バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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【レオエイ/夫婦パロ】結婚記念日 <1>
「ちょっと、アレ見てよ」
「え?どれ?」
友達に言われて彼女が視線をそちらに向けてみると、背の高いちょっと目立つ男性が立っていた。
今日はとある理由からこの高級ホテル――いつもならとてもじゃないが敷居が高くてロビーにすら入れないであろうランクである――に来ていた。一人では心もとなくて友達も一緒でよかったと思っていたが、学生が二人になったからといって浮いていることには変わりない。
「ひゃー、絵になるねぇ」
友達の感心したような声音も耳を通り過ぎて行く。
綺麗なブロンドのサラサラの髪に黒いフォーマルなスーツがとても似合っていた。スラッとした立ち姿は細いだけじゃなくて、程よく筋肉を感じさせる厚みがある。前髪が長いので横顔からは目が見えないが、きっと端正な顔立ちだろうなと思わせる。
目立つ容姿に加えて、もうひとつ目立つ要因があった。
右手に真っ赤な薔薇の花束を持って、左手はポケットに入れている。堂々としたその佇まいはそこだけ別空間を思わせるほど現実離れしていた。
時折、腕時計に目を落として時間を確認しているのはもちろん待ち合わせだからだろう。
「ちょっと!」
隣にいた友達が彼女の目の前で手を振って、やっと彼女は彼から目を離した。
「見過ぎでしょ!見惚れ過ぎよ!」
やや呆れながら言われて彼女は頬に血が昇った。え、そんなに見てた?
「だって、カッコイイんだもの」
「そりゃそうだけど。それにしたって見過ぎでしょーよ!」
友達の声が甲高かったのか、彼がこちらを向いた。向いた途端に目が合って、恥ずかしさも全て消し飛んだ。
正面から見た彼は端正な顔立ちにブロンドの髪が映えている。歳は自分より大分上に見えるが、渋みの走ったいい男だった。
吸い寄せられるように視線を逸らせなくなっていると、ブルーの瞳が眇められた。口元には笑みが浮かんで、こちらに向かって歩いて来た。
「失礼、今何時かわかるかな?」
間近で見下ろされ、彼女は心臓の跳ねる音が彼に聞こえるんじゃないかと思った。
「えっ、今ですか?」
「ええ。時計が狂ってないかと思ってね」
そういえばさっきから何度も時計を見て時間を確認していたことを思い出した。
「え…っと今は、8時45分です」
慌てて自分の時計に目をやって答えると、彼は困ったように笑った。その笑顔もキュートで可愛かった。
「そうか。僕の時計が狂ってるわけじゃなさそうだ」
そう言った途端、彼女の目の前に薔薇の花束が差し出された。
「待ち人来らず。これは必要なさそうだから、よかったらどうぞ」
笑顔で言われて、彼女は思わず受け取ってしまった。それじゃ、と優雅な身のこなしで遠ざかろうとする彼を思わず呼び止めた。
待ち合わせの相手が来ないのなら――
「お茶でもどうですか?」
口から滑り出た誘いは自分でもびっくりした。異性を自分から誘うなんて、彼女の知り合いが聞いたら天変地異かと思うだろう。現に隣の友達も驚いた顔をしている。
彼は少しびっくりした顔をして――ニッコリ笑った。その笑顔もとても素敵だった。
「ありがとう。でも」
逆説で繋がれた次の言葉はもうわかっている。それでも彼女は彼の笑顔に釘付けのまま次の言葉を待った。

――君みたいな可愛い子とお茶なんかしたら、妻に殺されるからね。

そう言って彼は手を挙げて、ホテルのロビーから出て行った。


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