しがむ幸せ
                                  奈良県医師会 下里直行 
 

十数年来、骨量減少領域から抜け出せないでいた私は、今のところ女性にしか保健適用のない
骨粗鬆症の新薬(リセドロネート)を、昨年五月から毎朝2錠(本来の容量は1回1錠)ずつ、試し飲み
してきた。
四ヶ月近く経って、意外な部分に思わぬ結果が現れて驚いた。
歯周病で脱臼寸前にあった奥歯のぐらつきが止まってきたのだ。
月一回、歯石を取ってくれている歯医者さんも・・・
『ここんとこ歯石の溜りが少ないし、歯肉の赤みもとれてきてますよ。奥歯のぐらつき加減がまし
になってますが、なにか特別な手入れ法でも始めたのですか?』
と、不思議そうに訊ねる。

『ヨッシ!』とばかり、久しく口にしていなかった「アワビ」、「サザエ」、「ナマコ」を食べに、馴染み
のお寿司屋さんに足を運んだ。
『隠し包丁、します?』
と板前の進ちゃん。
『よけいな気遣い無用。 アワビは厚めに造ってくれる!』
そして、おもむろに口へ。
『コリコリ・・・・、コリコリ・・・・。 嬉しいー!』
と、思わず万歳三唱。
大将も女将さんも板さんも、皆がわが事のように喜んでくれた。

今は、自らスーパーに赴き、
「スルメ」、「笹ガレーの干物」、「鮭冬葉(さけとば)」、「タクアン」、「ミノ(牛の胃袋)」などを買い
求め、これを肴に冷えたビールで”しがむ歓び”を満喫している。
なお、1年2ヶ月を経過した現在の骨量は、YAMの80%値を凌駕し、健常男子の平均値に達した。
   (しがむ=硬い食物を奥歯で咀嚼すること。方言)

本稿は奈良県医師新報:2003.8(第619号)【平成15年8月T日発行】の夏季特集のコラムに掲載されました