奈良新聞(平成13年11月8日版)掲載
 いかがですかあなたの健康  

十代の性状勢
 性器クラミジア感染症       県医師会 下里直行    
放置すれば不妊症に
 性行為によって、人から人へと感染する病気を「性感染症(STD)」といいます。
 『クラミジア感染症』もその一つで、性感染症の中では、現在、最も多いとされる病気です。しかも、最近、十五歳以上の若い女性を中心に、大流行しています。
 これは、細菌の感染が原因で起こる病気です。
 男性は、尿道から感染します。感染後二〜三週間で尿道炎の症状がでます。淋病(りんびょう)と異なり、症状は穏やかで、尿道に「いつもと違う」、「くすぐったい」、「軽い排尿痛」などを感じます。
 ペニスをしごくと、尿の「しずく」と区別しにくい、少量の分泌物がにじみ出ます。
 下着が白い場合、ペニスの先がが触れた部分に、分泌物による汚れがみられます。付着直後は透明ですが、乾くと黄色い汚点として残ります。色物の下着では、この汚れは見逃してしまいます。
 治療せずに放置すると、前立腺炎(ぜんりつせんえん)や副睾丸炎(ふくこうがんえん)を起し、男性不妊の原因になります。
 女性では、膣(ちつ)を経由して、子宮(しきゅうの入り口にあたる子宮頚管部(しきゅうけいかんぶ)に感染します。潜伏期感は二〜三週間程度と考えられますが、女性の場合、初期症状がほとんどないため、感染したことに気づかず、治療の開始が後れがちになります。
 受診のきっかけは、セックス・パートナーが「クラミジア尿道炎と診断された」というケースが最も多く、次いで、「水っぽいおりものの増加」「軽微な下腹部痛」「性交時痛」などです。
 治療をしないで放置すると、やがて子宮内膜炎(しきゅうないまくえん)、卵管炎(らんかんえん)、骨盤内感染症(こつばんないかんせんしょう)へとすすみ、子宮外妊娠や不妊症の原因になります。
 診断方法は、男性では尿もしくは尿道から綿棒でこすりとった細胞成分で、また女性では子宮頚管部の細胞成分を採取して、菌の有無を調べます。なお、診断の補助として、血液中の抗体価を測定する方法もあります。
 治療は、感染初期に適切な抗生物質を約二週間服用することで、比較的容易に治ります。ただ、服薬が中途半端であったり、身近にある抗生物質を安易に飲んだりすると、診断が難しくなるだけでなく、治療に時間がかかることになります。
 治療後は、必ず再検査を受け、治癒したことを確認しておくことが重要です。
 性感染症流行の背景には、性行動の多様化と若者をとりまく性環境の急激な変化に原因があります。
 同世代の若者をもつ親の役割として、現代の若者の性状勢に理解を深めることは、決して無意味なことではありません。
 
         (本稿は、平成13年11月8日:奈良新聞に掲載されました。)