リオノスの翼 ―少女とモフオンの物語―

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  5−4  

 話はシフォンから、保護区で働くほかの人々へ移った。保護区での仕事は、リオノスの研究をしたり、直接的にリオノスの世話をするだけではない。
 えさの下草を管理したり、日差しや雨を避けるための屋根を作ったり、近くにある村の子どもたちにリオノスとの接し方を教えたりと多岐にわたる。それらをするのは、二十人ほどの心の優しい大人たちだ。
 瞳と国王の会話で、カスターは少しずつリオノスに興味を持つようになった。瞳に対して積極的に、リオノスについて聞くようになる。そして、
「私もリオノスを見たいな。そして建国伝説の勇者のように、その背に乗って空を飛びたい」
 カスターは冗談めかして笑った。瞳も元気よく、はいと返事して笑う。食事の終わりになると、国王が改まってしゃべる。
「私の人生で、君のような存在に会うとは想像していなかった。異世界からリオノスに連れられてきた君自身が、建国伝説が真実であったことの証拠だ」
 テーブルについていた全員がうなずく。
「私たちの祖先は同じ。君を王家の一員として歓迎しよう」
「ありがとうございます」
 瞳は礼を述べて、夕食は和やかな雰囲気で幕を閉じた。再びレートに連れられて、客室に戻る。部屋に入る前に、風呂に入ったら私の部屋に来るんだと強く命令された。しかし瞳は忘れて、風呂から上がるとベッドに直行した。
 心地よい達成感が、体を包んでいる。国王も世つぎの王子も、リオノスを好きになってくれた。瞳は、与えられた仕事を成功させたのだ。暖かな夢に潜ると、リオノスと保護区で働く人々が現れる。みんな瞳をほめて、おめでとうと口にする。
「君は一人前だ」
「保護区の仲間として役に立つ」
「保護区へ帰っておいで。みんな君を待っている」
 瞳は大喜びで彼らのもとへ、光のさす方へ走った。そして朝日の中、目覚めた。昨日と同じく、レートがあきれた顔でベッドのそばに立っている。
 瞳は、はて? と首をかしげた。とりあえず今朝はよだれをたらしていないので、一安心だが。王子は脱力したように、ため息を吐く。
「今日の予定を伝える。君は私の友人たちと昼食を取る。場所は後で知らせる」
「はい」
 ネグリジェで寝起きの髪のままだが、瞳はかしこまってベッドの上で正座する。彼には、嘔吐もよだれも見られている。なので妙に気安い存在だった。童顔で年下のように見えるので、余計だ。
「セーラー服を着た方がいいでしょうか?」
「もちろんだ。あれは君が異世界から来たと、分かりやすく教えてくれる」
 レートはまじめに言う。確かに制服は、どこの邸に行っても注目された。
「それから、今日会う友人たちは音楽をたしなんでいる。君には故郷の歌を披露してほしい」
「かしこまりました」
 中学校の校歌や男性アイドルの歌しか思い浮かばない。だが、まぁ、いいかと瞳は妥協した。
「楽器は演奏できるか?」
 レートは質問した。
「ピアノなら、……でもちょっとしか弾けません」
 瞳はピアノを習っていたが、小学校高学年のときにやめてしまった。あとは学校で習ったリコーダーぐらいだ。
「なら、いい。今回は歌のみにしよう。ピアノは教師をつけるから、練習するように」
 王子は命令した。瞳は嫌な予感がした。ピアノを習う? いつまで瞳は城にいるのだ?
「私はいつ保護区へ帰れるのですか?」
 レートは口をへの字にして、瞳を見下ろす。
「帰れるわけがないだろう。君は私の婚約者だ」
「は!?」
 瞳は礼儀を忘れて、声を上げた。そんな話は、寝耳に水だ。
「城についた夜、私は君の部屋へ行き初夜を迎えた、ということになっている。翌日、私は君を家族に紹介した。父は君を、王家の一員として歓迎すると言った。つまり結婚の許可をもらったわけだ」
 レートは淡々と説明する。
「晴れて婚約者となった私たちは、昨夜もこのベッドで愛し合った、と周囲は思っている」
 瞳はあわてて、ベッドから飛び降りた。気持ち悪くて、このベッドは二度と使えない。瞳は信じられない気持ちで、王子にたずねた。
「なんで?」
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