奈良新聞(平成13年9月27日版)掲載
 いかがですかあなた康  
 =禁煙のすすめ= 
  肺気腫
(はいきしゅ)
                     県医師会 下里直行    
タバコが肺胞の壁破壊
 肺は、「肺胞」という、ぶどうの房状の組織が集まってできています。
 肺気腫は、その肺胞の壁が破壊されて起こる病気です。
 ガス交換(からだに必要な酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出する機能)が著しく障害され、どんどん進行していきます。
 遺伝的、環境的な要因も考えられますが、肺気腫患者の90%以上が喫煙者であることから、長期間の喫煙が主な
原因であることは間違いないようです。
 咳〈せき)、痰(たん)、痩(や)せていくことが主な症状で、進行すると呼吸困難、特に運動時の息切れ(労作時呼吸困難)が出現します。
 この病気は、本人が気づかないうちに、何年もかかってゆっくりと進行します。病状が重くなるにつれ、息を吸うのも吐くのも苦しくなり、日常生活もままならなくなります。胸が前と後に増大し、ビヤ樽(だる)状に変形してきます。
 また、風邪をひいて肺炎を併発すると、病状は急速に悪化します。
 肺気腫には根本的な治療法がないため、症状に合わせた治療を行います。
 基本的には、気管支を拡張させ、炎症をおさえ、痰の切れを良くすることが主な治療法で、気管支拡張剤、気管支収縮抑制剤、ステロイド剤、去痰剤などの吸入や内服をします。
 自覚症状を改善させるためには、毎日の散歩など、長続きする運動療法もたいせつな治療方法の一つです。
 症状が進行し、息苦しくて寝られないような状態になれば、動脈血に含まれる酸素の量を測り,不足量に応じた酸素吸入が必要となります。
 最近では、在宅酸素療法が健康保健の適用になり、自宅や屋外で吸入装置を使って酸素療法をされるお年寄りが増えてきました。
 さて、肺気腫は、いったん発病してしまうと、病気の進行を途中で止めることはできません。ですから、肺気腫にならないようにすることが大切です。
 そのためには、主要な原因であるたばこを吸わないことが、最大の予防法です。
 禁煙できないお年寄りの言い分は、「もう老い先が短いから、好きにさせて・・・」というものです。
 肺気腫では、禁煙することで進行が遅くなったり、低下した肺の機能が少しは回復することも知られています。
 また、本人が喫煙しなくても、他人が吸うたばこの煙で障害を受ける「受動喫煙」が問題になってきています。
 たばこの害は、肺気腫にとどまらず、肺がんをはじめ、多くのがんの発生を誘引することは明らかです。
 自分の健康のためでなく、大切な家族、そして次世代を担う子や孫のためにも、禁煙することをお勧めします。

         (本稿は、平成13年9月27日:奈良新聞に掲載されました。)