奈良新聞(平成13年10月18日版)掲載
いかがですかあなたの健康
十代の性状勢
ケジラミ 県医師会 下里直行
一斉駆除で感染防ごう
性行為によって、人から人へと感染する病気を「性感染症(STD)」といいます。
ケジラミ症もその一つで、最近若者たちの間での感染者が増加しています。
人に寄生して吸血するシラミには、アタマジラミ、ケジラミ、コロモジラミの三種類があります〈下図:左からアタマジラミ、ケジラミ、コロモジラミ)。
アタマジラミ ケジラミ コロモジラミ
ケジラミは、恥毛部(ちもうぶ)での生活をことのほか好み、陰毛に長い脚をからませ、口器〈こうき=吸血するための針状の管)を皮膚に刺し込んで血を吸います。
倍率の高い虫めがね(ルーペ)があれば、虫体〈ちゅうたい)のおぞましい姿を観察することも可能です。
体長は一〜二ミリで、三対の長い脚と鋭く尖った爪(つめ)をもつ褐色の昆虫です。
アタマジラミやコロモジラミが胴長なのに対し、ケジラミの胴体は横幅が広く、ちょうど「沢ガニ」の甲羅のような格好をしています。
一日数回の吸血と、日に二〜三個の卵を産みます。卵は陰毛や恥毛部の皮膚に白い点状物として見ることができます。一週間ほどで幼虫となり、約二週間で成虫になります。
激しいかゆみは吸血時に起こりますが、血を吸った跡(皮疹=ひしん=)を残しません。着用した下着の色が白色の場合、点々と付着した出血を見ることがあり、発見の手がかりになります。
ケジラミは、電灯光などが当たると、動きを止めじっと身をひそめますますが、恥毛部に「ベンジン」をひたした綿花をかざしてやると、あわてふためいてモゾモゾ動き回るので、簡単に見つけることができます。
治療は、毛を剃り落とす『剃毛(ていもう)』が一番手っ取り早く、確実で、しかも安価な方法です。
剃毛できない事情があれば、散布剤を使います。シラミ駆除剤の「フェノトリン(スミスリン・パウダー)」を寄生部位に適量散布し、一時間後に水やシャンプーで洗い落とします。これを一日一回、二日おきに三〜四回くり返せば、ほぼ退治できます。このお薬は薬局で購入できます。
卵の抜け殻は、セメント様物質で毛に固く付着していて、虫の死滅後も毛に残っています。抜け殻をみて治っていないと考えるのは早計です。虫体の有無ををみて、退治できているかを確認してください。
まれに、頭髪や脇(わき)の毛にも寄生することがあります。その部位にかゆみがあれば、注意深く探してください。
なお、蚊・ゴキブリ用殺虫剤の噴霧で退治するという、とんでもな駆除法がまことしやかに喧伝(けんでん)されていますが、陰部にひどい皮膚炎を起します。絶対にしないでください。
ケジラミ症は性行為のほか、毛布、タオル、下着などを介して感染する可能性もあり、あらぬ疑いをかけられることもないとは言えません。感染経路の追及はトラブルにならぬよう、慎重に行うことが肝要です。
また、家族や同居者への感染を防ぐため、全員で寄生の有無を調べ、一斉に駆除することが大切です。
原因が性行為によるとかんがえられたら、本人のみならず、セックス・パートナーも治療することは言うまでもないことです。
ケジラミ症は治療が簡単で、軽微な病気として安易に考えられがちですが、エイズ、梅毒、淋病、クラミジア、性器ヘルペスなど、ほかのおそろしい性感染症(STD)に深い関連性がある病気として、若者のみならず親御さんも再認識しておくことが大切です。
(本稿は、平成13年10月18日:奈良新聞に掲載されました。)