水底呼声 -suitei kosei-

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  8−2 ウィル視点  

「大切にします.」
みゆは指輪を,受け取ることにしたようだ.
「ありがとうございます,本当に.」
ルアンはにっこりとほほ笑んで,指輪をつけるように促す.
みゆは,はいとうなずいた.
そして,なぜかウィルの顔を見る.
ちょっと甘えた,何かしてほしそうな顔で.
ウィルは,首をかしげた.
彼女が望むなら何でもしてあげたいが,何が望まれているのか分からない.
なぞめいた黒の瞳はウィルを引きつけるが,中をうかがわせないのだ.
みゆは少し顔を赤らめて,照れ笑いをした.
指輪を小指にはめて,ルアンとの会話を再開させる.
「小柄な方だったのですか?」
彼女はきっと,ウィルの察しの悪さにあきらめたのだろう.
少年は,微妙に落ちこんだ.
「うん,彼女はすごく小さかったよ.」
ルアンはみゆに,金の鎖を渡す.
「これで首からかけて.」
「はい.」
みゆは指輪を,細い鎖に通した.
白い指と金の鎖の清らかな川に,赤い石のついた指輪が流れる.
きれいだな,とウィルは思った.
「ウィルも何かほしいかい?」
父親が問いかける.
「いらないよ.」
今の光景だけで.
それにみゆは,指輪の贈りものを喜んでいる.
「そうだろうね.」
ルアンは,しみじみと同意した.
「君は君自身が,リアンの忘れ形見だ.」
彼はウィルを通して,別の誰かを見た.
おそらく,リアンを.
ウィルにとってのみゆが,ルアンにとってのリアンかもしれない.
少年は初めて,そのことに気づいた.
そしてその結果が,自分自身であることにも.
妙な心地がする.
ウィルは,ルアンとリアンの子どもなのだ.
みゆはウィルたちの姿を,うれしそうに眺めている.
首から下げられた,母親の指輪.
みゆの後ろで,黒髪の少女がほほ笑んでいるような気がした.
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