バイオハザード6の二次小説を書いてます。
| HOME  | INDEX | PIXIV | ABOUT | BLOG | E-mail | 
昔話を聞かせて【side Jake】 <1>
「ねぇ、ジェイク。聞いていい?」
「何だよ、スーパーガール」

ベッドに寝転んで両肘をついて顎を支えたシェリーが、隣で仰向けになっているジェイクを窺った。
ずっと気になってたけれど、聞くに聞けない内容だったので、ずっと胸にしまっていた。
でもふとした拍子に頭に浮かんでは消えていくので、機会を窺いつつ何気なく聞けばいいんじゃないか――そう思って――やはり聞く段になれば逡巡してしまう。それでも話を振ったので、ジェイクはこちらに視線を向けて先を促している。

「私は、あの――あなたが初めてだったんだけど、あなたは違うの…よね?」

ジェイクは軽く目を見開いてシェリーを見た。
シェリーはわざとジェイクの方を見ないようにそっぽを向いた。
いつだったか、ジェイクがポツンと呟いたことがあった。裸のシェリーを抱き締めながら、「人肌ってあったかいよな」と――そう言った時の声が何かを懐かしむようで、ああ、誰かいたんだな、と思った。
不思議と苦しくはなかったが、気にはなった。私より先に彼に人の温もりを教えた人。誰だろう?そう思って訊こうとしたが、なぜか口には出せないまま今に至り――いざ口に出して訊いてみれば何か違う質問のようになったような気がする。しかもすごく恥ずかしくなった。


ジェイクはそっぽを向いたままこちらを見ようとしないシェリーを見つめた。髪から覗く耳が赤い。大きめのシャツはジェイクのもので、そのシャツの下からはスラリとした足が覗いていて、白い太腿が惜しげもなく晒されている。 初めてシェリーを抱いてから、もう片手では足りない程度には身体を重ねているからか、最近はこういう無防備な格好をするようになった。
ジェイクはシェリーの方へ向き直ると、顔を近づける。シェリーは頑なにこちらを向こうとしないが、そのままうなじに唇をつけると、「気になるのか?」と囁いた。吐息がかかったのか、くすぐったそうに首を竦めた。
「気になるっていうか…どうなのかな、って」
ジェイクは喉の奥で詰まるように笑った。
「それは気になるってことだろ?」
「だって!何か私ばっかりいっぱいいっぱいで!ジェイクはすごく余裕じゃない、いつも!だから――」
余裕なんかあるわけないだろ、と口には出さずにジェイクは内心苦る。
会う度に求めてもいいのか躊躇するし、それでも会えば抱き締めたくなるし、抱き締めればキスして触りたくなる。触れば――言わずもがな、結局会う度に抱いてしまう。

「初めての時も慣れてたし――」
お前な、ンなことあるか。俺だっていっぱいいっぱいだった、と内心思ったが、口には出さない。
「私は最中のことなんか全然覚えてないくらいなのに、ジェイクは――」
更に言い募ろうとしたシェリーを抱き寄せる。
「お前な、今日はもう終わろうと思ってたのに」
シャツの裾から手を入れて尻の丸みを堪能すると、ビクッと肩がはねてシェリーがこちらを向く。シャツのボタンもロクに止めてないのか谷間が丸見えだった。――お前、誘ってるだろ。
顔を近づけると、シェリーは「ちょっと!」と声を上げた。

「ごまかしてる!」
「ごまかしてねぇよ、終わったら教えてやる」
「――!?終わったらって何!?もうダメ!」
「そんなカッコでダメもくそもあるか。ノーブラじゃねぇか」
「それはジェイクがさっき脱がしたんでしょ!今日はもうダメ!」
「じゃあ、教えてやんね」

ずるい、と口を尖らせる彼女を組み敷くと、その口を塞いだ。
お前がそんな格好してそんな可愛いこと言うから悪いんだろ、と見事に責任転嫁して、ジェイクは本日二度目の行為に耽った。



**********

(人肌は温かいでしょう?)
意識がふと浮上した瞬間に聞こえた声。懐かしい。
今の今まで思い出すこともなかった。懐かしい――なんて思えるのは、きっとシェリーと出会ったから。
あの女は言った。

