうとしている。自民党は、東京都教育委員会同様、ジェンダーフリーという言葉が嫌いなようだ。家父長制家族主義と合わないのだろう。

 また、保岡は、「ただ我々は、憲法には最高法規としての国民行為規範という要素もあることを頭に置いています。そうでなければ、義務規定が憲法にあるということが説明できない。たとえば、行き過ぎた個人主義というか、自分勝手の利己主義がいけないことは誰から見ても明らかですが、どうも最近の風潮はそうなっている。人権を保障し、人の幸せを確保する大切な枠組みである国家に貢献するためにがんばろうとか、社会のために役にたとうという考えが希薄になっている。だから、自分を大事にすることは他人を大事にすること。秩序ある国家を機能させて初めて人間の幸せが実現できる、ということを明確にする。」という。

 対談者の高橋哲哉は、これに対し「道徳的な『国民行為規範』を憲法に掲げることは、市民がそれぞれ自分の生き方や価値観を自由に選択していくという、思想・良心の自由に抵触する恐れが強い。戦前の憲法は、国民の精神にまで踏み込んで支配する傾向が強かった。その結果が歴史的な失敗に至ったことを跨まえて、戦後の憲法はそこに関してはきわめて抑制的に、近代憲法の基本に忠実な形を守っているわけです。このことを評価せず、むしろ前の方がよかったという復古的な意見が自民党の中で強いので、今言われたような考え方が出てくるのだと思うのです。」

 戦前の憲法は、国民の精神にまで踏み込んで支配する傾向が強かった。自民党案は、憲法に、望ましい家族像・国民像を書こうとしている。憲法で国民生活の中身まで書くより、そんなことを考えている政治家の倫理・道徳を書いた方がいいのではないか。簡単に1億円の小切手を受け取ったり、受け取ったことを忘れたり、また、同席したことを忘れたなどする政治家の倫理・道徳をである。(橋本元首相「記憶にない」1億円小切手受領で<2004/07/15朝日新聞>【日歯連事件】


(2)集団的自衛権と徴兵制

 平和主義については、「今後とも堅持する」が、自衛権を明記し自衛隊を合憲とする。「個別的・集団的自衛権の行使に関する規定を盛り込むべき」と書いている。

 保岡は、憲法九条を具体的に、「自衛隊という実力組織を持つ、それを戦力と表現するならば、日本は自衛の戦力を保持する。かつ一定の原理の下に国際貢献や自然災害に対応して行動することを規定する。」と述べている。

 また、自民党案は、「国の防衛及び非常事態における国民の協力義務を設けるべきである。」 と書いている。

 これについて、高橋が、「すでにアフガニスタンやイラクで米国の戦争に協力している。『対テロ戦争』に参加して『平和』になるというのは幻想です。九条の改定と関連して気になるのが『非常事態における国民の協力義務を設けるべきである』という箇所。国民が国家防衛の義務を有することを明記したいということですか。」という問に、
 
 保岡は「それも含みます」と答えている。

 高橋 「石破茂防衛庁長官は、現行憲法でも徴兵制は違憲ではないと発言していましたね。ああいう考え方は自民党の中でも多いのですか。」

 保岡 「徴兵制自体を考えている人は自民党の中にはほとんどいない。」

 高橋 「しかし、国民が国家防衛の義務を有するという文言が入れば、行き着くところは徴兵制でしょう。」

 保岡 「有事立法、国民保護法制はもともと国民の生命財産を守るための法制ですが、そのために国民の協力義務というのはいろいろな形で出ていますから、その根拠規定ですよ。国や国民を守るということに国民は協力し寄与する責任がありますよということです。」と述べている。

