バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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疑念の中の自覚
ジェイクは白いベッドに寝転がりながら、人の気配に気づいて、ふと顔を上げた。
正面に視線をやると、遠くでピピッという電子音が聞こえて、丸い形の重そうな扉が動いた。扉の向こうにはスーツ姿のジュアヴォが銃を構えて3人。
(こいつらホントに見分けつかねーな)
ジェイクが反動をつけて起き上がると、奴らの内の1人がそばに来て手錠をかけた。
移動する時は必ず手錠をかけられる。抵抗を警戒しているんだろうが、それはかなり徹底されていた。
加えて出口には2人が必ず銃を構えて待っている。そして、自分の後ろに1人。必ず3人で来て、出口をきちんと塞いでいるあたり、バケモノにしては馬鹿ではない。

ジェイクは雪山で捕まってから、次に目を覚ました時にはこの施設にいた。
白い壁、白い床、白い天井―――すべてが白で統一されたこの部屋に監禁されて、毎日毎日自分の身体を調べられた。採血され、ジェイクには理解不能の器具を身体につけられて何かを測ったり―――とにかくうんざりするほど隅々まで調べられた。
ジェイクはここに来てからの日数を頭の中で数えた。
――4ヶ月か。

最初の3日で、今すぐの脱出を諦めた。
奴らは賢い。バケモノのくせに知能が高い。お互い意志疎通を図って連携を取る。武器も使う。加えて建物の構造も地理も分からず、敵の人数も分からない。それに、あの不死身のデカ野郎がもし出て来たら―――
ジェイクは仕方なく様子を見ることにした。
そして、大人しく奴らの言う事を聞いて2ヵ月で、奴らが話す中国語をある程度理解した。
その話の端々から色んなことを推測した。中には余計なものまで混じってたが――俺の親父についての話は聞きたくなくてもよく聞こえてきた。
とにかく、そうやって奴らの話に耳を傾け、ここは中国でこの建物には常時100体近いバケモノが常駐している。あのデカ野郎は別の場所にいる。シェリーも無事で同じ建物にいる。そんな情報を更に2ヶ月間辛抱強く待って得た。検査以外の自由な時間は筋トレに費やした。

ジェイクは10代半ばからの傭兵生活で戦場には慣れていたし、実は戦術にも長けていた。
作戦成功のために辛抱強く待つことも厭わなかったし、常に先を読んで行動する習性も無意識に習得していた。ただ、その才能は自分のためだけに発揮し、他には何の関心も払わなかったため、部隊では浮いていたし、ジェイクのその才能も見出されてはいなかった。

「あと2ヶ月くらいだな」
奴らの会話が聞こえて来て、ジェイクは意識をそちらに向けた。
エレベーターで上に上がりながら、後ろの二人が話を続ける。
「Cウィルスの強化版ができればこいつらは用済みだからな。こいつはどうでもいいが、あっちの女は後が楽しみだよなぁ」
「だよな。もう半裸の男はうんざりだぜ。あっちの監視と変わってほしいぜ」
「ちげぇねぇ。あっちも半裸だしな」
――あっちも半裸。
そう聞いた途端、ジェイクは後ろを振り返りたい衝動に駆られたが、必死に堪えた。奴らは俺が中国語を理解していることを知らない。だから無防備にもこんな話を俺の前でもする。もし知られたらもう情報は入ってこなくなる。そう思ってジェイクは無表情のまま前を見続けた。代わりに拳を握りしめて耐えた。
エレベーターが目的の階に着いて、扉が開くと肩を押された。
いつもなら素直に従うところだが、思わず押し返した。すると次は小突く強さで押された。同時に銃口を背中に突きつけられる。
(相変わらず短気な奴らだぜ)
ジェイクは肩をすくめると、前へ進んだ。
…シェリーは大丈夫だろうか。
今の会話でもわかるが、奴らは人間の男の思考と変わらない。性的な意味でも不能ではなさそうだ。モルモット的な扱いは覚悟していたが、そういう対象として見られてるとは思わなかった。もし知ってたらもっと早く―――いや、知ってても脱出するのは無理だっただろう。それはわかっている。でも―――
正直、なぜこんなにシェリーのことが気にかかるのか、ジェイクは考えあぐねいていた。
ジェイクは恋だの愛だのそんな甘ったるいモンには興味もなかったし、機会もなかった。生活苦でそんな余裕もなければ、傭兵部隊では男所帯だから更に機会は減る。同じ部隊にいた奴らは酒場に繰り出して女を引っかけに行ったりしていたようだが、ジェイクがそこに加わることはなかった。
ツラが強面で無愛想なため、女の方から寄って来ることもないと自覚もしていたし、それについて不満に思ったこともない。
治安が悪い地域ではレイプなんて日常茶飯事だったし、貞操なんて観念自体もう崩壊していた。
だが、アイツの貞操は心配だ、なんて――俺はどうしちまったんだ?意味わかんねぇ。

ジェイクは実験室に入ると、実験台の上に仰向けで寝かされ、何か器具を全身に付けられ、丸い機械の中に入れられた。一体何を調べてんだか、全く分からない。
寝転んだまますることもないので、目を閉じて浮かんでは消える思考を追う。
とにかく、脱出するタイムリミットはあと2ヵ月。
(とりあえずその時にシェリーの監視役のバケモノは一人残らず殺らなきゃな…)
ジェイクはそう考えて苦笑いした。
(つーか、半裸ってどんなカッコだよ。俺みたいに上半身裸か?冗談じゃねぇ!)
そこまで考えて耳に入って来た単語にジェイクは目を開けた。

「――ト・ウェスカーが…その時期…」

途切れ途切れに聞こえてくる単語の中にハッキリ"アルバート・ウェスカー"という音を拾って、ジェイクは再度目を閉じた。
奴の話は聞き飽きた。
俺とおふくろを捨てたチンピラだとばっかり思っていた父親は、実は世界征服を目論む変質者だった。ウィルスに対する抗体があり、俺にもその抗体が遺伝しているらしい。だからCウィルスにも感染せずに済んだ。有難くて涙が出るぜ。 お蔭でウィルス強化っつー目的で、その抗体を持つ俺もこんなところまで連れて来られたがな!
そこまで考えて、閉じた瞼の裏にシェリーの顔が浮かんだ。 ウェスカーという奴の話はどうやら有名らしい。何年か前に死んだらしいが、その状況はよくわからない。もしかして、シェリーは知ってたんじゃないのか?だから俺を連れて――どこに行こうとしていた?連れて行こうとした先は、本当に俺に害のないところか?ここと同じように、用済みになれば殺されるようなところじゃないとなぜ言い切れる?

ここ最近はこんな風に浮かんでは消える疑問に苛まされていた。
なぜ教えてくれなかったんだろう。そこに何か意味があるのか、ないのか。シェリーを信じていいのか、ダメなのか。 相反する2つの答えがせめぎ合う。危うい均衡はいつ崩れてもおかしくない。
だが、いつも到着点は同じだった。

アイツも親がウィルスに飲み込まれて悲惨な最期を遂げている。そして、その弊害を負って生きている。
そんなアイツが俺を騙す?今まで一緒にいた時間は短いが、そんなヤツには見えなかった。
もしそれで答えがYESなら――上等だ、やってみろ。その時は地獄まで道連れにしてやらぁ。

ジェイクはそこまで考えて苦笑いした。

――これじゃ、好きだっつてんのと一緒じゃねぇか。

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