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「さあ、サロメ。静かになったから少し眠ったほうがいい」 クリスはサロメをベッドに横たわらせ、毛布を掛けなおし、 ベッドの脇にあるいすへと腰掛けた。 「クリス様…ありがとうございます」 そう言って目を閉じてみるものの、自分のすぐそばにはクリスがいて… 自分を見つめるそのまなざしは優しく、慈愛に満ちていて… それは風邪をひいてしまった自分を心配する気持ちから来ていると頭ではわかっていても 心が浮き立つのは抑えられない。 病人が白衣の天使に思慕の念を抱く気持ちが痛いほどわかるサロメであった。 はぁ…眠れといわれても…どうしたら…… 「すーすー…」 寝息を立てながら眠るサロメを見て、クリスはそっと席を立ち部屋をあとにした。 向かった先は厨房である。 「クリス様ご機嫌麗しゅうございます」 侍女たちが口々にクリスへと挨拶する。 「あ、ああ。」 クリスは気もそぞろにあたりを見回している。 「いかがなさいました?」 怪訝に思った侍女の一人がクリスへと声をかけた。 聞いてしまったほうが無難と判断したクリスは正直に打ち明けた。 「ああ、サロメが風邪を引いていてな、なにか持っていってやろうと思うのだが…」 その言葉で水をうったように静まる厨房。 クリス様がサロメ様の看病を― 「ん?どうしたんだ??」 自分がうわさの火種を落としたことに全く気づいていないクリスはこの静寂の意味がまるで分からない。 「いえいえ、なんでもございません。」 「ええ!そうですわ」 侍女達はあわててその場を取り繕った 「そうか。ならいいんだが…持っていくもの、なにかないかな?」 再び辺りを見回すクリスに侍女の一人が声をかけた。 「それでしたらこちらをどうぞ。後でサロメ様にお持ちしようとしていたものですから。」 「そうか、ではあずかろう」 ”後で持っていく” そのフレーズがすこし引っかかったが、クリスは差し出されたかごをうけとり厨房をあとにした。 ふうん… 案外もてるんだな…あいつ なにかもやもやとした釈然としないものを感じながらもその感情の説明がつかないクリスであった。 部屋にもどるとサロメはまだ眠っておりほっとする。 侍女に渡されたかごを見るとりんごが数個といくつかの器具が入れられていた。 「りんご…か。」 りんごを一つ手に取り、クリスはじっとそれを見つめる。 しゃり、しゃり… 心地よい音が聞こえ、目が覚めた。 見るととクリスがりんごと格闘していた。 その様子があまりにも一生懸命で、そしてあまりにもおぼつかなくて… サロメはつい声をかけてしまった。 「クリス様」 「あ、サロメ!!も、もうおきたのか?!」 りんごに集中していたクリスは突然の声に驚いた様子で顔を上げる。 そして、 「あ、こ、これはっ…」 あわててりんごを後ろに隠すクリス。 どうやら上手く皮がむけないようで… そんなクリスがどうしようもなくかわいく思えてしまうサロメである。 「クリス様。りんごは皮に栄養があるのです」 諭すようにクリスに話す。 「う、うん」 クリスは頷きながら真剣に耳を傾ける。 「ですからりんごを皮ごとすりおろしていただけませんか?」 これならクリスでも簡単にできそうである。 クリスは素直にその提案を受け入れることにする。 「あ、ああ。……待ってて…。あった。これだな。」 侍女が用意してくれた器具におろし金があった。 「うん。できた。ほら、サロメ♪」 すりりんごの入った小さなボウルをうれしそうにサロメに見せる。 サロメはクリスのその表情を見て心からうれしく思う。 「ありがとうございます。では」 と、手を伸ばしかける。 しかしクリスはのばされた手からボウルを遠ざける。 「クリス様?」 訝しげにクリスの名を呼ぶサロメにクリスは少々はにかみながら… 「今日はわたしがお前の面倒を見るときめただろう?」 そう言って、 すりおろしたりんごを一掬い 「はい。」 にっこりとほほえみながらスプーンをさしだす。 「は、はぁ…/////。」 照れながらもクリスの行為をすんなり受け入れるサロメは りんごといっしょにひとときの甘い幸せをかみしめるのだった。 |
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