バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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林檎じゃなくて <2>
急いで広場に行ってみると、男たちが怒声を上げながら走って行くところだった。
破れた金網を蹴っていたところを見ると、あそこからシェリーが逃げたたんだろう。
ジェイクはとりあえず教会の裏手に回ることにして、走り出した。
男たちは二手に分かれ、1人は応援を呼びに行ったようだ。

(応援が到着すると厄介だ。その前に見つけてズラからねぇとな)

慎重に歩を進めながら、ジェイクは混乱した。

シェリーがなぜこんなところにいるのか。まさか俺に会いに?

そう考えてジェイクは首を振った。んなワケねぇか。

裏庭を抜けて物置の前に出ると、ジェイクは木箱が積まれた荷物の間に動く影を見つけた。
慎重に後ろから近付くと、間違いなくシェリーだった。暗くてもよくわかった。
はやる気持ちを抑えながら口を塞いで後ろから抱き締めた。同時に耳元で「しっ!静かに」と囁く。どうやら俺の声だとわかったようで、視線が合った。

「応援を呼びに行ったみてぇだ。早いことズラかるぞ」

抱き締めたまま囁くと、シェリーは頷いた。

そのまま彼女の手を引いて、ジェイクは来た道を戻った。
10分ほど早足で歩いて――その間、手は放さなかった――さっきの酒場まで来ると、裏に回ってバイクにキーを挿した。

「乗れよ。とりあえず、俺ん家行くぞ」

俯いたままのシェリーにそう言うと、シェリーは顔を上げた。何かを言いかけたが、「話はそれからだ」とバイクに跨った。シェリーも頷くと、後ろに乗った。


20分ほど走ってジェイクはバイクを停めた。
築何十年かわからない石造りの小さな建物。母親と住んでいた家だった。いつしか帰らなくなっていたが、例のこと――俺の抗体が世界を救った事件――があってからは帰るようにしていた。

「きたねぇけど、入れよ」

促すとシェリーは小さく「お邪魔します」と言いながら入って来た。
カップなんぞ洒落たもんはないので、置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。
シェリーはそれを受け取って――小さく笑った。

「何か、変な感じ」

「変なのはお前だろ。で?何やってんだよ、こんなトコで?」

ジェイクは床に座りながら自分の分のペットボトルを開けた。

「俺が恋しくて会いに来たのか?」

冗談めかして言った。きっと「何言ってんのよ、そんなわけないでしょう」と返ってくると思って――
だが、予想に反してシェリーは俯いたまま何も言わない。オイオイ、マジか。

「シェリー?」

ジェイクは立ち上がるとシェリーに近づいて顔を覗き込もうとした。
だが、シェリーが「見ないで」と手で顔を隠そうとする。ジェイクはその手を掴むと、もう一方の手で頤を掴んで顔を上げさせた。

その顔を見た瞬間――ジェイクは心臓を射抜かれた。

何でそんな顔すんだよ。それじゃまるで――俺のこと好きみたいな――



**********

「見ないで!」
もう一度強く言うと、シェリーはジェイクの手から顔を外してやっぱり俯いた。
今の自分がどんな顔をしているのか。考えただけでも顔から火が出そうだった。

シェリーは自分の気持ちがジェイクに悟られたことをハッキリと理解した。

――自分の気持ち?どんな気持ち?

この1年、考え続けてきた。
ジェイクと離れれば、日常に紛れて寂しさなんて感じない。
ジェイクに会う前の日常に戻れる。そう思ってたのに――

――会いたい。

そんな気持ちは大きくなったり小さくなったりしながらも、ずっとシェリーの中で燻っていた。
でも会いに行く決心なんてつかない。ジェイクがどう思っているのか。きっともう私のことなんて忘れてる。
そう考えると、とても会うことなんてできないと思った。

会いたい、でも会えない。誰かに会うのが怖いなんて――そんな気持ち、今まで知らなった。

そんな思いのまま、あっという間に1年が過ぎた。
そして、シェリーの元にある報告書が回って来た。

『ジェイク・ミューラー氏のその後』というタイトルで、この1年のジェイクの動向を綴った報告書だった。
それを読んで、シェリーはいても立ってもいられなくなった。
会いたい気持ちが膨らんで、もうどうしようもなかった。

「…貧しい人たちを助けているんですってね」

俯いたままシェリーは呟いた。

「報告書を読んだわ。傭兵は続けてて、破格の報酬でB.O.Wから貧しい人たちを助けてるって」
「ああ」
「報酬が林檎1個だったりすることもあるんですって?」

顔を上げて訊いたシェリーに憮然と横を向いてジェイクは答えた。

「俺は林檎が大好きだからな」

その様子がおかしくて、シェリーは吹き出した。
うん、大丈夫。ジェイクの答えがどんなでも、私は私の気持ちを伝えに来ただけだから。

「私は林檎じゃなくて、あなたが大好きよ――」

まっすぐに彼を見つめて、シェリーは言った。もう顔は赤くない。私、笑えてる?
ジェイクはフッと笑うと、

「自覚するまでに1年もかかったのか?」
「え?」
「お前が俺に惚れてんのは1年も前に気づいてたに決まってんだろ。1年も待ってやった俺に感謝しろ」

え?ウソ。

シェリーが焦ってると、ジェイクは吹き出した。

「もう!嘘ばっかり!!」

拳を握ってジェイクの方に振り回すと、ジェイクはその手を取って――指に唇をつけた。
真っ赤になって固まるシェリーに、指に吐息がかかる距離で言った。

――俺は1年前からお前に夢中だったぜ?

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