バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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林檎じゃなくて <1>
2014年春――東欧イドニア共和国。

街外れにある酒場でジェイクはグラスを傾けながらカウンターに座っていた。
女主人が空になったグラスに新しく注ごうとしてくれたが、ジェイクは手を挙げて断った。

「そんな水ばっか飲んでられるかよ」
「だってアンタ飲めないじゃないよ」
「飲めないんじゃなくて、飲まねぇんだよ!こっちは仕事でここにいるんだよからよ…」
「アラ、依頼?繁盛してるわね〜」

恰幅のいい女主人は豪快に笑うと他の客に呼ばれて行ってしまった。

ジェイクはため息をつくと壁にかかった時計を見た。
約束の時間から30分は経とうとしている。今日はもう来ねぇな、これ。
ジェイクはもう一度ため息をつくと、席を立った。

「よぉ、ジェイクじゃねぇか」

後ろから声をかけられ、振り返ると、顔に見覚えのある男が立っていた。
確かどこかの傭兵部隊で一緒になったことのある男だったが、名前は覚えていない。

「…よぉ」
こんな風に声をかけられる仲でもなかったように思うんだがな。
そう思いながら通り過ぎようとしたら、男は馴れ馴れしく肩を掴んだ。

「おいおい、聞いたぜ。何か慈善事業をやってるらしいじゃねぇか?どういう風の吹き回しだよ?」
「別に慈善事業じゃねぇ。ちゃんと報酬は貰ってらぁ」
「報酬がリンゴ1個とかお前、ありえねぇだろ?」

ジェイクは男の手を自分の肩から外した。

「用がないなら行くぜ」

男に背を向けて店の出口に向かいかけた時、男は口を開いた。

「そういえばよぉ、あのティーンのカノジョ、元気か?」

ジェイクは足を止めた。肩越しに振り返って男を見る。

「1年か、それくらい前によ、お前のこと聞きに来てたぜ。あれ、10代だろ?金髪のショートカットのアメリカ人」
思い出したのか、ククッと笑いながら「結構可愛い顔してたぜ」と付け足すとジェイクの前まで歩み寄って来た。

「もしよぉ、金欠の俺を助けてくれたら、いいこと教えてやんぜ?そのカノジョにつ・い・て」
ジェイクはウィンクまでしかねない男を冷ややかに見つめると、無言で男の顎を掴んだ。

「あがっ!?」
顎を掴まれて目を狙ってくる男を突き飛ばすと、ジェイクは低く腰を落として足を払った。仰向けに倒れた男がすかさず横に転がった。うつ伏せになった男の背中を踏むと、全体重をかけてやった。
「今すぐに吐かねぇと背骨がバキバキになるぜ」
ミシミシと悲鳴を上げる男の背中に更に前のめりに体重をかけようとした。
「――わかった!言う!」
抵抗の意がないのを確かめて、ジェイクは少し力を抜いた。
「さっき見たんだよ!その金髪のお前のカノジョ――」
ジェイクはとっさに男の襟首を掴んで引き起こした。壁に向かって男を突き飛ばし、壁に身体を押し付けながら腕で首を絞めて顔を近づける。

「冗談言ってんじゃねぇよ。誰がこんなとこにいたって?」

苦しそうに顔を歪めながら男は必死で言う。
「だから、1年か2年前にお前のことを聞きに来たアメリカ人の女だよ!10代くらいの――金髪のショートカットで、熱心にお前のことばっかり聞くから、彼女なんだと、思っ――」
2年前っつったら、俺がシェリーと出会う前じゃねぇか。アイツ、こんなとこまで来てたのか。
「別に何もしてねぇよ!誘ったけど逃げ足早くて――」
ジェイクはいいかけた男に更に圧力をかけかけたが、これ以上やると意識を失う。その前に聞くことがある。

「で?どこにいたって?」
「教会前の広場で男たちに囲まれてた。ありゃあ、ギャングだな。金髪だから目立ったんじゃねぇか――」

ジェイクは男を放すと駆け出した。



**********

シェリーは暗がりの中、木箱と木箱の間に身を隠しながらじっと息を殺した。

――こんな筈じゃなかったのに――

迂闊だった。イドニアには任務で数回来ているから、と油断もあった。暗い路地を歩いていたら後ろの気配に気づいて走って教会前の広場まで出て振り返れば、3人の男たちが追って来た。

シェリーはじりじりと後ろに下がりながら、男たちを観察する。
3人とも薄着で、銃は多分持っていない。ナイフは持ってるかもしれない。
髭面の男がニヤニヤしながら口を開いた。

「どこの迷子ちゃんだい?俺たちと遊ぼうぜ」

シェリーは男たちから距離を取りながら「生憎、予定が詰まっててね」と言った。
今は休暇中だから銃は持っていない。いつもは持ってるはずの護身用のスタンガンも置いて来た。こんな夜に出歩く予定はなかったからだ。
エージェントになってから格闘技も習ったが、丸腰で男3人相手にどこまで通用するか――ここは逃げるが勝ちなんだけど…シェリーは内心の焦りを顔に出さないようにしながら、必死に周りに視線を走らせた。

教会の出入り口の横のフェンスが少し破れてるのが見えた。あの大きさならこいつらは入れない。その前にこいつらの気を逸らせれば…と考え、ふとポケットの中のリップクリーム型の武器を思い出した。

「そうつれないこと言うなよ。可愛がってやんぜ…」
徐々に距離を詰めてくる男たちから見えないように身体を斜めにしながら、ポケットをそっと探って例のモノを握ると、
「残念ながらそんなヒマはまったくないわね」

蓋を外して投げ捨てると同時にシェリーは目を固く瞑って後ろに向かって駆け出した。
つられて男たちが動きかけた時に目を射る閃光が解き放たれ、顔を押さえて右往左往しているのを尻目にシェリーは金網から中へ入って走った。

どこをどう走ったのかわからないまま、物置のような建物の前に出て来た時、さっきの男たちの怒声が聞こえてきた。 まだ諦めずに探しているようだ。シェリーは目の前の堆く積まれた荷物の間を縫って奥に行くと、座り込んだ。

冷静に、冷静に――パニックになるな。

シェリーはそう自分に言い聞かせると、立ち上がって移動し始めた。
男たちは怒鳴りながら探しているので、声を頼りにそれから遠ざかるように移動する。
大体の地理は頭に入ってるから――

後ろの気配に気づいた時には口を塞がれていた。
同時に身体を押さえ込まれる。耳に息がかかると同時に声がした。

「しっ!静かにしろ」

上がりかけた悲鳴を飲み込むと、目線だけ後ろにずらした。
そこには、シェリーがここに来た理由――ジェイクがいた。

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