バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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賭けと覚悟 <2>
ジェイクは泣いてるシェリーを初めて見た。
気丈な彼女はどんな状況でも泣いたことなどなかった。

「昔に枯れるほど泣いたから」と笑った彼女の顔が思い出される。
研究に次ぐ研究で辛い思いをしたと聞いた。その時にたくさん泣いたと。
そんな彼女が嗚咽するほど泣くなんて。

確かに話はくそったれな内容だった。
聞けば聞くほど胸クソ悪い思いは広がってゆく。
合衆国ってところはどこまでシェリーをコケにすれば気が済むんだ?
11年間監禁した挙句、研究と称してのモルモット扱い。その後は自由の対価としてエージェントをさせ、抗体を持つ男とあわよくば子供を作らせて、また研究――?

ふざけんな!と怒りが沸いた。
エージェントなんか辞めちまえ!と言いたかった。だが、シェリーは辞めるつもりはないらしい。報告を断るつもりも。そんな彼女にも怒りが飛び火した。彼女に向ける言葉に棘が混じるのが自分でもわかった。

「ロシンアンルーレットかよ」

そう言った時の彼女の泣きそうな顔を見て胸がちくりと痛む。
だが、次の言葉を聞いて自制が飛んだ。

「怒るのは当然よ。私だって随分責めたわ。最初からわかっていれば――」

わかっていれば?何だよ?
「会いに来てないって?」

俺に対する気持ちはその程度かよ?半年前に戻れるなら一緒になる道は選ばないってか?
こんなに好きなのは俺だけか?俺のため?俺の生死をウィルスに賭けられない?だから別れようって?

――この女はまったくわかっちゃいねぇ――

半年前ならいざ知らず、今になってそんな御託は通用しねぇぞ。毒だとわかっていて尚、欲しいと思うほどお前は俺の中に入り込んできたろ?今さら逃げられるとでも?

言葉にするのももどかしい。シェリーを引き寄せると強引に口づけた。
これが俺の意思だと伝わればいい。感染なんかくそくらえだ、お前に触れるのにそんなこと関係あるか。

「一緒にいる今を否定するな、なかった方がよかったなんて、本気か?」

そう言った途端、シェリーは堰が切れたように泣き出した。
泣きながら否定する彼女に少しホッとしながら、ジェイクはもっともシンプルな自分の気持ちを伝えた。

「お前とは離れない」

これだけは譲れない。やっと手に入れたのに、あるかどうかわからない可能性のために捨てられるか。賭けに負けることが例え死を意味していたとしても。

「ごめ…」

シェリーの頭を抱えたままじっとしていると、シェリーはジェイクの腰に手を回して抱きついて、しゃっくりを上げながら言った。

「私も、一緒に…いたいの。離れるなんて、無理なの。半年前は怖かったけどっ、もう大丈夫なの…キスだけじゃ物足りない。もっと触ってほしい…のっ、でも、ジェイクが…」

何だって?
ジェイクはシェリーの顔を両手で挟んで上げさせた。目を覗き込みながら聞く。

「本気か?」

涙で濡れて真っ赤な目がジェイクを見返す。シェリーは頷いた。

「でも――ジェイクが感染――」

シェリーが言いかけた言葉ごとジェイクは口を塞いで飲み込んだ。

(まだわかっちゃいねぇようだな。俺が心配してるのは感染じゃなくて、お前の気持ちだけなんだよ。お前さえよけりゃ誰が我慢するか)



**********

日が高く昇っているのか、窓から射す光でシェリーは目を覚ました。
まどろみながらシェリーが目線を上にずらすと、ジェイクの顔が見えた。同時に昨夜のことを思い出した。
毛布から出た素肌の肩が寒くてシェリーは毛布を上へ引っ張った。
毛布の下で触れ合う素肌が気持ちいい。ジェイクはいつも上半身裸で寝ているが、今日は自分も何も身に着けてない。 ジェイクを見ると、規則正しく寝息を立てていて、特に変わりはないようだ。
感染の心配はない――とシェリーは安堵の息を漏らした。

正直、不安でいっぱいだったはずの行為なのに、途中からそんな感情は飛んだ。
もし感染したら、なんて考えることは不可能だった。始まってしまえば、終わるまで急流に飲み込まれたように必死にジェイクにしがみついていただけだった。
ジェイクとこうなったことに後悔はない。ジェイク自身が自分への感染を顧みずにシェリーの手を取ってくれたことを感謝した。別れることを選択することもできただろうに、そんなことは微塵も考えなかったようだ。一緒にいたいと言ってくれた。だから、シェリーも覚悟を決めた。もし、彼との間に子供ができたら――私は全力でその子を守る。決して私と同じ道など歩ませない。ジェイクと一緒なら大丈夫。そう信じられた。


(そろそろ起きなくちゃ)

手を伸ばしてベッドの下の下着を取ろうとして――

「よぉ」

後ろから抱き締められた。
慌てて離れようとするが、ジェイクは離さない。

「ちょ、ちょっと待って、今服を着るから――」
「まだいいだろ」
「よくないっ!ちょ、変なとこ触んないで!」
「今さらだろ」

今さら――その意味を考えて、昨夜のことを思い出して、シェリーは首まで赤くなった。

「ちが!違う、から!放して」
「無理」
「何で??」

だって気持ちいいし、とジェイクは背中に唇をつける。

「何だったらもっかい――」と言いかけたジェイクにシェリーは肘鉄をして毛布を身体に巻きつけて、ベッドの下に散らばった衣服をかき集めて一目散にジェイクの見えないところまで逃げた。
クククと押し殺した笑い声が壁の向こうから聞こえてきたけど、聞こえないフリをした。

服を着終えて顔を出すと、ジェイクも上半身は裸だが下はちゃんと穿いていた。
ホッとしてそばに寄ると、手を引かれて抱きかかえられる。

「何でそんなにくっつくの」
そんな――幸せそうな顔で見つめながら。

「離れないって言ったろ?」
「意味が違うでしょ!」

反論もキスで塞がれる。唇に吐息がかかる距離でジェイクは呟いた。

「賭けは俺の勝ちだな?お前の相手はもう俺しかいないんだから、俺で我慢しとけよ」


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