奈良新聞(平成9年10月16日版)掲載
   いかがですかあなた
 大腸がんまめ知識      
                          県医師会 下里直行    
 日本では近年、大腸がんにかかる人が急増しています。これは、食生活の欧米化
が原因の一つだといわれています。
 一方、急激に増加する罹患率(りかんりつ)の割に、死亡率がそれほど増加して
いないことも分かってきました。
 この理由は、大腸がんが早期に発見しやすく、おとなしく、治しやすい性質のが
んだからです。大腸がんの中でたちが悪いのは、全体の一割しかありません。
 
       早期発見に検便が有効
 早期発見には検便が有効です。「免疫学的便潜血反応・二日法」といって、自宅
で二日間の便をそれぞれ別の専用容器に採取するだけの簡単な検査です。
 最近では「検便で済む」という認識が浸透したためか、大腸がん検診を受ける人
の数が、他のがん(胃・肺・子宮・乳)検診の二倍を越えるほどになっています。
 検査方法は簡単ですが、その診断精度は高く、進行がん95%、早期がん50%、
腺腫30%が発見されます。
 ところで、奈良県の平成7年度の大腸がん検診受診者数は七万三千八十四人(受
診率24.3%)でした。このうち、千六百三人が精密検査を受け、四十六人にが
んが見つかりました(付記参照)。
 地域によって差がありますが、この検診でがんが発見される比率は、千人あたり
二〜三人程度と考えられます。
 さて、万が一、便潜血反応が陽性と言われたら、あなたならどうしますか?
 陰性という結果が出るまで検便を繰り返す・・・。
「痔」とか「月経中だった」などの口実を探し、あくまでも精密検査から逃れる算
段をする。
 これがままある例であり、最も良くない対処法なのです。
 文字通り、パッとケツをまくって、直腸指診、注腸X線撮影、内視鏡検査などを
受けるべきです。
 放っておくとがんになる可能性がある大腸ポリープなどは、内視鏡ですみやかに
摘除できます。
 また現在では、早期の結腸がんは96%以上、早期の直腸がんでは88%以上が
完全に治癒するといわれています。
 ですから、男女を問わず、四十歳を越えたら、まず検便による大腸がん検診をお
受けになることをおすすめします。

         (本稿は、平成9年10月16日:奈良新聞朝刊に掲載されました。)
 
【付記】奈良県の平成8年度の大腸がん検診受診者数は約七万五千人に増加(受診率25.5%)で、
    そのうち約百三十人にがんが見つかっています。がん発見者数は前年度の約三倍になりまし
    た(平成十二年四月調べ)。