バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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感謝祭協奏曲 <1>
一年に一度、家族が一堂に集まってお祝いする日がある。

それは――感謝祭。


***

「感謝祭?」
聞き返したジェイクにシェリーは頷いた。
「そう。みんなで食事でもしましょうってクレアがね」
数日前、久々にクレアからメールが来た。今月の感謝祭に夕食を作るから、みんなで食べましょう、という内容だった。
「みんなって?」
ジェイクは目の前のコーヒーを持ち上げた。
「えーっと、多分、クリスとレオン?」
「ハァ?意味わかんねぇな。大体、感謝祭って何だよ?」
盛大に顔を顰めたジェイクにシェリーの口調も遠慮がちになる。

感謝祭――アメリカではクリスマスと並ぶ一大イベントだ。家族や親せきが集まってパーティ並みの夕食を一緒にすることが多い。Turkey Dayと呼ばれるだけに七面鳥を料理する家も多いと聞く。
だが、シェリーにそんな思い出はない。小さい頃から両親は仕事と称した研究で忙しかったし、学校がお休みで友達が家族で楽しそうにしている中、シェリーはいつもひとりぼっちだった。
クレアと出会ってから――つまり合衆国に軟禁されている間はクレアがいつもカードを送ってくれた。誕生日、クリスマス、感謝祭と行事ごとに。軟禁を解かれてからもその習慣は続いていて、シェリーにとってクレアは家族も同然だ。クレアも忙しい身だから行事だからといって毎回会ったりはできなかったが、カードは欠かさず送ってくれた。
ジェイクと付き合うようになってからは、いつか紹介できたらいいな、と思っていたので、いい機会だと思った――けれど。

「シェリー?」
呼ばれてシェリーの意識がジェイクに戻る。
「あ、えっと、そうね。感謝祭はアメリカの行事だもんね。ジェイクは知らないわよね。家族で集まって食事するというのが一般的な過ごし方なの」
「つーか、俺たち家族じゃねェし」
言われた瞬間、思考が途切れた。確かにシェリーとジェイクは家族じゃない。でも、とここで反駁するのは許されるのか。
「そう、ね…」
かろうじて表情を消すことで感情を吐露するのは止められた。
「おっさんたちと食事したって面白くも何ともねェだろ」
レオンはシェリーの恩人で、クリスは家族同然のクレアのお兄さん。ジェイクには何の関係もない。確かにそうだ。
でも、ジェイクの正論に対して抱える感情の靄をどこまで本人にぶつけていいのか。シェリーは結局、何も言えずに曖昧に頷くしかなかった。
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