奈良新聞(平成13年9月13日版)掲載
 いかがですかあなたの健康  
   旅行者下痢症               県医師会 下里直行    
免疫力の低下引き金に
 海外旅行で最もかかりやすい病気の一つに「下痢」があります。
 旅行の疲れやストレスなどによる下痢、不衛生な水や食べ物から細菌などが感染して発症する下痢など、原因はさまざまですが、一括して「旅行者下痢症」と呼ばれています。
 
今回はそのなかでも、飲食物が原因となる下痢についてお話しましょう。
 水道設備の整った先進国の水は安全です。しかし、ミネラル成分を多量に含んだ硬水(こうすい)の地域が多く、軟水(なんすい)に慣れている日本人がそのまま飲むと下痢をします。名のある銘柄のボトル入りミネラルウォーターを飲むことをお勧めします。
 一方、上下水道が整っていない発展途上国では、生水はもとより、水道の蛇口から出る水にもさまざまな病原体が混入していることがあり、そのまま飲むのは危険です。
 ミネラルウォーターであっても、中身は天然水や涌(わ)き水を無処理のまま入れていたり、使用済みボトルを再利用していることもあるようですから、ボトルを逆さまに振ってみて、蓋(ふた)がきちんとしまっているかどうかを確かめるのもちょっとした予防策です。
 さらに、露天商などで売られている生野菜は生水で洗われています。果物(とくにカットフルーツ)などは、みずみずしく見せるため生水がかけられています。このことを忘れて、うっかり口にすることがあります。
 殻や皮のある果物は、できるだけ自分でむいて食べることです。
 飲み物に入っている氷も、必ずしも衛生的な水で作られているとは限りません。また、屋台で売られているアイスクリームやプリンなども避けたほうが無難です。
 食べ物が原因で下痢を起す主なものは、大腸菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、サルモネラなどの食中毒をはじめ、コレラ、赤痢、A型肝炎、寄生虫などによる感染症です。
 生卵、魚介類、お刺身などの生ものは避け、加熱処理したものを、なるべく時間をおかずに食べるようにしましょう。
 食肉は、検疫が万全でない国もありますから、ステーキを食べる場合は「よく焼いた」ものを注文した方が賢明です。当然のことですが、ドジョウの踊り食い、ヘビやカメの生き血など、いわゆる「ゲテモノ食い」は極力避けるべきです。
 旅行者下痢症の一般的な予防法は、食品や水に対しての注意のほか、手洗いの励行を心がけること、水分の適正な補給、無理な旅行のスケジュールを避けることです。
 旅行中の疲れや体長不良が、免疫力を低下させ感染症にかかりやすくなるからです。
 わが国の医療保健制度では認められていませんが、発病に備え自己治療のために抗菌薬や下痢止めを準備することも一つの方法です。ただし、薬剤師やかかりつけの医師に、服用方法、副作用など十分な説明を受けてから持参しなくてはいけません。
 もし、一日数回以上の下痢が生じた場合、持参した抗菌剤を二〜三日服用し、症状が改善されない場合は現地で信頼のおける医療機関を受診すること。
 帰国後は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
  
         (本稿は、平成13年9月13日:奈良新聞に掲載されました。)