リオノスの翼 ―少女とモフオンの物語―

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  5−3  

 ふんわりと広がったスカートに、小さな花の飾りがたくさんついている。首まわりには上品なフリルがあしらわれて、そではふくらんでいる。素敵なドレスに、瞳は喜んだ。
 メイドたちがにこにこ笑顔で着つけをし、短い髪もとかしてくれた。瞳は彼女たちに、シフォンからもらった銀の髪飾りをつけてほしいと願い出る。
「もちろん、いいですよ。このチョウは、あなたの恋人からの贈りものですね」
「はい」
 瞳は元気よく返事した。メイドはチョウの髪飾りを大事そうに受け取って、なぜか部屋から出ていく。しばらくすると髪飾りは、ぴかぴかに磨かれた状態で戻ってきた。こんなにも美しいチョウだったのか、と瞳は驚く。
 銀色のチョウは瞳の黒髪に留められて、髪飾りと対になるような花のイヤリングもつけられる。立ち見鏡の前でくるくると回って、瞳の気分は浮き立った。この姿を、シフォンに見てもらいたい。
 迎えにきたレートも、これなら国王の前に出ても問題ないと満足げにうなずいた。
「私からの贈りものだ」
 ドレスの胸もとに、バラの花をかたどった立派なブローチをつけた。瞳は彼にエスコートされて、夕食の部屋に向かう。旅の間で、瞳はすっかりレートのエスコートに慣れていた。食卓では、国王と王妃、長男の王子カスターとその妻が瞳たちを待っていた。
「昨日、レートから話を聞いたときには驚いたが、想像以上にかわいらしいお嬢さんだ」
 国王は優しくほほ笑んだ。
「ありがとうございます」
 瞳は緊張しつつも、笑みを返す。レートがめずらしく、瞳のためにいすを引いてくれる。瞳は礼を述べて、ドレスのスカートに気をつけて着席した。
 食事が始まると、リオノスがいかにすばらしい生きものか力説する。金色の毛並みが美しいこと、白い大きな翼を広げると迫力のあること、リオノスに抱きつくと心が休まること、リオノスと眠ると暖かく、毛布など必要ないこと。
「リオノスの子どもたちは、私と一緒にボール遊びもできるのです」
「そうか、そうか」
 国王は目じりを下げて、相づちを打つ。彼は終始にこにこしていて、さらに聞き上手だ。王妃も同じで、常に穏やかな笑みを浮かべている。おかげで瞳は、存分にしゃべることができた。
 さらに国王たちは気づかいがうまく、適度に別の話題をはさんでは、瞳に食事を勧める。カスターとその妻は、あまりリオノスに興味がない様子だ。しかし、食事や会話は楽しんでいる。瞳にも好意的だ。レートの機嫌もいい。
「シフォンの話も興味深かったが、君との会話もおもしろい」
 国王は瞳に向かって話した。
「シフォンさんと会ったことがあるのですか?」
 瞳はびっくりした。
「つい半年ほど前のことだ。ある学者が、幻獣に興味を持つ今どきめずらしい若者がいると教えてくれた。それで、学術学会のためにクースに滞在していたシフォンを城に呼び寄せたのだ。彼はとても立派な青年だ。保護区の代表者として、堂々と私と渡り合った」
 国王はほほ笑み、王妃もうなずいている。彼らはシフォンを評価しているようだった。瞳は、自分がほめられたようにうれしくなった。
「はい。シフォンさんは賢くて、いろいろなことを知っているのです」
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