 自民党は、「国民が国家防衛の義務を有する」と言うことを明記したいと考えている。

(3)天皇制

 
高橋 「この論点整理にもたびたび出てくる『我が国の国柄』。戦前・戦中に盛んに使われて、『国体』とほとんど同義に言い換えられていた言葉です。

 保岡 「いや、僕らはそういう意味で使ってないんだけど。簡単に言えば国のアイデンティティー。日本の民族、二千有余年の長い歴史の中で培ってきたいいものです。たとえば天皇制度などは日本の歴史と伝統文化の最たるものです。象徴の方向性に国民が喜怒哀楽し、敬愛の惜を表したりする天皇制というのは、ほかの国にない見事な文化だという評価を世界からされてます。」

 高橋 「そうすると、国柄の中心はやはり天皇制なんですね。天皇の地位の『本来的根拠』を『国柄』に置くなどという議論もあるようです。」

 保岡 「天皇が日本国、日本国民の統合の象徴ということの実質的な意味です。日本民族二千有余年の歴史の中の良い伝統文化をそれに見る、日本国の象徴とはそういう意味でしょう。」

 最後に、高橋は「議論全体として感じるのは、国民の義務を強く打ち出していることです。非常事態であっても国民の権利は守らなければならないというよりは、公共の福祉の名で「軍事的公共性」が優先される懸念があります。公共性に対する責任の意識や国際貢献には異論はありませんが、そのあり方に関して今の改憲の方向でいいのかどうか、根本的な疑問があります。」と述べている。

 自民党の憲法改正論点整理案は、家父長制(ジェンダーの拒否)、自衛隊の合憲化、国柄(天皇制の強化)といった戦前の国家主義への回帰という色彩が強い。

X.共謀罪は治安維持法?

 さらに、政府は、
「共謀罪」を新設しようとしている。共謀罪は治安維持法的な側面があり、実行行為をしなくても相談すれば罪になり、密告されれば捕まることになる。

『超監視社会』の前夜?標的は…労組と市民団体(東京新聞)によると、

 法定刑が四年以上の懲役となる犯罪を複数の人々で「共謀」した場合、最高で懲役五年の刑罰に問われる。これまでも刑法六〇条の「共謀共同正犯」があったが、これは犯罪が実行されて初めて問える。共謀罪の特徴は実際に犯罪がなされなくとも、事前に計画を仲間同士で相談しただけで罪に問われる点だ。憲法の「思想表現の自由」に抵触する懸念が生まれるゆえんだ。

 「共謀罪が成立する犯罪は五百五十七種類もある。中には市町村民税免脱罪や不同意堕胎(だたい)罪など、組織犯罪とは関係のない犯罪も含まれている。警察当局が組織的団体と認定すれば処罰できるわけで、住民団体やNPOも対象となりうる」

 労働運動や市民団体も共謀罪で捕まる可能性がある。

 また、「共謀した者でも自首すれば刑を減軽する」という条件から、戦前の「密告社会」の再来を危険視する反対論も根強い。成立すると監視社会になる可能性がある。

 2004年3月、立川市で自衛隊の集合住宅の郵便受けに反戦ビラを入れたということで3人が逮捕され75日間逮捕・拘禁されたということである。商店の宣伝チラシや宗教団体のチラシなどがよく家に入る。ピンクチラシなど少し迷惑と思ったことがある。しかし、チラシを配って75日間も逮捕・拘禁されるとは驚いた。戦前の自由主義者や共産党員の弾圧を彷彿させる事件である。この3人は、日本で初めて、日本アムネスティーから「良心の囚人」に認定されたそうである。

 各パーツごとに見ると全体的な動きが見えにくい。東京の「君が代」斉唱時に起立しなかった教職員に対して、「服務事故再発防止研修」などの動き。教育基本法の「改正」、心の教育ノートの配布、国民保護法、自民党憲法改正論点整理案、共謀罪というパーツを埋めていくと、最近の日本の動きがはっきりと見えてくる。
 私たちが、自由にものが言え、自由に行動できる社会は、大切だ。安心して気持ちよく暮らせる社会は監視社会ではない。警察国家を作ってはならない。

(2004/9/11)