悪役令嬢と変態騎士の花園殺人事件

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  6 きまじめ王子 VS 変態騎士  

 馬車で王城まで飛ばす。前日に降った雪が溶けて、地面はどろどろだった。馬車は泥だらけになって、城に着いた。私は使命感に燃えて、城のメイドを捕まえた。ヒューゴのところまで案内してもらう。
 ヒューゴはほかの騎士たちと一緒に、イーサンの寝室にいた。壁にある大きな絵画が横にずれて、隠し通路が見えている。
(やっぱりあった。イーサン個別ルートで出てきた、隠し通路だ)
 私は息をつめて、通路の出入り口を見た。通路は、花園の温室につながっている。だからイーサンは、よく温室でデートしたのだろう。つまり彼にはアリバイがない。私は唇を引き結んだ。
 私が何も言っていないのに、ヒューゴは隠し通路にたどりついたようだ。予想以上に、有能な騎士かもしれない。
 隠し通路の前で、イーサンはしぶい顔をしている。彼は、乙女ゲームの攻略対象キャラらしく、ド派手な美形だ。たいていの女性は、ぽーっと見とれてしまう。さらに王子という身分もあって、何かと目立つ天使だった。
「この通路があるだけで、私を殺人犯にするつもりか?」
 イーサンは不機嫌な調子で、ヒューゴに問いかける。
「そうできたらいいのですが、駄目ですか?」
 ヒューゴはうれしそうだ。彼はイーサンより背が高い。
「駄目に決まっている。なぜ三年前も今回も、そんなに楽しそうなんだ」
 イーサンはいらいらした。彼は十九才で、花園では最高学年だ。ただヒューゴのそばにいると、ヒューゴより年下なせいか、ちょっと幼く見える。ヒューゴは笑った。
「今回は楽しいですが、三年前はつまらなかったです。国王陛下のご命令で王族の方々を調査したのに、私生児のひとりも見つからないのですから」
 ヒューゴは貴族だし、もしかしたら花園の卒業生かもしれない。
「当たり前だ! まったく父上は変なうわさを真に受けて、おかしな調査をこんな変態に命じて……」
 私はドアの近くで、こまっている。ちゃんとノックして部屋に入ったのに、誰も私に気づかない。イーサンとヒューゴはぽんぽんとテンポよく会話して、ある意味楽しそうだ。ほかの三人の騎士たちは、隠し通路に夢中だ。
 影の薄い私は、声をかけるタイミングを見失った。とりあえずヒューゴのそばに歩み寄って、視線で訴える。彼は私に気づくと、にこりと笑った。私も、気づいてくれたと笑い返した。
「こんにちは、シエナさん。私が殺しましたと自白しに来たのですか?」
「ちがいます」
 私の笑みは引きつった。やっぱりヒューゴは最低だ。イーサンは私の登場に驚いていた。
「シエナ、なぜここに?」
 彼は私を心配そうに見る。私は言葉に詰まった。あなたが犯人かもしれないと告げ口するために来た、とは言えない。しかし好都合だ。私は覚悟を決めて、イーサンと向きあった。
「殿下。この隠し通路は、どこにつながっているのですか?」
 少しだけ声が震えた。ヒューゴは興味深そうに私を見る。
「それは……」
 イーサンは気まずそうに目をそらす。
「隠したりウソをついたりしてもいいですよ。今からわれわれが通路に入って、調査しますから」
 ヒューゴが両目を細める。イーサンは嫌そうに顔をしかめた。
「殿下、下手に隠すと犯人にされます。正直に話してください」
 私はヒューゴのせりふにあせって、しゃべった。
「花園につながっているのですか?」
 ヒューゴはにやにや笑いながら、たずねる。私は彼をにらんだ。イーサンは観念したように、ため息を吐く。
「花園の中の温室に通じている。調査を許可するから、確かめるといい」
 ただし、と声を低くする。
「この通路は、王族だけが知るものだ。誰にも話すな。話した瞬間に命はないと思え」
 真剣な顔で言う。しかしそのわりには、個別ルートでは手軽にデートのために使用していたな、と私は思った。
「承知しました」
 ヒューゴはにんまりと笑う。イーサンはもう一度、大きなため息を吐いた。
 ヒューゴはイーサンから離れ、ほかの騎士たちと相談する。ベテランっぽい騎士ふたりが、通路の中に入った。ヒューゴと初老の騎士は、留守番のようだ。ヒューゴは私とイーサンを見て、
「おふたりは婚約していたのですよね?」
「これも事件解決に、必要な質問か?」
 イーサンは威圧的に聞き返す。彼はヒューゴが嫌いなのだろう。というより、ヒューゴに好感を持つ天使がいるのか疑問だ。
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