愛しの曲者家族 
                    奈良県医師会 下里直行 
 

 トイ・プードルのメイちゃんは、わたしの歯間ブラシが大好きだ。  
 とりわけ、使用後の黄ばんで臭うものに眼がない。
 前足で器用に挟んで、いとおしげに舐めまわし、眼を細めてひたすらしがんだあげく、
 ブラシ部分を柄から噛み切って、床に放っ散らかす。 
 愛犬メイちゃんの憎みきれない悪いクセだ。
 わたしは毎月一回、歯石取りに歯医者さんに通っている。 歯周病が恐いからだ。
 歯間ブラシは、帰りぎわに窓口で買ってくるL社製のブランドもので、決して安くはない。 
 だから、そうそうメイちゃんに盗られてばかりでは困るのだ。 
 そこで、使用後にお茶やビールで、さりげなく「すすぐ」クセが身についた。
 ある日のこと。例によって湯のみのお茶で「シャカ、シャカ」やっているところを、うかつ
 にも潔癖症の娘に見つかってしまった。
 娘は、その様子を妻に告げ口したのだ。
 『ゲエッー!』と妻は大仰に叫び、二人でこれ見よがしにえずき合っているではないか。
 考えもしなかったのだが、妻は以前から、わたしが飲み残したお茶やビールを、
つまみ飲みする悪いクセがあったのである。
 詫びるべきか、抱きしめるべきか・・・。戸惑うばかりのわたしであった。


      本稿は奈良県医師新報:2002.8(第607号)【平成14年8月T日発行】に掲載されました