カウント・ダウン
                                  奈良県医師会 下里直行 
 

『紅白』のフィナーレが流れると、皆が一斉にセーター、コート、パッチなど、おもいおもいの
身づくろいを開始する。 わけも分からずワンちゃん達も。
『ゆく歳・くる歳』が知恩院の鐘の音を伝えるころ、いざ出発、橿原神宮へ!
車の窓が皆の吐く息で白く曇る。
五人と二匹、いや三匹の年もあった。 妻と二人だけの年もあった。
参道の人混みにもまれ、砂利を踏みしめ、黙々と歩く。ただ黙々と…。
タビに下駄の年もあった。肩車した年もあったなー。
背を押され、肩をもまれて拝殿に。 
『3,2,1,0』 午前0時。
握りしめてきたお賽銭。汗ばんで、湯気がでている。 スナップを利かせて遠投。 届いた地点
を目で確かめて、おもむろに手を合わす。 
「・・・・・・」、「・・・・・・」
絵馬と、家内安全、安産祈願、夫婦円満、商売繁盛、交通安全、学業成就、合格祈願などのお守り。
それぞれに応じた種類と数を一気に買い求め、破魔矢を肩に、意気揚々と境内を引き返す。
皆の意見で屋台を選び、奥の長椅子に腰掛ける。私は定番のおでん!
「大根♪ こんにゃく♪ スジ♪ ちくわ♪ 」と節をつけて注文。
コップ酒をチビリとやり、ズルッと鼻水をすする。
「帰ろ、帰ろ」と皆がうながす。
午前一時半、帰宅。 パジャマ姿に。
「雑煮・オセチは十時やで。 みんな、ちゃんと起きや・・・」 「ハーイ!」 「ほんなら、おやすみ!」
といって、一年最初の眠りに就く。
この二十数年、欠かすことなく続けている、ごく平凡だが、けっこう楽しいわが家の初詣である。

本稿は奈良県医師新報:2003.1(第612号)【平成15年1月T日発行】の新春特集『初詣』のコラムに掲載されました