バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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難攻不落の高嶺の花 <4>
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葬儀の日は雨だった。
まるで自分の心を代弁してるかのように細かい霧のような雨が降り注いでいた。
極東支部で行われた葬儀には支部のBSAA隊員全員が出席していて、クリスとピアーズも北米支部から代表で出席した。
正面の写真でメラは眩しいくらいの笑顔だった。訓練中だろうか、うっすら汗さえ浮かんだ額に弾けんばかりの笑顔の下は白いTシャツ。
(誰だよ、こんな写真選んだのは…)
若い女なら化粧してキレイに撮れた写真の方がいいんじゃないのか、とピアーズは正面で笑うメラを見つめた。
でも――多分一番彼女が輝いてるのがこういう時だったんだろう。それはここにいる全員がわかってる――自分もを含めて。メラがそういう女だったのはきっと誰より――自分が一番知っている。
目を閉じると瞼の裏に鮮やかに浮かぶのはメラの最期の顔だ。


「お願いね…ピアーズ」
最期の一息でそう言った彼女の手が床に滑り落ちた。
真っ赤に染まった身体から横たわった長椅子を伝って滴り落ちる血の量はおびただしい。もう誰の目にも明らかなほど彼女の命の灯は儚い。
(やめろ、死ぬな…!)
無駄だとわかっていてなお、ピアーズは祈った。
力を失った彼女の身体をそっと抱き起した。ズシリと重い身体はまだ温かい。まだこんなに――
声にならない叫びはピアーズの喉を越えなかった。代わりに彼女の身体を思い切り抱き締めた。初めて腕に抱いた彼女は本当に華奢で――二つにまとめた髪が彼女の肩に顔を埋めたピアーズの頬をくすぐる。むせるような血の匂いが鼻をついたが気にならなかった。

ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう――――

ガン!と計器を叩く鈍い音がして、「クソッ!」というクリスの声が聞こえた。
クリスはこんな想いを一体どのくらいしたんだろう。仲間を喪ってなお戦い続ける理由は何なんだ。


ふと気づくと足元に影が差した。俯いた顔を上げると、目の前に見知った男が立っていた。
いつもは陽気な髭面も今日ばかりは神妙な顔で、極東支部のブラヴォーチームの隊長だった。顎をあおられて促されたので、ピアーズは頷いた。雨が降る中、彼女を偲ぶ輪から少し外れて彼と芝生の上を歩く。
「すいません…」
彼女を守れなくて、という意味を込めた言葉が漏れた。それに彼は首を振った。
「メラがお前を守ったんだろ。メラは守られるような女じゃない」
「そうかもしれませんが…」
ピアーズは目線を下に落としたまま彼と並んで歩く。
「メラはお前が目標だったよ。射撃の腕でどうやったら追いつくのか終始考えてたな」
遠くを見ながら言う彼はその時のことを思い出しているのだろうか。
「高嶺の花がついに落ちたか、ってもっぱらの噂だったぞ」
彼の口調が晴れやかになったが、ピアーズの心は沈んだままだ。だが、沈んだピアーズを元気づけようとする気持ちは痛いほどわかるので、軽く乗ることにする。
「そんなわけないですよ。あの時、俺は飲みに誘ったけど、"考えとく"って言われただけだったし――」
そう言いかけたピアーズの隣で髭面の彼が詰まったように黙った。そして突然ピアーズの背中をデカくて分厚い手で思い切り叩いた。
「…っいって!」
何するんですか、と言いかけてピアーズは止まった。泣きそうな顔でこちらを見る彼を呆然と見つめる。

「お前なぁ…メラはな、食いに誘わないと返事はニベもなくNOなんだぞ。こっちで飲みなんぞに誘ったら鼻で笑われて終わりだったんだぞ」

――あいつは下戸だからな。

彼はそう言うとまたもピアーズの背中を叩いて戻って行った。
残されたピアーズは呆然とそれを見送って――ふと空を見上げた。涙のように降り注いでいた雨がいつの間にか止んで、雲の切れ間から光が一筋差していた。


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