(見つけなさいね。あなたにとって命を懸けてでも守りたい、唯一無二の誰かを。きっと、どこかにいる――)

返事はしなかった。そんな奴がいると思えない、そして、必要とも思えなかったからだ。
そんな俺を見て、女は微笑んだだけだった。


女との出会いは18歳になったばかりの頃だった。
例の南米の事件があって、おふくろが死んですぐの頃。俺が――多分一番荒れてた頃。

食料を調達しに行った外人マーケットの帰り道で、男数人に囲まれてる女を見かけた。
特に珍しくもない光景で、この後の展開も想像はつくが、ジェイクは特に気に留めるでもなく通り過ぎようとした。
内紛の激しい地域では治安が悪い。犯罪が当然のように蔓延るし、その矛先は弱い者に向けられる。女はそういう意味ではその筆頭だった。特に若い女は。

「やめて下さい」

凛とした声が響く。全く恐怖の色のない声音だった。

「いいだろ、何で俺たちはダメなんだよ?」
「紹介でしか私は仕事をしませんので」
「だから、何でだよ!?別に金は払うんだからいいだろ」

男は女に詰め寄ると、しつこく何か言ってるようだが、女は毅然として対応している。
紹介でしか仕事をしない――高級娼婦というところか。ツテのない男が直談判しているのだろう、という想像はついた。
だが、ジェイクはその対応に舌を巻いた。普通は後ろに男が何人も構えているのだ。頑なに断り続ければどうなるかぐらいは想像がつくだろう。そんなことがわからないような頭の悪い女には見えないが、口調は全くブレることなく毅然としていて、声にも恐怖が混じっていない。根性の据わった女だな…と思いつつ、その場を離れようとした。
2、3歩行ったところで想像通りの展開になったらしく、か細い悲鳴が上がって激しい物音が聞こえた。人を殴る音も。
振り返ると、男たちは裏路地に女を引っ張り込んでいるところだった。女の悲鳴は聞こえない。
ジェイクは前に出しかけた足を止めると、数秒考えて――踵を返した。

大股に女に群がる男たちに近寄り、一番手近な野郎の襟首を掴むと引き剥がして後ろに突き飛ばした。

「やるなら俺の見えないところでやれよ。後味わりィだろ」

男は4人いたが、ジェイクにとっては何てことない人数で、しかも相手は丸腰だった。
殴りかかってきた一人目をかわして前のめりになったところを首に手刀。襟首を掴んで後ろに転がした野郎が後ろからタックルしてくるのを腰を落として足払いをかける。仰向けに転がったところをみぞおちに向かって全体重をかけて肘を落とす。肋骨が折れる音がした。三人目が懐からナイフを出すのが見えた。ジェイクは目線の高さでナイフが一閃するのを顔を引いて避けた。ナイフを持った手を掴んで男の鼻に向かって頭突きを見舞った。鼻が折れる感触がして、血が迸った。四人目が後ろから首を絞めてきたので、そのまま前に背負い投げた。背中から叩きつけられて相手の手が緩んだところを馬乗りになって顔面に拳を叩き込む。戦意はもう感じられなかったが、ジェイクは殴るのをやめなかった。何かに憑りつかれたように男を殴り続けた。拳が血に染まり、このまま続ければ殺してしまう――そう頭ではわかっていても、何の感情も湧かなかった。それでも別にいい。そう思った時――

「もうやめて」

振り上げた腕に柔らかい感触が絡んだ。
見るとさっきの女がジェイクの腕に抱きつく形で止めていた。
年は20代半ばくらいの、綺麗な顔立ちをした女だった。綺麗に引いた赤い口紅が印象的だった。
殴られたのか頬が少し赤くなっていた。

「それ以上したら死んじゃうわ」

ジェイクは興味を失くしたように女の腕を払って立ち上がった。
そのまま背を向けて歩き出した。その背に女の声がかかる。
「助けてくれて、ありがとう」
ジェイクは振り返らずにそのまま歩き続けた。

帰ってから乱闘の時にマーケットの食材をぶちまけて来たのを思い出して舌打ちした。
ただ、それだけの出来事のはずだった――その女が訪ねて来るまでは。


BACK - INDEX - NEXT