転生おばあちゃんの孫は、タンテイ王子
―婚約破棄からの毒殺未遂事件と少年探偵団―

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  エピローグ  

 やぁ、読者諸君。物語はおもしろかったかい? ドミニクの体調不良の原因が食品アレルギーとか、カミラが十六才の少女ではなく十四才の少年とか、なぞは解けたかい?
 僕はエドウィンとマルティンのおかげで、少年探偵団を作ることができた。おばあちゃんも探偵団結成を喜んでくれた。
 そうそう、ヴァレンティナとカルロスだけど、ふたりは婚約を解消して、約一年後に結婚した。予想外のことに、僕はびっくりした。なぜ? どうして? と混乱さえした。けれどマルティンが軽い調子で笑う。
「恋人同士とは、そういうものですよ。人騒がせなものです。破局した後で寄りを戻すのも、よくあることです」
 さらに、僕のおばあちゃんはこう言った。
「まさに『雨降って、地固まる』ね。若いふたりを、改めて祝福しましょう」
 ヴァレンティナは今、南部で暮らしている。僕はこの前、エドウィンと南部の港街に行った。色白だったヴァレンティナは日焼けして、小麦色の肌になっていた。カルロスと同じ肌の色さ。
「アイヴァン殿下のおかげです。あなたがあのとき『カルロスと幸せになれ』と言ってくださったからです」
 ヴァレンティナは明るく笑った。彼女は、たくましくなったようにも見えた。
「あのときの私は、おろかでした。私を愛してくれるカルロスを見ず、ドミニクばかりに目を向けて。しかも、ばかげた復讐心で、カルロスの心を傷つけたのです」
 ヴァレンティナは情けなさそうに言う。そんな彼女の肩を、カルロスはなぐさめるように抱いた。それから、僕に向かって話す。
「私にも非があります。ヴァレンティナと婚約したばかりのとき、私は好かれたい一心で、彼女のわがままを聞きすぎました。その結果、父母を含め周囲の人たちに、ひどく迷惑をかけました。おのれの未熟さがはずかしいです」
 カルロスとヴァレンティナはたがいに反省すると、次に幸せそうに見つめ合った。いつか僕にも恋人ができるのかな? そのときにはきっとけんかしたり、仲直りしたりするのだろう。そしてカルロスは、少年探偵団の仲間に加わってくれた。
「私は十六才のとき、ヴァレンティナと出会いました。私の心の一部はずっと、十代の少年のままです」
 カルロスはそう言ったから、『少年』探偵団に入る資格があるだろう? しかしその後、少年探偵団は順調にメンバーを増やして、年齢も性別も関係なくなった。よって少年という言葉は消えて、単なる探偵団になった。
「少年少女青年から老女まで取りそろえた探偵団というのは、どうですか?」
 と、マルティンが提案した。だがエドウィンが顔をしかめる。
「長すぎます。それに老女とは失礼ですよ」
 そんなわけで却下となった。僕は、「世代性別にこだわらず、困っている人たちを知恵と勇気で助ける探偵団」という名称も考えたのだけど、これも長すぎるよね?
 数十年後、僕は国王となり、僕自身も少年とは言えなくなった。エドウィンは変わらず、僕のそばにいる。今は北の侯爵家当主となったマルティンも、よく城に遊びに来る。
「陛下のおかげで、北部は豊かになりました。そのせいか、近ごろの若い者たちは平気でぜいたくをします」
 僕と同じで、おじさんになったマルティンはぼやく。
「この前、俺が息子たちに、『昔は北部は貧しくて、南北問題とまで言われたんだ。俺が子どものころはもっとまじめで、親の言うことを聞いた』と説教したら、『頑固親父!』『うるさい!』と言い返してきました」
 マルティンはため息をついた。
「あんなに生意気なんて、……息子たちは、誰に似たのでしょう」
 僕とエドウィンは、笑いをこらえた。だってマルティンは自分のお父さんを頑固親父と呼んで、女装してメイドになっていたのだから。マルティンの息子たちは、マルティンにそっくりみたい。
「僕たちは、すっかりとおじさんになったね」
 僕はエドウィンに話しかける。彼には、もう孫もいる。数日前、抱っこさせてもらったけれど、かわいい赤ちゃんだったよ。
「でも、いつまでも友だちのままだ」
 僕がほほ笑むと、エドウィンも笑った。
「光栄です。私はずっと陛下のおそばにいます」
 マルティンも笑顔になる。
「俺もです」
 友だちは、一生の宝物かもしれない。少なくとも僕にとってはそうだ。読者諸君、僕はそろそろ、おいとまするよ。機会があれば、また会おう!
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