奈良新聞(平成13年9月20日版)掲載
 いかがですかあなた康  
 老人性膣炎(萎縮性膣炎) 
 
                     県医師会 下里直行    
自浄作用衰え細菌感染
 健康な成熟女性の膣(ちつ)内には、デーデルライン桿菌(かんきん)という善玉菌が常在しています。
 この菌は、女性ホルモン〈エストロゲン〉の働きによって、膣粘膜の上皮に多量に存在するグリコーゲンという物質を分解して、乳酸をつくります。
 膣内は、この乳酸によって、常に強い酸性状態に維持されています。
 一般の悪玉菌(病原微生物)は、強い酸性に弱いという性質がありますので、膣内は病原微生物に感染しにくい環境となっているのです。これを、「膣の自浄作用」といいます。
 更年期になると、卵巣の機能が低下し、やがて停止します。それに伴って、女性ホルモンの分泌も低下、あるいは停止してしまいます。その結果、「膣の自浄作用」が衰えるため、一般の細菌に感染しやすくなり、膣炎がおこります。
 このような老年期におこる膣炎を『老人性膣炎』または『萎縮性膣炎』といいます。
 なお、両側卵巣の摘出手術を受けた人では、年齢に関係なく、女性ホルモンの分泌停止が起こるため、萎縮性膣炎になりやすいのです。
 この膣炎の主な症状は、薄い黄色味を帯びた膿(うみ)のような帯下(おりもの)、本人は気がつかない異臭、性行為による出血(接触出血)、性交痛などです。痒(かゆ)みはそれほど強くありません。
 多少の自覚症状があっても放置していることが多く、たまたま受けた子宮がん検診などで、指摘されるケースが圧倒的に多いようです。
 治療は、女性ホルモンや抗菌剤を膣内に挿入しますが、最近では女性ホルモンの補充療法が、積極的に行われるようになってきています。
 ただし、これらの治療は漫然と行うべきではありません。かえって、不整性器出血がひどくなる場合もありますから、医師の適切な指導のもとで治療することが大切です。
 

         (本稿は、平成13年9月20日:奈良新聞に掲載されました。)