水底呼声 -suitei kosei-

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  4−6 裏話  

首都神殿の裏門を守る兵士に,黒の少年は一枚の金貨を握らせた.
そして,にっこりとほほ笑む.
兵士は少し悩んだ様子を見せてから,金貨を懐にしまう.
どうやら心得ているようだ.
「“聖女”に会わせて.」
こちらの要求を伝える.
しかし聖女と聞いたとたん,兵士の顔がこわばった.
「それは,……さすがに無理だ.」
「会うのは,僕と主人のカズリ様だけだよ.」
力のない子どもと女性の二人だけである.
「そんなに警戒しなくてもいいのじゃない?」
「まぁ,そうなのだけど.」
兵士はあごをなでる.
「聖女様は大切なお方だからな.カズリ様は,いったい何の用なんだ?」
「ライクシード殿下と婚約したことを自慢したいみたい.」
「へ? なぜ聖女様に?」
兵士は目を丸くする.
だがすぐに,
「あー,聖女様と殿下が恋仲だったからかぁ.」
と,納得した.
「ということは,聖女様に勝利宣言でもするの? 殿下は私のものよ,おーっほっほっほ?」
手振りまでつけて,彼女のものまねをしてくれる.
ウィルは思わず笑ってしまった.
「なら,金貨をあと二枚くれよ.警備隊長と話をつけてやるから.」
「ありがとう.」
少年は,カズリから預かった金貨をさらに二枚,兵士の手に落とす.
金貨の輝きに,兵士は表情を緩ませた.
「臨時収入だな.隊長も喜ぶぞ.」
神殿の兵士たちは職務に忠実ではなく,簡単にわいろを受け取る.
貧民街のうわさは本当だったらしい.
きっと後悔するよ,と黒猫は口もとに笑みを刻んだ.
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