バイオハザード6の二次小説を書いてます。
| HOME  | INDEX | PIXIV | ABOUT | BLOG | E-mail | 
【レオエイ/夫婦パロ】結婚記念日 <2>
***

レオンは高級ホテルのロビーに思案顔で立っていた。
手にはバラの花束。結構奮発したのでボリュームもそこそこある。
今日の出で立ちはタキシードとまではいかないがそこそこフォーマルなスーツ姿だ。大統領のパーティに同行することも多々あるのでフォーマルな服には事欠かない。
元々の顔立ちに加え、年齢を重ねて渋みが加わったレオンは外見だけでいうとロビーを行き交う女性が振り返るほどにはカッコいい。いつもは無精髭が生えている顎もきちんと剃ってある。どこからどう見ても、今から勝負!という感じである。
しかし、肝心の相手が――
レオンは袖から覗く腕時計に視線を落として、漏れそうになる溜息を我慢した。

(俺、言ったよな?今日、この時間にここで待ってる、って言ったよな?)

長い時間待って漸く手に入れた妻――エイダと結婚したのは約1年前。ちょうど――1年前の今日だ。
素直じゃないにも程がある彼女にうんと言わせるのは骨だったが、やっと手に入れたのだから大事にしようと誓った。
こういう記念日に疎いのはお互い様だ。少なくともレオンは今まで付き合った女に自分から記念日に何かを仕掛けたことはない。仕事にかまけてきれいさっぱり忘れて責められるのが常だった。今回のように何日も前から入念に準備するという発想は今回が初めてだ。
焦がれているという自覚は薄かったが、それでも何度も忘れようと努力はした。好きでもない女と付き合ってみて振られるのを繰り返し、長い時間をかけて自分の気持ちを自覚してからも手に入るまでは長かった。だからこそ、なのか。一緒になった時間を大切に生きたいと願うのは。
そう思う一環として、柄でもなく結婚記念日を祝おうと思ったんだが――

(これは…忘れてるな)

レオンは先日のエイダとの攻防を思い出した。

数日振りに見る妻の顔には疲労の色が濃かった。その疲れぶりに思わず「忙しかったのか?」と聞きそうになるのをレオンは寸前で飲み込んだ。
仕事についてはお互い干渉しないというのが暗黙の了解だ。レオンもエイダが仕事を続けるというのであれば別に文句はない。仕事で数日家を空けるのはお互い様だし、何をしているのかは自分は守秘義務があるので言えないのにエイダに聞くのは憚れて結局知らないままだ。おおよその見当はつくが、確かめたことはない。

「エイダ」
呼ぶと振り返ったエイダの顔には疲労の色が濃い。
レオンが用意した食事も「食欲がない」と言って手をつけていない。
「大丈夫か?」
聞くと頷きながらも動きが緩慢でだるそうだった。
ソファに座る妻の肩をほぐすように揉んでやると、素直に頭を垂れた。筋肉が硬くなってかなり酷使したであろうことが窺える。
力に強弱をつけてほぐすように揉み込む。ツボを親指で押さえると「んっ…」と聞きようによっては色っぽい声を上げて、レオンはドキッとした。
だが、垂れた髪から覗く横顔にはそんな色っぽい雰囲気など欠片もなくて、レオンは期待した自身に苦笑いしながら肩もみを続けた。
「…エイダ」
「なに?」
肩を揉みながらレオンは自分の妻に声をかけた。返答はだるそうだったが、機嫌は悪いわけでもないようなので続ける。
「もうすぐアレだろ?」
アレ、で通じるかどうかは疑わしかったが、案の定、少しの逡巡の間があって「何かしら」と問い返された。
「来週の水曜日、仕事か?」
「…何かあるの」
やっぱり言わなきゃわからないか、と少しガッカリしながら、レオンは口を開いた――

あの時、しっかり日と時間は伝えたはずだ。場所も。
眠そうにはしていたが、ちゃんと「わかったわ」と返事もしていた。
なのに――

(忘れるとかアリかよ!?)

ホントに俺だけだよな、こんなに舞い上がってるのも、きっと好きなのもな!
くっそくっそくっそ!
自分だけ、という想いがささくれ立った気持ちを更に尖らせる。
時計に視線を落とすと既に約束の時間から1時間以上経っていた。予約したレストランももうおじゃんだろう。
思わず吐きそうになった溜息を我慢した時、耳に甲高い声が届いた。そちらに目をやると、若い女の子がこちらを見ていた。
レオンは目が合った瞬間、真っ赤になった女の子を見て、気づけばそちらに足を向けていた。
(そっちがその気なら俺だって――)
正直、昔から女に困ったことはない。女運は悪いが、女っ気には不自由していない。だから口説くは慣れたものだ。
だが――
さすがにこんな若い子をお持ち帰りするのは気が引ける。しかも、もしバレたら――先日の夫婦喧嘩を思い出して、レオンは苦笑いした。

「君みたいな可愛い子とお茶なんかしたら、妻に殺されるからね」

唖然とした後、態よく断られたと思ったんだろう。女の子の顔がホッと緩んだ。それを見ながらレオンは思った。

――いや、結構本気なんだけどな。


BACK - INDEX - NEXT