バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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難攻不落の高嶺の花 <1>
「ひとつ借りね」
そう言って笑った彼女は、ピアーズが差し伸べた手を握って立ち上がった。
革グローブ越しの感触は自分の手より大分小さく感じた。立ち上がった彼女の頭も自分より幾分低い。
こんなに華奢なのにな、とピアーズは先ほどまでB.O.W.相手にナイフ一本で戦っていた彼女を見つめながら口を開いた。
「じゃあ帰ったら、バーで一杯どうです?」
自分でも笑えるくらい臆病な誘いだが、下心は透けて見える。メシじゃなくて飲みに誘うなんて。案の定、彼女は顎をあおるようにこちらを見て不敵に笑った。

――「考えとく」

その顔を見て、ピアーズは極東支部のブラヴォーチームの隊長に彼女のことを「難攻不落の高嶺の花だぞ」と冗談交じりに言われたことを思い出した。


**

彼女――メラ・ビジと初めて会ったのは、所属するBSAA極東支部への支部視察の時だった。
ピアーズが所属するのは北米支部だが、BSAAという組織は事件が支部を越えれば管轄外でも出動することもあるし、若手の育成を兼ねてベテランの支部視察は頻繁に行われているので、他の特務機関に比べれば雲泥の差で風通しはいい方だとピアーズは思っている。
「ほら、あれが例の――」
クリスと一緒に訪れた極東支部特殊作戦部隊訓練所で男顔負けの格闘を繰り広げていたのがメラだった。元技術研究員が特殊作戦部隊である第一線へと異動願を出したと聞いた時は目を瞠ったものだ。続くわけないという周囲の予想を裏切って、メラは支部で一番強くなった。その噂も当時、BSAA中に駆け巡った。
「噂通りの人ですね」
メラは周りの屈強な男に囲まれて身体こそ小さく細いが、オーラは誰にも負けていなかった。私がここで一番強い――全身でそう言ってた。
手合せしてみると、その瞳の奥に宿る光は一層強くなった。格闘の技術は正直まだまだだと思ったが、向かってくる闘争心はBSAA内ではピカイチだった。ちょっとでも気を抜けば、その覇気にやられてしまいそうだ。
奥襟を掴んでからの背負い投げ、そのまま膝で抑え込んで拳を寸止めで顔の前で止めた。
「…参った」
メラから微かに漏れた降参の言葉には悔しさが滲んでいる。
「また手合せできる?…クリス、あなたもいつか超えてみせます」
差し伸べた手を強く握りながらそう言うメラにピアーズは苦笑した。
(俺を一足飛びでクリスを超えるってか)
BSAAの生きる伝説と言われるクリス・レッドフィールドに向かってそう放言できるのは大した度胸だ。大ホラ吹きだと笑われるのがオチだろうが、メラは一年前の異動の際にもそうやって笑われたのを実力で跳ね返している。

――参ったな。俺のタイプは大人しい感じの可愛い子だったはずなんだけどな。

ピアーズは苦笑いしながら、目を眇めて遠ざかる背中を見つめた。
「なんだなんだ、ピアーズはあの跳ねっ返りが好みなのか?」
極東支部のブラヴォーチームの隊長がピアーズの肩に手を回しながらニヤニヤ顔で覗き込んでくる。
「何言ってんですか。そんなんじゃないですよ」
ここでムキになるほど自分も幼くはない。笑って受け流すが、彼はしたり顔で頷いた。
「あいつはなぁ、顔はそこそこ可愛いんだがな、頑固で可愛げがないぞ」
そう言いつつも彼の顔も本気でそんなことを思っている風ではない。きっと頑固なのは本当だろう。でも、その頑固なところも可愛いとみんなに思われているんだろう。
ああ、そうか――
ウチの隊の娘に手を出すなら、相応の覚悟でな、という牽制か。
ピアーズは思わず微笑んだ。
大事にされてるんだな、と思った。BSAAならではの風習かもしれない。
「そういうこと言うとセクハラですよ」
ピアーズはそれでも馬尻に乗るつもりはないので、さらりとかわした。彼は髭面の顔に満面の笑みを浮かべて、ピアーズの肩をグローブのような手で叩く。

――「まぁ、難攻不落の高嶺の花だ。頑張りな」


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