奈良新聞(平成13年8月16日版)掲載
 いかがですかあなたの健康  
   熱中症               県医師会 下里直行    
早めに水分や塩分補給
 最近の調査によると、お年寄りが入浴中に倒れたり、炎天下で車内に置き去りにされた幼児が死亡する事故を含めると、毎年二百人前後が熱中症で亡くなっているといいます。
 熱中症とは、異常な高温の環境下で起こる体の障害で、『熱けいれん』『熱疲労』『熱射病(日射病)』という三つの病態の総称です。
 『熱けいれん』は、高温のもとでの運動や労働で、あしなどに起こる、痛みを伴った筋肉のけいれん(いわゆるつった状態)で、多量の発汗によって塩分(ナトリウムやクロール【塩素】)が失われているのに、水分だけを補給したためにおこる低張性脱水(ていちょうせいだっすい)が原因です。症状が出たときは、涼しいところで休ませ、0.1%の食塩水かスポーツ・ドリンクを飲ませます。
 『熱疲労』は、発汗によって多量の水分が失われているのに、水も塩分も補給しないために起こる脱水症で、高張性脱水といいます。熱を体外に放散させるために皮膚の血管が拡張し、血圧が下がります。その結果、めまい、疲労感、吐き気、おうと、失神などが起こります。
 熱疲労では、体温が40度を超えることはありません。涼しい場所で休ませ、点滴による輸液が必要ですから、早急に治療のできる医療機関を受診させます。
 『熱射病』は、体熱産生と体熱放散とのバランスが崩れ、体内に熱がこもった状態になったもので、炎天下で起こったものを『日射病』といいます。体温を調節している温熱中枢の働きが失調し、体温が40度以上に上昇します。前触れもなく虚脱状態、けいれん、こん睡がおこり、しばしば死にいたります。
 もし、熱射病によって路上で倒れている人がいたら、救命救急処置が必要ですから、一刻もはやく救急車を呼びましょう。その間、涼しい場所に運び、衣服を脱がせ、うちわなどで全身をあおぎます。水や氷があれば、首やももの付け根の太い血管のある部分を冷やして、体温の降下を図ります。ただしこの時、手足の指先は冷やさないよう注意が必要です。
 熱中症の予防には、炎天下を避けて行動する、通気性のよい着衣と着帽を守る、早めに水分や塩分(ミネラル)を補給するなどです。
 特に、スポーツ・ドリンクは少量の糖質とミネラルが含まれた飲料です。発汗量が多く、かつ長時間に及ぶスポーツなどをする時は、スポーツ・ドリンクを少しずつ、回数を多く摂取することを心がけましょう。
 もし症状が出たときの対処法として、風通しのよい日陰で休ませ、冷風を送り、冷水などを用いて首やももの付け根の太い血管を冷やす、いわゆる「体温降下療法」を心得ておくことが大切です。
 

         (本稿は、平成13年8月16日:奈良新聞に掲載されました。)